乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

文字の大きさ
34 / 70
第三章 愛・おぼえていますが

義兄の想い

しおりを挟む
 ルシウスも驚いてはいるけれど、兄の方が深刻そう。
 だって、ハーヴィーのこんな顔は初めてだ。

 ――今の話、どこから聞いていたの? 

 動揺しているので、全部かもしれない。
 けれど、いち早く口を開いたのも、やっぱりハーヴィーだった。

「取り乱してごめん。ルシウス殿下、すまないが妹と二人にしてくれないか?」
「ですが……」
「頼む」

 兄のハーヴィーが、ルシウスに頭を下げた。
 ルシウスは困惑し、顔を上げてくれと身振りでうながしている。

「ありがとう。話し中に、申し訳ない」
「いいえ。ですが、これだけは言わせてください」

 きっぱりした口調のルシウスが、私に向き直る。

「カトリーナ。輝きを放つ君自身の価値に、出自や身分は関係ない。僕にとって君は、得がたい人だよ」
「なっ……」

 ハーヴィーが先に声を上げた。
 私は絶句し、硬直する。

 なぜならこれは、ルシウスがカトリーナへの愛を告白した後のセリフだ。
 自らの生い立ちを知ったヒロインは、だましているようで心苦しいと、彼に全てを打ち明ける。

 ――まさか悪手? 早めに出自を告げたせいで、ストーリーがショートカットした!?

 この場面限定の、特別なスチルやルシウスの愛を覚えていないと言えば、嘘になる。
 射貫いぬくような青い瞳も引き結ばれた口元も、私の答え一つで歓喜に変えられると知っているけれど。

「殿下、そろそろ交代してくれ」

 固い声のハーヴィーが、ルシウスの肩をつかんだ。目が笑っていないので、余計に恐ろしい。

 ルシウスは私と兄を見て大きなため息をつくと、この場を後にした。



 兄と二人きりなので、非常に気まずい。
 カトリーナはこの時点で、自分の生い立ちについては知らないはずだ。
 
「さて。カトリーナはさっきの話を、誰に教えてもらったのかな?」
「ええっと……なんのことかしら?」

 私は兄の桃色の瞳から視線を外して、すっとぼけた。
 ところが、ハーヴィーは当然のように私のあごをすくう。

「お、お兄様!?」
箝口令かんこうれいを敷いたはずなのに。口の軽い使用人は探し出して、即刻処分しよう」

 ――え? 今、微笑みながらさらりとひどいことを言った?

「待って!」

 叫んだ拍子に、ハーヴィーの目がきらりと光る。
 慌てて口をつぐむけど、これでは知っていると白状したも同然だ。

 ――でも、誰かがぎぬを着せられるのは嫌。だったら自分で話した方がいいわよね?

「思い出しました! だいぶ前に執務室を訪れた時、偶然手紙を目にしたの」

 本当は偶然ではなく、むちゃくちゃ探した。
 ゲームの中でも個別ルートに入る直前、母親の手紙が出てくるからだ。
 
『わたくしの死後、娘を頼みます』

 国王宛ての古い手紙に添えられた、カトリーナの出生証明書。
 母親だと思われる女性の文字とサインを目にした時は、わけもなく悲しくなった。

 物心つかないうちに死に別れ顔も忘れた母だけど、それでも私の母なのだ。生きていれば、きっと今頃――。

「……ごめんなさい」

 思わず涙がこぼれて、慌てて目を閉じた。

「カトリーナは、大きな秘密を一人で抱え込んでいたんだね」

 兄がそっと、私を抱き寄せた。

「お母様……お母さん……」

 記憶にもない今世の母に、前世の母が重なった。
 田舎の母は、娘の私が事故に巻き込まれて亡くなったと知って、どんなに悲しんだことだろう。

「カトリーナ。私がいるから安心して」

 かすれた声が気になって、私はゆっくりまぶたを開けた。
 そして、間近に綺麗な顔を見る。

「お、お、お兄様!?」

 ハーヴィーの唇が、なぜか私の顔のすぐ側にあった。
 どぎまぎして、しどろもどろになってしまう。

「い、いったいどうなさったの?」

 これではまるで、妹にキスしようとしているみたい。
 正確には義理の妹だけど、こんな展開早すぎる。

 ――違う、これは……。 

 ふいに思い至る。
 ハーヴィーは、千里眼とも言うべき【月の瞳】の持ち主だ。相手の瞼にキスすれば、視界を共有できる。

 ――まさか、私の行動を監視するため!?

 国王の執務室に勝手に入ったことを、怒っている? それとも妹が泣いたから、単になぐさめようとして?

「なるほど。とっくに知っていたというわけか。だったら遠慮は要らないな」
「はい?」

 私の腰に置かれたハーヴィーの手に、力が込められた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...