欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!

花房いちご

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第1部

9話 祖父母の思い出とアナベルの苦悩

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 お姉様が涙を流しながら私に聞いた。

「私たちが小さい頃のことを覚えている?貴女とお祖母様とお祖父様が、お父様たちから私を守ってくれていた」

「お姉様……うん。覚えてるよ」

 私たちの両親は昔から怠惰で傲慢だったし、お姉様と私を差別して余計なことばかりしていたけれど、前ベルトラン子爵夫妻である父方の祖父母は違う。
 有能で努力家で自分にも他人にも厳しい。けれどとても優しくて愛情深い人たちだった。

 私は過去を思い出していった。


◆◆◆◆◆◆


 前ベルトラン子爵夫妻である祖父母は、両親を厳しく監督し指導していた。自分に甘い両親にとっては苦痛だったのだろう。あからさまに嫌っていたけれど、祖父母は両親がお姉様にしたような、理不尽なことや人としての尊厳を傷つけるようなことはしなかった。
 祖父母はただ、両親に立派な子爵夫妻になって欲しかったのだと思う。
 しかし両親はそれを理解出来なかった。表向きは従っていたけれど、私たちの前でも平気で二人の陰口を叩いて愚痴っていた。

『チッ。うるさい老ぼれどもが。つまらない仕事を押し付けやがって』
『お義母様はひどいわ。お茶会で少し失敗しただけであんなに叱るなんて……』

 また祖父母の有能さをねたみ、二人の共通した特徴である黒色を忌み嫌った。

『ふん!貴族には華やかさが必要だ。いくら名領主と言われていても、地味な黒髪黒目の老人は相応しくない。さっさと私に家督を譲るべきだ』
『本当にそうよね。仕事は下賎な者たちにさせればいいでしょうに。鴉みたいな陰気な姿だからか、日陰仕事がお好きなのね』
『マルグリットも奴らと同じだ。忌々しい不細工め』
『ええ。あんな見苦しい子が私たちの子だなんて信じられないわ』
『私たちの子はアナベルだけだな』

 こうして両親は、祖父母と同じく有能で黒髪黒目のお姉様を憎み、両親の華やかな色を受け継いだ私を溺愛した。
 劣等感とか嫉妬とかがあったのだろうけど、だからって本人たちではなく自分の娘に憎悪をぶつけるなんて異常すぎる。

 祖父母もその異常さに気づき、両親をいさめてくれていた。同時に、両親の未熟さと異常さは悩みの種だったらしい。
 偶然、二人の話し合いを聞いてしまったことがある。

『どうしてああも歪んでいるのでしょう。マルグリットが憐れですし、アナベルにもいい影響を与えません。次代の領主夫妻としても未熟です。いっそ、後継から外した方が……』
『だが、あの二人はマルグリットとアナベルの両親だ。安易に切り捨てれば、それこそマルグリットとアナベルの心の傷になるだろう。それに二人を後継から外した場合、次の後継は幼いマルグリットだ』
『……そうですね。マルグリットは優秀ですが、あまりに負担が大きい。あの二人も全く成長していない訳ではありませんし、諦めてはいけませんね』
『ああ。それまでは私たちがマルグリットとアナベルを守らなくては。使用人たちにも指導を徹底しないとな』

 祖父母はそう言って私たちを両親から守り、分け隔てなく育てて慈しんでくれた。

『マルグリット、アナベル。お前たちはたった二人の姉妹だ。お互いに支え合っていくんだよ』
『そのためにも、しっかりと勉強しなくてはなりません。わかりましたね』
『はい。お祖父様、お祖母様』
『はーい!頑張ります!』

 だから祖父母が生きていた間は、『何となく姉妹格差があるな』『姉に対して強く当たっているな』程度で済んだ。
 私とお姉様の仲も良好だった。
 むしろ事あるごとにお姉様をおとしめ、私を猫可愛がりしようとする両親は苦手だった。
 祖父母が生きている間は一緒に、その後は使用人たちと共にお姉様をかばった。時には一人で両親と対決した。

『お父様!お母様!やめて下さい!どうしてマルグリットお姉様に酷い事を言うんですか!』
『そんな事を言うお二人なんて嫌いです!』

 こんな風に叱り飛ばしていたっけ。まあ、両親は口先だけで反省しなかったけど。

 ……あれ?私は自分でも性格が変わったと思ったけど、魔炎病に罹る前と完治した今は、あんまり変わらないかも?今と同じでお姉様が大好きで両親が嫌いだったな。



◆◆◆◆◆◆



 過去を思い出しつつ色々と考えていると、お姉様に手を握られた。一気に思考が現在に戻る。

「アナベル。昔のことを覚えているのね。でも、どれだけ私が救われていたか。きっと知らないのね」

「マルグリットお姉様?」

 涙で輝く黒い瞳。その澄んだ輝きに囚われた。

「アナベル。私の大切な可愛い妹。貴女は幼い頃から優しくて気高い子だった。いつも私の尊厳を尊重して、私を傷つけようとするお父様たちから守ってくれていた。
 そんな貴女が魔炎病に苦しむ姿を見るのが辛かった。どうしても治したかった。貴女の苦しみが少しでも楽になるならと、どんな仕打ちも受け入れた」

 だからお姉様は、あんなに私を慈しんでくれたのか。知らなかった。小説にも『幼い頃は仲が良かった』としか書いてなかった。

「でも、それは正しくなかったのね。
 貴女の八つ当たりを受け入れたせいで、かえって貴女を苦しめる結果になってしまった。
 私は貴女を甘やかすのではなく、もっと貴女をいさめて話しあうべきだった。
 貴女に罪があるとしたら、私にもそうさせた罪がある。
 どうか、一人で家を出て償うなんて言わないで。
 ……私を一人にしないで」

 うわあああ!ここまで言われたら拒否できない!

 こうして、私は監禁されなかった。役人様がたも同情的で、ほぼ確実に罪に問われない見込みらしい。
 そんなこんなで時は流れて半月以上が経ってしまった。

 どうしよう。


 ◆◆◆◆◆◆


「いや、マジでどうしよう」

 小説の私の『娼館落ちして裏社会の極悪イケメンに身請けされるけど、利用されて最終的に裏切られる』エピソードとか、『聖女ミシエラ様に復讐しようとして、聖騎士エリック・ルグラン様にぶった斬られ、命は助かるけど悲惨な傷が残る』エピソードとかは回避したけど、それで終わりじゃないんだよな。

「というか私、敵が多すぎる!」

 そう。この時点ですでに、私を利用していたり、殺そうしてたり、執着しているイケメンがいるのだ。



◆◆◆◆◆◆



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