乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第一章 めざせクロムサマスター

推しの肖像画(スチル)作戦

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 ファンブックのクロム様のプロフィール。
 母親の欄には、『元宮廷画家?』と書かれてあった。
 はてなの部分が気になるけれど、ともかく貴重な情報だ。

 母親が宮廷画家なら、絵画はお好きでしょう。ご自分の肖像画だったら、きっと見入ってくれるはず。その絵をプレゼントしたら、喜んでくれるに違いない。
 

 数日後の講義の時間。
 私は胸の下からまっすぐ落ちるデザインが特徴の、桃色のエンパイアドレスを身に付けていた。
 柔らかな生地が可憐な雰囲気をかもし出してくれたらいいな、とちょっぴり期待する。

 勉強中はいつもと同じようにクロム様の隣に座り、張り切って尋ねた。

「クロム先生、ここがよくわかりません」
「どこですか?」
「ほら、ここです。この言い回しで合っていますか?」

 机の上の本を見ながら、わざと小さい文字を指す。
 こうすれば、頭と頭がくっつくかもしれない。

「よく気がつきましたね。構文を利用すると、この言い回しではいけません。ですが、これは俗語(スラング)です。元々方言なので、こんな文章になりました」
「そうなんですね」

 クロム様の口から出ると、平凡な単語も音楽のように聞こえるから不思議だ。
 彼は教え方が上手く、セイボリーの単語はわかりやすい。習い始めた段階では疑問をひねり出す方が難しいけれど、私は毎晩遅くまで質問のための予習をしている。

 推しに褒められるなら、睡眠不足などどうってことはない。
 
「ところでカトリーナ様、少し席を外してよろしいですか? 先ほどから小さな物音がするので、確認してきますね」
「……え? ええ」

 眼鏡越しの赤い瞳に見つめられ、ドキドキしながらとっさにうなずく。
 クロム様が立ち上がり、向かった先は――――そうか、しまった!

「ちょっと待って! クロム先生、ストーーーップ!!」

 立ち上がり、待ったをかけるがすでに遅い。
 クロム様は長い足で部屋を横切ると、続き部屋の扉を勢いよく開けた。

「なっ……」

 驚きの声を発したのは、赤いベレー帽を被った画家だ。
 急に扉が開いたので、絵筆を持ったまま固まっている。

 ちなみに描いていたのはクロム様。
 肖像画を贈るため、馴染みの画家に私が依頼したのだ。

 対象に気づかれることなく描いてほしいと、続き部屋にはのぞき穴まで用意した。
 画家はそこから一歩も出ることなく、静かに筆を動かしていたはず。

 かすかな物音がここまで聞こえるのは、常人ではあり得ない。
 こんなに遠くからでも気配を感じ取れるなんて、さすがはクロム様☆

「あなた、いったいなんですか? 私は自分の肖像画を依頼した覚えも、許可した覚えもありません」

 低い声でそう言うと、クロム様は近くにあった筆でキャンバスを塗りつぶす。

「うわ、容赦ようしゃない」

 画家は立ち上がり、苦虫をつぶしたような顔をする。

「あ~~あ~~」

 私はつい、がっかりした声をらす。
 完成したら複製して、スチル代わりに自分の部屋にも飾ろうとたくら――楽しみにしていたのに。

 ひどく落胆する私を見て、クロム様は誰の仕業しわざか悟ったようだ。怖い顔をしながら、大股で近づいてきた。

「カトリーナ様!」
「あちゃ~~」

 一瞬画家のせいにしようかとも考えたが、さすがに無理がある。

「クロム先生、あの、これは……」
「カトリーナ様、真面目に勉強してください」
「ええ、先生。もちろんですわ」

 首を何度も縦に振る。
 クロム様をスチル――じゃなく、肖像画を贈る『クロム様プレゼント作戦』まで失敗してしまった。この後どうしよう?



「はあ~。推しを笑わせるには、何をすればいいかしら?」
「『おし』が何かはわかりませんが、くすぐればよろしいのでは?」

 頭を抱えた私の横で、侍女が相槌あいづちを打つ。

「そうか、その手があったわ!」

 そんなわけで、待ちに待った講義の時間。
 私は薄紫色のドレスを着て、隣に座るクロム様にじわりじわりと接近中。
 そこでふと、作戦の穴に気づく。

 ――無~理~。尊い推しに自分から触るなんて、できない~。

 脇腹にしろ首にしろ、触れたところからきっと手が溶けてしまう。私ごときが高貴な推しをくすぐるなんて、失礼極まりない。

「カトリーナ様、なんですか?」
「いえ、あの……ここ! ここがよくわかりません」
「どこですか?」

 愛する推しの吐息がかかる。
 それだけで顔が一気に火照ほてってしまう。

「カトリーナ様、どうされましたか? ……ああ、距離が近すぎましたね。申し訳ありません」
「いいえ、いくらでも」
「はい?」
「いえ、あの、ええっと……」

 声だけでドキドキしてしまう。
 こんな私がくすぐるなんて、やっぱり無理だ。
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