愛より金貨!〜虐げられ令嬢、脳内の守銭奴妖精と不遇を吹っ飛ばす〜

恋せよ恋

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七歳のプロデューサー

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 お義母様を五百万リラの負債から救い出したあの日から、離宮の空気は一変しました。

「アニエス様、こちらが本日のティーセットでございます。それから、奥様より『新しいドレスのカタログ』を預かっております」
 侍女たちが、かつてのように鼻で笑うこともなく、深々と頭を下げてわたくしにかしずきます。

 お父様には「幸運の女神」として、お義母様には「逆らえない恩人」として、そしてセシリアちゃんには「ドレスを溶かした恐怖の対象」として。
 わたくしは離宮にいながらにして、侯爵邸の頂点に君臨し始めていました。

『ひっひっひ! いいねぇ、この「恐怖と利益」が入り混じった敬意。これこそが安定した統治の形だよ、アニエス。……さあ、次は外に目を向けよう。あんたの猟犬孤児たちが、街で面白い噂を拾ってきたよ』

「……おねえちゃん、これだね? 王都で流行り始めている『謎の病』」

 わたくしは、テオが密かに届けてくれた報告書を広げました。それは命に関わるような重病ではありませんが、肌が荒れ、髪のツヤが失われるという、貴族の女性にとっては「死よりも辛い」と言われる流行り病でした。

「お医者様たちは『呪い』だって言っているけれど……。これ、おねえちゃんが教えてくれた『ビタミン不足』っていうやつじゃない?」

『察しがいいねぇ。冬場に新鮮な野菜を食べられない北方の貴族たちが、こぞって陥る罠さ。……アニエス、あんたが温室でこっそり育てている「あの果実」、今なら金貨より高く売れるよ』

「……ふふ。じゃあ、お義母様に『美容の救世主』になってもらおうかな」
 
 わたくしは、温室で大切に育てていた、瑞々しい橙色の果実――ミカンに似た冬の果実「黄金の林檎」をバスケットに詰め、義母様の部屋を訪ねました。

 お義母様は、スノーウールの件で受けたショックからまだ立ち直りきっておらず、鏡の前で荒れた肌を気にして溜め息をついていました。

 「お義母様、元気を出して? わたくし、お庭の精霊さんから『お肌が綺麗になるお守り』をもらったの」
「アニエス……。お守りなんて、今の私には……。っ、それは何? その、とてもいい香りのする果実は」
「これ、食べると中からピカピカになるんだって。お母様、食べてみて?」
 わたくしが剥いて差し出した果実を、義母様は半信半疑で口にしました。

 数日後。義母様の肌は見違えるほど艶を取り戻し、彼女は狂喜乱舞しました。
「アニエス! これよ、これこそが私が王都の社交界に返り咲くための武器になるわ!」

「うん。でもぉ、これをお義母様が売るんじゃなくて……お義母様の『お友達』に、こっそり教えてあげるのはどうかな? 『あなただけに教える、秘密の美容法』って」

『出たね、「限定公開クローズド」マーケティング! 欲しがる人間を絞ることで、価値を吊り上げる。アニエス、あんた本当に七歳かい?』

「えへへ。だって、その方がお礼のおカネ紹介料がたくさん入るんだもん」

 わたくしは、お義母様を広告塔として使い、王都中の貴婦人たちから「情報の対価」として、莫大なリラを吸い上げる仕組みを構築しました。

 お父様には「お義母様の内職」として一部を献上し、実家の財政を支えつつ、わたくしは着々と自分の「秘密の金庫」を肥やしていくのです。

 その夜、離宮の窓辺。
「……ボス、報告です。例の『黄金の林檎』の噂を聞きつけて、王都の大商会が動き出しました。それから……」

 テオが、少し緊張した面持ちで言葉を続けました。
「隣国の『サリア王国』から来たという商人が、この果実の苗を譲ってほしいと、かなりの高値を提示してきました」

 サリア王国。その名を聞いた瞬間、わたくしの心臓がわずかに高鳴りました。

『おっと……。噂をすれば、あちら側の「狼」が早くも匂いを嗅ぎつけてきたようだね。……アニエス、苗を売るかい?』

「ううん。苗は絶対に渡さないわ。……でも、果実を一個『一万リラ』でなら売ってあげてもいいわよ。相手がどんなに偉い人でもね」

 七歳のアニエスは、月光に照らされた銀貨を唇に寄せました。

 隣国のフェリックス公爵――まだ見ぬ宿敵との、これが最初の、そして最も小さな接触でした。
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