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6 勝者と敗者
42 魔力水
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「それでどんなのですか?」
アニーが図鑑をめくるのを待ちきれず、僕は思わず覗き込む。ページは索引のところだった。
索引の中にある魔法水の項目を探しながら、アニーは僕を制止した。
「ちょっと待って……あった、これ」
それと同時に彼女は魔法水の文字を見つけたようだ。ページをぱらぱらとめくり、項目のページを開く。
僕は再び図鑑を覗き込んだ。
そこに載っていた写真を見ると、水のしずくが大きくなって固まったような物が映っていた。よくよく目を凝らしてみると、その水の中に小さな固形の青い玉が浮かんでいる。言葉では説明が難しいが、僕が思った感想は一つだ。
「思ったより気持ち悪いですね……」
「魔物の一種ですからね」
お姉さんがトンデモないことを口にした。
魔力水というぐらいだからただの水だとばかり思っていた。
「魔物なんですね……そんなものを飲むなんて信じられないですね。ん? いやちょっと待てよ。確か僕はあの日、瀕死の状態でアルタに助けられた。その時、確かに彼女はポーションを僕にくれようとしていたはずだ。いやいや、確かにポーションを僕にくれたのだろうけど、まさか……いや、そもそもポーションって名前だから飲むものだと勝手に思い込んだけど、塗り薬かもしれないよな……うん、きっとそうだ」
いやなことを思いだしてしまった。
喉を通る不気味なドロドロと、ぶにょぶにょとした食感。まるで出来損ないのわらび餅を口の中に流し込まれたかのような感覚だった。それに、もっとも不快だったのはその味だ。あれを思い出しただけで――寒気が止まらない。
震えている僕に追い打ちをかけるかのように、お姉さんはあっけらかんと言い放つ。
「ポーションは飲み薬ですよ」
僕が現実を突き付けられた瞬間だった。
僕は思わず怒鳴る。
「ちょっと、お姉さん。せっかく人が現実逃避しているのに!」
しかし、お姉さんはまるで反省する気もないようで、人差し指を左右に何度か振った。
「現実から逃げるのはよくないことですよ」
確かにお姉さんの言うとおりなのだが、今は誰もそんな話はしていない。
マイペースなお姉さんのペースにのまれるとあれなので、僕は半分ぐらいあきらめ気味に言う。
「わかってますよ。だけど僕が言いたいのはそんなことじゃなくて……まあいいや。でも魔力水が魔物だとするなら、ただの水よりも探すのは困難を極めると思うのですが」
別にお姉さんが悪いわけでもないし、これ以上文句を言っても始まらない。僕はそう思って、元の話題に話を戻した。
「うん、魔力水は高い魔力を探して、あちらこちら移動する魔物だから特に見つからない。レアな魔物です」
「そんな魔物、どうやって捕まえるんですか?」
魔物ともなるとすぐに移動してしまうし、特に魔力水は一流の魔法使いが何か月もかけてようやく見つけられるなんて代物だ。おそらく生息地などもわかっていないのだろう。
だが以外にも、お姉さんは簡単に言って見せた。
「それは簡単です。魔力水は魔力に引き付けられる習性がありますから、単純に魔力を放出させれば簡単に飛びついてくれますよ」
「飛びついて……」
その言葉は不吉だ。
言葉を話しの流れのままとらえるならば、見つかるということを表しているのだろうが、スライムみたいな魔物ということもあり、本当の意味でとびかかってくるなら悲惨な未来が見え隠れしている。
「私も嫌な予感がする」
「大丈夫、大丈夫。そもそもそんなに見つかるものでもないし、むしろ見つかればそれだけで運がいいんだし、多少の不運ぐらいは……大丈夫ですよ」
いやいや、さっきは簡単に見つかるって言ってじゃないか……なんて思いながらも、それは口にしないことにした。
「じゃあなんでそんなにテンションが低いんですか?」
これまた嫌な予感がする。
「だってこれ……」
そう言ってお姉さんが指差したのは、欄外の注意事項だ。
そこに記されているのは、『生息地不明』だとか、『移動する』だとか特徴の補足的なことが多いが、その中でも目を引く項目があった。
「類似の魔物ですか」
魔力水と同じような写真が貼られており、写真の下には『アメーバ』と書かれている。
それを見て、アニーが突拍子もないような声を上げた。
「ああ……! まさか……こ、これは」
「アニーさん知ってるんですか?」
彼女の反応を見るに、おそらくろくな魔物ではないのだろう。
僕は息をのんで、アニーが語り始めるのを待つ。
「……それは、冒険者泣かせのアメーバ。一度まとわりついたら、水で体を洗わない限りはずっとくっ付いてくる……万が一……! 顔につかれたら、水場につくまでに窒息死なんてことも」
「怖すぎません?」
やばすぎだろう。冒険に出て魔物にやられて窒息死……恐ろしすぎて冒険に出たくなくなるレベルですらある。そのうえ、中級冒険者であるアニーが怯える程らしい。僕なんかがであったらひとたまりもない。
そんな話を聞いたうえで、お姉さんは気軽に言った。
「はい、だから冒険者泣かせなんですよ。どれだけ一流の冒険者になっても、些細なことで死ぬのは日常茶飯事です。その中でも特に多いのが、アメーバによる窒息死。でもちょうどいいじゃないですか……魔力水とアメーバ、見た目は似てますけど、出現率は圧倒的にアメーバの方が高いです」
あなたは話を聞いていたんですか!? と、叫びたくなるのをぐっとこらえ、僕は言葉の意図について問う。
「アメーバ狩りして日銭を稼いで、魔力水を探せと?」
出来れば僕の予想が外れていることを望むが、僕の質問に対してお姉さんが笑顔なのが怖い。
残念なことに、次に彼女が言う言葉もなんとなく予想が出来てしまう。
「察しがいいじゃないですか」
悪い予想というやつは、なかなか的中率が高いらしい。これも種族的に犬に近づいたことによる自然回帰というやつだろうか。もしそうなのだったらそんな力は必要なかった。
「死んだらどうしてくれるんですか!?」
僕は思わず大きな声を出した。妹を護るためにお金を稼ぐのだから、死んでしまっては意味がない。
だけど、冒険者とて一応は国に雇われた人間だ。何かしら保障とか、労災保険的な何かがあるのかもしれない。最底辺職だなんて言われていても、何かしらの最低の制度ぐらいはあるだろう。
「どうもしません。冒険者は毎年ごろごろ死んでいますからね……国もそこまでは保証できませんよ。ただ、そこであなたの物語が終わるだけです」
ブラック企業以下のブラックさだ。
給料の最低保証もなければ、何らかの保険もない。だけど、それなら報酬金は高くてもおかしくないはずだ。
「そんな……でもそこまで脅威なら報酬金は――」
「高くないです。そもそも、人が通るような道には居ませんからね。駆除依頼自体がほとんどないです……でも迷惑なんですよ気持ち悪いし」
「えぇ……」
報酬も高くなくて、その上、ほとんど誰にも求められていない仕事を斡旋されたのは初めてだ。これじゃあ窓際族以下じゃないか……
アニーが図鑑をめくるのを待ちきれず、僕は思わず覗き込む。ページは索引のところだった。
索引の中にある魔法水の項目を探しながら、アニーは僕を制止した。
「ちょっと待って……あった、これ」
それと同時に彼女は魔法水の文字を見つけたようだ。ページをぱらぱらとめくり、項目のページを開く。
僕は再び図鑑を覗き込んだ。
そこに載っていた写真を見ると、水のしずくが大きくなって固まったような物が映っていた。よくよく目を凝らしてみると、その水の中に小さな固形の青い玉が浮かんでいる。言葉では説明が難しいが、僕が思った感想は一つだ。
「思ったより気持ち悪いですね……」
「魔物の一種ですからね」
お姉さんがトンデモないことを口にした。
魔力水というぐらいだからただの水だとばかり思っていた。
「魔物なんですね……そんなものを飲むなんて信じられないですね。ん? いやちょっと待てよ。確か僕はあの日、瀕死の状態でアルタに助けられた。その時、確かに彼女はポーションを僕にくれようとしていたはずだ。いやいや、確かにポーションを僕にくれたのだろうけど、まさか……いや、そもそもポーションって名前だから飲むものだと勝手に思い込んだけど、塗り薬かもしれないよな……うん、きっとそうだ」
いやなことを思いだしてしまった。
喉を通る不気味なドロドロと、ぶにょぶにょとした食感。まるで出来損ないのわらび餅を口の中に流し込まれたかのような感覚だった。それに、もっとも不快だったのはその味だ。あれを思い出しただけで――寒気が止まらない。
震えている僕に追い打ちをかけるかのように、お姉さんはあっけらかんと言い放つ。
「ポーションは飲み薬ですよ」
僕が現実を突き付けられた瞬間だった。
僕は思わず怒鳴る。
「ちょっと、お姉さん。せっかく人が現実逃避しているのに!」
しかし、お姉さんはまるで反省する気もないようで、人差し指を左右に何度か振った。
「現実から逃げるのはよくないことですよ」
確かにお姉さんの言うとおりなのだが、今は誰もそんな話はしていない。
マイペースなお姉さんのペースにのまれるとあれなので、僕は半分ぐらいあきらめ気味に言う。
「わかってますよ。だけど僕が言いたいのはそんなことじゃなくて……まあいいや。でも魔力水が魔物だとするなら、ただの水よりも探すのは困難を極めると思うのですが」
別にお姉さんが悪いわけでもないし、これ以上文句を言っても始まらない。僕はそう思って、元の話題に話を戻した。
「うん、魔力水は高い魔力を探して、あちらこちら移動する魔物だから特に見つからない。レアな魔物です」
「そんな魔物、どうやって捕まえるんですか?」
魔物ともなるとすぐに移動してしまうし、特に魔力水は一流の魔法使いが何か月もかけてようやく見つけられるなんて代物だ。おそらく生息地などもわかっていないのだろう。
だが以外にも、お姉さんは簡単に言って見せた。
「それは簡単です。魔力水は魔力に引き付けられる習性がありますから、単純に魔力を放出させれば簡単に飛びついてくれますよ」
「飛びついて……」
その言葉は不吉だ。
言葉を話しの流れのままとらえるならば、見つかるということを表しているのだろうが、スライムみたいな魔物ということもあり、本当の意味でとびかかってくるなら悲惨な未来が見え隠れしている。
「私も嫌な予感がする」
「大丈夫、大丈夫。そもそもそんなに見つかるものでもないし、むしろ見つかればそれだけで運がいいんだし、多少の不運ぐらいは……大丈夫ですよ」
いやいや、さっきは簡単に見つかるって言ってじゃないか……なんて思いながらも、それは口にしないことにした。
「じゃあなんでそんなにテンションが低いんですか?」
これまた嫌な予感がする。
「だってこれ……」
そう言ってお姉さんが指差したのは、欄外の注意事項だ。
そこに記されているのは、『生息地不明』だとか、『移動する』だとか特徴の補足的なことが多いが、その中でも目を引く項目があった。
「類似の魔物ですか」
魔力水と同じような写真が貼られており、写真の下には『アメーバ』と書かれている。
それを見て、アニーが突拍子もないような声を上げた。
「ああ……! まさか……こ、これは」
「アニーさん知ってるんですか?」
彼女の反応を見るに、おそらくろくな魔物ではないのだろう。
僕は息をのんで、アニーが語り始めるのを待つ。
「……それは、冒険者泣かせのアメーバ。一度まとわりついたら、水で体を洗わない限りはずっとくっ付いてくる……万が一……! 顔につかれたら、水場につくまでに窒息死なんてことも」
「怖すぎません?」
やばすぎだろう。冒険に出て魔物にやられて窒息死……恐ろしすぎて冒険に出たくなくなるレベルですらある。そのうえ、中級冒険者であるアニーが怯える程らしい。僕なんかがであったらひとたまりもない。
そんな話を聞いたうえで、お姉さんは気軽に言った。
「はい、だから冒険者泣かせなんですよ。どれだけ一流の冒険者になっても、些細なことで死ぬのは日常茶飯事です。その中でも特に多いのが、アメーバによる窒息死。でもちょうどいいじゃないですか……魔力水とアメーバ、見た目は似てますけど、出現率は圧倒的にアメーバの方が高いです」
あなたは話を聞いていたんですか!? と、叫びたくなるのをぐっとこらえ、僕は言葉の意図について問う。
「アメーバ狩りして日銭を稼いで、魔力水を探せと?」
出来れば僕の予想が外れていることを望むが、僕の質問に対してお姉さんが笑顔なのが怖い。
残念なことに、次に彼女が言う言葉もなんとなく予想が出来てしまう。
「察しがいいじゃないですか」
悪い予想というやつは、なかなか的中率が高いらしい。これも種族的に犬に近づいたことによる自然回帰というやつだろうか。もしそうなのだったらそんな力は必要なかった。
「死んだらどうしてくれるんですか!?」
僕は思わず大きな声を出した。妹を護るためにお金を稼ぐのだから、死んでしまっては意味がない。
だけど、冒険者とて一応は国に雇われた人間だ。何かしら保障とか、労災保険的な何かがあるのかもしれない。最底辺職だなんて言われていても、何かしらの最低の制度ぐらいはあるだろう。
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給料の最低保証もなければ、何らかの保険もない。だけど、それなら報酬金は高くてもおかしくないはずだ。
「そんな……でもそこまで脅威なら報酬金は――」
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