BL小説に転生なんて誰か嘘だと言ってください!

ぴえろん

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第1話「初恋は爆弾のように強烈にはじけ飛んだ」

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私の名前は、小野百合。

平凡な名前に平凡な顔立ち。・・いや、もしかしたら顔は平均以下かもしれない。

これといった特徴は無く、何処にでもいそうな女なのだが、誰にも言えない趣味がある。


それは、BL作品大好きな正真正銘の腐女子であるということ・・・!

しかも、普通のBL作品では物足りない。

私が大好きなのは、18禁BL小説だ。 



高校生の私は、どっぷり禁断で耽美な世界にはまっていた。



男同士で交わる官能的な小説を読んではキュンキュンし、10代最後の青春は全てBLに捧げたと言っても過言ではない。


そしてそのまま高校生活を終え、彼氏いない歴=年齢のまま大学へ入学した。


そこで、人生最大の春が私に訪れた。


ある日、大学の食堂でご飯を食べていたら、華奢で色白の「美少年」という言葉がぴったり当てはまる男の子が話かけてきたのだ。


「ねえ、僕と同じ講義出てるよね。」



それまで、その美少年とは話したことは無かったが、見かけたことは何度もある。

女装したら完璧に似合うだろうなと眺める事しかなかった男の子が、突然私に話しかけてきたので心臓が破裂しそうなほどドキッとした。



「う、うん!そうだね。」



「・・・・。」



か、会話が続かない!一体どうして私なんかに話しかけてきたの!?


男に対する免疫ゼロの私が混乱する中、目の前の美少年は美しくほほ笑んだ。


「僕と、付き合って欲しいんだ。・・・どう?」


「・・・・・えっ・・・?」

えーーーーーーーーーっ!?!?!?

そ、そんな!

私なんかより貴方にお似合いの男が他にもっといるのでは・・・?

綺麗で中性的なその顔、ここがBLの世界なら貴方は絶対に嫌らしく可愛いがられるネコ(受け)・・・!

いや待って、この顔で案外ドSなタチ(攻め)っていうのも相当美味しいかもしれない!!

なんて、言いそうになった口を慌てて抑える。


だめよ、だめ。
大学では腐女子な部分を出さないって決めたんだから!


それに、これは彼氏いない歴=年齢なんてむなしい記録を捨て去るチャンス・・・!


「わ、私なんかで良ければ・・・・!」


出会って数秒で交際することになった私たちだったが、その恋路は腐女子の私がメロメロになってしまうほど、とろけるような恋愛だった。


美少年の名前は、「レンくん」。


レンくんは、大学が終わると必ず私を家まで送って行ってくれた。


レンくんの家は隣町にあって、そこまで遠くはないが私の家とは反対方向なので、申し訳ないと断ったのだが、レンくんは首を振った。

「大丈夫。ちょうどこの辺りに友達が住んでて、そいつに会ってから帰るから。」

なーんて、私に気を遣わせないように言ってくれるのだ。


し・か・も!必ず二人で歩くときは恋人繋ぎ!!

誰かに手を握られるのって、こんなに嬉しくなるのね・・・・しかも、あったかい。


人肌に飢えていた彼氏いない歴=年齢の私には、刺激的すぎるほどの暖かさだった。


私の家の前に着くと、レン君はわたしの額にそっと口付けをしてくれる。



「また明日、学校で会おうね、百合。」



これでメロメロにならない女の子はいるのだろうか?

否!!いないだろう!!


こんな少女漫画に出て来るような、王子様みたいな男の子が実在していたなんて!!

しかもそれが、私の彼氏だなんて・・・!!!



私はもう、これ以上ないほど浮かれていた。

なんて素晴らしい大学生活なの。世の中にはBL小説よりときめく物があるのね・・・!


スキップでどこまででも行けそうなほど舞い上がっていた私だったが、それから大して日も経たないうちに人生のどん底に突き落とされることになる。


忘れもしない、あれは小雨がパラパラ降っていた時の事だった。



レン君がいつものように私を家まで送り届けてくれたのだが、私の家に着いた時、それまで小雨程度だった雨が一気に強く降り出してきたのだ。

朝は晴れていたので、レン君は傘を持っていなかった。

レン君が雨に打たれてしまうのが嫌だった私は、レン君に自分の持っていた傘を差し出した。


「レン君、私の傘を持って行って!明日、学校で返してくれればいいから。」


しかし、レン君は首を振った。


「いいや、それだと明日が雨だった時に百合が困るでしょ?。

近くに住んでいる友達の家に寄るから、そいつの傘でも持っていくよ。」



そう言ってレン君はいつも通り私の額にキスした後、雨の中を走って行ってしまった。


どうしよう・・・本当にそんな友達がこの辺にいるのかな?

レン君が気を遣わせないために言っているだけかも、と思った私はその日初めて、彼の後を追ってしまった。


追いついたら、やっぱり傘を渡そう。

レン君が風邪なんて引いたら嫌だもん。


レン君が走っていった方向に向かって私も走っていると、ふいに道路脇に小さな公園があるのが視界に入った。


雨に打たれる人影が二人。

目を凝らすと、その人影の片方はレン君だった。


「れ・・・・!」


レン君、と言おうとした私の口から、それ以上の言葉は出てこなかった。



まるで、全ての景色がスローモーションのようにゆっくりに見えた。


レン君と一緒にいたのは、同じ年くらいの筋肉質で、端正な顔立ちの男だった。


男は、レン君の頬に片手を優しく添えていて、二人は唇を重ねていた。




手に持っていた傘が、水音を立てて落ちた。

その音で、二人が私の方へ振り向いた。


「ユリ・・・・。」


私に気が付いたレン君が、こちらの方へ歩み寄ってきた。



「ごめん、見てたよね。そういう事だから。」



「そ、そういう事って・・・?」


声が震える。足だって、力が入らない。

これは絶対、雨に濡れて寒いから、とかではない。


「僕、男が好きなんだ。いわゆる、ゲイってやつ。一緒にいるのは、幼馴染の彼氏。」



「えっ・・・・。」


まるで頭を金槌で殴られたような、そんな衝撃が全身に走った気がした。


今、なんて言ったの・・・・?



「ユリと付き合ったのは、試したかっただけなんだ。
僕が女の子に対して欲情するのかどうか。

だけど・・・・やっぱり僕の恋愛対象は男で間違いないみたい。」


レン君はやけに淡々としていて、冷たい声でそう言った。
さっき私の額に口付けしてくれた人と同一人物だなんて思えないほどに。



「ユリには、何も感じなかったんだ。」

私が骨の髄まで腐女子だったのなら、この状況はむしろ泣いて喜ぶべきだろうか。

小説のなかでしか出会ったことのないBLが、目の前で繰り広げられているのだから。

だけど、とてもそんな気持ちにはなれなかった。

喜ぶどころか、気を緩めたら力が抜けて倒れてしまいそうだ。

ああ、私、レン君の事、本当に大好きだったんだな。


ただ、冷静に。客観的にそう思った。

それ以上考えてしまうと、泣きそうだったからかもしれない。


その後は、よく覚えていない。

どうやって家に帰って来たのか、レン君にはなんと返事をしたのか。


ただ、家に着いた頃にはすっかりびしょ濡れになっていたので、手から落ちていった傘はそのまま置いてきてしまったらしい。


濡れた服を脱いでシャワーを浴び、部屋に戻った私はベットにゆっくりと身体を沈み込ませた。


恋が終わった。私の初めての恋が。

空からいきなり爆弾が落ちてきて、ある日唐突に爆発したみたいに
私の恋は突然始まって、突然終わった。




そこでようやく涙が目からこぼれた。久しぶりに声を上げて泣いた。



私はその日、家にあるBL小説と漫画を全て捨てた。



二度と読む気にはならなかった。




それ以来、誰とも付き合う事もなかった私は、気が付けばすっかり拗らせたアラサーになっていた。


「ねえ、いい加減さ、レン君の事は忘れて婚活しなよ。」


大学時代の友達と久しぶりに会ってランチをした時、唐突にそう言われてスプーンを落としそうになった。


「えっ。でも、私と付き合いたいなんて言う男はどうせ全員、自分がゲイじゃないかどうか確かめたい奴だけだから。」

私がそう言うと、友達がげんなりした顔をした。


「もう!どうしてそこで一括りにしちゃうの!

レン君が特殊だっただけで、男が全員そんな奴ってことはないって!」


説教垂れる友達を横目に、私は目の前のオムライスをスプーンで掬う。


「もう私たち30歳よ!30歳!○ンスタ見てみなよ!」


友達がそう言いながら、私の目の前にスマホの画面を突き付けてくる。


「麻衣は今年で二人目を産んでるし、優子なんてもう子供が来年小学生だって!!」


スマホの画面には、可愛らしい子供の写真がスクロールする度に映し出されていく。



「・・・・ふーん。」


「百合だけだよ。いまだに結婚してないのって。このまま孤独死するつもりなの?!」


「・・・・それでもいいかもね。」



「もう!百合!真面目に考えてってば。」

憤慨する友達から視線を逸らし、心の中でため息を吐いた。

分かってるよ、そんなこと。

全ての男性がレン君のような人では無いって事、頭では理解している。


だけどあれ以来、どの男性を見ても、レン君のようになってしまう様な気がして、いつまでも一歩が踏み出せず、私は今も立ち止まったまま進むことが出来ないでいた。



それならいっそ、このまま孤独に死んでいった方が幸せかもしれない。



そんな風に考えたから、罰が当たってしまったのだろうか。


私はその日、友達と別れた後、交通事故に遭った。


突然乗用車が歩道に突っ込んできて、運悪くそこに立っていた私はなすすべもなく車の下敷きになった。


手に持っていたスマホは宙を舞ってから、道路に横たわっている私の目の前に落ちて、画面にピシッとひびが入った。

ひび割れたスマホの画面には、ちょうどその時読んでいた電子書籍のタイトル画面が映っている。


その画面を、朦朧とする意識の中で、ただ漠然と眺めていた。


血がたくさん出てる。これはもうだめなのかな。


まあ、でも。周りの友達と違って、私には子どもとか旦那なんていないし、私が死んで困る人なんてあんまりいないでしょ。

そう思った時、心の中に後悔がじんわりと広がっていった。



本当に孤独にあっけなく死んでしまう事になるなんて。

どうせ死ぬなら、とことん傷ついてでも恋愛すればよかったかな。


そうすれば、今この瞬間、誰かの顔が一人くらいは頭に浮かんだのかもしれないのに。


後悔に駆られる。どうして今になって、自分の本音に今更気付いてしまうのだろうか。

もう、意味が無いのに。



「どうして、私、このままここで死ぬの??いや、そんな・・・。」


私の口から、心の声が自然と出てきてしまった。


そんな私に、誰かが囁いた。


「ねえ、どうせ死ぬんだしさ、魂と引き換えに・・・転生させてあげようか?」



転生・・・・?


そういえば、スマホでそんな内容の小説を読んでいたけど。


そんなこと、本当に出来るの?

それとも、死ぬ直前に主人公が異世界に転生する内容の小説を読んでいたから、こんな幻聴が聞こえるの?


判断が付かない。分からない。このままだと、もうすぐそんな思考力だって無くなってしまう。

薄れゆく意識の中、私は心の中で、誰かの言葉にうなずいた。







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