転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
30 / 170
5 笑われる

29 帰宅

しおりを挟む
――ふらふらと、大通りを歩きながら何となく昨日のことを思いだしていた。
 巨大な魔物に襲われて死ぬ。
 この世界においては当たり前に起きていたことだ。それをたまたま通りかかった少女たちに助けられたというだけのことで、もし仮に助けなど来なければ僕だって死んでいたはずだ。実は魔力で治っていたはずだったとか、そんな野暮なことは言うつもりはない。
 だから今歩けることすら、アルタ・ロットワイラーのおかげだと言っても過言ではない。
 それなのに今日の僕ときたらどうだ……たかだか少し大きなイノシシごときに命を取られそうになる始末だ。

「魔力は思ったよりも使えないし、武器もこのざま……前途多難だな」
 腰の鞘に差し込んだ短刀の柄を握りしめて、本日の失態について反省する。
 せっかく救ってもらった命だ。いとも簡単に失われるってわけにはいかないだろう。
 まだアルタに恩も返せていないわけだしな。

 そんな傷心気味な僕の耳に、すれ違った男たちが話している声が入ってきた。
「おい、聞いたかよ」
 それに対してもう一人の男が問う。
「何を?」
「噂で聞いたんだが、勇者様が重傷を負ったてよ!」
「は? 何言ってんだ……勇者様はポーションっていう超高級な薬が支給されているんだぞ?」
「ああ、そのどんな傷でも治すっていう薬な……他の冒険者に使っちまったらしく、持ってなかったんだとさ」
 間違いない、男たちが噂している勇者とはアルタのことだ。
 そう気がついた僕は我慢することが出来ず、男たちに問いただすために掴みかかる。

「アルタが大けがだって?」
 僕にポーションを使ったがために、彼女が回復できなかったというのであれば、それは僕が最も恐れていたことだ。――ひよっこ冒険者のために、勇者が命を投げうる。そんなことは絶対にあってはならない。
 そんな焦りのために僕はミスを犯した。

「なんだ……この犬種?」
 噂を聞いていた方の男が、噂をしていた方の男に問いかける。
「知るかっ! 最悪だぜ、犬種に触られちまった!」
 もちろん、僕と彼は友人でもなければ、顔見知りでもない。彼にとっては他人だ。それもこの街において差別対象である犬種のだ。
「知らないやつなら、そうだな……ちょっと遊んでやるか?」
「馬鹿言うな汚らわしい犬種だが、こんな奴でも勇者アルタ様と同じ種族だ。アルタ様が大けがを負ったって時にそんなことできるか!」
「それもそうだな……お前の噂話が本当ならだけどな」
「本当だって! ポーションの方はわからないけど、さっき大けがをして運ばれてきたアルタ様を見たってやつから聞いたからよぉ!」
 2人は僕のことを全く無視して、そのままどこかへ去って行った。
 どうやら僕はぼこぼこにされずに助かったらしいが、2人の会話から大怪我を負ったのはアルタで間違いないということはわかった。

「これはいよいよ面倒なことになりそうだ……」
 アルタに作った借りが、大きな借りになってしまったということもある。
 だがそれ以上に、アルタが大けがを負う原因となったのが僕だと知ったロットワイラー家の当主が何をしてくるかわからない。
 いずれにせよ、非常にまずい状況だ。何がまずいって、アルタが死んでしまったら僕の人生が終わってしまう。そうなる前にどうかしなければならないのだが、僕に出来ることと言えば魔力を人より上手に扱うことぐらいだ。ポーションを作るほど魔力量は多くないし、他人に対して魔力を注ぐことは出来ない。残念ながら僕が出来ることはないだろう。――それが現実だ。
 そもそもの話だが、ポーションを作れたところで、勇者に飲ませること自体が無理だろう。 
 残念だけど、残りは天命にかけるほかない。

 僕は無力だ。命の恩人に対して、些細な恩返しすらすることが出来ないのだから。
「とりあえず一度店に帰るか……」
 もうすでに夕刻だ。

 大通りを下り、すでに少しだけ馴染みを覚えた喫茶店に入る。なぜだが『close』の掛札がついており、中はいつにもまして薄暗い。
「カギはかかってないみたいだ」
 外出しているというわけではないらしい、そうでなければカギをかけるはずだ。
 どうしてだが不吉な予感がした。直感に自信があるというわけではないが、こういう予感があった時は大抵ろくなことがない。それは僕が2度の人生で実感したことだ。間違いなく何かがある。
 僕は急いで中へと入った。
 だがしかし、以外にも中は薄暗いという点を除けは何も変化はない。

「帰ってきたか……お帰り」
 最初に声をかけてきたのはイチゴだが、明らかにテンションが低い。
「お兄ちゃんおかえり!」
 それに比べて、妹、メリーはいつもの調子で僕の方に駆け寄ってくる。変わった様子はない。
 だがイチゴが申し訳なさそうに視線を下げているという点を考慮しても、メリーに何かがあったというのは明白だ。僕がこの店に残して行ったのはメリーぐらいで、イチゴが僕に対して何か罪悪感を抱くとしたらメリーだけなのだから当然の推理だ。
 むしろ、それ以外のことは割とどうでもいい。

「どうしたんですか?」
 どうでもいいことの方であってくれ、なんてことを思いながらもイチゴに問いかける。
 イチゴは僕の目を一瞬だけ見て、すぐに顔をそらした。よもや、昨日の喧嘩をいまだに引きずっているというわけではないだろう。それならば、帰ってきた僕に対して挨拶などするはずがない。何があったのだろうか……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...