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3 依頼を受ける
20 姉妹喧嘩
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「あだ名じゃなくて、ウィーク・グレイは私の名前」
ウィークがお姉さんの言葉を訂正する。
詳しいことはよくわからないが、僕に対して本名を隠したいのだろう。まあなんにしてもあの時、ウィークが名乗った時になぜお姉さんが驚いていたのかはよく理解できた。ウィークは偽名だった。
「誰かの前で攻撃を命中させたなら、あなたはもう弱くないってことでしょう?」
「もともと私は弱くない! ウィークは弱いって意味じゃなくて、一週間って意味。私が誰ともかかわろうとしなかったからつけられて蔑称、灰色の一週間を表した名前だって何度も言ったでしょ」
ウィークの言葉を口火に、姉妹喧嘩が始まった。
「ねえ、それ自分で言ってて悲しくならないの?」
「誰かの前だと緊張して攻撃が当たらない……それじゃあ、まるで心が弱いみたいじゃん。それなら誰とも関わろうとしないさみしい冒険者の方がずっとマシ」
「そんなこと言って、あなたいつも1人でさみしそうだったじゃない!」
「さみしくない! 一人で平気だもん」
「まだまだ子供ね……」
「子供じゃないもん!」
僕を置いてけぼりにして、二人は何やら言い争っている。僕は当事者とは言えないかもしれないが、一応は彼女と同じ依頼を受けた中だ。
このまま二人の喧嘩を静観しているわけにも行かない。――気まずいからね。
「ちょっと、喧嘩はやめてくださいよ!」
僕を制止するために間に入った。
それで喧嘩は止まったのだけど、お姉さんも、ウィークも顔を合わせようとしない。あれだけ言い争った後だし、そう簡単に仲直りとも行かないか……よし僕が何とかしてみよう。
「ああ、そうだ。僕もウィークさんの本名が知りたいです。仲間ですからね」
これからも一緒に冒険したいかどうかはさておいて、ウィークと仲良くしておきたいのは本当のことだ。
だからこそ、こんな気まずい雰囲気の中でわかれることは避けたい。喧嘩をやめさせるだけではなく、何とか、二人を仲直りさせないと。
喧嘩の根本的な原因は本名を僕に名乗るか名乗らないかだ。それなら、僕が直接聞いてみるというのは効果的なはずだ。どちらに転ぶかはわからないが、どのみちウィークという名前を使用することは出来ない。だったら本当の名前を聞いておくのは悪い手ではないだろう。
ウィークというのは蔑称らしいからね。
それを街中で連呼するなんて、彼女のことを知っている人物からは嫌がらせをしているのと同義だ。それじゃあ、僕と同じ種族である犬種の好感度が下がってしまうだろう。
そう思って名前を聞いてみたのはいいけど、彼女はまるで僕に対して名乗ろうとはしない。それどころか、姉と喧嘩したことによってふてくされているようで、僕の方を見ようともしない。
――これはダメそうだ。
同業者としては頼りないウィークだが、僕は彼女と仲良くなっておく必要がある。だからこそ本名で呼ぶというのは、仲良くなるために一番有効な手段だと思ったのだが、残念ながらそう簡単には教えてくれないみたいだ。まあ先ほどまでの彼女を見ていれば当たり前か、実の姉にさえ食って掛かる始末だ。
たった一度、一緒に依頼を受けたぐらいの僕に対して名乗ってくれるはずもない。
非常に残念だ。キツネというやつは哺乳類ネコ目イヌ科イヌ亜科で、犬に近い種族だ。仲良くなるのは悪いことじゃないと思ったんだけど、これじゃあ、一緒に依頼を受けるのもこれで最後だろう。
せめて、犬に近い獣人たちと仲良くすることで、犬に会えないさみしさを埋められるかもしれないと思ったけれど、その道のりは長そうだ。
この世界には動物みたいな見た目の魔物だっている。中には犬みたいな魔物だっているかもしれないと思うかもしれないが、僕が最初にそれを確認しないわけがない。――少なくとも、誕生日に買ってもらった魔物図鑑にはそれらしきものは載っていなかった。それが現実だ。
神様とやらが、僕の希望を叶えるために犬を生み出してくれるなんてことも考えた。
それこそありえないことだ。人違いでこんな世界に転生させておいて、希望していた犬にもしてもらえず、それどころか純粋な犬がまるでいない世界に転生させ、あまつさえそのことに対する謝罪にすら来ない神だ。『神の恩恵』とは名ばかりの『使徒』などという謎の職業を与えるだけで、あとは僕を放置しているような神だ。魔物たちに襲われ殺されそうだった時にも助けになど来ない。そんな存在が僕のささやかな願いなんてかなえてくれるはずがない。
神様に対しても、この世界に対しても考えれば考えるほど愚痴が湧いてくる始末だ。
いくら納得しようとしても、思い出せば腹が立ってくる。それぐらい――
「――アニー……アニー・グレー」
頭の中で世界に対する愚痴を考えているタイミングで、何か声が聞こえたような気がした。
考え事をしていたらだんだん腹が立ってきて忘れていたが、そもそも、どうしてそんなことを考え始めたのだろう。そうだ! ウィークに本名を聞いたんだった。それで、ネガティブなことを考え始めたら、神に対して思うところがあふれてきたんだった。
いや今はそんなことどうでもいい。それより、ずっとそっぽを向いていたウィークが僕の方を見てようやく口を開いてくれたんだ。それを聞いていなかったなんて口が裂けても言えない。
彼女が僕に対して『あ』から始まる何かを言った。確かにそれは聞こえたけど、その続きはよく聞き取れなかった。僕の考えが正しければ、本名を簡単に教えてくれるはずがない。きっと『あんたなんかに教えるわけないでしょ』とか、そう言った類のことを言ったのだろう。もしそうだったとしても、返事をくれた分、大きな進歩だと言える。
だけどそれも確証はない。僕は適当に誤魔化すように笑ってみることにした。
言葉が聞き取れなかったときはそうするに限る。笑っているから相手にも不快感を与えないし、何となく怒る気にもなれないだろう。
そんな僕を見て彼女は僕が聞き取れなかったということに気がついたのだろう、大きくため息をついて仕方がないといった風に同じ言葉をもう一度口にした。
「アニー・グレー。私の名前……」
「名前!? ああ、名前ですか」
普通に名乗ってくれただけだったようだ。
僕の早とちりで、また余計なことを言うところだった。やっぱり誤魔化し笑いは偉大だ。
ともかく、ウィークこと、アニーは自分の意思を曲げて名乗ってくれた。これならお姉さんともすぐに仲直りできるはずだろう。
「改めてよろしくお願いします。アニーさん」
僕はアニーに手を差し伸べる。それをアニーが面倒くさそうに握り返した。
「よろしく」
その様子を目を見開いて横目で見守っていたお姉さんが、感極まって涙を流し始めた。
「アニー……」
僕に対して本名を名乗ったというだけなのに、どれだけ大げさなんだろう。どう考えたって、泣くほどのことではない。それなのにアニーの方も感慨深げな声を出す。
「……お姉ちゃん」
二人の間に何があったのかは近くで見ていた僕にさえわからないが、ともかく二人は手を握り合って幸せそうに笑いあっている。
はっきり言って、僕には全くわけがわからない。
きっとそれは、姉妹である二人にしか理解できない世界なのだろう。
今度は僕が横でそれを横目で見て、気まずい状態でただ椅子に座っている。
そんな僕を忙しそうに仕事をしている役人たちが、ちらちらと見てくるが、それが余計に気まずくさせる。僕が何をしたというのだろう……したことと言えば、床に穴をあけたぐらいなもんだ。
ウィークがお姉さんの言葉を訂正する。
詳しいことはよくわからないが、僕に対して本名を隠したいのだろう。まあなんにしてもあの時、ウィークが名乗った時になぜお姉さんが驚いていたのかはよく理解できた。ウィークは偽名だった。
「誰かの前で攻撃を命中させたなら、あなたはもう弱くないってことでしょう?」
「もともと私は弱くない! ウィークは弱いって意味じゃなくて、一週間って意味。私が誰ともかかわろうとしなかったからつけられて蔑称、灰色の一週間を表した名前だって何度も言ったでしょ」
ウィークの言葉を口火に、姉妹喧嘩が始まった。
「ねえ、それ自分で言ってて悲しくならないの?」
「誰かの前だと緊張して攻撃が当たらない……それじゃあ、まるで心が弱いみたいじゃん。それなら誰とも関わろうとしないさみしい冒険者の方がずっとマシ」
「そんなこと言って、あなたいつも1人でさみしそうだったじゃない!」
「さみしくない! 一人で平気だもん」
「まだまだ子供ね……」
「子供じゃないもん!」
僕を置いてけぼりにして、二人は何やら言い争っている。僕は当事者とは言えないかもしれないが、一応は彼女と同じ依頼を受けた中だ。
このまま二人の喧嘩を静観しているわけにも行かない。――気まずいからね。
「ちょっと、喧嘩はやめてくださいよ!」
僕を制止するために間に入った。
それで喧嘩は止まったのだけど、お姉さんも、ウィークも顔を合わせようとしない。あれだけ言い争った後だし、そう簡単に仲直りとも行かないか……よし僕が何とかしてみよう。
「ああ、そうだ。僕もウィークさんの本名が知りたいです。仲間ですからね」
これからも一緒に冒険したいかどうかはさておいて、ウィークと仲良くしておきたいのは本当のことだ。
だからこそ、こんな気まずい雰囲気の中でわかれることは避けたい。喧嘩をやめさせるだけではなく、何とか、二人を仲直りさせないと。
喧嘩の根本的な原因は本名を僕に名乗るか名乗らないかだ。それなら、僕が直接聞いてみるというのは効果的なはずだ。どちらに転ぶかはわからないが、どのみちウィークという名前を使用することは出来ない。だったら本当の名前を聞いておくのは悪い手ではないだろう。
ウィークというのは蔑称らしいからね。
それを街中で連呼するなんて、彼女のことを知っている人物からは嫌がらせをしているのと同義だ。それじゃあ、僕と同じ種族である犬種の好感度が下がってしまうだろう。
そう思って名前を聞いてみたのはいいけど、彼女はまるで僕に対して名乗ろうとはしない。それどころか、姉と喧嘩したことによってふてくされているようで、僕の方を見ようともしない。
――これはダメそうだ。
同業者としては頼りないウィークだが、僕は彼女と仲良くなっておく必要がある。だからこそ本名で呼ぶというのは、仲良くなるために一番有効な手段だと思ったのだが、残念ながらそう簡単には教えてくれないみたいだ。まあ先ほどまでの彼女を見ていれば当たり前か、実の姉にさえ食って掛かる始末だ。
たった一度、一緒に依頼を受けたぐらいの僕に対して名乗ってくれるはずもない。
非常に残念だ。キツネというやつは哺乳類ネコ目イヌ科イヌ亜科で、犬に近い種族だ。仲良くなるのは悪いことじゃないと思ったんだけど、これじゃあ、一緒に依頼を受けるのもこれで最後だろう。
せめて、犬に近い獣人たちと仲良くすることで、犬に会えないさみしさを埋められるかもしれないと思ったけれど、その道のりは長そうだ。
この世界には動物みたいな見た目の魔物だっている。中には犬みたいな魔物だっているかもしれないと思うかもしれないが、僕が最初にそれを確認しないわけがない。――少なくとも、誕生日に買ってもらった魔物図鑑にはそれらしきものは載っていなかった。それが現実だ。
神様とやらが、僕の希望を叶えるために犬を生み出してくれるなんてことも考えた。
それこそありえないことだ。人違いでこんな世界に転生させておいて、希望していた犬にもしてもらえず、それどころか純粋な犬がまるでいない世界に転生させ、あまつさえそのことに対する謝罪にすら来ない神だ。『神の恩恵』とは名ばかりの『使徒』などという謎の職業を与えるだけで、あとは僕を放置しているような神だ。魔物たちに襲われ殺されそうだった時にも助けになど来ない。そんな存在が僕のささやかな願いなんてかなえてくれるはずがない。
神様に対しても、この世界に対しても考えれば考えるほど愚痴が湧いてくる始末だ。
いくら納得しようとしても、思い出せば腹が立ってくる。それぐらい――
「――アニー……アニー・グレー」
頭の中で世界に対する愚痴を考えているタイミングで、何か声が聞こえたような気がした。
考え事をしていたらだんだん腹が立ってきて忘れていたが、そもそも、どうしてそんなことを考え始めたのだろう。そうだ! ウィークに本名を聞いたんだった。それで、ネガティブなことを考え始めたら、神に対して思うところがあふれてきたんだった。
いや今はそんなことどうでもいい。それより、ずっとそっぽを向いていたウィークが僕の方を見てようやく口を開いてくれたんだ。それを聞いていなかったなんて口が裂けても言えない。
彼女が僕に対して『あ』から始まる何かを言った。確かにそれは聞こえたけど、その続きはよく聞き取れなかった。僕の考えが正しければ、本名を簡単に教えてくれるはずがない。きっと『あんたなんかに教えるわけないでしょ』とか、そう言った類のことを言ったのだろう。もしそうだったとしても、返事をくれた分、大きな進歩だと言える。
だけどそれも確証はない。僕は適当に誤魔化すように笑ってみることにした。
言葉が聞き取れなかったときはそうするに限る。笑っているから相手にも不快感を与えないし、何となく怒る気にもなれないだろう。
そんな僕を見て彼女は僕が聞き取れなかったということに気がついたのだろう、大きくため息をついて仕方がないといった風に同じ言葉をもう一度口にした。
「アニー・グレー。私の名前……」
「名前!? ああ、名前ですか」
普通に名乗ってくれただけだったようだ。
僕の早とちりで、また余計なことを言うところだった。やっぱり誤魔化し笑いは偉大だ。
ともかく、ウィークこと、アニーは自分の意思を曲げて名乗ってくれた。これならお姉さんともすぐに仲直りできるはずだろう。
「改めてよろしくお願いします。アニーさん」
僕はアニーに手を差し伸べる。それをアニーが面倒くさそうに握り返した。
「よろしく」
その様子を目を見開いて横目で見守っていたお姉さんが、感極まって涙を流し始めた。
「アニー……」
僕に対して本名を名乗ったというだけなのに、どれだけ大げさなんだろう。どう考えたって、泣くほどのことではない。それなのにアニーの方も感慨深げな声を出す。
「……お姉ちゃん」
二人の間に何があったのかは近くで見ていた僕にさえわからないが、ともかく二人は手を握り合って幸せそうに笑いあっている。
はっきり言って、僕には全くわけがわからない。
きっとそれは、姉妹である二人にしか理解できない世界なのだろう。
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