転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

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4 勇者が生まれる

28 勇者の誕生

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 自称神は悪びれる様子もなく、自分の犯した罪を打ち明けた。と言っても彼女自身が神なわけで、それが罪かどうかを決めるのも彼女自身というわけだ。神っていうやつはいつの時代でも自分主体で動いているように感じる。
 どうして神はこんな奴を神だと認めたのだろう。

「あっそ……だったらはっきりと言わせてもらうが、私が証人になるのは絶対にありえないぞ」
 誰が自分勝手な神の駒として動いてやるものか、私は私のために、メリーが自由に選択できるように計らうとしよう。
「あなた神に期待しすぎ! もしかして私が勇者を選定しているとでも思っているの?」
「違うのか?」
 太古の昔から、勇者という偶像を作りだすのは神の御業だとか騒いでいる連中がいる。
 近年の勇者で最も優秀だと言われるアルタ・ロットワイラーですら、神託によってその道を選ばざるをえなくなったという噂だ。つまるところ勇者になりたいとか、なりたくないとかではなく、それこそ才能があればならなければならない職業だ。
 それは神が選んだということと相違ない。

「相違あります。私は勇者を選定することなんて出来ません。出来ることは、この体の主と同じで鑑定することぐらいです」

 なんて神は言うが、それも本当か怪しいものだ。
 私を丸め込むためについている嘘かもしれない。相手の頭にある記憶をすべて読み取ったうえで言葉を紡ぐことが出来る神だ。そんな理不尽な力を持っているのであれば、私が望む言葉を口に出来たとしても不思議ではない。――なんて考えることは不毛だ。
 嘘なんてどのような身分の者だとしても、日常的に口にするだろう。それが神だろうと、悪魔だろうと同じことだ。相手が自分より上手だろうが、その者が口にした言葉を信じるか信じないかはすべて自分次第なのだから。
 
「あんたの言うことが本当だとして、だったらどうしてメリーなんだ?」
 勇者かどうかも分からないメリーの職業を見ることに何の意味があるのだろう。
「それはメリーが勇者だからとしか言いようがないけど……それを言っちゃったらメリーが勇者であることが確定しちゃうし……そもそも、ケンの血縁者に勇者が生まれるように細工したのは私だし……でもそれをイザベラに伝えるわけにもいかないし……」
 神は頭を抱えて何やらぶつぶつとつぶやいている。あからさまに悩んでいると言いたげだが、とても神様がとるような言動ではない。
 それも私が神を特別視しすぎているということなのだろうか。

「あ、そうだ! こうしましょう! メリーは勇者の末裔だからよ!」
 意気揚々と神はそう言う。
 だけど私にはわかる。それは明らかに嘘だと。
 もちろん私はメリー達の出自を詳しく知っているというわけではないし、もしかしたら本当に勇者の末裔な可能性だって捨てきれない。だけど、神が言った言葉だけは嘘だってわかる。いいや私でなくともわかるはずだ。そうでなければ『あ、そうだ!』なんて言葉を口にするわけがない。
 だがここはあえて突っ込まないでおこう。神という存在が、嘘をついてまで隠し通したいこと。そんなものを直接問いただして、神の機嫌を損ねたくはない。どんな面倒事に巻き込まれるかわからないしな。

「ふーん、そうなんだ」
 信じてないのに信じたふりをするということは難しいらしく、なんだかそっけない返事になってしまったような気がするが、まあ私はいつもこんなものだろう。
「いやいや、私心読めるからね?」
 そういえばそうだった。まあそれならそれで話が早い。
「だったら別に口に出したって同じか……どうして嘘をつくんだ?」
「本当のことは言えない契約だからよ」
 神様はためらうこともなく言い切る。
 だけどそれならそうと初めから言えよ。時間の無駄だから、馬鹿。なんてことは口が裂けても言えない。

「だから聞こえてるってば!」
「おっと、これは失礼。だが口には出していないから気にしないでくれ」
 怒らせてはまずいということはわかっているが、なぜだが冷やかしてしまう自分がいる。今までこのような、人をおちょくった話し方をしたことは一度もない。それなのに、自称神の前ではそれを抑えることが難しい。それも彼女の力によるものなのだろうか? いいや流石にそれは考えすぎか……

「それで話を戻すんだけど、メリーの職業を調べちゃうわね?」
 神は強引にメリーを起こす。
 彼女をメリーに触れさせるとは、私もずいぶんと油断していたらしい。先ほどまでのお調子者な振る舞いは、全て演技だったのだろう。
「おい!?」
 私はメリーを取り返そうと手を伸ばした。気がついた時にはもう遅い。――私の手がメリーに届くことはなかった。

「う~ん……なに?」
「メリー、これを」
 神は眠気眼なメリーに小さな紙切れを握らせる。間違いなく冒険者免許証だ。
 ただ一つ、神が間違いを犯した。冒険者免許証は魔力を込めなければただの紙切れで、メリーは魔力の込めなど知らないということだ。

「残念だったな。それじゃあ――」
 私が言い切る前に、免許証に文字が浮かび上がってくる。 
「それは私の言葉だね。もしかして知らなかったの? 職業を知るには必ずしも魔力が必要じゃないってことを?」
 神の言うとおりだ。魔力がなくても職業を知る方法はある。
 魔力がなければ職業を知ることが出来ないというのなら、魔力がない者は冒険者になることは出来ない事になってしまうからな。
 だがそれは事前準備が必要で、その準備には1時間以上かかる上に、2時間ほどしか効果はない。そんなものを準備する時間などなかったはずだ。
……いや、時間はあった。私たちがここを訪れる前だ。私たちが訪れる時間をあらかじめ知っていれば、ベティはその準備を怠らないはずだ。

「最初からすべて仕組まれていたというわけだな?」
 私の問いかけに、神は笑って「ええ」と返事をした。

「どういうこと?」
 メリーは寝ぼけ顔で免許証を軽く握りしめた。
 流石に寝起きでは状況がつかめないらしい。
 私はメリーを抱き寄せて、軽く頭をなでる。彼女の行く末を考えると、神に対して憤りすら感じる。
 彼女を抱き寄せた時にちらりと見えた免許証の適職には、たった一つだけ職業が書き込まれていた。『勇者』と。

――その後、神は「彼がまた助けを求めているわ」とだけ残して、ベティの体から去って行った。
 気を取り戻したベティはメリーの職業を知ると騒ぎ始めたが、出来うる限り内密にすることを誓わせた。ロットワイラーでない犬種が勇者に選ばれるということは、差別主義者たちにとって面白くないことだ。一体どのような仕打ちをされるかわかった者じゃない。
 幸い、この役所は貴族も平民もわけ隔てなく接することだけが取り柄のようなところだ。だがそれでも、いつかはどこかから情報は洩れてしまう事だろう。
 メリーが勇者になってしまったのは私の責任でもある。私が尽力してメリー達を守らなければならない。


 
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