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人間の情報が唐突に舞い込んだとはいえ、今一番重要なのはロットワイラーからの依頼を成し遂げるということだ。前金としてもらった分だけでは、すぐにとは言わずともいつかは尽きてしまうだろうし、それは遠い未来の話でもない。
何より、ロットワイラー大公……すなわち王に近しい者からの仕事を成し遂げたとなれば、嫌われ者の犬種であったとしても仕事の依頼が舞い込みやすくなるかもしれない。
今日はそれを成し遂げるために武具をそろえに来たのだ。ほかのことに気を取られている場合ではない。
それをノラは気に入らなかったのか、僕の思考に割り込むように口をはさんだ。
「ふん。どうやら、犬種にしてはましな未来設計が出来ているらしい。特殊な事情を持つが故かのう? それでも、やはりいぬっころといったとこだ。まだまだ考えが浅い……いいか? 武器や防具をそろえるということは、将来のためになる。冒険者といえば、少ない報酬でこの世で最も危険な仕事だ。普通ならだれもやりたがらないし、やりたがるのはたいていが何かしらの闇を抱えている。ウィークのように人と話すのが苦手だったり、先祖返りしてしまった獣人だったり……犬種に生まれてしまったりのう」
「先祖返り?」
僕は思わずそう口にした。
『先祖返り』……聞いたことがある。確か、見た目のほとんどが人間と変わらない獣人の中で、獣の見た目を強く受け継いだ存在のことだ。なんでも、普通の獣人よりも戦闘力が大きいが、その魔物的な見た目から忌み嫌われた存在だ。それでも、犬種よりかははるかにマシな環境にいるが、まともな仕事はもらえないと聞いたことがある。しかしそれ以上のことは詳しくは知らない。
そんな僕の思考とは関係ないところで、ノラは苦虫をかみつぶしたような顔をして再び口を開いた。
「失言じゃ……ともかく、そんな低報酬の危険な仕事あっても、以前は国の保証があったが……」
「ほんの少しだけ報酬が高いということだけで、民営のギルドから依頼を受ける冒険者が多くなった」
ノラの言葉を遮るように、アニーが悲しそうにそうつぶやく。
アニーの言葉で思い出したが、確か役所で依頼を受けている場合、保険として報酬金からある程度引かれるらしい。危険な仕事だからこその措置なのだろう。ケガを負って、冒険者として生きてゆけなくなった獣人に、新しい就職先のあっせんと、それが見つかるまでの失業保険をもらえるというわけだ。
だが、その保険料を差し引いたとしても、役所で冒険者がもらえる報酬金は民営ギルドの半分以下だといわれている。もちろん、その分、保証はあるのだが、冒険者なんていう底辺職に就くような奴らは目先の利益しか考えられないのだろう。彼らを卑下しているわけではない。そういった社会的に役立つことを学べる場が少ないこの国を卑下している。
まあ、そんなことは僕にはどうすることもできないし、どうにかしてやる義理もない。
「そうじゃ、まあ、儂の言いたいことも分かるだろう?」
「武具は保険……というわけですね?」
「そうじゃ、獣人にとっては肉体は武器だが、やはりそれを生かすための五体以外の武器もあった方がいいというわけじゃ」
さすが商売上手といったところだ。ノラはこんな暗い空気の中でもきっちりと話をまとめて、最終的には武器を持つことを有用性を説いて見せた。
「そう。そういう風に商売しているからこそ、ノラさんの武具屋は表通りの店とは品質が違う。もちろん、昔からの知り合いなノラさんのところでしか買い物ができないととかそういうことではない」
アニーはノラの回し者ではないかというほど熱心におしてくる。
武器の品質なんてものは素人の僕にはこれっぽっちもわからないのだが、彼女にはそれがわかるとでも言うのだろうか……いいや、到底そうは思えない。
まあ、彼女たちのことを信用できようができまいが、犬種である僕が表通りで買い物なんてできるはずもなく、この店で買う以外に選択肢などはないのだが、粗悪品をかわされたり、必要以上に吹っ掛けられないかが心配だ。
「失礼な奴じゃ。本当に吹っ掛けてやろうか? おぬしの所持金いっぱいいっぱいまでのう」
ノラが少しだけ不機嫌そうに言った。
僕は腰を90度に折り曲げて頭を深々と下げる。
「失礼なことを考えて申し訳ありません!」
心を勝手に読まれて失礼だとか言われるのはほんの少しだけ納得がいかないような気もするが、心を読まれる可能性がある以上は態度で示す以外ない。
「本当に失礼なことを考えておったのか……さすがは、いぬっころだ。従順な態度を見せながらも、心の中では何を考えているか分かったものではない。恐ろしい種族じゃ……なんだ、その不服そうな顔は? 言ったじゃろうが、心を読む魔法は魔力消費が激しいと……じゃが勉強になったじゃろう? 嘘と真実を入り混ぜてする交渉術じゃ。安心せい、引っかかるのはおぬしだけではない。真実という保険料をおぬしに支払っておいたからこそ、嘘がさも真実であるかのように感じられただけじゃ。保険というのはいいものじゃろう?」
ノラは大笑いしてそう説明した。
いま確信したが、僕は彼女のことを好きになれそうにない。むしろ、今にも嫌いになりそうだ。
何より、ロットワイラー大公……すなわち王に近しい者からの仕事を成し遂げたとなれば、嫌われ者の犬種であったとしても仕事の依頼が舞い込みやすくなるかもしれない。
今日はそれを成し遂げるために武具をそろえに来たのだ。ほかのことに気を取られている場合ではない。
それをノラは気に入らなかったのか、僕の思考に割り込むように口をはさんだ。
「ふん。どうやら、犬種にしてはましな未来設計が出来ているらしい。特殊な事情を持つが故かのう? それでも、やはりいぬっころといったとこだ。まだまだ考えが浅い……いいか? 武器や防具をそろえるということは、将来のためになる。冒険者といえば、少ない報酬でこの世で最も危険な仕事だ。普通ならだれもやりたがらないし、やりたがるのはたいていが何かしらの闇を抱えている。ウィークのように人と話すのが苦手だったり、先祖返りしてしまった獣人だったり……犬種に生まれてしまったりのう」
「先祖返り?」
僕は思わずそう口にした。
『先祖返り』……聞いたことがある。確か、見た目のほとんどが人間と変わらない獣人の中で、獣の見た目を強く受け継いだ存在のことだ。なんでも、普通の獣人よりも戦闘力が大きいが、その魔物的な見た目から忌み嫌われた存在だ。それでも、犬種よりかははるかにマシな環境にいるが、まともな仕事はもらえないと聞いたことがある。しかしそれ以上のことは詳しくは知らない。
そんな僕の思考とは関係ないところで、ノラは苦虫をかみつぶしたような顔をして再び口を開いた。
「失言じゃ……ともかく、そんな低報酬の危険な仕事あっても、以前は国の保証があったが……」
「ほんの少しだけ報酬が高いということだけで、民営のギルドから依頼を受ける冒険者が多くなった」
ノラの言葉を遮るように、アニーが悲しそうにそうつぶやく。
アニーの言葉で思い出したが、確か役所で依頼を受けている場合、保険として報酬金からある程度引かれるらしい。危険な仕事だからこその措置なのだろう。ケガを負って、冒険者として生きてゆけなくなった獣人に、新しい就職先のあっせんと、それが見つかるまでの失業保険をもらえるというわけだ。
だが、その保険料を差し引いたとしても、役所で冒険者がもらえる報酬金は民営ギルドの半分以下だといわれている。もちろん、その分、保証はあるのだが、冒険者なんていう底辺職に就くような奴らは目先の利益しか考えられないのだろう。彼らを卑下しているわけではない。そういった社会的に役立つことを学べる場が少ないこの国を卑下している。
まあ、そんなことは僕にはどうすることもできないし、どうにかしてやる義理もない。
「そうじゃ、まあ、儂の言いたいことも分かるだろう?」
「武具は保険……というわけですね?」
「そうじゃ、獣人にとっては肉体は武器だが、やはりそれを生かすための五体以外の武器もあった方がいいというわけじゃ」
さすが商売上手といったところだ。ノラはこんな暗い空気の中でもきっちりと話をまとめて、最終的には武器を持つことを有用性を説いて見せた。
「そう。そういう風に商売しているからこそ、ノラさんの武具屋は表通りの店とは品質が違う。もちろん、昔からの知り合いなノラさんのところでしか買い物ができないととかそういうことではない」
アニーはノラの回し者ではないかというほど熱心におしてくる。
武器の品質なんてものは素人の僕にはこれっぽっちもわからないのだが、彼女にはそれがわかるとでも言うのだろうか……いいや、到底そうは思えない。
まあ、彼女たちのことを信用できようができまいが、犬種である僕が表通りで買い物なんてできるはずもなく、この店で買う以外に選択肢などはないのだが、粗悪品をかわされたり、必要以上に吹っ掛けられないかが心配だ。
「失礼な奴じゃ。本当に吹っ掛けてやろうか? おぬしの所持金いっぱいいっぱいまでのう」
ノラが少しだけ不機嫌そうに言った。
僕は腰を90度に折り曲げて頭を深々と下げる。
「失礼なことを考えて申し訳ありません!」
心を勝手に読まれて失礼だとか言われるのはほんの少しだけ納得がいかないような気もするが、心を読まれる可能性がある以上は態度で示す以外ない。
「本当に失礼なことを考えておったのか……さすがは、いぬっころだ。従順な態度を見せながらも、心の中では何を考えているか分かったものではない。恐ろしい種族じゃ……なんだ、その不服そうな顔は? 言ったじゃろうが、心を読む魔法は魔力消費が激しいと……じゃが勉強になったじゃろう? 嘘と真実を入り混ぜてする交渉術じゃ。安心せい、引っかかるのはおぬしだけではない。真実という保険料をおぬしに支払っておいたからこそ、嘘がさも真実であるかのように感じられただけじゃ。保険というのはいいものじゃろう?」
ノラは大笑いしてそう説明した。
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