男娼ウサギは寡黙なトラに愛される

てんつぶ

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三か月前のあの日

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――三か月前
 娼館の用心棒と言える傭兵は、店主に雇われた者である。
 それは娼館で働く商品を悪質な客から守るためでもあり、商品の監視の為でもあった。だから店で働く者は、外出時には傭兵を伴う事を当然と受け入れていた。
 だが、そんな店主の御眼鏡にかなったはずの傭兵の中にも、馬鹿な事をする獣人はいた。
「ちょっと……やめて! ボクが誰か分かってるの!?」
「分かってるさ。あの店でも上位三指に入る人気の男娼だろ? 俺ら傭兵は給料一か月分を払ってようやく抱ける位にな」
 いつも離れて歩くはずの傭兵が、隣に並んだ時点でおかしいと思うべきだった。だがそのまま店を出て歩き出したラヴィを男が腕を掴み、抵抗するラヴィをお構いなしに路地裏に引きずり込んだ。
 夜になれば華やかな町も、昼間はまだ人気がまばらだ。
 ラヴィはこの状況に、不安よりも先に苛立った。
 金もない奴に抱かれてやる程、自分は安くない。ここまで価値を上げてきた自分を、何の対価も無しに味わおうとするこの男に腹が立ったのだ。
「分かってるなら、店でお金を払って客としておいでよ。そしたらサービスしてあげるよ」 自分を壁に抑えつける傭兵の目を見て、ラヴィは鼻で笑う。自分は高いから金のないお前には抱くことも出来ないだろう、そんな意図を過不足なく傭兵は受け取った。
「この……っ! 尻でしか稼げねぇ男娼の癖に……!」
 その男娼を買えもしない奴が何を言う。ラヴィがその負けん気の強さでそう言い返そうとする前に、頬に鋭い痛みが走った。
 殴られたのだ。
「な……っ」
「大人しくしろ。ここで犯しても良いんだぜ。こっちは溜まってイライラしてんだ」
 目の前で拳を振り上げる傭兵に、ラヴィはその小柄な身体をビクリと震わせた。耳はすっかりペタリと垂れてしまって、いくら強がろうとも身体的な痛みに怯えているのが見て取れる。
 傭兵はにんまりと笑って、抵抗しなくなったラヴィの手を乱暴に引っ張った。
 路地裏を出て、大通りから細い道へと入っていく。どこか目的があるらしい男に、ラヴィは身体を震わせた。犯される事が不安な訳ではない。そんなことは仕事で幾らでもやっている。恐ろしいのは、こんな品のない男に抱かれて自分の価値が下がる事だ。
 具合が良いと評判のラヴィのそこが、使い物にならなくなっては働けなくなる。
 そうなれば金が得られない。
「……っ」
 叩かれた頬が熱い。ジンジンと痛みを与えてくるその部分だけではない。気が付けば顔も身体も、おかしな熱を持っているようだった。
 火照る身体は間違いなく性的な欲望を感じていて、まさかこんな男に自分が欲情しているのかと焦った。
 どこからとも無く漂う匂いが鼻腔をくすぐり、それが頭の芯を痺れさせた。そして男であるラヴィの身体が、奥からとろりと濡れていく感触に背筋に雷が走る様だ。
「ん……っ」
 未知なる感覚に、ラヴィはその長い耳をピンと立てた。
「おい、こっちだ。騒ぐなよ」
 ラヴィが自分自身に起った現象と折り合いがつかないまま、どうやら男の目的地に着いたらしい。見上げるとそこには安い連れ込み宿だ。宿にすら金を掛けたくない男なのかと、ラヴィは男への嫌悪感をさらに深めた。
 それだと言うのに、身体はこれから起こるであろう性行為を期待して、頭の中がぼんやりと霞かかる。もう何でもいい、誰でもいい、この身体の奥の疼きを納めてくれるなら。
 さっきとまるで違うラヴィの様子を、男も気が付いて嗤った。
「なんだ、お前……結局ヤりたかったのかあ? チンポ付いてりゃ誰でも良いんだろ。まあいいさ、俺が飽きるまで可愛がってやる」
 男がラヴィの腰をグッと抱き寄せた。服と皮膚が擦れる感触だけで、ラヴィの後ろからドロリとした液体が湧いてくる。思わす膝から力が抜け、男の身体に寄りかかる形になった。
「ん……っ」
「へへ……おいおい、どうしたやる気になりやがって。ああ、流石高級男娼だ。イイ匂いがするなぁ……」
 男がラヴィの耳の辺りをクンクンと嗅ぐ。確かにラヴィの身体からは、甘い匂いが立ち上がっていた。全ての獣人を引き付けるような、そんな香しい匂い。
 それがフェロモンと呼ばれる、消えたはずのオメガの発情である事は、今この時誰も理解していなかった。
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