乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

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第一章 めざせクロムサマスター

最愛の推し、ご登場!!!!!

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 翌日、十五歳の誕生日を迎えた私は、朝からそわそわしていた。

 仕度を終えても、鏡の前で確認しないと気が済まない。

「できる限りのことはしたはずよ。お化粧は……ほとんどしていないけど、平気かしら?」

 その場でくるりと一回転。
 柔らかな金色の髪が揺れ、薄紅色のドレスのすそが広がった。
 今日のドレスは最新流行のデザインで、スカート部分は裾に向かって色が淡くなるグラデーション。スクエアカットの胸元は、白いレースが小さな胸を上手く隠してくれていた。

 淡い金髪に縁取ふちどられた小さな顔は陶器のように白く、瞳は大きく澄んだ紫色。唇はふっくら桜色で、ほおは高まる期待のため薔薇色に染まっていた。

 ゲームの展開通りなら、もうすぐ兄で王太子のハーヴィーが私の部屋にやって来る。
 兄と一緒の客人こそ、私の想い人。
 そう、推しのクロム様だ!

 頬に手を当て冷ましていると、部屋にノックの音がした。

「カトリーナ、いい?」
「どうぞ」

 いよいよなのね!
 部屋の扉が開き、笑顔の兄が入室する。

「ぱんぱかぱ~ん、サプラーイズ! カトリーナが喜びそうなプレゼントを用意したよ」

 波打つ長い金髪と、いたずらっぽく輝く桃色の瞳。中性的な美貌の兄は、私の自慢だ。
 でも今日は、兄の背後に目をらす。するとハーヴィーが、長身の男性を招き入れた。

「さ、あれが妹のカトリーナだよ」
「……っ!」

 その瞬間、私は大きく息を吸う。

 ――クロム様! ああ、あまりの尊さに倒れてしまいそう!!

 手にした帽子と黒の上下は地味だけど、にじみ出るカッコ良さを隠しきれていない。
 つやのある黒髪は、眼鏡めがねにかかった分まで麗しく、切れ長の目は赤い瞳と見事に調和し、震えがくるほど美しい。背が高く均整の取れた体躯たいくや彫りの深い端正な顔立ちは、まるで彫刻のよう。
 年の頃は二十歳を少し超えたくらいかな? だけど年齢よりも大人っぽく、渋くて素敵♪

「ええっと……。カトリーナ、どうしたのかな?」

 首をかしげるハーヴィーだけど、ダメ、そのせいでクロム様にかぶっているじゃない。
 もうちょっと右にけてくれないと、彼の全身が見えないわ!

 眼鏡をかけた推しの姿が完璧で、息をするのもためらわれた。
 そんな暇があるのなら、目に全神経を集中して推しをずっと眺めていたい。

「カトリーナ?」

 兄が困ったように首に手を当てる。
 私はふと、息苦しさに気づく。

 そういえば、息をとめたままだったわ。

「ぷっはあ~~~」
「なっ……どうした?」
「いえ、びっくりしてしまって……」

 夢にまで見たこの瞬間。
 ただ、ここで興奮して暴れたら、今までの苦労が水の泡。

 私は冷静になろうと、並び立つ二人を観察する。

 えりそでに金の刺繍ししゅうが入った赤い上着の兄と、その横に立つ黒い衣装のクロム様。赤と黒の対比が、名画のように麗しい。

 ――なんて素敵なの!

「あの……」

 クロム様がしゃべったわ! 
 落ち着いた深みのある低音ボイス♪
 こんなに神々しい存在を世に送り出してくれて、神様、本当にありがとうございます!

 叫び出さないよう、口に手を当て必死にこらえた。

 涙ぐむ私を目にしたハーヴィーが、満足そうにうなずいている。サプライズの演出が、成功したと思っているみたい。
 確かに実物の推しは画面で見るより麗しく、生きてきた中で一番のサプライズだ。

 兄が微笑み、クロム様の肩に手をかけた。

 ――うらやま……いえ、早く紹介してくださいっ。

「カトリーナ、誕生日おめでとう。こちらはセイボリー王国よりいらした、お前の先生だ。明日から……」
「よろしくお願いします、先生!」
「……カトリーナ?」

 兄がキョトンと目を丸くする。

 ――おっといけない、フライング。興奮と喜びのあまり力いっぱい応えてしまった。ひとまず落ち着きましょう。

 クロム様はまゆをピクリとさせたものの、すぐに元の無表情。
 そこがまた、ス・テ・キ☆
 彼は私の熱い視線に臆することなく、姿勢を正して一礼する。

「明日から教師として、セイボリーの歴史と言語を担当するクロム・リンデルです。こちらこそ、よろしくお願いいたします。可愛らしい王女様」

 ――可愛らしい? 彼は私に、可愛らしいと言ったの?

 そんな言葉は記憶にないけど、初顔合わせの貴重な体験を永久保存しておきたい。
 惜しいっ。どうしてこの世界には、スマホがないの?

「お世話になります。クロム先生」

 胸の内に渦巻うずまく想いを押し隠し、スカートをまんで優雅にお辞儀。顔を上げたところで、驚く彼と目が合った。

 ――どうしたの? 彼はなぜ、私をじっと見つめているのかしら? まさか一目ひとめ……。

「カトリーナ、動揺して呼び間違えているよ。クロム先生ではなくリンデル先生、だろう?」

 ですよね~。初対面の相手を名前で呼ぶなんて、私ったら礼儀に反している。

「大変失礼いたしました、リンデル先生」

 おろかな王女と思われたくなくて、ことさらしとやかに頭を下げた。

「いいえ。クロムで構いません。それでは明日から、楽しみにしております」

 ――楽しみに、楽しみに、楽しみに、楽しみに……。

 推しのセリフが、頭の中でリフレイン。
 生のクロム様を拝見できただけでも感激なのに、優しい言葉までかけていただけた。

 だからかな? この部屋の空気は、今までで一番美味しい気がする。

 他にも案内するところがあるらしく、兄はクロム様を連れて部屋を出た。



 ――彼だけ残して! ……って、そんなわけにはいかないか。
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