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私たち結婚しました
私たち結婚しました【3】
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「どうかこの想いを否定なさらないで下さい。私は貴方様をずっと待っていた……ダガン、私は君が好きなんだ」
弱々しく言葉を紡ぎ、ルナルシオンはダガンに身を寄せた。
瞬間、一際大きく歌声が響いた。
───英雄は帰路についた。故郷で待つ愛する者たちの元へ───
ダガンは一回り小さい身体を抱きしめた。ダガンに比べれば細く華奢だが、適度に鍛えられた青年の身体。ダガンの脳裏に自分を慕う幼いルナルシオンが浮かんだ。
「立派に成長されましたね。ルナルシオン殿下。鍛錬を欠かしていないのがわかります」
「ダガンが言ったんじゃないか。剣も馬術も苦手なままでもいい。けど、鍛錬は無駄じゃないって。私のために……あ、申し訳ありません。勇者様に失礼な……」
「失礼じゃない。俺の知ってるルナルシオンだ。俺は嬉しい。……待っていてくれてありがとう」
───待ち続けた恋人よ。無垢なる愛の象徴よ。報われる時が来た。英雄は帰路についた───
高らかな歌声が広間に響き渡り、寄り添う二人を包み込んだ……あたりでダガンは正気に返った。
「しまっ……!」
幻聴ではない。現実だと。このままではまずいと。しかし、遅かった。広間の様子が一変している。勇者一行以外のほとんどが感涙にむせび、ダガンとルナルシオンを口々に讃えている。あれほどダガンを憎んでいた者たちも「ええ話や……」「我々が愚かだった……尊い」「純愛じゃ……新刊いまから間に合うかな」などと言ってる。
歌……『神聖愛歌』のせいだ。これを聴いた者は心が浄化され高揚してしまう。ダガンが止める前に『神聖愛歌』の歌い手が歌をやめ、語り出した。
「なんという健気な愛でしょうか。胸を打たれました」
ピンクの髪に濃い薔薇色の目の美女は荘厳に述べ、眩しい笑みを浮かべた。
「聖女グロリオーサ・クロスライトの名において、勇者ダガンと第三王子ルナルシオン・ローゼラントの婚姻を認め祝福いたします」
この国での婚姻は、なによりも愛と正義を重んじる教会より『真実の愛をすでに築いている。あるいは築き得る二人』と、認定された瞬間成立する。その教会において聖女は教皇をしのぐ権威を持っている。つまり、グロリオーサに認められ祝福された瞬間、ダガンとルナルシオンは正式な夫夫となった。なってしまった。
◆◆◆◆◆◆
「しかし、あのルナルシオン殿下がなあ……男好き?半魔好き?なのか?昔から懐かれてるとは思ってたが……」
「いや、普通に恋だろ。オレも気づいてなかったがマイスイートハートは『ファーwww二人揃ってあんなに分かりやすいのに気づいていなかったんですかwww節穴受けるwww』と、言っていた」
「相変わらず腹立つなあの女」
「我がエターナルマイサンシャインにして妻テオドラをあの女とか言うな。そもそも王妃やぞ。おめえは昔から口が悪すぎる」
「お前が言うな」
脱線した。中年二人は再び悩む。しかしすぐに答えが出る。
「まあ、どうしようもねえなぁ。ルナルシオンと月花離宮で新婚生活してくれや」
「まあ、そうなるよな……」
と、結論が出た。聖女に認められ祝福された結婚、しかも国中の要人が集まっていたのだ。『婚約破棄』なんて宣言すれば王家の威信は地に落ちる。下手すれば教会と対立しかねない。初めからわかっていたことだった。
まさに時間の無駄、無駄な足掻き、覆水盆に返らずである。
「ううっ……ルナルシオンを泣かせたら殺す」
愛する子供と親友が結婚するという『あるっちゃあるケースだけど我が身に訪れるとは思わへんやん?』な事態にバルドレッドは目元を潤ませた。正直言ってうざい。
うざいので、ダガンは慰めることにした。
「いずれルナルシオン殿下から別れると言い出すさ。逆らわないから安心しろ」
「は?」
「俺は半魔だ。今は勇者だ魔王を倒した英雄だともてはやされているが、しょせんは化け物でしかない。しかも傷まみれのオッさんだぞ。現実を見ればすぐ嫌気がさす……おい、殺気を引っ込めろ」
バルドレッドは苦虫を噛み潰した顔で「馬鹿野郎」と唸った。
「おめえみてえなお人好しで面倒見のいい化け物がいるか。おめえは人間だ。このオレの親友だ。二度と言うんじゃねえ」
「っ!……悪かった」
弱々しく言葉を紡ぎ、ルナルシオンはダガンに身を寄せた。
瞬間、一際大きく歌声が響いた。
───英雄は帰路についた。故郷で待つ愛する者たちの元へ───
ダガンは一回り小さい身体を抱きしめた。ダガンに比べれば細く華奢だが、適度に鍛えられた青年の身体。ダガンの脳裏に自分を慕う幼いルナルシオンが浮かんだ。
「立派に成長されましたね。ルナルシオン殿下。鍛錬を欠かしていないのがわかります」
「ダガンが言ったんじゃないか。剣も馬術も苦手なままでもいい。けど、鍛錬は無駄じゃないって。私のために……あ、申し訳ありません。勇者様に失礼な……」
「失礼じゃない。俺の知ってるルナルシオンだ。俺は嬉しい。……待っていてくれてありがとう」
───待ち続けた恋人よ。無垢なる愛の象徴よ。報われる時が来た。英雄は帰路についた───
高らかな歌声が広間に響き渡り、寄り添う二人を包み込んだ……あたりでダガンは正気に返った。
「しまっ……!」
幻聴ではない。現実だと。このままではまずいと。しかし、遅かった。広間の様子が一変している。勇者一行以外のほとんどが感涙にむせび、ダガンとルナルシオンを口々に讃えている。あれほどダガンを憎んでいた者たちも「ええ話や……」「我々が愚かだった……尊い」「純愛じゃ……新刊いまから間に合うかな」などと言ってる。
歌……『神聖愛歌』のせいだ。これを聴いた者は心が浄化され高揚してしまう。ダガンが止める前に『神聖愛歌』の歌い手が歌をやめ、語り出した。
「なんという健気な愛でしょうか。胸を打たれました」
ピンクの髪に濃い薔薇色の目の美女は荘厳に述べ、眩しい笑みを浮かべた。
「聖女グロリオーサ・クロスライトの名において、勇者ダガンと第三王子ルナルシオン・ローゼラントの婚姻を認め祝福いたします」
この国での婚姻は、なによりも愛と正義を重んじる教会より『真実の愛をすでに築いている。あるいは築き得る二人』と、認定された瞬間成立する。その教会において聖女は教皇をしのぐ権威を持っている。つまり、グロリオーサに認められ祝福された瞬間、ダガンとルナルシオンは正式な夫夫となった。なってしまった。
◆◆◆◆◆◆
「しかし、あのルナルシオン殿下がなあ……男好き?半魔好き?なのか?昔から懐かれてるとは思ってたが……」
「いや、普通に恋だろ。オレも気づいてなかったがマイスイートハートは『ファーwww二人揃ってあんなに分かりやすいのに気づいていなかったんですかwww節穴受けるwww』と、言っていた」
「相変わらず腹立つなあの女」
「我がエターナルマイサンシャインにして妻テオドラをあの女とか言うな。そもそも王妃やぞ。おめえは昔から口が悪すぎる」
「お前が言うな」
脱線した。中年二人は再び悩む。しかしすぐに答えが出る。
「まあ、どうしようもねえなぁ。ルナルシオンと月花離宮で新婚生活してくれや」
「まあ、そうなるよな……」
と、結論が出た。聖女に認められ祝福された結婚、しかも国中の要人が集まっていたのだ。『婚約破棄』なんて宣言すれば王家の威信は地に落ちる。下手すれば教会と対立しかねない。初めからわかっていたことだった。
まさに時間の無駄、無駄な足掻き、覆水盆に返らずである。
「ううっ……ルナルシオンを泣かせたら殺す」
愛する子供と親友が結婚するという『あるっちゃあるケースだけど我が身に訪れるとは思わへんやん?』な事態にバルドレッドは目元を潤ませた。正直言ってうざい。
うざいので、ダガンは慰めることにした。
「いずれルナルシオン殿下から別れると言い出すさ。逆らわないから安心しろ」
「は?」
「俺は半魔だ。今は勇者だ魔王を倒した英雄だともてはやされているが、しょせんは化け物でしかない。しかも傷まみれのオッさんだぞ。現実を見ればすぐ嫌気がさす……おい、殺気を引っ込めろ」
バルドレッドは苦虫を噛み潰した顔で「馬鹿野郎」と唸った。
「おめえみてえなお人好しで面倒見のいい化け物がいるか。おめえは人間だ。このオレの親友だ。二度と言うんじゃねえ」
「っ!……悪かった」
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