悪女は愛より老後を望む

きゃる

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第二章 悪女復活!?

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 答えに迷っていると、クラウス王子がさらに続ける。

「俺の言い方が悪かったか。豊かな発想は様々な経験に基づくことが多い。本の知識というのでは、あまりにも無理がある。それならどこで?」
「そ、それは……」
「是非聞いておきたい」
「ええっと……」

 どうしよう?  王子が切れ者だという噂は伊達ではないようだ。後悔したってもう遅い。うろたえて言葉が出ない。すると――

「おい、ちょっとあんた!」
「リーゼ! やめなさいっ」

 リーゼが王子に詰め寄ろうとしたので、私は叫んで立ち上がる。あんなに言い聞かせていたのに、クラウス王子に対してとは、どういうこと?
 控えていた護衛が動くのを見て、とっさにリーゼを背に庇う。けれど王子自身が片手を上げて、護衛の動きを止めていた。彼は椅子に腰かけたまま、冷めた表情で長い足を組み換える。

「構わない。リーゼといったか。君の言い分を聞こう」
「待って下さい。この子はまだ……」
「なんだい、王子だからってさっきから偉そうに」
「リーゼ!」
「痛っ」

 私は振り向きリーゼの腕をひねり上げた。まるで悪夢を見ているよう。返答にきゅうした私のせいだ。気軽に接してくれたとはいえ、相手は王子。発言に気をつけないとリーゼや私が不敬罪になるだけでなく、使用人の教育が行き届いてないとして、伯爵家全体が処罰の対象となってしまう。

「その動きまでは予測できなかったな……。ミレディア嬢、放してあげなさい。俺がいいと言っている」
「ですが……」
「個人的に話を聞きたいだけだ。何を言われても契約に影響はないと約束する」
「わかりました」

 クラウス王子の言葉を受け、私はリーゼの手を渋々放す。お願いだからこれ以上失礼なことは言わないで、と目配せしておく。
 痛かったのか、腕をさすりながらクラウス王子に向き直るリーゼ。私もつい力が入ってしまった。誓って言うけど初めて会ったあの日以来、彼女を痛めつけたことなどない。

「さて、君の言いかけたことを最後まで聞こうか」

 私はハラハラしながら、リーゼに目を向ける。リーゼも少しは反省したのか、うつむいてねたような声を出した。

「だって、お嬢を……ミレディアを困らせるから」
「困らせる? 疑問に思ったことを尋ねただけだが?」
「だから、それがいけないんだろ! 相手のことも考えろよ。自分より弱い者を追い詰めて何が楽しい?」
「リーゼ!」

 止めようとした私に向かって、クラウス王子が鋭い視線を投げかける。黙っていろということなのだろう。

「お嬢はただ、お人好しなんだよ。誰かが喜ぶと思ったら、その人のために動いちまう」
「ほう?」
「発想? 知識? 小難しいことは知らないよ。どこで? それがそんなに重要か? 頭が良くたって、使わなけりゃ意味がない。さっきお嬢がはぶいたから言うけどな、ワインのラベルはわざと貧しい家の子に描かせてる……彼らを助けるために。レースだってそう、村の女性が差別されないように居場所を与えた。次々提案するのだって、他人のため。話せばきりがないけど、みんなお嬢には感謝しているんだ。もちろんオレだって!」

 小さな両手を握り締め、一気に言い終えたリーゼの目には涙が浮かんでいる。彼女は私を買いかぶり過ぎだ。また、私のしてきたことを他の者から聞いていたとは知らなかった。
 だけどそれは、我が家の話。王子に盾突いていい理由にはならない。

「大変申し訳……」
「すまなかった」

 私が言い終えるより早く、立ち上がったクラウス王子がリーゼに向かって頭を下げた。下げられたリーゼは、当然びっくりしている。

「ええっと……」
「確かに君の言う通り、些細なことにこだわっていたな。ミレディア嬢、君にも謝らなくては。困らせたいわけではなかった。会ったこともないタイプで興味を刺激されたんだ。すまない」
「いえ、そんな!」

 動揺して声が裏返る。
 王子が臣下やその使用人に頭を下げるなど、あってはならない。

「もったいないお言葉です。どうぞおもてを上げて下さい」

 私は焦って口にした。詳しいことを語りたくなかっただけで、別に謝らせたいわけではない。むしろ非は、こちら側に多くある。

「私どもの方こそ、大変失礼な真似を致しました。ほら、リーゼ。貴女も謝りなさいっ」

 リーゼの後頭部を掴み、一気に下げる。伯爵令嬢にあるまじき振る舞いだけど、この際知ったことではなかった。それよりも、王子にここまでされると後が怖い。気まずくなって話は終了? さらには城への出入り禁止?
 床を見つめる私達に、頭上から声がかかる。

「いや、いい。気にしないでくれ。互いに誤解があったようだ。これまでのことを水に流してくれると嬉しい」
「もちろんですわ! こちらこそ、寛容なお心遣いに感謝いたします」
「ごめんなさい」

 リーゼと二人で恐縮していると、すぐ目の前に王子の姿が。

「いいんだ。顔を上げてくれ」

 白い手袋を嵌めた手が、私の顔に伸ばされた。その瞬間、条件反射で飛びのいてしまう――謝罪が台無しだ!

「も、もも申し訳ありません」
「これはまた……ひどく嫌われたようだな」
「お嬢?」

 口元に手を当てたクラウス王子が、複雑な表情をしている。今まで女性の拒絶に遭ったことなどないのだろう――二度目のダンスを断った私を除けば。リーゼも首を傾けて私を見ている。
 マズい、非常にマズいわ。何か口から出まかせを……そうだ!

「すみません。男の方が苦手で……」
「ああ、そうだったな。うっかりしていた。アウロスから聞いている」

 でかしたわ、アウロス王子。きちんと伝えてくれたおかげで、なんとかこの場をしのげそう。

「ご不快な思いをさせてしまい、謝罪の言葉もありません。ですが、どうにも怖くって……」

 嘘ではない。正確に言えば、触れられることより告白される方が怖いけど。まあその点は、エルゼ様がいらっしゃるから安心よね?
 だけど念には念を入れて、失礼ついでに言ってしまおう。

「温情には感謝しますが、ご好意は結構です。兄と同じように扱って下さい」
 
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