乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第一章 めざせクロムサマスター

推しへの愛は不滅です

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 思い起こせば十年前。
 私――カトリーナ・ローズマリーは異国の庭にいた。

「ひ、姫様!」
「キャーーッ」
「誰か、誰か助けて!」

 大人達がうろたえるのも無理はない。
 だって私の首には、おおかみきばが深く刺さっていたのだ。

「……うう……痛い……」

 焼け付くような痛みは、狼のせい?
 私、このまま死んじゃうの?

 辺りにひびく怒号と叫び。
 駆け寄った大人達が私にのしかかる狼を、必死に引きがす。

「そんな、姫様!!」

 乳母の顔が恐怖にゆがむ。
 絶望に駆られたその時、目に赤い何かが映る。

薔薇ばらの……花びら?」

 頭の中を何かがぎり、思わず首に手を当てた。

「あれ? きばあとが…………ない!?」

 深く突き刺さったはずなのに、触った首の表面はすべすべしていた。

「どうして?」

 心配そうにのぞき込むのは、私がかばった男の子。
 その青い瞳を見た途端、ある映像が駆けめぐる。

 ――これって、『バラミラ』のチュートリアル画面だ!!!


 チュートリアル画面とは、ゲームの操作方法説明画面のこと。

 噴水の周りに薔薇が咲くこの場所は、大好きなゲームの一場面。だったら世界のどこかに、私の愛する推しもいる!!

 気づいた私は喜びのあまり、カタカタ震えた。

「まさか自分が、乙女ゲームのヒロインに転生するなんて――」



 かつて日本の大学生だった私、加藤莉奈《かとう りな》は、この『散りゆく薔薇と君の未来』通称『バラミラ』というゲームの熱烈なファンだった。
 ストーリーは難しくとも美麗なスチル――画像と、イケボ――美声にどんどんまっていく。
 当然ゲームの関連グッズも買い集め、ファンブック『a piece of rose』には涙を流した。

 好きが高じて叫びすぎ、仲間内からは『限界オタク』と呼ばれることも。そんな私が好きなのは、攻略対象ではなく脇役――つまり、サブキャラクターの男性だ。

「ゲームの設定通りなら、今のは狼ではなく狼犬。組織の者が事故に見せかけて、幼いルシウス王子を暗殺しようとしたのよね」
「姫様?」
「ええっと、なんでもないわ」

 急いで応えた私は、乳母の胸に顔をうずめた。

 ――危ない、危ない。中身は二十二歳でも、今の私は五歳児よ。

「奇跡的にお怪我がなくて、本当にようございました」

 涙ながらに語る乳母だが、私は当然知っている。

 ――ヒロインは、【薔薇の瞳】のおかげで何度も助かるわ。それに今は、ゲームのスタート前だもの。

 カトリーナは瞳に浮かぶ薔薇の花びらと同じ数、つまり全部で八つの命を持っている。
 命を落とすと花びらが減り、全て散るとゲームオーバーだ。

 チュートリアルで必ず一つ失うので、正確には七つ。
 スタート前に減っちゃうのって、ひどいと思う。

 攻略対象のイケメン達も、それぞれ瞳由来の能力を備えている。
【星の瞳】で予知ができたり、【月の瞳】で遠くが見えたり。敏捷びんしょう性が増す【彗星すいせいの瞳】というのもあった。

 登場人物は全員好きだけど、私の最推しはクロム様。
 皮肉なことに、彼は私――王女カトリーナの命を狙う暗殺者だ。


 だから何?
 ゲームに詳しい私が、ストーリーを改変すれば済むことでしょう?
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