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第三章 愛・おぼえていますが
カトリーナの秘密
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「カトリーナ。たまには庭に出て、子犬と遊んであげなさい」
「……はい」
ハーヴィーの勧めで外に出た。
兄はクロム様の不在で塞ぎ込む私を、案じているらしい。
けれど、出るのはため息ばかり。
「……はあ」
――この子の名付け親であるクロム様は、今どこにいるのだろう?
そんな私を気にも留めず、子犬は元気に走り出す。
「フェリーチェ、そっちはダメ。こっちよ」
「ワンワン」
「待って! そっちは噴水があるから危ないわ」
慌てて子犬を追いかけたところ、向こうから来た人物が素早く受けとめてくれた。
「やあ、カトリーナ。可愛い子犬だね」
「ルシウス様!」
誰かと思えばルシウスで、フェリーチェを抱えて眩しい笑みを浮かべている。銀髪や服の飾りが輝いて……いえ、彼の存在そのものがキラキラしていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
受け取ろうとしたものの、子犬はずっしり腕に響く。
「ああっ!」
「おっと」
そんな私の両肘を、ルシウスが正面から支えてくれた。
――待って。距離がすっごく近いわ。
「ワンワン、ワンワン」
あろうことか、フェリーチェはルシウスに尻尾を振っている。
メインヒーローの魅力には、犬でも降参するらしい。
「カトリーナ、撫でてもいいかな?」
「ええ。もちろんですわ」
――あら? でも……。
『バラミラ』のルシウスは、幼い頃の事故がきっかけで、犬を嫌っている。なのにこれは……。もしかして、現実では異なるの?
「あの、ルシウス様」
「何かな?」
屈んでフェリーチェを撫でていたルシウスが、整った顔を上げた。
「ルシウス様は、犬が苦手ですよね?」
途端に彼は、眉間に皺を寄せた。
「どうしてそう思う?」
「そりゃあ……」
――過去にあんなことがあったし、ゲームの情報だから。
「ああ、昔のことを言っているんだね」
納得したルシウスが、手をとめて立ち上がる。
「クウゥ~ン」
子犬は可愛く鳴いた後、元いた場所へと戻って行った。
「そうだね。どちらかと言えば、得意ではないかな」
「だったらなぜ、フェリーチェを?」
「カトリーナの好きなものを、僕も好きになりたい。君が可愛がっていると聞いて、触れてみたくてね」
耳に心地よいルシウスの声も、心には響かない。
だって彼と親しくすれば、ヒロインの私は窮地に追い込まれてしまう。このままいけば、国を離れる展開が待っている。
――暗殺は回避できたから、好感度はもう必要ない。いっそ「嫌い」と告げるのは?
やっぱりダメ。
罪のないルシウスを、傷つけたくはない。それに不用意な言動が原因で、国際的な事業が頓挫しても困る。
ルシウスは王子で私は王女。
互いに国を代表する立場だ。
――あ! そうか。彼が好意を示すのは、カトリーナが王女だから。この段階で正統な血筋でないとわかれば、私への興味をあっさり失うのでは?
「ルシウス様、お話があります」
「もちろんいいけど。何かな?」
私はルシウスを、噴水の前に連れて行った。
ここなら水音で遮られ、周囲に会話は聞き取れない。
「突然すみません。どうしても、お伝えしたいことがあって」
凝った彫刻が施された噴水は、女神の抱えた壺から大量の水が流れ落ちている。跳ね上がった水飛沫が、小さな虹を形作っていた。
女神の足下で手を伸ばす天使は、セイボリーで初めて会った頃のルシウスにそっくりだ。
可愛い顔立ちの少年は、美しくたくましい青年へと変貌を遂げた。銀色の髪は陽に透けてキラキラ輝き、瞳はサファイアよりも澄んだ青。金の刺繍が入った青と黒の衣装が、青年となった彼の精悍な姿を引き立てている。
「カトリーナ、座ろうか」
ルシウスが私を、噴水近くのベンチに導いた。
私は頷き、腰を下ろす。
そして、自身の秘密を口にする。
「ルシウス様。実は……私は、生まれながらの王女ではありません」
「ええっ!? どういうこと?」
「私はたまたま王家に引き取られただけで、元々王女ではありません。私の母は、国王陛下の妹です」
この会話はゲームの中でも出てくるが、ルシウスに告白された後だった。
ルシウスはその時初めて、カトリーナの出自の秘密を知る。
養女となったいきさつを早めに話し、ストーリーを覆す。
今ならばまだ間に合うと、信じている。
「私は幼い頃に父を、続けて母を流行病で亡くしました。両親を失った私を哀れに思った陛下が、姪の私を引き取り、自分の子として育ててくださったのです」
「そう……か」
ルシウスが、ぽつりと漏らした。
その後、沈黙が広がる。
いたたまれなくなって口を開きかけたまさにその時、背後で息を呑む音がした。
「……っ」
振り返れば、そこにはハーヴィーがいる。
「お兄様!」
「カトリーナ、なぜそれを?」
兄の急な出現で、私の顔は強張った。
「……はい」
ハーヴィーの勧めで外に出た。
兄はクロム様の不在で塞ぎ込む私を、案じているらしい。
けれど、出るのはため息ばかり。
「……はあ」
――この子の名付け親であるクロム様は、今どこにいるのだろう?
そんな私を気にも留めず、子犬は元気に走り出す。
「フェリーチェ、そっちはダメ。こっちよ」
「ワンワン」
「待って! そっちは噴水があるから危ないわ」
慌てて子犬を追いかけたところ、向こうから来た人物が素早く受けとめてくれた。
「やあ、カトリーナ。可愛い子犬だね」
「ルシウス様!」
誰かと思えばルシウスで、フェリーチェを抱えて眩しい笑みを浮かべている。銀髪や服の飾りが輝いて……いえ、彼の存在そのものがキラキラしていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
受け取ろうとしたものの、子犬はずっしり腕に響く。
「ああっ!」
「おっと」
そんな私の両肘を、ルシウスが正面から支えてくれた。
――待って。距離がすっごく近いわ。
「ワンワン、ワンワン」
あろうことか、フェリーチェはルシウスに尻尾を振っている。
メインヒーローの魅力には、犬でも降参するらしい。
「カトリーナ、撫でてもいいかな?」
「ええ。もちろんですわ」
――あら? でも……。
『バラミラ』のルシウスは、幼い頃の事故がきっかけで、犬を嫌っている。なのにこれは……。もしかして、現実では異なるの?
「あの、ルシウス様」
「何かな?」
屈んでフェリーチェを撫でていたルシウスが、整った顔を上げた。
「ルシウス様は、犬が苦手ですよね?」
途端に彼は、眉間に皺を寄せた。
「どうしてそう思う?」
「そりゃあ……」
――過去にあんなことがあったし、ゲームの情報だから。
「ああ、昔のことを言っているんだね」
納得したルシウスが、手をとめて立ち上がる。
「クウゥ~ン」
子犬は可愛く鳴いた後、元いた場所へと戻って行った。
「そうだね。どちらかと言えば、得意ではないかな」
「だったらなぜ、フェリーチェを?」
「カトリーナの好きなものを、僕も好きになりたい。君が可愛がっていると聞いて、触れてみたくてね」
耳に心地よいルシウスの声も、心には響かない。
だって彼と親しくすれば、ヒロインの私は窮地に追い込まれてしまう。このままいけば、国を離れる展開が待っている。
――暗殺は回避できたから、好感度はもう必要ない。いっそ「嫌い」と告げるのは?
やっぱりダメ。
罪のないルシウスを、傷つけたくはない。それに不用意な言動が原因で、国際的な事業が頓挫しても困る。
ルシウスは王子で私は王女。
互いに国を代表する立場だ。
――あ! そうか。彼が好意を示すのは、カトリーナが王女だから。この段階で正統な血筋でないとわかれば、私への興味をあっさり失うのでは?
「ルシウス様、お話があります」
「もちろんいいけど。何かな?」
私はルシウスを、噴水の前に連れて行った。
ここなら水音で遮られ、周囲に会話は聞き取れない。
「突然すみません。どうしても、お伝えしたいことがあって」
凝った彫刻が施された噴水は、女神の抱えた壺から大量の水が流れ落ちている。跳ね上がった水飛沫が、小さな虹を形作っていた。
女神の足下で手を伸ばす天使は、セイボリーで初めて会った頃のルシウスにそっくりだ。
可愛い顔立ちの少年は、美しくたくましい青年へと変貌を遂げた。銀色の髪は陽に透けてキラキラ輝き、瞳はサファイアよりも澄んだ青。金の刺繍が入った青と黒の衣装が、青年となった彼の精悍な姿を引き立てている。
「カトリーナ、座ろうか」
ルシウスが私を、噴水近くのベンチに導いた。
私は頷き、腰を下ろす。
そして、自身の秘密を口にする。
「ルシウス様。実は……私は、生まれながらの王女ではありません」
「ええっ!? どういうこと?」
「私はたまたま王家に引き取られただけで、元々王女ではありません。私の母は、国王陛下の妹です」
この会話はゲームの中でも出てくるが、ルシウスに告白された後だった。
ルシウスはその時初めて、カトリーナの出自の秘密を知る。
養女となったいきさつを早めに話し、ストーリーを覆す。
今ならばまだ間に合うと、信じている。
「私は幼い頃に父を、続けて母を流行病で亡くしました。両親を失った私を哀れに思った陛下が、姪の私を引き取り、自分の子として育ててくださったのです」
「そう……か」
ルシウスが、ぽつりと漏らした。
その後、沈黙が広がる。
いたたまれなくなって口を開きかけたまさにその時、背後で息を呑む音がした。
「……っ」
振り返れば、そこにはハーヴィーがいる。
「お兄様!」
「カトリーナ、なぜそれを?」
兄の急な出現で、私の顔は強張った。
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