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セシリアの贅沢と、崩れる足音
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「お母様! 見て、このドレス! 王都で一番人気の仕立て屋に作らせたんですのよ」
本館の広間から、セシリアちゃんの弾んだ声が聞こえてきます。
わたくしは離宮の影から、その様子をそっと伺っていました。
セシリアちゃんが身に纏っているのは、わたくしが義母様に開発させたあの魔法の羊毛をふんだんに使った、雪のように白い冬用のドレスです。
「ええ、本当によく似合っているわ、セシリア。今やこの『スノーウール』は、王都の貴婦人たちの間で飛ぶように売れているんですもの。旦那さまも、私の商才をようやく認めてくださったわ」
お義母様は、以前の刺々しさが嘘のように、上機嫌でワインを傾けています。彼女の首元には、新しく買い直した大粒のルビーが輝いていました。
『ひっひっひ! 見てごらんよアニエス。あの母娘、完全に「泡銭」の味を占めちまったねぇ。身の丈に合わない贅沢は、一度始めたら二度とレベルを下げられない。……破滅への特急券だね』
「……うん。お義母様、前よりずっとたくさんお洋服を買うようになったね。セシリアちゃんも、お友達を呼んで毎日お茶会をしてるみたい」
わたくしは、手元にある小さな手帳をめくりました。そこには、テオたちを通じて集めた、お義母様の「個人会計」の詳細が記されています。
高級羊毛の売上は確かに膨大ですが、それを上回る速度で、二人の浪費は加速していました。
「おねえちゃん、そろそろ『種明かし』の準備をしてもいいかな?」
『いいとも。……ただ奪うだけじゃ面白くない。相手が「自分の力で手に入れた」と確信している絶頂の瞬間に、その足元の床板を外してやるのが、一番効果的な商談(復讐)だよ』
わたくしは、わざと汚れたエプロンをつけたまま、広間に顔を出しました。
「お、お義母様……。あの、羊毛を作るためのお薬が、もう足りなくなっちゃって……」
「あら、アニエス。今忙しいのが見えないの? お薬なんて、また適当に作っておきなさい」
お義母様は、わたくしを見ようともせずに手を振りました。
以前はわたくしを「金の卵を産むガチョウ」として少しは気にかけていたようですが、あまりに金払いが良くなったせいで、彼女の頭の中では「羊毛が手に入るのは当たり前」という傲慢さが育っていたのです。
「でもぉ、お薬の材料を売ってくれるおじさんが、もうおカネを払ってくれないと売らないって……。わたくし、おカネ持ってないから……」
「チッ、これだから子供は。……ほら、これで材料を買ってきなさい。お釣りはあげるわよ」
お義母様が投げ捨てたのは、100リラ銀貨が数枚。かつてのわたくしなら飛び上がるほどの大金ですが、今のわたくしにとっては、ただの「撒き餌」の回収に過ぎません。
わたくしは銀貨を拾い集め、深くお辞儀をして部屋を出ました。
そして、離宮に戻るなり、テオに合図を送りました。
「テオ。……明日から、市場に『スノーウール』の模造品を大量に流して。質はそこそこでいいわ、値段は今の三分の一で」
「……ボス、それをやれば、侯爵家の独占市場が崩れますよ。利益が激減するはずだ」
「それでいいの。……それから、お義母様が取引している商会に、『スノーウールの原料には致命的な欠陥がある』っていう噂を流して。……一度洗うと、ボロボロに溶けてしまう、ってね」
「……っ! ボス、それは……」
テオが息を呑みました。
魔法の液で加工した羊毛は、実は「特定の成分を含んだ水」で洗うと、魔法が解けてただのクズ肉のような繊維に戻ってしまうのです。
わたくしはあえて、その「弱点」を解決しないまま、お義母様に権利を渡していました。
「セシリアちゃん、新しいドレスを自慢してお茶会をするんでしょう? ……そのお茶会に、わたくしが特別なお水を差し入れしてあげるわ」
数日後。侯爵邸の庭園では、セシリアちゃん主催の豪華なお茶会が開かれていました。
集まったのは、有力貴族の令嬢たち。誰もがセシリアちゃんの着ている「スノーウール」のドレスを羨望の眼差しで見つめています。
「ふふ、お姉様方はまだお持ちでないの? この生地、世界で唯一、私のお母様だけが作れるんですのよ」
誇らしげに胸を張るセシリアちゃん。
そこへ、わたくしは「お給仕の手伝い」として、大きな水差しを持って近づきました。
「セシリアちゃん、お喉が乾いたかなって……。これ、離宮の冷たいお水だよ」
「いらないわよ、そんな安っぽいお水! どきなさい!」
セシリアちゃんがわたくしを突き飛ばそうとした、その時。
わたくしはわざとらしくよろけ、水差しの水を――セシリアちゃんの真っ白なドレスに、たっぷりと浴びせかけました。
「ああっ! ごめんなさい、セシリアちゃん!」
「……っ! 何するのよ、この泥棒猫! このドレスがいくらすると思って――」
セシリアちゃんの罵声が、途中で止まりました。
水に濡れたドレスの裾が、みるみるうちに茶色く変色し、まるで腐った植物のようにドロドロと形を崩し始めたのです。
「え……? なに、これ……。私のドレスが……溶けて……?」
周囲の令嬢たちから、悲鳴が上がります。
「まぁ! これが噂の最高級品? 粗悪品じゃないの!」
「触れただけで溶けるなんて、呪いの生地だわ!」
セシリアちゃんは、無残に崩れたドレスを抱え、その場にへたり込みました。
わたくしは、泣き出しそうな顔で彼女を見つめながら、心の中ではおねえちゃんと一緒に、盛大な拍手を送っていました。
『ひっひっひ! 絶景だねぇ! セシリアのプライドも、義母の信頼も、今この瞬間に「溶けて」消えたよ。さあ、これから始まるのは「返品の嵐」と「莫大な違約金」の支払いだ!』
「……セシリアちゃん、ごめんね。でも、形あるものはいつか壊れちゃうんだよ。……おカネと同じでね」
わたくしの囁きは、パニックに陥った庭園の騒音にかき消されました。
お義母様が積み上げた偽りの城が、音を立てて崩れ始めていました。
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本館の広間から、セシリアちゃんの弾んだ声が聞こえてきます。
わたくしは離宮の影から、その様子をそっと伺っていました。
セシリアちゃんが身に纏っているのは、わたくしが義母様に開発させたあの魔法の羊毛をふんだんに使った、雪のように白い冬用のドレスです。
「ええ、本当によく似合っているわ、セシリア。今やこの『スノーウール』は、王都の貴婦人たちの間で飛ぶように売れているんですもの。旦那さまも、私の商才をようやく認めてくださったわ」
お義母様は、以前の刺々しさが嘘のように、上機嫌でワインを傾けています。彼女の首元には、新しく買い直した大粒のルビーが輝いていました。
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わたくしは、手元にある小さな手帳をめくりました。そこには、テオたちを通じて集めた、お義母様の「個人会計」の詳細が記されています。
高級羊毛の売上は確かに膨大ですが、それを上回る速度で、二人の浪費は加速していました。
「おねえちゃん、そろそろ『種明かし』の準備をしてもいいかな?」
『いいとも。……ただ奪うだけじゃ面白くない。相手が「自分の力で手に入れた」と確信している絶頂の瞬間に、その足元の床板を外してやるのが、一番効果的な商談(復讐)だよ』
わたくしは、わざと汚れたエプロンをつけたまま、広間に顔を出しました。
「お、お義母様……。あの、羊毛を作るためのお薬が、もう足りなくなっちゃって……」
「あら、アニエス。今忙しいのが見えないの? お薬なんて、また適当に作っておきなさい」
お義母様は、わたくしを見ようともせずに手を振りました。
以前はわたくしを「金の卵を産むガチョウ」として少しは気にかけていたようですが、あまりに金払いが良くなったせいで、彼女の頭の中では「羊毛が手に入るのは当たり前」という傲慢さが育っていたのです。
「でもぉ、お薬の材料を売ってくれるおじさんが、もうおカネを払ってくれないと売らないって……。わたくし、おカネ持ってないから……」
「チッ、これだから子供は。……ほら、これで材料を買ってきなさい。お釣りはあげるわよ」
お義母様が投げ捨てたのは、100リラ銀貨が数枚。かつてのわたくしなら飛び上がるほどの大金ですが、今のわたくしにとっては、ただの「撒き餌」の回収に過ぎません。
わたくしは銀貨を拾い集め、深くお辞儀をして部屋を出ました。
そして、離宮に戻るなり、テオに合図を送りました。
「テオ。……明日から、市場に『スノーウール』の模造品を大量に流して。質はそこそこでいいわ、値段は今の三分の一で」
「……ボス、それをやれば、侯爵家の独占市場が崩れますよ。利益が激減するはずだ」
「それでいいの。……それから、お義母様が取引している商会に、『スノーウールの原料には致命的な欠陥がある』っていう噂を流して。……一度洗うと、ボロボロに溶けてしまう、ってね」
「……っ! ボス、それは……」
テオが息を呑みました。
魔法の液で加工した羊毛は、実は「特定の成分を含んだ水」で洗うと、魔法が解けてただのクズ肉のような繊維に戻ってしまうのです。
わたくしはあえて、その「弱点」を解決しないまま、お義母様に権利を渡していました。
「セシリアちゃん、新しいドレスを自慢してお茶会をするんでしょう? ……そのお茶会に、わたくしが特別なお水を差し入れしてあげるわ」
数日後。侯爵邸の庭園では、セシリアちゃん主催の豪華なお茶会が開かれていました。
集まったのは、有力貴族の令嬢たち。誰もがセシリアちゃんの着ている「スノーウール」のドレスを羨望の眼差しで見つめています。
「ふふ、お姉様方はまだお持ちでないの? この生地、世界で唯一、私のお母様だけが作れるんですのよ」
誇らしげに胸を張るセシリアちゃん。
そこへ、わたくしは「お給仕の手伝い」として、大きな水差しを持って近づきました。
「セシリアちゃん、お喉が乾いたかなって……。これ、離宮の冷たいお水だよ」
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セシリアちゃんがわたくしを突き飛ばそうとした、その時。
わたくしはわざとらしくよろけ、水差しの水を――セシリアちゃんの真っ白なドレスに、たっぷりと浴びせかけました。
「ああっ! ごめんなさい、セシリアちゃん!」
「……っ! 何するのよ、この泥棒猫! このドレスがいくらすると思って――」
セシリアちゃんの罵声が、途中で止まりました。
水に濡れたドレスの裾が、みるみるうちに茶色く変色し、まるで腐った植物のようにドロドロと形を崩し始めたのです。
「え……? なに、これ……。私のドレスが……溶けて……?」
周囲の令嬢たちから、悲鳴が上がります。
「まぁ! これが噂の最高級品? 粗悪品じゃないの!」
「触れただけで溶けるなんて、呪いの生地だわ!」
セシリアちゃんは、無残に崩れたドレスを抱え、その場にへたり込みました。
わたくしは、泣き出しそうな顔で彼女を見つめながら、心の中ではおねえちゃんと一緒に、盛大な拍手を送っていました。
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