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私たち結婚しました

私たち結婚しました【2】

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 勇者ダガンは語った。

「どうしてこうなった」

 国王バルドレッド・ローゼラントは、ブチ切れた。

「こっちの台詞だぁ!この馬鹿野郎がぁ!」

 侍従と近衛騎士たち以外は人払いしたので、バルドレッドは思いっきり素を出していた。実は、ダガンとバルドレッドは主従である前に幼馴染であり、四十年来の親友である。
 二人は、昨日の宴の処理をどうするかバルドレッドの執務室で話し合っていた。が、先程からダガンが罵られているだけになっている。

「そもそもお前があんな計画立てるからだ。どうすんだよ。お前の息子」

「うるせえ!おーめーえーが!打ち合わせ通りやってりゃ!こんな事にならなかったんだ!」

 そう、昨夜の宴での一幕には裏があった。名づけて『その時魔術師が動いた───勇者よ我が娘をやろう───』作戦である。
 ざっくり言うと、ダガンの仲間である魔術師ザリードとステラリリスをくっつける為の作戦だ。二人は幼馴染で初恋同士で恋人。甘酸っぱい純愛。中年二人は、魔王を倒す旅で引き離された二人を応援したかったのだ。
 しかし、問題がある。ザリードは優秀な魔術師ではあるが、身分が低く立場も気も弱い。いくら魔王討伐の功績あれど、ステラリリスの結婚相手に指名すれば反発は必至だ。ワンクッション挟みたかった。

「おめえが『私は歳が離れすぎております。魔術の才能豊かなステラリリス様には、私よりも相応しい者がおります』つってザリードくんを功績を絡めて紹介する手筈だったのによぉー。ザリードくんには爵位あげて婚約者にするはずだったのによぉー」

 ついでにバルドレッドは「勇者ダガンは娘を嫁がせていいくらい大事な臣下だよー。手を出したり侮辱したらわかってるな?」と、臣下たちに周知させる意図があった。オレって天才だなぁと思っていた。
 ダガンはと言うと、もともと作戦の内容については不満があった。

「ザリードも成長した。ああ言えば自分からステラリリス殿下に求婚すると思ったんだ」

 ついでに自分の女避けもしたかった。ダガンは男好きではないが女への興味も薄い。子を成すつもりは無く、性欲も戦いで発散していた。というか、凱旋したとたん擦り寄ってきた貴族令嬢たちは、鬱陶しいだけで信用ならない。

 (その点、ルナルシオンは違ったな)

 そう思った。初対面の時からダガンを恐れず真っ直ぐ慕っていた。しかしだからと言って惚れていたとは。
 ダガンは宴の顛末……自分が結婚するに至った一部始終を思い返す。

 ◆◆◆◆◆◆

「喜んで結婚します!貴方の好きにしてください!」

 ルナルシオンはダガンの手を握って宣言した。

「な、なに言ってるんだ?ルナルシオン?」

 ダガンは途方に暮れた。ルナルシオンは頬を染めて微笑む。

「貴方を愛しています」

「は?お、俺を愛するだと?そんなわけがあるか!馬鹿を言うな!」

 ダガンの怒号が広間に響く。何人かが気圧されて失神した。が、ルナルシオンは悲しみに目を潤ませただけで、ダガンから手を離さなかった。
 ダガンは怒りを削がれた。ルナルシオンの手は縋り付くようで、目はダガンへの慕わしさで光り輝いている。数々の辛酸を舐めた経験が告げる。嘘偽りなど一切ないと。

 ルナルシオンはダガンを愛している。

 事実を認めた瞬間、胸が高鳴った。
 世界が一段と明るくなり、妙なる歌声が流れた気がした。それはこんな調子だった。

 ───英雄は空を見た。戦は終わった。見よ!もはや忌々しい黒雲はなく、青空が勝利を言祝ぐ───

(青空……ルナルシオンはこんなに美しい目をしていただろうか?冬の空より澄んでいて、夏の湖より光り輝いている)

 ダガンは割とロマンチストだ。それを、段々と大きくなる歌声とルナルシオンの健気さが助長していく。

「どうかこの想いを否定なさらないで下さい。私は貴方様をずっと待っていた……ダガン、私は君が好きなんだ」

 弱々しく言葉を紡ぎ、ルナルシオンはダガンに身を寄せた。
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