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「もう一つ笑えないジョークを言ってやろう。この店では銃を扱って居るが、儂は見ての通り猫種だ。いぬっころのおぬしでも理解できるだろうが、儂は銃が苦手で使ったこともなければ、使いたいと思ったことすらない。まあ、試し打ちもしたことないということじゃが……今のところクレームは一度たりとも来たことがない。理由は何だと思う?」
ノラが僕のもとに詰め寄る。威圧感がすごく、相手はしわがれた声を出す老人だというのに、今にも取って食われそうな勢いだ。
そんなプレッシャーの中、僕は小さくこぼした。
「まさか……暴発したら使用者が死ぬからですか?」
もしそうだとしたら、何とも笑えないブラックジョークだ。死人に口なし……なんてよく言ったものだ。死んでいてはクレームを入れることすらできないのだ。
そんな僕の言葉を聞いて、まずアニーがくすりと笑い。それにつられてノラが大笑いした。
「まさか、ただそもそも銃なんていうものは使える獣人が少ない。まあ、そもそも実践のために買っていくやつがほとんどいないからだ。ここはいわゆるガンコレクターのためにある店じゃ。実用するのは弱虫ぐらいなもんじゃろう……すべての武器を扱えたとしても、そもそも向き不向きがあるからな。ケンとやらにも使うことは出来まい。誰もが扱うことのできなかった銃を使うことが出来た彼女を人との会話が苦手なことを皮肉って皆は弱虫と呼ぶが、儂はこの世で最も野生の生存本能に従ったアニー・グレイを弱虫と呼ぶ……獣が銃を持つとは鬼に金棒、いいや、人間に核兵器といったところだろう」
ノラの口からは耳を疑うような言葉が出た。
この世界で僕が出会った人物が誰も知らなかった言葉だ。目の前にいる老猫はその言葉を知っていた。
「人間!?」
あり得ない。この世界においては、人間という種族は存在せず、故郷の村で教わった国の歴史にもそのひとかけらも情報はなかった。だから、この世界は女神が言ったように異世界だと僕は信じていた。実際、魔力だとか、魔法だとかは僕が前世で暮らした世界には存在しなかったわけで、ここが異世界であることは紛れもない事実だと信じていた。
異世界だからこそ、純粋な犬が存在しないのは当たり前だと思い込んでいたのから。
僕が慌てふためいている様子を見て、アニーはもちろん何が起きたかすら理解していない様子だが、ノラはしわしわの顔にさらにしわを作って満面の笑みを浮かべながら、さらに驚くようなことを口にした。
「何を驚く、なぜ驚く? 儂らは人間を模倣して進化した生物に過ぎない。古代よりも昔の時代、世界を支配していたのは人間なる種族だ。犬種であるお前には、その人間との暮らしの面影が残っているだろう? どんな種族よりも脆弱な人間が、なぜ世界を支配できたのか……それは器用さゆえにだ。だからすべての種族はそれをジーンに刻み、進化してきたのじゃろう? そして進化の過程で淘汰された存在は……人間が生み出した核によって生じたいびつな世界で魔物になった」
彼女が口にした物語は、僕の知る教科書には乗っていないことばかりだ。それは僕が辺境の田舎で、ほとんど学がないような村で数年程度しか勉強をさせてもらえなかったからということもあるだろうが、事実、この街の図書館で調べた内容に、そのような事実はなかった。
いいや、彼女の言葉が事実だとするなら、誰かが隠しているのだろう。
そんなことはどうでもいい。僕にとって重要なのは、彼女の言葉が事実だとするなら、この世界に犬が存在するかどうかということだけだ。犬が存在するなら、あとのことなどどうでもいいのだから。
「村ではそんな話を聞いたことがない……文字が読めるなりに、図書館で調べたけどそんな文献はなかった。一体どこでそんな話をお聞きになったのですか?」
表面上は冷静でいるつもりでも、ノラにはすべてがわかっていたのだろう。彼女は再び僕を見て大げさに笑った。
「どこで? 場所がそんなに重要かのう? 重要なのは誰から聞いたか、どうして聞いたかじゃろう?」
心を読まれているというのは不思議な感覚だ。文字通り、僕の思考はすべて筒抜けということなのだろう。駆け引きというものがまるで役に立たない。
僕は言葉を訂正する。
「では、誰から?」
「いぬっころは知らなくていいことじゃ、知れば世界を恨むことになるじゃろう……誰よりも犬を愛した存在ならばな」
だったら初めからそう言えよ……なんて心の中で思ってから、はっとする。
どうやら、また心を読まれたらしい。
「また心を読んだんですね?」
本当に面倒な婆さんだ。
「いいことを教えてやろう。儂のような人の心を読む魔法を使う獣人の前では、たやすく信頼せず、容易に本当の感情を出さぬことだ。そうでないと、秘密を知られることになる。まあ、そんなことはどうでもいいじゃろう、おぬしは冒険者で儂は武具屋……ましてやおぬしは上客ウィーク・グレイの仲間じゃ、いぬっころであったとしても客なら別だ。商品に関することならなんでも教えてやる」
どや顔でそんなことを言ってくれるが、最初からそんなことはわかっている。それでも、人間が存在した事実があるということは、犬が存在したという事実も分かるかもしれないということだ。なりふり構っている場合ではない。
僕は感情に従い、目の前の老猫につかみかかる勢いで迫る。
「そんなことはどうでもいいです。人間について教えてください!」
「情報は無料ではない。それが自らの命に係わるものなら、なおさらじゃろう?」
老猫ノラは僕なんかには臆することもないようだ。軽くあしらわれてしまった。
彼女は力おしではどうにもならない相手ということだ。そうなると非常に厄介だ。この世界において、犬種というのは知っての通り権力面で非常に弱い種族で、あるいは猫種にすらはるかに劣る。アニーの知り合いであるノラならせ愛の秘密について教えてくれる可能性は十二分にあるが、それはアニーが一緒だという条件を踏まえての話だ。
この機会を逃せば、もう二度とこんなチャンスはないかもしれない。
「っ……!」
だが、今の状況を覆すほどの力は僕にはない。そのうえ、情報を買うためにお金を使えるような経済状況でもない。妹のメリーを養うことを最優先にしなければならないからだ。
「今日は諦めた方がいい。それにノラさんは武具屋、武器や防具を買うところ」
「わ、わかりました」
アニーになだめられ、いまいち納得できない僕も引かざるを得なかった。
ノラが僕のもとに詰め寄る。威圧感がすごく、相手はしわがれた声を出す老人だというのに、今にも取って食われそうな勢いだ。
そんなプレッシャーの中、僕は小さくこぼした。
「まさか……暴発したら使用者が死ぬからですか?」
もしそうだとしたら、何とも笑えないブラックジョークだ。死人に口なし……なんてよく言ったものだ。死んでいてはクレームを入れることすらできないのだ。
そんな僕の言葉を聞いて、まずアニーがくすりと笑い。それにつられてノラが大笑いした。
「まさか、ただそもそも銃なんていうものは使える獣人が少ない。まあ、そもそも実践のために買っていくやつがほとんどいないからだ。ここはいわゆるガンコレクターのためにある店じゃ。実用するのは弱虫ぐらいなもんじゃろう……すべての武器を扱えたとしても、そもそも向き不向きがあるからな。ケンとやらにも使うことは出来まい。誰もが扱うことのできなかった銃を使うことが出来た彼女を人との会話が苦手なことを皮肉って皆は弱虫と呼ぶが、儂はこの世で最も野生の生存本能に従ったアニー・グレイを弱虫と呼ぶ……獣が銃を持つとは鬼に金棒、いいや、人間に核兵器といったところだろう」
ノラの口からは耳を疑うような言葉が出た。
この世界で僕が出会った人物が誰も知らなかった言葉だ。目の前にいる老猫はその言葉を知っていた。
「人間!?」
あり得ない。この世界においては、人間という種族は存在せず、故郷の村で教わった国の歴史にもそのひとかけらも情報はなかった。だから、この世界は女神が言ったように異世界だと僕は信じていた。実際、魔力だとか、魔法だとかは僕が前世で暮らした世界には存在しなかったわけで、ここが異世界であることは紛れもない事実だと信じていた。
異世界だからこそ、純粋な犬が存在しないのは当たり前だと思い込んでいたのから。
僕が慌てふためいている様子を見て、アニーはもちろん何が起きたかすら理解していない様子だが、ノラはしわしわの顔にさらにしわを作って満面の笑みを浮かべながら、さらに驚くようなことを口にした。
「何を驚く、なぜ驚く? 儂らは人間を模倣して進化した生物に過ぎない。古代よりも昔の時代、世界を支配していたのは人間なる種族だ。犬種であるお前には、その人間との暮らしの面影が残っているだろう? どんな種族よりも脆弱な人間が、なぜ世界を支配できたのか……それは器用さゆえにだ。だからすべての種族はそれをジーンに刻み、進化してきたのじゃろう? そして進化の過程で淘汰された存在は……人間が生み出した核によって生じたいびつな世界で魔物になった」
彼女が口にした物語は、僕の知る教科書には乗っていないことばかりだ。それは僕が辺境の田舎で、ほとんど学がないような村で数年程度しか勉強をさせてもらえなかったからということもあるだろうが、事実、この街の図書館で調べた内容に、そのような事実はなかった。
いいや、彼女の言葉が事実だとするなら、誰かが隠しているのだろう。
そんなことはどうでもいい。僕にとって重要なのは、彼女の言葉が事実だとするなら、この世界に犬が存在するかどうかということだけだ。犬が存在するなら、あとのことなどどうでもいいのだから。
「村ではそんな話を聞いたことがない……文字が読めるなりに、図書館で調べたけどそんな文献はなかった。一体どこでそんな話をお聞きになったのですか?」
表面上は冷静でいるつもりでも、ノラにはすべてがわかっていたのだろう。彼女は再び僕を見て大げさに笑った。
「どこで? 場所がそんなに重要かのう? 重要なのは誰から聞いたか、どうして聞いたかじゃろう?」
心を読まれているというのは不思議な感覚だ。文字通り、僕の思考はすべて筒抜けということなのだろう。駆け引きというものがまるで役に立たない。
僕は言葉を訂正する。
「では、誰から?」
「いぬっころは知らなくていいことじゃ、知れば世界を恨むことになるじゃろう……誰よりも犬を愛した存在ならばな」
だったら初めからそう言えよ……なんて心の中で思ってから、はっとする。
どうやら、また心を読まれたらしい。
「また心を読んだんですね?」
本当に面倒な婆さんだ。
「いいことを教えてやろう。儂のような人の心を読む魔法を使う獣人の前では、たやすく信頼せず、容易に本当の感情を出さぬことだ。そうでないと、秘密を知られることになる。まあ、そんなことはどうでもいいじゃろう、おぬしは冒険者で儂は武具屋……ましてやおぬしは上客ウィーク・グレイの仲間じゃ、いぬっころであったとしても客なら別だ。商品に関することならなんでも教えてやる」
どや顔でそんなことを言ってくれるが、最初からそんなことはわかっている。それでも、人間が存在した事実があるということは、犬が存在したという事実も分かるかもしれないということだ。なりふり構っている場合ではない。
僕は感情に従い、目の前の老猫につかみかかる勢いで迫る。
「そんなことはどうでもいいです。人間について教えてください!」
「情報は無料ではない。それが自らの命に係わるものなら、なおさらじゃろう?」
老猫ノラは僕なんかには臆することもないようだ。軽くあしらわれてしまった。
彼女は力おしではどうにもならない相手ということだ。そうなると非常に厄介だ。この世界において、犬種というのは知っての通り権力面で非常に弱い種族で、あるいは猫種にすらはるかに劣る。アニーの知り合いであるノラならせ愛の秘密について教えてくれる可能性は十二分にあるが、それはアニーが一緒だという条件を踏まえての話だ。
この機会を逃せば、もう二度とこんなチャンスはないかもしれない。
「っ……!」
だが、今の状況を覆すほどの力は僕にはない。そのうえ、情報を買うためにお金を使えるような経済状況でもない。妹のメリーを養うことを最優先にしなければならないからだ。
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