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第11話「変な女は王子様」(リチャード視点)
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女は僕にとって、とても嫌いな生き物だ。
自分勝手で、愚かで、醜い。
それに比べて・・・・僕は・・・・。
僕の母は美しかった。
その美しさから、一度貴族に買われたが捨てられ、僕を身籠ったと分かった時にはすでに路頭に迷う生活だった。
そんな中、母は僕をたった一人で産んだ後、生活していく為に娼婦になった。
その母を、僕は尊敬するどころか今でも心の底から嫌っている。
その理由は、僕が物心つく頃には母に命じられて、毎日働かされていたからだ。
暖かい思い出なんか、何一つとして思い浮かばない。
最早母が僕を愛していたなんて、到底思えないほどに。
母の事で唯一記憶に残っている事といえば、夜に時々涙を浮かべていた事くらいだろうか。
母は時折、僕の父に当たる人を思い出しては、涙を流していた。
美しい母が一筋の涙を流しているのは、どこかの国のお姫様のように綺麗だと子どもながらに思った。
母は時々うわ言のように呟いていた。
いつかきっと王子様が迎えに来てくれて、自分を救ってくれるのだと。
だから僕も、いつからか考えるようになった。
王子様がもし本当に来たら、母ではなく僕を助けて欲しいと。
王子様が迎えに来るのは、お姫様だけなんだって、母は僕に言っていたけど。
いいや、そんなことは無い。
男の所にだって、きっと迎えに来てくれる。
少なくとも、今の僕は・・・・母よりも美しい。その辺を歩いている女よりも綺麗だから。
その証拠に、ヘリオス様が僕を愛し、今の生活へ導いてくれた。
ヘリオス様の妻であるアレシアよりも大事にされているのが何よりの証明だ。
ふと、馬車に付いている小さな窓から外に目を向けた。
馬車の外は、特筆すべきことが何もない、退屈な田舎の景色が広がっている。
早くヘリオス様に会いたい。
でも、ヘリオス様のいる屋敷に着くまでにはまだ時間がかかる。
暇つぶしの代わりに馬車に揺られながら、また考え事に耽ることにした。
そういえばあの女、ヘリオス様に相手にされないからって気でも触れたのだろうか。
突然髪を切って、男装なんかして。
そうまでして、ヘリオス様を振り向かせたいのか?
ここまで来ると哀れだ。
だけど同情はしない。
僕はアレシアの事なんてどうでも良かったが、ヘリオス様が言うから渋々連れ戻しに来たのに、アレシアにあっさり断られ、さっさと帰らされることになってしまった。
全く、だから女は嫌いなんだ。
自分勝手で、愚かで、醜い。女であるお姫様だってきっと同じだ。
「それに比べて僕は・・・・美しくて、聡明だ。」
手鏡を手に取った。鏡に映し出される姿にうっとりした。
やっぱり、僕は女よりも秀でている。
そんな風に思い耽っていたら、突然馬の絶叫が聞こえ、馬車が一度大きく揺れた。
その衝撃で態勢が崩れた僕は、よろけながらも立ち上がるために顔を上げた。
一体何なんだ。
そう苛ついていた僕の目に飛び込んできたのは、馬車の扉の隙間からこちらを覗き込む粗暴な格好をした男たちだった。
「・・・・!」
逃げようとしたが、もう遅かった。
扉は乱暴に開かれ、大柄な男が僕の肩を掴んだ。
馬車から引きずり降ろされ、道の脇にある森の茂みへ放り込まれた。
「お前、貴族の坊ちゃんだよな?金をよこせ。」
僕の目の前に、汚らしい格好で笑みを浮かべる男が3人もいる。
山賊だろうか。手には銃と小刀を持っていて、僕に見せつけるようにこちらへ突き出している。
脅しのつもりらしいが、下手な行動に出れば本当に殺されてしまうかもしれない。
僕の整った顔と身なりから、完全に貴族だと勘違いしているが、実際には平民である僕にお金の要求をされても渡す金がない。
「なあ、こいつ、男のくせにまあまあ可愛くないか?」
一人の男が、気持ち悪い笑顔でそう言った。
ああ、これはまずい展開だ。
しかしそうは思っていても、目の前の武器を持つ男三人を相手に切り抜ける自信が持てない。
なす術もない僕は、男たちにされるがままになってしまっていた。
服が捲られ、いやらしい手つきで僕の肌を撫でてくる。
「助けて・・・ヘリオス様・・・。だ、誰か・・・。」
思わず声に出てしまう。だが、呼んでも来るわけが無いのは分かり切っていた。
この場所は、ヘリオス様の屋敷からはあまりにも遠い。
まだ、アレシアのいる屋敷の方が近いくらいだ。
絶望的な状況に、身体から力が段々と抜けていった。
ここはもう、このまま大人しく体を好き勝手に触らせた方がいい。
服はもう、半分ほど脱がされそうだった。
「そこまでだ!!!悪党ども!!!!」
諦めていた僕の耳に届いたのは、甲高い女の声だった。
「えっ・・・・・。」
驚いて顔を上げると、そこには男装したアレシアが立っていた。
「なんだ、お前。女みたいに華奢な奴だな。」
女なんだよ!!そいつは!!何しに来たんだ!?!?
僕はアレシアを睨んだ。
早く帰れよ!どうせ何も出来やしないんだから!
しかしアレシアは男3人を目の前にしても何故か逃げようとはせず、冷静に立っていた。
それどころか。
「リチャードを離せ!」
そう言って、一人の男に殴りかかった。
しかしあっさりやり返され、アレシアが軽く吹っ飛んで地面に転がった。
「何なんだ、この男。めちゃくちゃ弱いぞ・・・。」
ある意味びっくりしているのか、アレシアを殴った男が固まっている。
「こいつも可愛い顔してないか?何なら女みたいだぞ。しかも、金持ちっぽい格好だし。」
そう言って、男が再びアレシアに近づこうとした時だった。
アレシアが近付く一人の男の足首に思いっきり噛みついた。
「痛ぇ!!!くそっ・・・!こいつ噛みつきやがった!!!」
噛みつかれた男が痛そうにうずくまる。
アレシアは地面に這いつくばるような恰好のまま、唖然としている男三人の大事な部分を蹴り上げた。
「くうっ・・・・・!」
下腹部を抑え、情けない声を出しながら大柄な男たちが地面にうずくまった。
アレシアが立ち上がり、僕の手を引いた。
「今のうちに逃げるよ、リチャード!」
僕の手を引き、走り出したアレシアだったが、間もなくしてから苦しそうなうめき声を上げ、走る足を緩めた。
アレシアの方を見ると、背中にさっき男の一人が持っていた小刀が突き刺さっていた。
真っ白な服に赤い染みが広がっていく。
どうやら地面にうずくまっている男が、アレシアに向かって投げたようだ。
「気にしないで、リチャード。今はとにかく逃げよう。」
どう見ても大丈夫ではないのだが、アレシアはそう言って僕の手を再び引き、走り出した。
男たちの姿が後ろを振り返っても確認出来なくなるほど走った時、馬車が1台見えてきた。
「あれは僕がここまで乗ってきた馬車だよ。あれに乗って一旦帰ろう、リチャード。」
そう言って、アレシアは僕をその馬車に乗せた。
僕たちが乗った事を確認して、御者が手綱を引いて馬車を動かした。
アレシアは僕の向かいに腰を下ろした、いや、ぐったり倒れ込んだの方が表現としては正しいだろう。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
慌ててアレシアの背中を確認すると、かなり出血してきたのか赤い染みが大きくなっていた。
「な・・・・なんでこんな無茶をしたんですか!?」
息も絶え絶えなアレシアに対して、つい声を荒げてしまう。
だってそうじゃないか。
助ける理由なんてないはずだ。アレシアにとって僕は、夫の浮気相手でしかない。
なのに、どうして、なんで・・・。
「なんで、僕を助けるんだ。僕より弱いくせに・・・。」
アレシアは僕を困ったように見つめた後、力無く笑った。
「・・・・王子様、だから?」
そう言った後、ついに体力が限界を迎えたのか、眠るように意識を失ってしまった。
「なんで疑問形なんだよ。」
目を閉じたアレシアに向かって呟いた。
僕はそっと、アレシアの頭を膝の上に乗せた。
アレシアはどちらかと言うと大人っぽい顔つきなのだが、こうして眠っているとまだ幼さの残る顔だ。
アレシアの顔を見つめながら思った。
僕はいつからか、王子様が迎えに来るのを母と同じように待っていた。
王子様なら、僕を救ってくれる気がしたから。
僕はずっと、ヘリオス様こそが僕にとっての王子様だと思っていた。
アレシアは男装しているだけの女だ、王子様なんかじゃない。
今日の男たちだって、ヘリオス様なら華麗にあっという間に倒していただろう。
こんな情けない姿で横たわっているなんて有り得ない。
だから、こんな女、早くリゲルス様に引き渡して帰ろう。
アレシアが怪我をしたのは、あくまで僕のせいでは無く、その襲ってきた男たちが悪いのだから、僕が罪悪感を抱く必要なんてないし。
しばらくしてから馬車はリゲルスの屋敷に着き、馬が一声鳴いてから馬車が停止した。
ぐったりしているアレシアを抱きかかえ、馬車を降りる。
「感謝しなよ。僕が女をお姫様抱っこするなんて、後にも先にもアンタだけだよ。」
目を閉じているアレシアに嫌味を言ってみる。
意識が無いので、この言葉が本人に届くことは無いだろう。
屋敷の扉を叩くと、リゲルスが外から僕たちの姿を確認したのか、血相を変えて飛び出てきた。
「どういうことだ・・・!?一体何があった!?」
慌てているせいか、すっかり男口調になっているリゲルスが、アレシアに手を伸ばした。
渡さなくては、アレシアを。そしてリゲルスに言わなければ、何があったのかを。
「僕の乗っていた馬車が襲われて、アレシア様が身を挺して助けに来てくれて・・・。
そして、その時に犯人が投げた小刀がアレシア様に刺さったから早く手当てをしないと・・・。」
リゲルスに説明しながら、僕は全く違う事に気を取られていた。
もうこの手を離さないと、この、僕を助けてくれた人から。
僕の・・・。
それは、ほとんど本能に近かったかもしれない。
「僕も、王子様が欲しい。」
リゲルスは目を見開いて僕を見た。
だけど、思わず口をついて出た言葉に、一番驚いていたのは僕自身だった。
(リチャード視点 終わり)
自分勝手で、愚かで、醜い。
それに比べて・・・・僕は・・・・。
僕の母は美しかった。
その美しさから、一度貴族に買われたが捨てられ、僕を身籠ったと分かった時にはすでに路頭に迷う生活だった。
そんな中、母は僕をたった一人で産んだ後、生活していく為に娼婦になった。
その母を、僕は尊敬するどころか今でも心の底から嫌っている。
その理由は、僕が物心つく頃には母に命じられて、毎日働かされていたからだ。
暖かい思い出なんか、何一つとして思い浮かばない。
最早母が僕を愛していたなんて、到底思えないほどに。
母の事で唯一記憶に残っている事といえば、夜に時々涙を浮かべていた事くらいだろうか。
母は時折、僕の父に当たる人を思い出しては、涙を流していた。
美しい母が一筋の涙を流しているのは、どこかの国のお姫様のように綺麗だと子どもながらに思った。
母は時々うわ言のように呟いていた。
いつかきっと王子様が迎えに来てくれて、自分を救ってくれるのだと。
だから僕も、いつからか考えるようになった。
王子様がもし本当に来たら、母ではなく僕を助けて欲しいと。
王子様が迎えに来るのは、お姫様だけなんだって、母は僕に言っていたけど。
いいや、そんなことは無い。
男の所にだって、きっと迎えに来てくれる。
少なくとも、今の僕は・・・・母よりも美しい。その辺を歩いている女よりも綺麗だから。
その証拠に、ヘリオス様が僕を愛し、今の生活へ導いてくれた。
ヘリオス様の妻であるアレシアよりも大事にされているのが何よりの証明だ。
ふと、馬車に付いている小さな窓から外に目を向けた。
馬車の外は、特筆すべきことが何もない、退屈な田舎の景色が広がっている。
早くヘリオス様に会いたい。
でも、ヘリオス様のいる屋敷に着くまでにはまだ時間がかかる。
暇つぶしの代わりに馬車に揺られながら、また考え事に耽ることにした。
そういえばあの女、ヘリオス様に相手にされないからって気でも触れたのだろうか。
突然髪を切って、男装なんかして。
そうまでして、ヘリオス様を振り向かせたいのか?
ここまで来ると哀れだ。
だけど同情はしない。
僕はアレシアの事なんてどうでも良かったが、ヘリオス様が言うから渋々連れ戻しに来たのに、アレシアにあっさり断られ、さっさと帰らされることになってしまった。
全く、だから女は嫌いなんだ。
自分勝手で、愚かで、醜い。女であるお姫様だってきっと同じだ。
「それに比べて僕は・・・・美しくて、聡明だ。」
手鏡を手に取った。鏡に映し出される姿にうっとりした。
やっぱり、僕は女よりも秀でている。
そんな風に思い耽っていたら、突然馬の絶叫が聞こえ、馬車が一度大きく揺れた。
その衝撃で態勢が崩れた僕は、よろけながらも立ち上がるために顔を上げた。
一体何なんだ。
そう苛ついていた僕の目に飛び込んできたのは、馬車の扉の隙間からこちらを覗き込む粗暴な格好をした男たちだった。
「・・・・!」
逃げようとしたが、もう遅かった。
扉は乱暴に開かれ、大柄な男が僕の肩を掴んだ。
馬車から引きずり降ろされ、道の脇にある森の茂みへ放り込まれた。
「お前、貴族の坊ちゃんだよな?金をよこせ。」
僕の目の前に、汚らしい格好で笑みを浮かべる男が3人もいる。
山賊だろうか。手には銃と小刀を持っていて、僕に見せつけるようにこちらへ突き出している。
脅しのつもりらしいが、下手な行動に出れば本当に殺されてしまうかもしれない。
僕の整った顔と身なりから、完全に貴族だと勘違いしているが、実際には平民である僕にお金の要求をされても渡す金がない。
「なあ、こいつ、男のくせにまあまあ可愛くないか?」
一人の男が、気持ち悪い笑顔でそう言った。
ああ、これはまずい展開だ。
しかしそうは思っていても、目の前の武器を持つ男三人を相手に切り抜ける自信が持てない。
なす術もない僕は、男たちにされるがままになってしまっていた。
服が捲られ、いやらしい手つきで僕の肌を撫でてくる。
「助けて・・・ヘリオス様・・・。だ、誰か・・・。」
思わず声に出てしまう。だが、呼んでも来るわけが無いのは分かり切っていた。
この場所は、ヘリオス様の屋敷からはあまりにも遠い。
まだ、アレシアのいる屋敷の方が近いくらいだ。
絶望的な状況に、身体から力が段々と抜けていった。
ここはもう、このまま大人しく体を好き勝手に触らせた方がいい。
服はもう、半分ほど脱がされそうだった。
「そこまでだ!!!悪党ども!!!!」
諦めていた僕の耳に届いたのは、甲高い女の声だった。
「えっ・・・・・。」
驚いて顔を上げると、そこには男装したアレシアが立っていた。
「なんだ、お前。女みたいに華奢な奴だな。」
女なんだよ!!そいつは!!何しに来たんだ!?!?
僕はアレシアを睨んだ。
早く帰れよ!どうせ何も出来やしないんだから!
しかしアレシアは男3人を目の前にしても何故か逃げようとはせず、冷静に立っていた。
それどころか。
「リチャードを離せ!」
そう言って、一人の男に殴りかかった。
しかしあっさりやり返され、アレシアが軽く吹っ飛んで地面に転がった。
「何なんだ、この男。めちゃくちゃ弱いぞ・・・。」
ある意味びっくりしているのか、アレシアを殴った男が固まっている。
「こいつも可愛い顔してないか?何なら女みたいだぞ。しかも、金持ちっぽい格好だし。」
そう言って、男が再びアレシアに近づこうとした時だった。
アレシアが近付く一人の男の足首に思いっきり噛みついた。
「痛ぇ!!!くそっ・・・!こいつ噛みつきやがった!!!」
噛みつかれた男が痛そうにうずくまる。
アレシアは地面に這いつくばるような恰好のまま、唖然としている男三人の大事な部分を蹴り上げた。
「くうっ・・・・・!」
下腹部を抑え、情けない声を出しながら大柄な男たちが地面にうずくまった。
アレシアが立ち上がり、僕の手を引いた。
「今のうちに逃げるよ、リチャード!」
僕の手を引き、走り出したアレシアだったが、間もなくしてから苦しそうなうめき声を上げ、走る足を緩めた。
アレシアの方を見ると、背中にさっき男の一人が持っていた小刀が突き刺さっていた。
真っ白な服に赤い染みが広がっていく。
どうやら地面にうずくまっている男が、アレシアに向かって投げたようだ。
「気にしないで、リチャード。今はとにかく逃げよう。」
どう見ても大丈夫ではないのだが、アレシアはそう言って僕の手を再び引き、走り出した。
男たちの姿が後ろを振り返っても確認出来なくなるほど走った時、馬車が1台見えてきた。
「あれは僕がここまで乗ってきた馬車だよ。あれに乗って一旦帰ろう、リチャード。」
そう言って、アレシアは僕をその馬車に乗せた。
僕たちが乗った事を確認して、御者が手綱を引いて馬車を動かした。
アレシアは僕の向かいに腰を下ろした、いや、ぐったり倒れ込んだの方が表現としては正しいだろう。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
慌ててアレシアの背中を確認すると、かなり出血してきたのか赤い染みが大きくなっていた。
「な・・・・なんでこんな無茶をしたんですか!?」
息も絶え絶えなアレシアに対して、つい声を荒げてしまう。
だってそうじゃないか。
助ける理由なんてないはずだ。アレシアにとって僕は、夫の浮気相手でしかない。
なのに、どうして、なんで・・・。
「なんで、僕を助けるんだ。僕より弱いくせに・・・。」
アレシアは僕を困ったように見つめた後、力無く笑った。
「・・・・王子様、だから?」
そう言った後、ついに体力が限界を迎えたのか、眠るように意識を失ってしまった。
「なんで疑問形なんだよ。」
目を閉じたアレシアに向かって呟いた。
僕はそっと、アレシアの頭を膝の上に乗せた。
アレシアはどちらかと言うと大人っぽい顔つきなのだが、こうして眠っているとまだ幼さの残る顔だ。
アレシアの顔を見つめながら思った。
僕はいつからか、王子様が迎えに来るのを母と同じように待っていた。
王子様なら、僕を救ってくれる気がしたから。
僕はずっと、ヘリオス様こそが僕にとっての王子様だと思っていた。
アレシアは男装しているだけの女だ、王子様なんかじゃない。
今日の男たちだって、ヘリオス様なら華麗にあっという間に倒していただろう。
こんな情けない姿で横たわっているなんて有り得ない。
だから、こんな女、早くリゲルス様に引き渡して帰ろう。
アレシアが怪我をしたのは、あくまで僕のせいでは無く、その襲ってきた男たちが悪いのだから、僕が罪悪感を抱く必要なんてないし。
しばらくしてから馬車はリゲルスの屋敷に着き、馬が一声鳴いてから馬車が停止した。
ぐったりしているアレシアを抱きかかえ、馬車を降りる。
「感謝しなよ。僕が女をお姫様抱っこするなんて、後にも先にもアンタだけだよ。」
目を閉じているアレシアに嫌味を言ってみる。
意識が無いので、この言葉が本人に届くことは無いだろう。
屋敷の扉を叩くと、リゲルスが外から僕たちの姿を確認したのか、血相を変えて飛び出てきた。
「どういうことだ・・・!?一体何があった!?」
慌てているせいか、すっかり男口調になっているリゲルスが、アレシアに手を伸ばした。
渡さなくては、アレシアを。そしてリゲルスに言わなければ、何があったのかを。
「僕の乗っていた馬車が襲われて、アレシア様が身を挺して助けに来てくれて・・・。
そして、その時に犯人が投げた小刀がアレシア様に刺さったから早く手当てをしないと・・・。」
リゲルスに説明しながら、僕は全く違う事に気を取られていた。
もうこの手を離さないと、この、僕を助けてくれた人から。
僕の・・・。
それは、ほとんど本能に近かったかもしれない。
「僕も、王子様が欲しい。」
リゲルスは目を見開いて僕を見た。
だけど、思わず口をついて出た言葉に、一番驚いていたのは僕自身だった。
(リチャード視点 終わり)
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