欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!

花房いちご

文字の大きさ
6 / 20
第1部

6話 両親の『ざまぁ』

しおりを挟む
 聖騎士ルグラン様は、お父様だけでなくお姉様にも同じ質問をした。

「そうか。ではマルグリット嬢にも聞いてみよう。マルグリット嬢、宝玉果ジュエルピーチの果樹園のある村の名はなんだ?子爵の言う通りシュドゥー村か?」

「え?」

「それとも他の村かな?答えてほしい」

「マルグリット!余計なことは言うなよ!」

 お父様の怒号。マルグリットお姉様は、私の手を握る力を強めた。
 はげましたくて手の甲を撫でる。
 お姉様、お父様なんて怖くない。怯えなくていい。私が守るから。
 思いが通じたのか、お姉様の手から力が抜け、その唇からはっきりとした声が放たれた。

「いいえ。どの村でも育てていません。宝玉果は、この屋敷の敷地にある温室でしか育てられないのですから」

「その通りだ。この書類にもそう書いてある」

「な!?なんだと!?」

 聖女ミシエラ様が呆れた様子でため息を吐いた。

「私とエリックでも知っている有名な話ですよ。まさか、ここまで自領の特産品のことを知らないとは思いませんでした」

「ぐぬぬ……!」

 お父様は顔を赤黒くして黙り込んだ。流石に羞恥を感じたのだろう。典型的な引っ掛け問題だ。
 宝玉果は、南国産の希少な果物だ。果実の形は桃に似ているが、蔓性植物で高温多湿を好む。この国では、温室でしか育てられない。
 お姉様は私の『宝玉果が食べたい!』という我儘を叶えるため、巨大な温室を作り栽培法を研究した。そして、我が国で初めて商業生産に成功したのだ。
 改めてお姉様って凄い!天才!

 お母様も家政について同じように質問されて撃沈した。

「ううう……こ、こんなはずじゃ……!」

「まさかご自分が書いたと主張した手紙の宛先がわからないばかりか、屋敷で何を補充して何処を補修したかも把握していないとは思いませんでした」

「おまけに使用人の数と構成すら的外れとはな……。何が下働きも合わせて10人だ。俺たちを出迎えた者たちだけで12人はいたぞ」

「し、社交で忙しくてうっかり忘れて……」

「苦しい言い訳ですね。この手紙の宛先である商会長は宝玉果の大口取引先です。まともに社交をしているなら、重要人物の一人のはずです。どんな社交をしていたのですか?」

 聖女ミシエラ様たちは呆れ返った様子だ。
 というかお父様もお母様も社交で忙しいと言っていた癖に、どうして宝玉果を育てている場所も、主な取引先すらも知らないの?

「旦那様がたの社交については私どもからご説明いたします」

 疑問は二人への追求と執事たちの証言で判明した。

「なるほど。子爵夫妻は『社交をする』と言っていただけで、ただ王都で遊んでただけでしたか」

 主な遊び場は、賭博場、競馬場、仮面舞踏会、趣味のサロンだったそう。
 よくそんなので『社交に忙しい』なんて言えたな!最低!

「どうりで子爵が宝玉果のことを何も知らないはずだ。子爵領の収益を大幅に上げ、社交界でも話題になっている作物だ。本当に社交していたなら知らないなんて有り得ない。
 マルグリット嬢に領地経営と家政を押し付けて何をやってるんだ」

 うん。本当に情け無いし有り得ない。
 お姉様に押し付けたことはもちろんだけど、宝玉果のことを知らないことも致命的すぎる。今や子爵領で一番大切な作物だもの。

 それに宝玉果は、今はまだ知られてないけど凄い効能が……。

「繰り返すが、王国貴族法では『領主が領地経営を放棄することと、未成年者に領地経営をさせること』を禁じている。大人しく沙汰を待つんだな」

「法に則ったら厳正な裁きを受けなさい」

「ひっ!い、嫌だ!アナベル!助けてくれ!全部嘘だと言え!あんなに可愛がってやっただろう!」

「助けて!アナベルちゃん!アナベルちゃんが大好きなお母様と会えなくなってしまうのよ!」

 いつの間にか両親は縄で拘束されていた。ルグラン様めっちゃ手が早いな。
 これからの流れだけど、両親は貴族院から役人が来るまで監禁されるし、役人の取り調べを受けた後に連行されるそうだ。
 そしてほぼ確定で有罪。爵位剥奪の上に刑罰を受けるらしい。
 だからこの必死になって私にすがっているんだろうけど。

「私は発言を撤回しませんし、お姉様を虐めるお母様のことは嫌いです。ああ、もちろんお父様も嫌いです」

「ふざけるな!この恩知らずが!」

「ひどい!どうしてそんなことが言えるの!」

「お父様、お母様、罪を認めてつぐないましょう。私もそうしますから。
 ……というか、この時点で『ざまぁ』されてた方が、マシな死に方ができますよ」

「「は?」」

 いやマジで。刑罰っていっても国による労役刑でしょ?その程度で済むならマシだよ。
 小説の私と両親は悪役だ。当然、『ざまぁ』で全てを失う。しかも『ざまぁ』は、かなり苛烈な内容だ。
 まず、借金苦の果てに領地と爵位を奪われ、お姉様にすがろうとして失敗。裏社会の金貸しにさらわれてしまう。
 裏社会の金貸しは私を違法娼館、お父様を劣悪な環境の鉱山、お母様を裏社会の医療機関に送って働かせた。

 私は娼婦となり苦渋を舐める。後に顔だけは良い極悪人に身請けされるけど、それは私を利用するためだった。極悪人に利用された私は、お姉様と聖女様たちに復讐しようとしては返り討ちに合う。
 そこから復讐しようとしては『ざまぁ』され、身も心もボロボロになっていくのだ。最悪。

 両親の末路もかなり最悪だ。

 お父様は鉱夫となり、心身共にボロボロになる。最期は落盤した鉱山に取り残されて、恐怖と苦痛にまみれながら死ぬ。
 お母様は治験体……いえ、実験体となった。様々な薬や毒を打たれ、怪我の治療を試されて、すぐに心が壊れ身体も崩壊して死んでしまう。

 この世界の裏社会怖過ぎる!

 だから私は、現時点での罪に応じた『ざまぁ』をされたい!そして出来れば、出家して修道院に行きたい!
 あ、でも修道院は無いか。両親の悪行に加担してたから、裁判のち刑務所で労役が妥当だとうかな?
 いいじゃん刑務所!
 この世界は、修道院も刑務所もちゃんと管理されてる。労役やお勤めは大変だろうけど、虐待される可能性はかなり低いはず。娼館からの裏社会よりずっといい。
 むしろ刑務所に行きたい!しっかり罪を償いますからお願いします!

「お父様、お母様、だから『ざまぁ』されときましょう!」

「ざまぁ?意味のわからないことを……ウグ!フガフガ!」

「ンガー!ンンー!」

 両親は、猿轡さるぐつわで口をふさがれ、荷物のように担がれて退出した。見事な『ざまぁ』っぷりだ。



◆◆◆◆◆◆



閲覧頂きありがとうございます。

「第19回恋愛小説大賞」に参加しています。
投票、お気に入り登録、エール、感想、リアクションなど、皆様の反応がはげみです。よろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

カーテンコール〜完結作品の番外編集〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
完結した作品の番外編を投稿する場所です。 時系列はバラバラです。 当該作品をお読みでないと理解するのが難しいかもしれません。 今後もテーマに沿って思いついた話や、脇キャラの話などを掲載予定です。 ※更新頻度は低めです。 ※全ての完結作品が登場するとは限りません。 ※全て作者の脳内異世界のお話です。

嫌われ公女に転生したけど、愛されたい願望を捨てたら全員がデレてきた

桃瀬さら
恋愛
嫌われ公女ナディアは、婚約破棄され学園で孤立し、家族からも見放されていた。 どれほど努力しようが周囲からは「嫌われ公女」と蔑まれ、誰も味方なんていない。 「もういい。愛されたいなんて、くだらない」 そう心に誓った瞬間から、状況が一変した。 第二王子が婚約破棄を撤回し跪き、寡黙な騎士団長が「君を守りたい」と熱く迫ってくる。 そして、冷ややかな兄まで「婚約など認めない。家を出ることは許さない」と……。 愛されることを諦めた途端、なぜか執着される。

わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。

月白ヤトヒコ
恋愛
本日、なんの集まりかはわかりませんが、王城へ召集されておりますの。 まあ、わたくしこれでも現王太子の婚約者なので、その関連だと思うのですが…… 「父上! 僕は、こんな傲慢で鼻持ちならない冷酷非道な悪女と結婚なんかしたくありません! この女は、こともあろうに権力を使って彼女を脅し、相思相愛な僕と彼女を引き離そうとしたんですよっ!? 王妃になるなら、側妃や愛妾くらいで煩く言うのは間違っているでしょうっ!?」 と、王太子が宣いました。 「どうやら、わたくし悪女にされているようですわね。でも、わたくしも反省しておりますわ」 「ハッ! やっぱりな! お前は僕のことを愛してるからな!」 「ああ、人語を解するからと人並の知性と理性を豚に求めたわたくしが悪かったのです。ごめんなさいね? もっと早く、わたくしが決断を下していれば……豚は豚同士で娶うことができたというのに」 設定はふわっと。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜

涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください 「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」 呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。 その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。 希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。 アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。 自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。 そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。 アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が…… 切ない→ハッピーエンドです ※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています 後日談追加しました

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

【完結】遅いのですなにもかも

砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。 王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。 数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。

処理中です...