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トラ獣人のティグ
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のっそりと入ってきた男の巨体は、この小さな店内を圧迫した。
身長は二メートル以上あるだろう。体格によく見合った肉厚の筋肉を身に纏い、背後からはしなやかな尻尾が揺れているのが見える。
むっつりと真一文字に結んだ唇と、太い眉は意志が強そうだが、己を曲げない信念が顔にそのまま出ただけだとラヴィは思う。キラキラと光る金髪も、その頭に丸く乗る耳も、この男が圧倒的上位にある虎獣人であると誰もが一目で理解する。
ウサギの自分とは、能力も種族の立場も雲泥の差だ。
「ラヴィ」
良く響く楽器のような低音が、自分の名前を呼んだ。そこに混じる喜びだとか、愛しさだとかが、ラヴィには酷く煩わしく感じた。
「客でもない貧乏人が、僕の名前を呼ぶな」
そうぴしゃりと言い放つと、こちらに伸ばしかけていた男の手はピタリと止まった。
そう、この男はラヴィの客ではないのだ。トラ獣人の癖に、金持ちでもない。
通常上位の獣人であれば、優秀な頭脳と獣性に相応しい逞しい身体を持っている。それ故に労働階級に落ちることなく、支配階級にいるというのに。
みすぼらしいこの男の服は、高級男娼の自分を買う男たちと比べても格段に劣る。
「ふん」
ラヴィは自分の言葉でしょげ返っている、男の雄弁な尻尾を見てほんの少し気分を良くした。男の横を通り過ぎて、店を出ようとするラヴィの手首が摑まれる。
他でもない、このトラ獣人に。
「離して。僕の身体は高いんだから。勝手に触らないでくれる」
「金を払えばいいのか」
気分を悪くしたのか、男の眉間に皺が寄った。
自分は男娼だ。金さえ払えば幾らでも抱かせる。数は少ないが抱くことだって教え込まれてる。どちらにせよ貰えるものさえ貰えるなら、商売だからやる事はやる。
だけど。
「いくら金を積まれても、アンタだけはごめんだよ! 二度と僕の前に顔を見せないでよねっ!」
いつまでも掴んで離さない男の股間を、ラヴィは遠慮なく蹴り上げた。
虎の尻尾がピンと立ち上がり、流石の男も体の中心を抑え込んで床へとうずくまる。
「おおラヴィ……運命の番いは……大事にしてあげな……」
「番いじゃないったらない!」
亀爺の言葉にカッとなって怒鳴り散らし、ラヴィはそのままドアをバタンと乱暴に開閉した。
運命の番い。それは古の獣人にあったロマンスだ。獣人にはそれぞれ運命の番いが存在していて、それはそれは番いを大切にしていたらしい。だがその運命は、時として人を傷つけた。愛する者に出会えず発狂して死ぬものもあったし、または諦めて番った者の片割れに、後から運命が現れた場合は修羅場でしかないだろう。
バース性が出てきた時には、その太古の獣性に近いものが復活したと大騒ぎになったらしいし、とにかくただでさえ執着心が強い獣人に取って、運命の相手などは恐ろしい足枷でしかないのだ。
そして先祖がえりをしたオメガのラヴィに、この運命を名乗るトラ獣人は疎ましくて仕方なかった。
そもそもの出会いも最悪で、その記憶は消し去りたい程。
「もう……! アイツに会うなんて……っ!」
買った薬をポケットにねじ込んで、ラヴィは怒りに任せてズンズンと歩を進めた。
あの時も、ラヴィの後ろをついて歩く傭兵に、こうやって街を歩いている時に襲われた。そしてそれを助けたのがあのトラ男だったという訳だ。
ただ、助けて終わりだったらラヴィだってこんなに嫌わなかった。ありがとうとお礼をいう間もなく、あろうことかあのトラ獣人はそのままラヴィを犯した。
傭兵に襲われたショックか、初めて発情期を迎えたラヴィにあてられたにしても、あれは「犯された」としか表現しようがない強烈な悪印象だったのだ。
そんなトラ獣人――ティグに出会ったのは、ほんの三か月程前の話だ。
身長は二メートル以上あるだろう。体格によく見合った肉厚の筋肉を身に纏い、背後からはしなやかな尻尾が揺れているのが見える。
むっつりと真一文字に結んだ唇と、太い眉は意志が強そうだが、己を曲げない信念が顔にそのまま出ただけだとラヴィは思う。キラキラと光る金髪も、その頭に丸く乗る耳も、この男が圧倒的上位にある虎獣人であると誰もが一目で理解する。
ウサギの自分とは、能力も種族の立場も雲泥の差だ。
「ラヴィ」
良く響く楽器のような低音が、自分の名前を呼んだ。そこに混じる喜びだとか、愛しさだとかが、ラヴィには酷く煩わしく感じた。
「客でもない貧乏人が、僕の名前を呼ぶな」
そうぴしゃりと言い放つと、こちらに伸ばしかけていた男の手はピタリと止まった。
そう、この男はラヴィの客ではないのだ。トラ獣人の癖に、金持ちでもない。
通常上位の獣人であれば、優秀な頭脳と獣性に相応しい逞しい身体を持っている。それ故に労働階級に落ちることなく、支配階級にいるというのに。
みすぼらしいこの男の服は、高級男娼の自分を買う男たちと比べても格段に劣る。
「ふん」
ラヴィは自分の言葉でしょげ返っている、男の雄弁な尻尾を見てほんの少し気分を良くした。男の横を通り過ぎて、店を出ようとするラヴィの手首が摑まれる。
他でもない、このトラ獣人に。
「離して。僕の身体は高いんだから。勝手に触らないでくれる」
「金を払えばいいのか」
気分を悪くしたのか、男の眉間に皺が寄った。
自分は男娼だ。金さえ払えば幾らでも抱かせる。数は少ないが抱くことだって教え込まれてる。どちらにせよ貰えるものさえ貰えるなら、商売だからやる事はやる。
だけど。
「いくら金を積まれても、アンタだけはごめんだよ! 二度と僕の前に顔を見せないでよねっ!」
いつまでも掴んで離さない男の股間を、ラヴィは遠慮なく蹴り上げた。
虎の尻尾がピンと立ち上がり、流石の男も体の中心を抑え込んで床へとうずくまる。
「おおラヴィ……運命の番いは……大事にしてあげな……」
「番いじゃないったらない!」
亀爺の言葉にカッとなって怒鳴り散らし、ラヴィはそのままドアをバタンと乱暴に開閉した。
運命の番い。それは古の獣人にあったロマンスだ。獣人にはそれぞれ運命の番いが存在していて、それはそれは番いを大切にしていたらしい。だがその運命は、時として人を傷つけた。愛する者に出会えず発狂して死ぬものもあったし、または諦めて番った者の片割れに、後から運命が現れた場合は修羅場でしかないだろう。
バース性が出てきた時には、その太古の獣性に近いものが復活したと大騒ぎになったらしいし、とにかくただでさえ執着心が強い獣人に取って、運命の相手などは恐ろしい足枷でしかないのだ。
そして先祖がえりをしたオメガのラヴィに、この運命を名乗るトラ獣人は疎ましくて仕方なかった。
そもそもの出会いも最悪で、その記憶は消し去りたい程。
「もう……! アイツに会うなんて……っ!」
買った薬をポケットにねじ込んで、ラヴィは怒りに任せてズンズンと歩を進めた。
あの時も、ラヴィの後ろをついて歩く傭兵に、こうやって街を歩いている時に襲われた。そしてそれを助けたのがあのトラ男だったという訳だ。
ただ、助けて終わりだったらラヴィだってこんなに嫌わなかった。ありがとうとお礼をいう間もなく、あろうことかあのトラ獣人はそのままラヴィを犯した。
傭兵に襲われたショックか、初めて発情期を迎えたラヴィにあてられたにしても、あれは「犯された」としか表現しようがない強烈な悪印象だったのだ。
そんなトラ獣人――ティグに出会ったのは、ほんの三か月程前の話だ。
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