【完結】愛しているから、触れないで

恋せよ恋

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針のむしろのお茶会

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「あら、ローゼリア。……今日もお美しいけれど、少しお痩せになったかしら?」

 王都でも指折りの豪華さを誇るカーダル公爵邸のサロン。中心に座るのは、かつてローゼリアに「浮気男と別れろ」と一刀両断された経験を持つ公爵令嬢のエメラルダだ。彼女の目は、獲物を追い詰める肉食獣のように爛々と輝いている。

「ねえ、ローゼリア。あなた、昔言っていたわよね? 『浮気は病気よ。治らないわ。別れない女は、自分の価値を自分で下げているのと同じよ』って」

 ローゼリアの背中に冷たい汗が伝わった。ティーカップを持つ指先が、わずかに震える。
「ええ……。そんなことも言ったかしらね」

「まあ! 忘れてしまったの? あの時、私はあなたに言われて、泣く泣く婚約を破棄したのよ。でも今、あなたの旦那様……あの素敵なオリビエ様が、年上の女と通じているって噂、社交界の隅々まで広がっている。……で、いつ離縁するのかしら?」

 エメラルダが身を乗り出した。周囲の女たちの視線が、一斉にローゼリアを突き刺す。

「学生時代、ジュリアス様の女性関係に悩んで、あなたに相談した私に、『正論のローゼリア』が言った言葉を覚えているかしら?」
「……ええ。…… ジュリアス様の遊びは一生やまない。エメラルダには、きっと、もっと素敵な紳士が現れるはずよ……私は、そう答えたわ」

「ふふふ。覚えていてくれて良かったわ。忘れられていたら……あなたの言葉に踊らされた私が惨めすぎるものね」
 エメラルダの言葉には、少なからず後悔が滲んでいた。かつての彼女は、浮気癖のあるジュリアスを、それでも狂おしいほどに愛していたのだ。

「エメラルダ、あなたは、今、幸せなのよね?」
 ローゼリアの問いには、エメラルダの幸せを切望する思いが漂う。自分の正論が彼女を不幸にしていないと信じたい――その必死さが声に漏れていた。

「ええ、もちろん幸せよ。夫は誠実で私を大切にしてくれるわ。カーダル公爵家を共に支えていける信頼のおける関係よ」
 エメラルダの淑女の仮面である微笑みの表情からは、その心のうちにある本心は窺い知れない。

「そう。幸せで良かったわ……」
 ローゼリアの口から、安堵の小さな呟きが漏れた。

 しかし、エメラルダの追撃はここからが本番だった。

「……でもね、ローゼリア。今でも時々、思い出すのよ。もし、あのまま、恋心に苦しみ、彼を愛したままの人生を選んでいたら、どうだったのか……ってね」
 小声で囁くように語るエメラルダの瞳は、どこか遠くを見つめていた。まるで婚約破棄したジュリアスとの、苦しくも熱かった過去を追いかけているかのように。

「だからこそ、見せてほしいの。あなたが、どれほど鮮やかにその『正論』を貫くのかを」
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