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3 依頼を受ける
18 小さな猛威 2
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僕の方をめがけて突っ込んでくるボアを横目に、僕は木の陰から飛び出す。
もちろんその先のことも十分に考えている。そう言いたいのはやまやまだけど、いかんせん何も考えてなどいない。あまりにも突然のこと過ぎて考えなしに行動したからだ。
「二日連続で厄日だね……」
愚痴をこぼしつつも、僕は全速力で走る。
獣人としての犬種は基本的にボアよりも早く走れないが、それでも時間を稼ぐことは出来る。じりじりと距離を詰めるボアをどう対処するか、それを考えるぐらいの時間はどうにかなるだろう。
銃があればボアを仕留めることはさほど難しくもない。だがそれは一流の猟師がいて、なおかつボアが静止している場合の話だ。勇猛果敢に走りまわるボアに弾を当てるのは一流の猟師でも難しいだろう。――一流の猟師なんてここにはいないけどね。
「って、余計なことを考えている場合じゃない! どうにかしないとまずい……!」
ボアは全然スピードを緩める気配がない。あんな巨体なのにどうしてそんなに早く走れるのだろうか、まるで見当もつかない。
とにかく今の僕に出来ること、それは奴の動きを止めることだ。倒すなんていう無茶をする必要はない。
さすがの僕でも、木々を縫って走るのは疲れる。体力的にはまだ問題なさそうだが、ボアとの距離は縮まる一方だし、スピードで僕に勝るボアに対して出来ることなどそれほどない。
猪突猛進なんて言葉、誰が考えたのだろう。木に衝突でもしてくれれば御の字と考えていたけど、ボアは全然直線的に動いてはくれない。持久力は……流石に僕の方が上だと思いたい。だけどもしそうだとしても、ボアの体力が切れるより早く僕の方が事切れている可能性が高い。
武器は持っていない。丸腰だ。今の状況を切り抜けられるような手段もない。ある意味というより、本当の意味で詰みなのかもしれない。
あの獰猛な牙に突かれて死ぬ、そんな苦痛を生じる死は願い下げだ。
どうにかして、ボアを出し抜く方法を考えなければ……
「はぁはぁ……ウィークさん! 何とかなりませんか!?」
一応、本当に一応であるが、僕は少なくとも彼女をボアから助けた。今こそ何かしら見返りが欲しいし、もらえる場面だと思いたい。情けないが、どれだけ考えてもこの窮地から僕一人で抜け出す方法など全く思いつかない。そもそも、ほぼ全力に近い状態で走りながら考え事なんて不可能に近い。
だったら考えるのは動いている僕ではなく、止まっている少女にしてもらえばいい。僕が思いついたのはそんな他人任せでしかない作戦だけだ。
「なんとかって……私にはこれしかない!」
ウィークは木の陰に隠れたままクラフトを掲げる。
彼女は考える間もなくそれを提案した。確かに今のところ彼女に期待できるはそれだけだ。だが反対に言えばそれほど不安な物ない。かといって他に妙案があるわけでもない。仕方ない、彼女の運に期待するとしよう。
「わかりました。僕が引き付けるんで、それでお願いします! 出来れば僕にあてないように」
彼女のクラフト捌きはさっき見た通りだ。何発も撃って、一発たりともかすりはしなかった。そんな彼女の腕前だ。狙って僕に弾が当たる確率は非常に低いだろうが、狙わなかった場合は万が一ということもあり得る。
最初から彼女のクラフトだけが頼りだと気がついていたが、そんな理由から先延ばしにしてしまった。こんなことなら、もう少し早めに決断を下すべきだった。そうすれば僕とボアの間にはもう少し距離があったというのに……今となってはボアに弾が当たらなかった時に僕に当たる確率が高くなってしまった。
そんな僕の不安を知らずにウィークはクラフトを構える。
「わかった。やってみる」
どうやら彼女の覚悟は決まったらしい。
僕の方はまだ全然覚悟が決まっていないというのに、どういうことだろう。まるで彼女は自信にあふれているようだ。
しかし銃弾がすぐに発射されることはなかった。
無限にも感じるような時間が、それでも刻一刻と過ぎ去っていく。死に際の刹那というのはこれほどまでに感覚が引き伸ばされる者なのだろうか? それとも、エンドルフィンが分泌されることによって、一種のゾーン状態に入ってしまったために、短い時間を長く感じているのだろうか? いや、そのどちらも同じことだ。
だがそれとは全く違うということに僕はうすうす気がついていた。別に時間は延長されておらず、僕は最初から同じぐらいの距離を等間隔で走っている。つまり、僕の方に問題が起きたのではなく、ウィークの方に問題が起きたのだろう。
だが今の僕にできることは彼女を信じること、迫り来るボアに目もくれずひたすらに時間を稼ぎ続けることだ。
情けないが、今の僕は無力だ。依頼を引き受けておきながら、同行者にすべてを委ねざるを得ない。
そんなネガティブな僕の心を洗うかのように、鮮やかな一回の銃声が木霊する。実に研ぎ澄まされた音だ。その音に少し遅れて、ボアの悲鳴が響きだす。
「やったのか……?」
言ったあとで気がついたが、それはフラグというやつだ。この言葉を口に出した時、敵は大抵無傷である。しかしそれは圧倒的な運命の収縮によって起きる出来事だ。神を味方につけている僕にはおこりえない矛盾だ。
それでも内心、僕は神を信じることが出来ない。だからこそ足を緩めることはせずに軽く背後に目をやった。
「やったよ」
ウィークの声が僕の耳に入るとともに、目に入ったのはボアが横たわる姿だ。
どうやら一発で仕留めたらしい。ボアの頭に銃創が二か所ある。弾は脳天を直撃してそのまま抜けていったのだろう。
僕は足を止めると同時に地面へと倒れ伏し、ゆっくりと息を吐いた。
「助かった……」
たった二日で、二度も死の窮地から帰ってきたわけだが、こんなのは二度とごめんだ。御免こうむる。
「私のおかげね」
勝ち誇ったようにウィークが僕に手を差し伸べる。
確かに彼女のおかげだ。悪い意味でも良い意味でも。だけどそれに対して文句を言うほどの体力も余ってはないない。それでも、彼女の奇跡的な一撃には感謝してなくもない。あの奇跡がなければ僕は死んでいただろうからな。
「言いたいことは色々ありますけど……とりあえず、ありがとうございます」
僕は彼女の手をつかんでたちあがる。
少女に手を借りるというのも男らしくない気がするが、これで貸し借りなしってことにしておこう。彼女を庇った借りはこれでなしだ。その方が僕としてもあとくされがない。
「どういたしまして」
彼女にも一応の礼儀はあるらしい。今までの態度から常識が欠如しているんじゃないかと思っていたけど、思ったより普通でよかった。
一応だし、一番気になっていることぐらいは聞いておこう。
「それよりも、最初は外していたのに、あのタイミングでよく当たりましたね?」
「うん。でもよかった。誰かの前で的に弾が当たったのは初めてだし」
とても嬉しそうにウィークはそう言う。
……初めてっていうのはさすがに冗談だよね?
もちろんその先のことも十分に考えている。そう言いたいのはやまやまだけど、いかんせん何も考えてなどいない。あまりにも突然のこと過ぎて考えなしに行動したからだ。
「二日連続で厄日だね……」
愚痴をこぼしつつも、僕は全速力で走る。
獣人としての犬種は基本的にボアよりも早く走れないが、それでも時間を稼ぐことは出来る。じりじりと距離を詰めるボアをどう対処するか、それを考えるぐらいの時間はどうにかなるだろう。
銃があればボアを仕留めることはさほど難しくもない。だがそれは一流の猟師がいて、なおかつボアが静止している場合の話だ。勇猛果敢に走りまわるボアに弾を当てるのは一流の猟師でも難しいだろう。――一流の猟師なんてここにはいないけどね。
「って、余計なことを考えている場合じゃない! どうにかしないとまずい……!」
ボアは全然スピードを緩める気配がない。あんな巨体なのにどうしてそんなに早く走れるのだろうか、まるで見当もつかない。
とにかく今の僕に出来ること、それは奴の動きを止めることだ。倒すなんていう無茶をする必要はない。
さすがの僕でも、木々を縫って走るのは疲れる。体力的にはまだ問題なさそうだが、ボアとの距離は縮まる一方だし、スピードで僕に勝るボアに対して出来ることなどそれほどない。
猪突猛進なんて言葉、誰が考えたのだろう。木に衝突でもしてくれれば御の字と考えていたけど、ボアは全然直線的に動いてはくれない。持久力は……流石に僕の方が上だと思いたい。だけどもしそうだとしても、ボアの体力が切れるより早く僕の方が事切れている可能性が高い。
武器は持っていない。丸腰だ。今の状況を切り抜けられるような手段もない。ある意味というより、本当の意味で詰みなのかもしれない。
あの獰猛な牙に突かれて死ぬ、そんな苦痛を生じる死は願い下げだ。
どうにかして、ボアを出し抜く方法を考えなければ……
「はぁはぁ……ウィークさん! 何とかなりませんか!?」
一応、本当に一応であるが、僕は少なくとも彼女をボアから助けた。今こそ何かしら見返りが欲しいし、もらえる場面だと思いたい。情けないが、どれだけ考えてもこの窮地から僕一人で抜け出す方法など全く思いつかない。そもそも、ほぼ全力に近い状態で走りながら考え事なんて不可能に近い。
だったら考えるのは動いている僕ではなく、止まっている少女にしてもらえばいい。僕が思いついたのはそんな他人任せでしかない作戦だけだ。
「なんとかって……私にはこれしかない!」
ウィークは木の陰に隠れたままクラフトを掲げる。
彼女は考える間もなくそれを提案した。確かに今のところ彼女に期待できるはそれだけだ。だが反対に言えばそれほど不安な物ない。かといって他に妙案があるわけでもない。仕方ない、彼女の運に期待するとしよう。
「わかりました。僕が引き付けるんで、それでお願いします! 出来れば僕にあてないように」
彼女のクラフト捌きはさっき見た通りだ。何発も撃って、一発たりともかすりはしなかった。そんな彼女の腕前だ。狙って僕に弾が当たる確率は非常に低いだろうが、狙わなかった場合は万が一ということもあり得る。
最初から彼女のクラフトだけが頼りだと気がついていたが、そんな理由から先延ばしにしてしまった。こんなことなら、もう少し早めに決断を下すべきだった。そうすれば僕とボアの間にはもう少し距離があったというのに……今となってはボアに弾が当たらなかった時に僕に当たる確率が高くなってしまった。
そんな僕の不安を知らずにウィークはクラフトを構える。
「わかった。やってみる」
どうやら彼女の覚悟は決まったらしい。
僕の方はまだ全然覚悟が決まっていないというのに、どういうことだろう。まるで彼女は自信にあふれているようだ。
しかし銃弾がすぐに発射されることはなかった。
無限にも感じるような時間が、それでも刻一刻と過ぎ去っていく。死に際の刹那というのはこれほどまでに感覚が引き伸ばされる者なのだろうか? それとも、エンドルフィンが分泌されることによって、一種のゾーン状態に入ってしまったために、短い時間を長く感じているのだろうか? いや、そのどちらも同じことだ。
だがそれとは全く違うということに僕はうすうす気がついていた。別に時間は延長されておらず、僕は最初から同じぐらいの距離を等間隔で走っている。つまり、僕の方に問題が起きたのではなく、ウィークの方に問題が起きたのだろう。
だが今の僕にできることは彼女を信じること、迫り来るボアに目もくれずひたすらに時間を稼ぎ続けることだ。
情けないが、今の僕は無力だ。依頼を引き受けておきながら、同行者にすべてを委ねざるを得ない。
そんなネガティブな僕の心を洗うかのように、鮮やかな一回の銃声が木霊する。実に研ぎ澄まされた音だ。その音に少し遅れて、ボアの悲鳴が響きだす。
「やったのか……?」
言ったあとで気がついたが、それはフラグというやつだ。この言葉を口に出した時、敵は大抵無傷である。しかしそれは圧倒的な運命の収縮によって起きる出来事だ。神を味方につけている僕にはおこりえない矛盾だ。
それでも内心、僕は神を信じることが出来ない。だからこそ足を緩めることはせずに軽く背後に目をやった。
「やったよ」
ウィークの声が僕の耳に入るとともに、目に入ったのはボアが横たわる姿だ。
どうやら一発で仕留めたらしい。ボアの頭に銃創が二か所ある。弾は脳天を直撃してそのまま抜けていったのだろう。
僕は足を止めると同時に地面へと倒れ伏し、ゆっくりと息を吐いた。
「助かった……」
たった二日で、二度も死の窮地から帰ってきたわけだが、こんなのは二度とごめんだ。御免こうむる。
「私のおかげね」
勝ち誇ったようにウィークが僕に手を差し伸べる。
確かに彼女のおかげだ。悪い意味でも良い意味でも。だけどそれに対して文句を言うほどの体力も余ってはないない。それでも、彼女の奇跡的な一撃には感謝してなくもない。あの奇跡がなければ僕は死んでいただろうからな。
「言いたいことは色々ありますけど……とりあえず、ありがとうございます」
僕は彼女の手をつかんでたちあがる。
少女に手を借りるというのも男らしくない気がするが、これで貸し借りなしってことにしておこう。彼女を庇った借りはこれでなしだ。その方が僕としてもあとくされがない。
「どういたしまして」
彼女にも一応の礼儀はあるらしい。今までの態度から常識が欠如しているんじゃないかと思っていたけど、思ったより普通でよかった。
一応だし、一番気になっていることぐらいは聞いておこう。
「それよりも、最初は外していたのに、あのタイミングでよく当たりましたね?」
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