121 / 175
第7章 優香のお泊まり大作戦

第120話 蒼太と優香、1つのベッドで――。

しおりを挟む
 暗がりの中。
 五感の半分以上を失ってしまった俺には、もはや何もできることはなかった。

 もちろん一時の情動に流されるのは簡単だ。
 だがしかし、俺の過ちは2人の女の子を傷つけてしまうことになるのだ。
 優香と美月ちゃん。
 2人の女の子の信頼を、俺は同時に裏切ってしまうことになる。

 よく考えろよ紺野蒼太。
 1年付き合ってた彼女に裏切られた時、俺は悪夢のような絶望を感じたはずだろう? 
 誰かの信頼を裏切るってのは、人の心を裏切るってのは、つまりそういうことなんだ。

 あんな思いを、今度は俺が優香や美月ちゃんにさせるのか?
 否!
 断じて否!

 俺はそんなクズ男じゃない! 
 ここは耐えろ!
 なんとしても耐えるんだ!

 そのためにも今は早く眠るんだ。
 寝たら余計な考えともおさらばできるのだから。

 俺はもうこれ以上は余計なことを考えないようにと、ベッドの中で真っ暗な天井を見つめた。
 込み上げてくる情動に悶々としながらも、己の心を律し続ける。

 意識が薄れだし、なんとなく眠りに落ち始めたのは、すでに明け方近くになって外がわずかに白み始めた頃だった。

 しかし予期せぬ事態というのは、得てして油断した時に起こるもの。
 そのアクシデントは、俺が緊張を解いたまさにそのタイミングで発生した。

 やっとこさ、うとうとし始めた俺がベッドの中で今まさに眠らんとしていると、

 ギシッ。

 突然ベッドが軋む音がして、誰かが俺のベッドに上がり込んできたのだ。

 誰かっていうか、今この家には俺と優香だけしかいないので、優香しかいないんだけども。
 それ以外だとマジでシャレにならないから。
 強盗とか、未来からタイムスリップしてきた自分の娘とかになっちゃうから。

 しかもである。
 優香はなんと、一片の迷いもなく布団の中に侵入してきたのだ。

(なっ!? えっ!? ど、どどどどういうこと!?)

 思いもよらなかった突発イベントの発生に、俺の心と身体は緊張によってピンシャキしてしまう。
 かすかに感じていた眠気は、再び完全に吹っ飛んでしまっていた。

 布団の中に潜り込んできた優香は、さらに俺の身体にピタリと抱き着いてくる。

 俺に行動するための時間も余裕も与えない、桶狭間の戦いで今川義元を奇襲した織田信長のような、有無を言わさぬ電光石火の早業はやわざだった。

「ゆ、優香? 急にどうした?」
 恐るおそる声をかけてみるものの、

「優香……?」
 しばらく待ってみても優香からの返事は返ってこない。

 返事がないってことは、もしかして優香は緊張しているのか?

 そ、そうだよな。
 そりゃ緊張くらいはするよな。

 男子のベッドに夜中にこっそり入ってきたんだから。
 恥ずかしくないわけないだろうし、顔だってきっと真っ赤になっているに違いない。

 ということは、より重要なのは行為そのものではなく、『なぜそうしたか』という理由だろう。

 俺はパニック寸前になっているポンコツな頭をなんとか総動員して、優香が夜中に布団に入って抱き着いてきた理由を探し始めた。

 まず考えられる第1の理由としては、慣れない環境での寝泊まりで心細くなってしまい、人肌が恋しくてくっついてきた――とかだろうか?

 面倒見のいいお姉ちゃんをやっているとはいえ、優香だってまだまだ十代の女の子だ。
 不安になることだってあるだろう。

 その可能性は決して低くはない。

 ただ、その場合は相手は俺でなくても構わないことになる。
 ここには俺しかいないから、消去法で俺にくっついてきただけだ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

処理中です...