乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第二章 ムーンライト暗殺

薔薇の瞳の能力

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「カトリーナ!」
「キャーッ」
「おい、女性がかれたぞー」

 声は聞こえているので、どうにか生きてはいるみたい。
 私は馬車に弾き飛ばされて、石畳に激突したようだ。
 
「ハッ、ハッ、ハッ……」

 肺が押し潰されたように苦しくて、呼吸もままならない。
 浅い呼吸を繰り返し、目に浮かぶ赤くチカチカした光を眺めた。

 ――薔薇の模様と……散りゆく花びら? 

 一つ散ったので、花弁は六つ。
 ぼんやりした頭で数えた私を、誰かが抱き起こす。

「お願いだ、どうか目を開けてくれ。カトリーナ!」
「カトリーナッ」

 この声は、ハーヴィーとルシウスね?

「カトリーナ!」

 悲壮な叫びは、クラリスなの? 

「その者を捕らえて、馬車をあらためよ!」

 命じているのは、タールのようだ。
 ター坊なのに、偉そうね。

 こんな時でも冷静なのは、自分が必ず助かるとわかっているから。

「カトリーナ、すまない。触るよ」

 焦った様子のハーヴィーが、骨の折れた箇所はないかと調べてくれている。身体に優しく触れるので、痛いというよりくすぐったい。

「お兄様、もうおやめください」

 クスクス笑いながら目を開けると、びっくりした顔の兄とルシウスが映る。

「どこにも怪我けががないとは、どういうことだ?」
「上手く飛び退いたのか? まるで奇跡だ」

 かすり傷一つないどころか、あれほど痛かった背中の痛みも綺麗に消えている。

 彼らが驚くのも無理はない。
 久々の感覚ですっかり忘れていたけれど、これは【薔薇の瞳】の能力だ。薔薇の花びらが散ることで、落とすはずの命をなかったことにしてしまう。

 ハーヴィーの手に掴まって立ち上がった私に、ルシウスがけわしい顔を向ける。

「一国の王女が、他人のために身体を張るな!」

 おだやかな彼が、怒鳴どなるなんて。

「ご心配をおかけしてすみません。ですが、ルシウス様にも同じことが言えましてよ。先ほど馬車にかれそうになった私を、助けてくださったでしょう?」
「君は王女だ! それとこれとは話が違う」
「いいえ。困った人を助けるのに、王女の肩書きなど関係ないわ」
「関係ない? だから君は、初対面の僕を……」
「カトリーナ、今のはお前が悪い」

 兄のハーヴィーが割って入り、私を責めた。
 そこに突如とつじょ、真っ青な顔のタールが現れる。
 
「大変申し訳ありません。カトリーナ様を危険な目に遭わせたのは、俺の兄です」
「兄ぃぃぃ!?」

 灰色のフードを下ろした男性は、たった今、私が馬車から助けた人だ。かなり動揺しているせいで、拝むように組んだ手がぶるぶる震えている。

 その顔には馴染みがあった。
 彼はゲームのヘルプ係でタールの兄、アルバーノだ!

「アルバーノ?」
「ハーヴィー……様」

 兄のハーヴィーと彼は同い年。
 二人は友人なので、久々の再会に驚いているようだ。

 一方私はクラリスと、目を見合わせた。

 ――こんなところに、アルバーノ? 



 肩までのまっすぐなげ茶の髪に青い瞳のアルバーノは、ゲームの中では操作のヘルプ画面(進め方がわからない時や、アイテムの使い方がわからない時に開く画面)を担当していた。

 城の研究室で丸っこいウサギ型ロボット、黄色の『わか~るくん』と黄緑色の『みえ~るくん』の二つを操作し、ゲームの説明をしたりアイテムの解析かいせきしたりしてくれるのだ。

「アルバーノは、セイボリーに留学しているんじゃなかった?」
「ええ。兄にはそう聞いていたけど……」
「セイボリー? あの男は、我が国にいたのか?」

 クラリスとの会話中、自国の名を耳にしたルシウスが、私にたずねた。
 
「ええ。魔道具を学ぶため、貴国でお世話になっていると聞きました」

 アルバーノもクロム様同様、『バラミラ』にとっては欠かせない。
 サブキャラだけどヘルプ係で、ストーリーにもちょくちょく絡む。

 何度目かの登場の際、「ウサギ型の魔道具は、自分で発明しました」との事実を、照れながら報告する。
 その顔が可愛いとファンの間で話題になり、サブキャラなのに人気が出た。私のクロム様には負けるけど。

 今になって帰国するとは、どういうわけだろう?

「アルバーノ、お帰りなさい」

 ともかく挨拶したところ、当のアルバーノは私を見て、不思議そうな顔をした。
 まあね。忘れていても無理はない。
 幼い頃の私をしっかり覚えていたルシウスが、規格外なのだ。

「カトリーナよ。アルバーノ、あなたが戻っていたとは知らなかったわ」
「カトリーナ……様? た、ただいま戻りました。それと、申し訳ありませんっ」

 彼は恐縮した様子で、何度も謝罪を口にする。

「いいのよ。アルバーノが無事で良かったわ」
「カトリーナ様……」

 アルバーノはセイボリーでの研究を終えて、本日王都に到着したと言う。向こうに行った九年前より大きな建物が多く、地図で現在地を確認していたところに暴走馬車が突っ込んできたらしい。

『あなたはいずれ、素晴らしい発明をする人よ。すごい才能があるもの』

 ゲームを知っていた六歳の私は、九つも年上のアルバーノに対して偉そうだった。
 
 まあそれも、今となっては懐かしい思い出だ。
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