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第二章 ラノベ化しません

第二王子の憂い 1

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「我が国はいかがでしたか? この後もぜひ、良い旅を」

 僕――ローランドは顔に笑みを貼り付け、隣国の大使に別れの挨拶をした。これでようやく城に戻れるな、と考えて。

「あの……できれば、もう一度お考え直し下さい。両国にとって、決して悪い話ではないと思いますが」

 しつこいな。
 王女との婚約の話は、とっくに断っているだろう? 

 僕は舌打ちをかろうじてこらえた。第二王子だからと、甘く見られているようだ。小国の王女と一緒になっても、我が国にとっての益はない。想う人のいない他国には、なんの魅力も感じなかった。
 
「先ほど言った通り、心に決めた女性がいます」
「そこを何とか! 王女は殿下より年上だが、優しく聡明で……」
「いえ、年齢は関係ありません。僕がその女性以外考えられない。父王の許可も得ているので、これ以上の話は不要かと」

 シルヴィエラも僕より年上だが、それをこの大使に教えるつもりはない。年齢も身分も違う彼女と一緒になるために、かつて僕は留学を受け入れた。まさかその留学中、隣国の王女に気に入られるとも思わずに。

「本当に残念です。王女もさぞ、がっかりすることでしょう」

 僕は曖昧あいまいに微笑む。
 積極的な女性は嫌いではないが、察しの悪い女性は嫌だ。僕の身分と顔が気に入ったという隣国の王女には、何の魅力も感じなかった。娘に甘い国王も、大使を何度も寄越さずに、いい加減諦めればいいものを。

 シルヴィエラも察しは悪いが、彼女だけは別。けれど、「隣国の王女に求婚されている」と口にしようものなら、笑顔で応援されそうだ。
 その様子が容易に想像できたため、大きなため息をつく。そのせいで僕が怒ったと勘違いした大使は、慌てて頭を下げると馬車に乗り込んだ。



 無事に帰国の途についたようで良かった。
 小国といえども隣国なので邪険に扱えず、それなりに気を遣う。

「せめて王女の半分でも、シルフィが僕を好きでいてくれたなら……」

 髪をかき上げ、ため息をつく。
 離れている間も僕は、シルヴィエラを忘れたことなどなかった。朝起きるたび眠るたび、ふとした時に彼女を想う。

 幼い頃の僕は、両親や医者から見放され、治らないと諦められていた。止まない咳と肺の痛みに苦しみ、夜におびえる日々。このまま朝を迎えられないのではないかと、何度も覚悟した。
 王家に生まれながら、何の役にも立たない。こんな自分を好きになる者などいないからいつ死んでも構わないのだ、とひねくれてもいた。

 けれど小さなシルフィが、僕に生きろと言う。一生懸命語りかけ、夜も付き添い世話を焼く。背中をさすってくれた小さな手、心配そうな表情や大好きだという優しい声が、僕の心を揺さぶった。

 食事の重要性を力説する真面目な顔、甘いものを口にした時の満足そうな笑み、調子外れの歌声さえも愛らしい。いつしか僕は、彼女の側で心からの笑みを浮かべていた。彼女と過ごす毎日は特別で、すごく楽しい。このままずっと……
 しかしそれは叶わず、元気になった僕は王都に帰された。

 シルフィが僕に生きる希望をくれた。
 だから僕は彼女のため、強い男になろうと決めたのだ。

 男爵家の令嬢と第二王子の自分。
 身分のへだたりが大きく、通常であれば一緒になれない。だが僕は、一度は諦められていた子供だ。そのことを盾に両親や大臣を説得し、また将来兄の助けになると約束して、隣国他、国外への留学を決めた。

 最初は順調だった。
 病で伏せっていた時を取り戻すくらい熱心に、勉学に励み身体を鍛えることにのめり込む。いろんな土地の芸術や文化、戦術を学ぶことは面白く、知るほどに興味を引かれた。小さな彼女が語ったように、今度は僕が彼女に話をしてあげよう。見たこともない街の話や食べ物の話を聞いた時、シルヴィエラはどんな顔をするのだろうか?

 想像するだけで楽しくて、自然とやる気が湧いてきた。
 ところが――
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