乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第二章 ムーンライト暗殺

一枚の絵の秘密

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「ワン、ワンワン」

 私のすぐ側で、フェリーチェがえた。
 子供と遊んでいたはずだけど、戻ってきたみたい。

「よしよし。でてって言ってるの?」

 私は、激しく尾を振るフェリーチェの耳の後ろをかいた。
 子犬はもっとというふうに、私のスカートに前足をのせる。

「カトリーナ様、ドレスが汚れますよ」
「先生、そんなことを気にしたら、子犬と遊べませんわ」

 そう応えたところに、幼い子供が寄ってきた。

「あ、いいな」
「あたしも~」
「はい、どうぞ」

 私は子供が撫でやすいように、子犬をひざから下ろす。

「やったあ」

 てっきりフェリーチェを撫でたいのかと思っていたら、女の子は当然のように私の膝に腰かけた。

「ふふふ」
「ずるい。僕も~」
「こういう時は順番に並びなさいって、先生が言ってたぞ」
「ワン!」
「ほら、犬だってちゃんとわかっているじゃないか」

 途端に笑い声が弾けて、私もたまらず噴き出す。

「カトリーナ様が、そんなに子供がお好きとは知りませんでした」

 もしかして、クロム様も笑っている?
 残念、笑顔じゃないみたい。

 子供はとっても好きだけど、自分の子供は当分後でいい。
 当面は、愛する人と二人きり。
 それがクロム様なら、どんなにいいかしら。

 自分で想像しておきながら、顔が熱くなる。
 私はごまかすように、子犬を持ち上げた。

「ええっと……ほら、フェリーチェ。私がママで、こっちがあなたのパパですよ~」
「ワン、ワンワン」
「パッ……」

 クロム様は絶句し、片手を口に当てている。

 ――ダメか。やっぱりごまかせなかったみたい。

 だけど周りは大爆笑。
 子供らの楽しそうな声が飛ぶ。

「カトリーナ様ったら。人間から犬は生まれないんだよ」
「そうだぞ。王女なのに、そんなことも知らないなんて」
「ハハハ、全然似てない~」

 これにはクロム様もこらえきれなかったらしく、口に手を当てたまま目を細めていた。

 普段は感情の読めない彼だけど、今日は表情豊か。
 ここに来て良かったと、思ってくれている?

 推しのいろんな表情を、できればもっと見てみたい。
 私がそばにいることで、彼の助けになれたなら。

「もちろん、今のは冗談よ」
「うっそだあ~」
「目が本気だったぞ」

 ――子供達ったら鋭いわね。私の願望を、感じ取っているみたい。

「クロム先生。ぜひ、フェリーチェの頭をでてあげてください」

 抱え直した子犬を、彼に近づけた。
 気に入らなければ暴れる犬も、察しているのかおとなしい。

「ああ」

 長い指がためらいがちに子犬の頭に触れる。
 フェリーチェは首を一瞬すくめたものの、すぐに目を閉じた。

 ――私も子犬になって、撫でられたい!

「カトリーナ様?」
「……ええっと、動物が優しい人がわかるって、本当なんですね」
「私は、優しくなんかありません」

 クロム様は首を横に振り、その場で立ち上がる。
 私も子犬を下に置き、素早く立った。
 自由になったフェリーチェは、途端に駆けていく。

「あっ、待って」
「僕、まだ撫でてない!」

 慌てて追う子供達。
 だけど子犬は、遊んでもらっていると勘違い。
 クロム様は、彼らから目が離せないようだ。

 赤い瞳に映る世界が、優しいものだといい。
 高い鼻と涼しげな目元、引き締まった口元にくっきりしたあごのライン。男らしくて凜々りりしいけれど、その横顔はいつも寂し気だ。

 彼は今、何を考えているのだろう?
 幸せそうな子供を見ながら、不遇な少年時代を思い出しているのだとしたら?

 もしも過去に戻れたら、私が彼を抱きしめたい。
「生まれてくれてありがとう」って、毎日祝ってあげるのに。

 推しはサブキャラで、私の命を狙う暗殺者。
 だけど私は誰よりも、彼の幸せを望んでいるのだ。



「ねえ、カトリーナ様。僕の描いた旗を見てくれた?」

 小さな男の子が、ふいにそでを引っ張った。
 私はその子と手を繋ぎ、木に飾られた旗を見に行く。

 三角形の旗には、金色の太陽が描かれていた。

「すごく上手ね。太陽のデザインが素敵だわ」
「でしょう! 僕、頑張ったんだ」

 話しながら戻る私達を、クロム様が凝視していた。

「クロム……様?」

 首をかしげると、彼がハッとしたように身じろぎする。

「ええっと、どうなさったのですか?」
「いえ、別に」

 素っ気ない口調の割に、表情は動揺しているような。
 私がじっと見つめると、彼は観念したように肩をすくめた。続いてふところからあるものを取り出した。

「あっ!」

 ひと目見て、わかった。
 彼の手のひらの上に、ブローチがある。
 それは優しそうな女性が男の子と手を繋ぎ、木の下を歩く様子の描かれた細密画のブローチだった。

 ――城にあるのと同じ絵。それなら、まさか……。

「クロム様、こちらは?」
「亡き母の形見だと思うのですが、よく覚えておりません。こちらの城で同じ絵画を見た時には、驚きました」

 やっぱり。『母親は宮廷画家?』との情報は、本当だったみたい。

 ブローチにタイトルはないので、彼は『まだ見ぬ我が子と』という作品名に涙したのかな?
 絵の中の男の子は茶色い髪だけど、そういえばクロム様の面影おもかげがある。

 ブローチのデザインや宮廷の細密画を任される画家は、実はそれほど多くない。
 女性であればなおさらなので、調べたらすぐにわかるだろう。

「詳しく拝見しても、いいですか?」
「カトリーナ様は芸術のご担当でしたね。どうぞ」

 美しいブローチは表面の一部にヒビが入り、がねびている。
 だけど最も衝撃なのは、台座の裏にきざまれたオレガノ語だった。

『わたしを探さないで』

 これって遺言ゆいごん? 
 そうだとしたら、クロム様のお母様にいったい何があったの?
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