乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第一章 めざせクロムサマスター

推しとの初授業

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「クロム様の標的は、ローズマリー国の王女カトリーナ――つまり私。オレガノ帝国の王が、隣国セイボリーの王子ルシウスとの婚姻による結びつきを警戒して、組織に暗殺を依頼したのよね」

 前世の自分はゲームを遊び尽くしていたので、暗殺回避の方法にも詳しい。
 だけどその方法では、彼はカトリーナの前から姿を消してしまうのだ。

 推しの退場なんてとんでもない!
 笑わない彼を笑顔にしたい。
 暗殺稼業をやめさせたい。
 そしていつか、生きていて幸せだと感じてもらえたら――。



 明くる日。
 私は推しに良い印象を与えようと、白いリボンが付いた明るいレモン色のドレスを着た。
 金色の髪は編み込んだから、下を向いてもほつれない。
 勉強なのに待ち遠しいのは、推しが教えてくれるから。

「クロム先生、ごきげんよう。本日からよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。王女殿下のため、精一杯努めさせていただきます」

 黒縁くろぶちの眼鏡をかけたクロム様は、黒の上着とズボンに白いシャツを合わせ、黒のブーツを履いている。スタイルがいいのでなんでも似合う。

 もちろんスタイルだけでなく、彼は全てが素晴らしい。
 声は低音で耳に心地良く、動きは優雅でしなやか。彫りの深い顔は名工の手による芸術作のようだけど、呼吸をしているためかろうじて人だとわかる。

「王女殿下、いかがなさいましたか?」

 おっと、いけない。うっかり見惚みとれてしまったわ。
 勧められた椅子に座り、にこやかに話しかける。

「クロム先生。私のことはぜひ、カトリーナと呼んでください。芸術や音楽の鑑賞が趣味ですが、セイボリー語は苦手なのでご指導よろしくお願いいたします」

 前世も「加藤かとう莉奈りな」だし、ほぼ一緒。推しに名前を呼んでもらえたら、この先もずっと頑張れそうな気がする。

「かしこまりました。カトリーナ様、これから一緒に学んでいきましょう」

 ――クロム様ってば、なんて優しいの。一生一緒に学びたい!

 熱い気持ちをどうにか抑え、表面上はつつましく。はにかむことも忘れない。
 敬称が付くのは残念だけど、私も「クロム先生」とお呼びするので、お互い様だ。

「では、こちらをご覧ください」

 地図を広げた彼が、私の横に腰かけた。
 長い指やひたいに落ちた黒髪まで、あますところなく麗しい。

「まずは、この大陸について。ローズマリー国の西にセイボリー王国があり、ちょうど二国にかかる北側の位置に、オレガノ帝国があります」

 ――何これ最高! 勉強中ずっと推しを独占できるなんて、贅沢ぜいたくすぎる!!

「大陸にある三国は、元々一つの国でした。カトリーナ様、この辺りはご存じですね?」
「はい。神が地上にとどまって、大陸を創造したと言われています。三つに分かれた後も王族の血を引く者に特殊な能力が現れるのは、彼らが神の子孫だからということでした」
「そうですね。セイボリー王国に【星の瞳】、ローズマリー王国に【月の瞳】を持つ者が生まれるという話は、割と有名です。そしてオレガノ帝国は、【太陽の瞳】でした」

 ゲームの設定によると、瞳の能力は王の素質がある者にのみ出現する。
 私の持つ【薔薇の瞳】は異質だが、他が天体に関するものなのは、王族が天から降りた神の子孫とされているためだ。

 だけどゲームの中に、【太陽の瞳】を持つ人物はいない。

「あの、オレガノ帝国の【太陽の瞳】って、どんな能力なんですか?」
「公にされていないので、私も知りません。しかし、跡継ぎのいなかった前の国王が平民上がりの現在の王にほろぼされたため、その血は途絶えたそうです」
「ええ。存じております」

 ゲームに出てこなかったのは、太陽の瞳を持つ者が存在しないせい。
 もし存命なら、オレガノ王もヒロインの攻略対象だった?

 いえいえ、浮気は良くないわ。
 私はクロム様ひとすじよ。

「カトリーナ様。以上ですが、何か質問はありますか?」

 地図から顔を上げた際、髪が推しのほおにかすかに触れた。

「す、すみません」
「いえ、こちらこそ」

 何、このハプニング。
 響くイイ声とさわやかな香りに、ときめきがとまらない!

「質問、ですよね? ええっと、ええっと……」

 ドキドキして、聞きたいことが吹っ飛んだ。頭に浮かんだ思いをそのまま口に出す。

「ええっと、先生が好きになるのは、どんな方ですか?」
「……は?」
「ですから、あの、その……。どんな生徒だと、教えやすいのでしょうか?」
「ああ。そういうことですか」

 ――ふう、どうにかごまかせたわ。最初の授業で好みのタイプを聞くなんて、はしたないと思われかねないものね。

「どんな方でも誠心誠意努めます。今回はカトリーナ様の視野が広がるよう、手助けさせていただきますね」

 模範的な解答だけど、好みの女性は聞き出せなかった。
 それなら食べものは? どんな食事がお好きかしら。

「クロム先生に、好き嫌いはありますか? お好みでない食材があれば、あらかじめうかがっていた方が……」
「それは、王女殿下の仕事ではありませんね」
「……そうですね」

 バレたか。彼を笑顔にするため、好きな料理をたくさん用意するよう、城の料理長に頼んでおこうと思ったのに。

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