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不思議な匂い
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卑怯な手段で自分を手込めにしようとするこの傭兵の男に嫌悪感はあった。だが今はそれ以上に身体の火照りとうずきが止まらない。
ラヴィはすっかり立ち上がった自分自身を擦りあげたい衝動を、何とかギリギリの理性で抑え込んでいた。
だがそれもまた、男にとっては誘われているとしか思えない痴態だった。腰をカクカクと小さく震わせて、頬は紅潮して大きな目は潤んで見上げてくる。
それがラヴィのオメガという失われたバース性故という事実は、ラヴィ本人を含めて今は誰も知れなかった。
「は……っ、あ……ァ」
「へ、へへ……よーし……待ってろ。おい親父、部屋を用意しろ。二三時間使うぜ」
愛想の無い店主に男は金を握らせた。こんな安宿に上等の客など来ない。どうみても場違いなラヴィの容姿に店主は違和感しかなかったが、金さえ貰えれば厄介ごとにも目をつぶるのが信条だった。
鍵というには粗末なそれを男に放り投げ、厄介ごとはゴメンだとばかりに奥へと引っ込んだ。
「はあはあ……たまらねえ。おい、行くぞ。ブチ犯してやるからな……!」
「んあ……」
男がラヴィの頬をべろりと舐めた。
吹き上がる甘美な快楽に、ラヴィは耐えきれず声を上げてしまう。
(嫌なのに……身体が言うことを聞かない……)
早く、早く抱いてくれと本能が訴える。男の杭で、自分の切ない空洞を埋めて欲しい。二階に上がろうとするも足は興奮の為にガクガクと震えてしまい、股間を膨らませた男が痺れを切らしてラヴィを抱き上げようとした。
その時、ブワリと強烈な匂いが辺り一面に広がった。
「ふ……あ……?」
驚くほどかぐわしい、甘い爽やかな匂いだった。ただそう感じたのはラヴィだけで、隣の男は青ざめ、ガクガクと身体を震わせている。その匂いの先に視線を移すと、そこにはさっきまで居なかっただろう一人の男が立っていた。
大きな引き締まった身体、金色の丸い耳とゆらりと動く長い尻尾は黒い模様が入っていて、その圧倒的な威圧感から肉食獣の希少種であるトラであることは容易く見て取れた。
突然現われた男は、感情の読み取れない表情で、一歩ラヴィたちに向かって進んだ。
傭兵はその高圧的なオーラに気圧されながらも、獲物を横取りされまいとラヴィを胸の中に抱いた。
「なんだおま……っ、グあ……!」
階段上に居たはずの傭兵の身体は、一瞬で階下に滑り落ちた。トラ獣人の尻尾になぎ払われたのだと気づいた時には、ラヴィはもうその男の腕の中に捕らわれていた。
転がる自分を見下ろすトラの冷たい視線に、オスとしての矜持が身体を立ち上がらせた。
「ぐ……うう……っ、てめぇ……ふざけんな……がぁあ!」
娼館で雇われる以上、それなりに腕が立つはずの傭兵の男は、トラ獣人の足蹴りであっという間に再び床に転がった。べきべきと響く鈍い音が、男の骨がいくつか折れた事を伝えていた。
「ぎゃ、ぎゃあああああ! 痛ぇ! 痛ぇよおおお!」
「うるさい……さっさとどこかへ行け」
煩わしげに放たれた言葉に、男は奥歯を食いしばって逃げた。
店の商品をつまみ食いするだけだったのに、命まで取られては割に合わない。あの瞳は、ためらいなく殺せる者だ。獣として残された本能が、敵わないと理解していたからだ。
文字通り、尻尾を巻いて逃げた傭兵を、ラヴィはトラ獣人の腕の中でぼんやりと眺めていた。ぼんやりとする頭と裏腹に、身体は過敏になっていて、服の上から感じる男の温度にそこから溶けてしまいそうだった。
その上男からは欲望を刺激するような、何とも言えない良い匂いがするのだから。
抱いてくれと縋りつきたい気持ちを、ラヴィは必死に耐えた。
「あ……ありが……――なっ!?」
礼を言おうとしたラヴィを、男はひょいと肩に担いだ。
「おい店主、出てこい」
粗末な服装に似つかわしくなく、その声は他人に命令しなれた様子で店主を呼んだ。物陰から恐る恐る出てきた店主に、男はズボンから出したコインを一つ、放り投げる。
「暫く出てこない」
端的にそう告げると、男はラヴィを抱えたまま二階へ向かった。
ひろげた店主の手の中には、三ヶ月は遊んで暮らせる金貨が一枚光っていた。
ラヴィはすっかり立ち上がった自分自身を擦りあげたい衝動を、何とかギリギリの理性で抑え込んでいた。
だがそれもまた、男にとっては誘われているとしか思えない痴態だった。腰をカクカクと小さく震わせて、頬は紅潮して大きな目は潤んで見上げてくる。
それがラヴィのオメガという失われたバース性故という事実は、ラヴィ本人を含めて今は誰も知れなかった。
「は……っ、あ……ァ」
「へ、へへ……よーし……待ってろ。おい親父、部屋を用意しろ。二三時間使うぜ」
愛想の無い店主に男は金を握らせた。こんな安宿に上等の客など来ない。どうみても場違いなラヴィの容姿に店主は違和感しかなかったが、金さえ貰えれば厄介ごとにも目をつぶるのが信条だった。
鍵というには粗末なそれを男に放り投げ、厄介ごとはゴメンだとばかりに奥へと引っ込んだ。
「はあはあ……たまらねえ。おい、行くぞ。ブチ犯してやるからな……!」
「んあ……」
男がラヴィの頬をべろりと舐めた。
吹き上がる甘美な快楽に、ラヴィは耐えきれず声を上げてしまう。
(嫌なのに……身体が言うことを聞かない……)
早く、早く抱いてくれと本能が訴える。男の杭で、自分の切ない空洞を埋めて欲しい。二階に上がろうとするも足は興奮の為にガクガクと震えてしまい、股間を膨らませた男が痺れを切らしてラヴィを抱き上げようとした。
その時、ブワリと強烈な匂いが辺り一面に広がった。
「ふ……あ……?」
驚くほどかぐわしい、甘い爽やかな匂いだった。ただそう感じたのはラヴィだけで、隣の男は青ざめ、ガクガクと身体を震わせている。その匂いの先に視線を移すと、そこにはさっきまで居なかっただろう一人の男が立っていた。
大きな引き締まった身体、金色の丸い耳とゆらりと動く長い尻尾は黒い模様が入っていて、その圧倒的な威圧感から肉食獣の希少種であるトラであることは容易く見て取れた。
突然現われた男は、感情の読み取れない表情で、一歩ラヴィたちに向かって進んだ。
傭兵はその高圧的なオーラに気圧されながらも、獲物を横取りされまいとラヴィを胸の中に抱いた。
「なんだおま……っ、グあ……!」
階段上に居たはずの傭兵の身体は、一瞬で階下に滑り落ちた。トラ獣人の尻尾になぎ払われたのだと気づいた時には、ラヴィはもうその男の腕の中に捕らわれていた。
転がる自分を見下ろすトラの冷たい視線に、オスとしての矜持が身体を立ち上がらせた。
「ぐ……うう……っ、てめぇ……ふざけんな……がぁあ!」
娼館で雇われる以上、それなりに腕が立つはずの傭兵の男は、トラ獣人の足蹴りであっという間に再び床に転がった。べきべきと響く鈍い音が、男の骨がいくつか折れた事を伝えていた。
「ぎゃ、ぎゃあああああ! 痛ぇ! 痛ぇよおおお!」
「うるさい……さっさとどこかへ行け」
煩わしげに放たれた言葉に、男は奥歯を食いしばって逃げた。
店の商品をつまみ食いするだけだったのに、命まで取られては割に合わない。あの瞳は、ためらいなく殺せる者だ。獣として残された本能が、敵わないと理解していたからだ。
文字通り、尻尾を巻いて逃げた傭兵を、ラヴィはトラ獣人の腕の中でぼんやりと眺めていた。ぼんやりとする頭と裏腹に、身体は過敏になっていて、服の上から感じる男の温度にそこから溶けてしまいそうだった。
その上男からは欲望を刺激するような、何とも言えない良い匂いがするのだから。
抱いてくれと縋りつきたい気持ちを、ラヴィは必死に耐えた。
「あ……ありが……――なっ!?」
礼を言おうとしたラヴィを、男はひょいと肩に担いだ。
「おい店主、出てこい」
粗末な服装に似つかわしくなく、その声は他人に命令しなれた様子で店主を呼んだ。物陰から恐る恐る出てきた店主に、男はズボンから出したコインを一つ、放り投げる。
「暫く出てこない」
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ひろげた店主の手の中には、三ヶ月は遊んで暮らせる金貨が一枚光っていた。
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