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第一章 めざせクロムサマスター
推しごと頑張ります
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そうは言っても、世の中そんなに甘くない。
自国に戻った五歳の私は、現状を冷静に分析した。
「『バラミラ』のストーリーを変更するのは、推しのクロム様にお会いできてから。それ以前に変えると、彼の存在自体が危うくなるものね」
『散りゆく薔薇と君の未来』、通称『バラミラ』。
このゲームの中で我がローズマリーは、芸術国としての地位を確立していた。
ところがどっこい、今の我が国はのんびりした農業国。
ゲームで出てきた華麗な芸術国とはほど遠い。
価値ある芸術品は数が少なく、歌劇や演劇といった娯楽もなく、祭りの際に旅芸人を招く程度。
それは我が国だけでなく、隣国セイボリーや北のオレガノ帝国といった大陸全てに当てはまる。昔のヨーロッパに似たこの世界では、民衆のほとんどが楽しいことに飢えていた。
「やっぱり、ゲームに出てきた通りの芸術国にしてみよう。そうすればみんなも喜ぶし、クロム様も登場するし」
だって推しのクロム様は、我が国で一枚の絵に見入っていたから。
なんの絵かわからなかったが、集めなくては始まらない。
我が国を発展させつつ、推しを気持ちよくお迎えする。
それが王女としてのお仕事兼、私の推しごと。
早速、父の国王に直談判。
「あのね~私、夢を見たの~。大きなおうちに人が詰めかけて、歌ったり踊ったりする人を眺めている夢よ。飾られた絵はキラキラして、絵本もあったわ。だから私、夢が現実になればいいなって思ったの~」
提案の仕方も細心の注意が必要で、必死に五歳児ぶってみた。
中身が大学生だっただけに、これはかなり恥ずかしい。
夢の話は嘘ではなく、二.五次元――いわゆるミュージカル。
歌ったり踊ったりする人は役者さん、飾られた絵とはサイン入りの写真、絵本はパンフレットを表している。
残念ながら『バラミラ』はまだ、ミュージカルにはなっていなかった。作品にもよるけれど、私は実写化反対派ではなく、むしろ美しければいいという賛成派。クロム様の役には誰が相応しいのかと、勝手に悩んだこともある。
公式との解釈違いは嫌だけど、内容を忠実に再現してくれるなら……って、話が逸れたみたい。
「そうか。じゃあ、城に人を呼んで演じてもらおう」
「いいえ。ここじゃなく、みんなにも観てもらえる場所がいい。そこに行けば、いつでも楽しめるような」
おねだり作戦が功を奏し、王都に劇場を建設してもらうことに成功。
それから幾日もしないうちに、再び機会が訪れた。
「カトリーナ、お前の六つの誕生日だが……。プレゼントは何がいい?」
「お父様、ありがとう! それなら私、たっくさんほしい。新しい絵や彫刻を立派な建物の中に展示して、多くの方に見てもらいたいの」
続いて美術館。
すでにあった絵画は似たり寄ったりの肖像画が主なので、『新しい』を特に強調する。かなり高い贈りものだが、娘に甘い国王は、我が国に芸術家達を招聘してくれた。
これには兄のハーヴィーも苦笑い。
そこで私は、彼にもお願いする。
「お兄様のお知り合いで、芸術や文学を嗜む方はいらっしゃらない? もしいらっしゃるなら城にお招きして、お話をじっくり伺いたいわ」
いわゆるサロンというもので、芸術や文学の発展のため、自由に意見を交換したり創作したりする場を設けたい。
「それは構わないけど……。お前、本当にカトリーナ?」
もの柔らかな口調の兄が、びっくりしたのも無理はない。
けれど私の中身は九つ上の兄よりうんと年上で、愛する推しも絡んでいる。
そんなわけで、サロンを創設。
集まった人々に美術や文学作品を創作してもらう傍ら、推進するため心を砕く。
公共の劇場や美術館があると楽しいし、芸術を見る目も養える。
人材だって欠かせないから、貧しい民の就職先が確保できるかもしれない。
こうした経緯もあって約二年前、十三の年に私は我が国の芸術担当となった。
そこからは、自分の立場をフル活用。
芸術の振興と発展に力を注ぎ、美術品を収集。国外の絵も当然確保する。
予算で画材を購入したり、貴重な紙を我が国でも生産できるようにして、学院や孤児院に寄付したり。
子供や無名画家の絵を集めた展覧会を国内各地で開催し、画商にも積極的に推薦していた。
次は体力作り。
推しごととは別だけど、私の計画に筋トレは欠かせない。
トレーニングを頑張ったおかげでスリムになり、腕の筋肉はついた。その反面、胸が……いえ、なんでもない。
そして自分磨き。
乙女ゲームのヒロインがバカではいけないと、私は教養を深める努力をした。
何せ私の好きな人は、攻略対象よりも攻略が難しい暗殺者。賢くないと、問答無用で早めに処分されてしまうかもしれない。
空き時間には図書室に入り浸り、幅広い知識を身につけた。
加えて語学を無茶苦茶頑張ったのは、もちろんクロム様のため。
さらに王女として恥ずかしくない自分になろうと、マナーやダンスのレッスンにも人一倍励む。
優雅な所作と動きに可憐な容姿が相俟って、私は今や『ローズマリーの紫の薔薇』と呼ばれている。
瞳の色からだろうけど、紫の薔薇の花言葉は『気品、尊敬、エレガント』。最高の褒め言葉だ。
*****
推しの力は素晴らしい。
そんなこんなで、幼い私の提案から約十年。
我がローズマリー国は芸術と文学の国として、飛躍的な発展を遂げていた。
王都は常に人で溢れ、毎日のように歌劇や人形劇が上演されている。我が王家が文学家や芸術家達を手厚くもてなしていると、他国でも評判だった。現に名だたる画家や彫刻家、作家などを世に送り出している。
「大変ではあったけど、乗り越えてみれば楽しい思い出だわ。全ての準備は整った。とうとう明日、彼をお迎えできるのね!」
自国に戻った五歳の私は、現状を冷静に分析した。
「『バラミラ』のストーリーを変更するのは、推しのクロム様にお会いできてから。それ以前に変えると、彼の存在自体が危うくなるものね」
『散りゆく薔薇と君の未来』、通称『バラミラ』。
このゲームの中で我がローズマリーは、芸術国としての地位を確立していた。
ところがどっこい、今の我が国はのんびりした農業国。
ゲームで出てきた華麗な芸術国とはほど遠い。
価値ある芸術品は数が少なく、歌劇や演劇といった娯楽もなく、祭りの際に旅芸人を招く程度。
それは我が国だけでなく、隣国セイボリーや北のオレガノ帝国といった大陸全てに当てはまる。昔のヨーロッパに似たこの世界では、民衆のほとんどが楽しいことに飢えていた。
「やっぱり、ゲームに出てきた通りの芸術国にしてみよう。そうすればみんなも喜ぶし、クロム様も登場するし」
だって推しのクロム様は、我が国で一枚の絵に見入っていたから。
なんの絵かわからなかったが、集めなくては始まらない。
我が国を発展させつつ、推しを気持ちよくお迎えする。
それが王女としてのお仕事兼、私の推しごと。
早速、父の国王に直談判。
「あのね~私、夢を見たの~。大きなおうちに人が詰めかけて、歌ったり踊ったりする人を眺めている夢よ。飾られた絵はキラキラして、絵本もあったわ。だから私、夢が現実になればいいなって思ったの~」
提案の仕方も細心の注意が必要で、必死に五歳児ぶってみた。
中身が大学生だっただけに、これはかなり恥ずかしい。
夢の話は嘘ではなく、二.五次元――いわゆるミュージカル。
歌ったり踊ったりする人は役者さん、飾られた絵とはサイン入りの写真、絵本はパンフレットを表している。
残念ながら『バラミラ』はまだ、ミュージカルにはなっていなかった。作品にもよるけれど、私は実写化反対派ではなく、むしろ美しければいいという賛成派。クロム様の役には誰が相応しいのかと、勝手に悩んだこともある。
公式との解釈違いは嫌だけど、内容を忠実に再現してくれるなら……って、話が逸れたみたい。
「そうか。じゃあ、城に人を呼んで演じてもらおう」
「いいえ。ここじゃなく、みんなにも観てもらえる場所がいい。そこに行けば、いつでも楽しめるような」
おねだり作戦が功を奏し、王都に劇場を建設してもらうことに成功。
それから幾日もしないうちに、再び機会が訪れた。
「カトリーナ、お前の六つの誕生日だが……。プレゼントは何がいい?」
「お父様、ありがとう! それなら私、たっくさんほしい。新しい絵や彫刻を立派な建物の中に展示して、多くの方に見てもらいたいの」
続いて美術館。
すでにあった絵画は似たり寄ったりの肖像画が主なので、『新しい』を特に強調する。かなり高い贈りものだが、娘に甘い国王は、我が国に芸術家達を招聘してくれた。
これには兄のハーヴィーも苦笑い。
そこで私は、彼にもお願いする。
「お兄様のお知り合いで、芸術や文学を嗜む方はいらっしゃらない? もしいらっしゃるなら城にお招きして、お話をじっくり伺いたいわ」
いわゆるサロンというもので、芸術や文学の発展のため、自由に意見を交換したり創作したりする場を設けたい。
「それは構わないけど……。お前、本当にカトリーナ?」
もの柔らかな口調の兄が、びっくりしたのも無理はない。
けれど私の中身は九つ上の兄よりうんと年上で、愛する推しも絡んでいる。
そんなわけで、サロンを創設。
集まった人々に美術や文学作品を創作してもらう傍ら、推進するため心を砕く。
公共の劇場や美術館があると楽しいし、芸術を見る目も養える。
人材だって欠かせないから、貧しい民の就職先が確保できるかもしれない。
こうした経緯もあって約二年前、十三の年に私は我が国の芸術担当となった。
そこからは、自分の立場をフル活用。
芸術の振興と発展に力を注ぎ、美術品を収集。国外の絵も当然確保する。
予算で画材を購入したり、貴重な紙を我が国でも生産できるようにして、学院や孤児院に寄付したり。
子供や無名画家の絵を集めた展覧会を国内各地で開催し、画商にも積極的に推薦していた。
次は体力作り。
推しごととは別だけど、私の計画に筋トレは欠かせない。
トレーニングを頑張ったおかげでスリムになり、腕の筋肉はついた。その反面、胸が……いえ、なんでもない。
そして自分磨き。
乙女ゲームのヒロインがバカではいけないと、私は教養を深める努力をした。
何せ私の好きな人は、攻略対象よりも攻略が難しい暗殺者。賢くないと、問答無用で早めに処分されてしまうかもしれない。
空き時間には図書室に入り浸り、幅広い知識を身につけた。
加えて語学を無茶苦茶頑張ったのは、もちろんクロム様のため。
さらに王女として恥ずかしくない自分になろうと、マナーやダンスのレッスンにも人一倍励む。
優雅な所作と動きに可憐な容姿が相俟って、私は今や『ローズマリーの紫の薔薇』と呼ばれている。
瞳の色からだろうけど、紫の薔薇の花言葉は『気品、尊敬、エレガント』。最高の褒め言葉だ。
*****
推しの力は素晴らしい。
そんなこんなで、幼い私の提案から約十年。
我がローズマリー国は芸術と文学の国として、飛躍的な発展を遂げていた。
王都は常に人で溢れ、毎日のように歌劇や人形劇が上演されている。我が王家が文学家や芸術家達を手厚くもてなしていると、他国でも評判だった。現に名だたる画家や彫刻家、作家などを世に送り出している。
「大変ではあったけど、乗り越えてみれば楽しい思い出だわ。全ての準備は整った。とうとう明日、彼をお迎えできるのね!」
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