欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!

花房いちご

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第1部

7話 姉妹の涙

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 さようなら。ろくでなしのお父様、お母様。
 もう貴族ではいられないだろうけど、罪を償って真っ当に生きて欲しい。あの性格じゃ難しいかもだけど。

 遠い目になっていると、握ったままだったマルグリットお姉様の手が震えた。

「聖女ミシエラ様、聖騎士ルグラン様、私も拘束して下さい。知らなかったとはいえ、私は両親の罪に加担しました」

 後で知ったけど、お姉様は王国貴族法では『領主が領地経営を放棄することと、未成年者に領地経営をさせること』を禁じていることを知っていた。
 お父様に騙されていたのだ。

 8年前のお父様はちゃんと法律を覚えていたのだろう。
 『私に感謝しろ。クズなお前に相応しい仕事ができるよう申請してやったのだから。すでに認可も受け、代筆の許可も得ている。書類は全て私の名で作成するように』と言っていたのだという。
 『陛下から認可を受けたのだから、身を粉にして働け』とも言われたとか。

 あの糞親父!最後にぶん殴っておけばよかった!

「はぁ!?お姉様が悪いわけ無いでしょ!被害者だよ!」

「アナベル。気持ちは嬉しいわ。でも……」

 悪いのは仕事を押し付けて虐待していた両親なのに、結果的に罪に加担したと言って自分を責めてしまうマルグリットお姉様。
 責任感が強すぎる!どう言葉をかければいい?

 焦っていると聖女ミシエラ様の柔らかな声がした。

「マルグリットさん、アナベルさんの言う通りです。貴女はご両親に仕事を強制されていた被害者です。それにあの法律は、立場の弱い子供を保護するために制定されたのです」

 ありがとう聖女ミシエラ様!そうだよね!お姉様が罪に問われるなんて有り得ない!

「ね、お姉様。聖女ミシエラ様もこう仰せよ!お姉様はなにも悪くない!」

「で、でも……」

「とはいえ、現時点ではどのような沙汰が降りるかわからないがな」

「聖騎士ルグラン様!そんな言い方……!」

「アナベル嬢、落ち着きたまえ」

 冷静な声は聖騎士ルグラン様のもの。余計なことを言うな!という圧を込めて睨むけど、その眼差しはとても労りに満ちている。そんな眼差しで見つめ返されて抗議できなくなった。

「え?あの……」

 ええ?ルグラン様ってこんな優しい顔ができるの?どうして私をそんな顔で見つめるの?

 混乱していると、眼差しがお姉様の方に移動した。

「マルグリット嬢、貴女は聡明な方だ。様々な可能性を考えてしまう。裁きが確定していない間は不安で仕方ないだろう。無理もない事だ。
 だが貴女は気丈でいなければならない。少なくとも家族であるアナベル嬢以外には、不安な様子を見せてはならない。
 子爵夫妻が拘束された今、この屋敷と子爵領の采配ができるのは名実ともに君だけなのだから」

 そうか。ルグラン様は、お姉様の不安の理由を理解した上で励まそうとしているんだ。

「屋敷と子爵領を守れるのは私だけ……その通りです。失礼いたしました。気を引き締めます」

 お姉様もハッ!と、気づいた様子で顔を上げた。ルグラン様が少し微笑んで頷く。

「その意気だ。それに君の心配は杞憂で終わるだろう。これから来る役人たちは優秀で公正な者たちばかりだし、俺たちも協力を惜しまない。君が被害者であることもしっかり証言する」

 うわー!ルグラン様ってば頼もしい!カッコいい!
 な、なんだがドキドキするなあ……。
 それにしてもルグラン様、小説より頼もしくて落ち着いてる。怒りっぽくて口下手だったはずだけど、なんか別人って感じだ。
 なんでだろう?
 ……まあ、今はいいや。それより私もお姉様をはげましたい。

「そうだよ。マルグリットお姉様こそが、この家と領の主で柱だもの。みんな知ってるよ。ずっとお屋敷を守り続けてくれたことも、子爵領を盛り立ててくれたことも、みんな見てきたしわかってる。もしお姉様が罪に問われたなら、みんなで抗議するから!」

 執事長と侍女長も頷く。

「アナベルお嬢様の仰る通りです!この老骨も抗議しますぞ!傾いていた子爵領を建て直したのはマルグリットお嬢様です!」

「ええ!お嬢様こそが、真の屋敷の女主人様であり、ご領主様なのですから!」

「貴方たち……」

 お姉様の瞳から涙があふれる。ああ、黒い瞳がキラキラ輝いて綺麗。黒曜石かブラックダイヤモンドみたい。
 両親も小説の私も、本当に見る目がない。

 こんな綺麗な人、他にはいないのに。

 私はたまらなくなって、美しい涙を流すお姉様を抱きしめた。
 すぐに、『私にそんな資格はない』と思い出して離れようとしたけど。

「みんな、アナベル、ありがとう……ありがとう……貴女たちの言葉で……私のこれまでは報われたわ!」

「マルグリットお姉様……うわあああん!」

 お姉様が強い力で抱きしめるから、その言葉があまりにもあたたかいから、私まで大声で泣いてしまった。

 まるで小さな子供の頃……私がまだ魔炎病になっておらず、お姉様が働かされていなかった頃に戻ったように。




 こうして両親は罪を暴かれ『ざまぁ』された。同じくお姉様を虐げていた私もそうなるはずだった。
 そして小説『聖女はドアマットを許さない』の世界の表舞台から消える。そのはずだったのに。


「どうしてこうなった?」

 私は自分の部屋で頭を抱えた。





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