乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第五章 あなただけを見つめてる

煙の中の決戦

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 アルバーノは上着の内側に手を入れて、仮面のような眼鏡を取り出した。

「兄さん、やめろっ」
「おっと」

 飛びかかったタールをけながら、アルバーノが人工の瞳付き眼鏡を装着する。ふちに手を添えるとブーンという音が鳴り、あっという間に分裂した。

 全く同じ姿が五人。
 それぞれのアルバーノの手には、銀色の短剣が握られている。

「おおおっ!」

 事前に通知していたにもかかわらず、どよめく兵士達。
 アルバーノはその隙に彼らの囲いを突破して、出口に向かう。

「今だ!」

 ハーヴィーの合図で、扉付近の兵士が動く。
 出口を封鎖し、大量の煙を発生させた。

 つぼに生けられた花はカモフラージュで、壺自体が煙の発生装置だ。

陽炎かげろうの瞳】を封じる策として、私はアルバーノの眼鏡をくもらせればいいと考えた。ルシウスが協力を申し出て魔道具を取り寄せてくれたため、実現したのだ。

「はっ。この程度、時間稼ぎにもなりません」

 アルバーノが仕組みに気づき、瞬時に壺を叩き割る。

「なっ……」
「くそ、どこだ?」

 真っ白な煙が一気に流れ出し、会場中に行き渡る。
 充満した煙のせいでぼんやりとしか見えず、敵も味方も確認できない。
 この状態で剣を振るえば、誤って味方を傷つけてしまう。

「待避! 騎士と兵士は全員下がれ!」

 ハーヴィーの命令で、一斉に散る兵士達。
 私も慌てて壁際に移動する。

 その場にはタールとクロム様、そしてアルバーノだけが残った。

「おやおや、私もめられたものですね」
「兄さ……いや、アルバーノ。武器を捨てて投降しろ!」

 煙の中から響くのは、アルバーノの弟タールの声だ。
 前世でゲームにまった私は、聞き慣れているので間違えない。

「タール、退かないと怪我をしますよ」

 グワッシャーーーーン。

 人影が上に向かって動いた直後、大量のガラスが割れるような音が部屋にとどろく。

「まさか、シャンデリア!? アルバーノは、あんなに上まで跳躍できるの?」

 完成して間もない眼鏡に、さらに改良を加えたみたい。
 だから煙の中でも、平気で動けるの?

 胸に一抹いちまつの不安がぎる。
 力の差が圧倒的なら、この作戦自体が危うい。

「クロム様……」
「タール、後ろだ!」

 突然、彼の声が聞こえた。
 白い煙の向こう側で、金属音が鳴り響く。

 キイィィン、ドガッ、ガキィィン。

 タールとクロム様の同時攻撃?
 音ははっきり聞こえるのに、煙が邪魔で何も見えない。

「違うっ。タール、アルバーノは君の横だ!」
「なっ……この!」

 ガッ、ガッ、キイィィン。

 いくら敏捷性びんしょうせいに優れた【彗星の瞳】でも、視界がかすんだ状態でアルバーノの位置を特定するのは難しい。対するアルバーノは、苦もなく動いているようだ。

 ――間違いないわ。人工の瞳の性能が、この前よりも上がっている!

「くっ……。タール、回れ! いや、そっちじゃない。三時の方向だ」

 クロム様の指示と剣戟けんげきが、辺りに響く。
 壁際にいる兵は、下手に手を出せない。
 彼ら同様、私もぼんやりした影を見守った。

 ふいに、おかしなことに気づく。

 ――あれ? クロム様もタールと同じく、煙で見えないはずよね。なぜ彼は、アルバーノの位置がわかるの?

 クロム様は腕利きの暗殺者。
 けれど、視力が格段にいいとか感覚だけで相手の居場所がわかる、といった情報はどこにもなかった。

「ここまで視界が悪いと、普通は自分の身を護るだけで精一杯なのに」

 彼はアルバーノの位置を特定しつつ、果敢かかんに攻めているらしい。

「邪魔ですよ」

 ギイィィィン

 剣をはじく大きな音の後、急に視界が晴れた。

「あっ」

 思わず声を上げてしまう。
 タールの国家騎士の制服が何カ所かけていて、傷を負ったとわかったからだ。クロム様は息が上がっているものの、目立った外傷は見られない。 

 ――アルバーノは、ほぼ無傷? そんな! ここまでしてもダメなの?

 このままでは二人が危ないと、私はテーブルにあったクリスタルのグラスをとっさに掴んだ。次いでアルバーノを狙い、腕を大きく振りかぶる。

「さあ、そろそろかくゴッ……」
「やったわ!」

 見事命中! 
 投げたグラスは眼鏡の角に当たり、床に落ちて砕け散る。

 ――元ソフトボール部の肩書きは、伊達だてではなかった。私のコントロール、いまだに衰えていないようね。

 得意げに腕を組むと、アルバーノの視線が私をとらえた。

「なるほど。今のはあなたの仕業しわざですか」

 ――え? なんだかちょっと、嫌な予感。

「カトリーナ様あぁぁぁ」
「いやああああ、来ないでええええ!!!」

 背中を向けて逃げ出した。
 だってアルバーノの手には、短剣が握られている!

「ぐあっ」
「うぐ……」

 アルバーノは前に立ちはだかった兵士ごと、その場になぎ倒す。

「やめて!」

 とうとう壁際まで追い詰められて、逃げ場がなくなった。
 後がないと身体を縮こめた、その時――。

「危ないっ」

 ガギィィィン

「……え?」

 なんと、ルシウスが私の前に飛び出した。
 アルバーノの短剣を防いだ彼愛用の長剣は、ゲームでも見た覚えがある。

「アルバーノ、そこまでだ! カトリーナは僕が護る」
「はっ、誰かと思えば隣国の第一王子ですか。この私に、甘やかされた王子が勝てるとでも?」
「わからない。だが、たとえ命に代えてでも彼女を護る!」

 ゲームの中ではときめくはずのセリフも、現実では恐怖のドキドキだ。
 こんな展開、なかったのに!!

「ご大層なことを。死に急ぐつもりなら、いいでしょ……ぐはっ!」

 突如とつじょ、アルバーノの身体がのけった。
 クロム様が跳躍し、話に気を取られた彼の背中を斬りつけたのだ。

「貴様っ、またしても邪魔をするか!」

 アルバーノは飛び退くと、再び眼鏡の縁に手をかけた。

 ――……が、何も起こらない。
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