乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第五章 あなただけを見つめてる

偽の婚約発表

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 アルバーノの事件から半月後の今日。
 私は談笑しながら、婚約発表を今か今かと待っている。

 城の大広間にあるシャンデリアの下、着飾った多くの人が笑いさざめく。入り口付近に並んだ壺には、薔薇ばら百合ゆりなど大量の花。料理や飲み物も最高級で、いかにもそれらしい。

 私のまとすそに宝石がちりばめられた真っ白なドレスは、今回のために急ピッチで仕立てたもの。同じ生地で作った首飾りの中央には、大粒でピンク色のガーネットがきらめいている。

 隣には、黒地に銀の刺繍ししゅうが入った盛装姿のクロム様。
 すでに胸がいっぱいで、幸せのため息しか出てこない。

「ほう」
「カトリーナ、大丈夫か?」
「……え? ええ」

 低音ボイスで話しかけられるたび、ドキドキしてしまう。
 目が合うだけでも照れるのに、ついつい彼を盗み見る。そんでもって幸せのため息、の繰り返しだ。

 ――クロムしゃまったら、まぶしすぎますわ☆ この婚約、いっそ本当にしてしまいたい。

 実は今回、『王女カトリーナの婚約発表』という名目で、にせの舞踏会を開催している。もちろんこれは、アルバーノをおびき出すための作戦だ。

 タールの言葉にある通り、アルバーノは私に執着しゅうちゃくしている。婚約を発表させまいと、この場に現れるかもしれない。そんな彼を一網打尽に……というのが、本日の計画だった。

 立案者は、この私。
 当初兄のハーヴィーには、危険という理由で猛反対された。
 しかし他に策はなく、長時間の説得を経て今に至る。

 舞踏会には招待客しか入れないとされているが、そのほとんどが変装した騎士や兵士だ。彼らは色とりどりの上着や女装したドレスの中に、武器を隠し持っている。アルバーノの姿を発見次第、捕らえる手筈てはずとなっていた。

「ま、万が一現れなかったとしても、私にとってはご褒美ほうびよね」
「カトリーナ、どうした?」
「……いえ、何も」

 うっかり口から出たみたい。
 それは私が、クロム様の隣で婚約者の気分にひたっているから。将来の予行演習(?)だと思えば、気合いも入るってものだ。

 兄のハーヴィーは父の代理で、壇上の玉座にいる。
 身体の弱い国王は例によって欠席のため、いつもの見慣れた光景だ。
 参加すると言い張ったルシウスは、ハーヴィーの近くで待機している。

 本日の主役は、当然私とクロム様♪

 先日、玉砕ぎょくさい覚悟で婚約者役をお願いしてみたところ、意外にも快諾かいだくしてくれたのだ。

『……え? いいの?』
『いいも何も、作戦なんだろう? 俺はお前に救われた身だ。好きに使ってくれ』
『じゃあ、本当に婚約…………いえ、なんでもないわ』

 調子に乗ったせいで、変な顔をされてしまった。
 これはアルバーノをおびき寄せるための計画なので、ふざけている場合ではない……いや、至って本気なのだけれど。

 と、いうわけで。
 私は現在婚約発表を控えた身として、招待客役の兵士の話に耳をかたむけている。

 ――クロム様は、何をお考えかしら?

 愛しい彼は、こんな時でも無愛想。
 それでも、ほんのちょっぴり私に気を許していると感じるのは、都合のいい妄想だろうか?

 微笑みながらふと、壇上に目を向けた。
 そこではハーヴィーが、妹の婚約を歓迎する兄をにこやかに演じている。

 一方、側に立つルシウスや招待客に紛れたタールからは、ピリピリした空気が漂っていた。

 ――ちょっと! もっと上手く演技してくれないと、アルバーノに嘘だってバレちゃうじゃない。

 やきもきしつつ、舞踏会は計画通りに進んでいく。
 もう少しで、偽の婚約発表だ。

「カトリーナ、もうすぐだ。準備はいいか?」
「ええ、もちろん」

 同じことを考えていたと知り、嬉しくなった。
 私とクロム様はまず、中央に進んでハーヴィーの紹介を受ける。次に披露目ひろめのダンスを踊る予定だ。

 ――あのたくましい胸に抱かれてステップを踏んだら、どんな気持ちがするかしら?

 アルバーノにはぜひとも、ダンスが終了するまで身をひそめていてもらいたい。
 中途半端に現れでもしたら、怒り狂った私が真っ先に飛びかかっちゃうから。

 クロム様のエスコートにドキドキしながら、私は会場を見回した。
 せっかくの機会を邪魔されないよう、人々の様子をチェックする。

【薔薇の瞳】の能力も、残る花弁は一つだけ。
 少しのミスも許されず、失うことはできない。

 ――クロム様を幸せにしたい私が、ここで死ぬわけにはいかないでしょう?



「みなさま、静粛せいしゅくに。それでは、王太子殿下のお言葉をたまわりましょう」

 秘書官の声に続き、壇上にいたハーヴィーが椅子から立ち上がる。
 いよいよ偽の婚約発表だ。

 会場にいた人々は姿勢を正し、正面を向く。
 兄の言葉を待つ間、視界に奇妙なものが映り込む。

 ――壁際にいるあの給仕。こっちをチラチラ見ているし、胸のポケットが不自然にふくらんでいるわ。
 
 くせのある灰色の髪と口ひげに見覚えはない。
 でも、あの背格好と青い瞳は……?

「もしかして、アルバーノ!?」

 つぶやきに気づいたクロム様が、私の口元に耳を寄せた。

「あのね、壁沿いのグラスを持った給仕の男性が怪しいの。ほら、あの黒と白の制服の……」

 耳打ちした瞬間、その当人と視線が絡む。

 ガシャーーン

 直後、給仕は飲み物の入ったグラスごと、お盆をテーブルに叩きつけた。周りが割れたグラスに気を取られる中、給仕はこちらめがけて駆けてくる。

「カトリーナ、こっちだ」

 クロム様が私を背に|庇かば》う。
 
「いたぞ、逃すな!」

 横からちょこっと顔を出すと、タールの号令で兵士が給仕を取り囲むのが見えた。
 男性は落ち着いた様子で、灰色のかつらをもぎ取っている。

 出てきたのは焦げ茶の髪で、後ろで一つにたばねられているようだ。

「アルバーノ!」
「ほう? やはり罠でしたか。カトリーナ様もお人が悪い。ですが、たったこれだけの人数で私にかなうとでも?」
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