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8 新たなる武器
72 実戦にて 2
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何も進まないまま、時間だけが無情にもすぎてゆく。
ただでさえ、猶予はひと月もないというのに、このままではそのわずかな時間すら無駄に浪費されてゆくばかりだろう。
「とりあえず、武器としてどう使うかではなく、道具としてどう使うかを考えてみます」
手に持っているというに、持っているのかいないのかすらわからないこれをどう扱うか。イチゴやアニーに解説してもらった通りなら、魔力を抜き出して別の物に注ぎ込むというのだが、所詮、僕がこれにすべての魔力を注ぎ込んだとしても、数日もしないうちに放出されてしまうだろう。
武具屋は何かを知っている様子ではあったが、何も教えてくれなかった。だがそれでも、これを『武器』だと言って売ったからには、それなりの考えがあったはずだ。武器と言っても武器ではなく、武器ではないと言っても武器にそうとする。そういう使い道なら、僕の能力が反応しない理由も少しは理解できる。
「道具として……」
僕の言葉に対して、アニーはそう呟くと顎に手を当て考え込む。
何やら思いついたのだろうか、期待せずに待ってみる。
「他の物に魔力を移す……そう、たとえば魔力を籠めやすい何かに、魔力を付与する。いや、確かにそれなら……でもそれじゃあ、ケンが杖を使う必要はまるでない。必要だとするなら……」
なにやらぼそぼそとひとり言をつぶやいているが、ここは魔物が出る森の中だ。こんなところで周囲の警戒を怠って考え事にふけるのは得策とは言えない。
「アニーさん?」
僕のために考えてくれているとはいえ、このままでは危険だ。魔物に襲われてからでは遅い。
声をかけてみたが、返事はない。それどころか、彼女は僕の方を振り向くことすらしなかった。むしろ微動だにしていない。
すごい集中力だ。驚異的なほどの。それこそスナイパー向きの能力だ。
もし僕たちの立っている場所が目につきにくいところであれば何ら心配する必要もないだろうが、この場所はあまりにも目につく。早く、彼女の集中を解かなければならない。
「アニー! アニーさん!?」
肩を叩きながら大声で名前を呼ぶ。もはや、集中がどうのこうの言っている場合ではない。
確か、熊と遭遇した時は、大声を出してはいけないと聞いたことがある。それが今の状況とどう関係しているのかという事だが、森の中で大声を出してもいいものなのだろうか……ふとそんなことが頭に浮かんだ。
僕の行動にようやく、アニーは正気に戻ったようで、『なんだ?』という表情でこちらを見ているが、時はすでに遅し。
「あ、あ、あれはっ!」
僕の目に映るのは、アニーともう一つ。宙に浮かぶ巨大な生物。物理法則が明らかに無視している。
それでも数トンはありそうな巨大な体は、確かに空中に浮いていて、その生物の鋭い眼光が僕たちを獲物として捕らえているのは現実だ。
「依頼書に書かれていたことは、本当だった……」
少し遅れてアニーがその生物に気がついて、そんな言葉をこぼした。
そんなことを言っている場合ではない。
「まずいですよ……」
僕は急ぎ自分の中にある魔力を身体能力向上のために使用する。間に合うかはわからないが、何もせずに殺されるよりかははるかにましだ。アニーもそう思って銃を構えたのだろう。
しかし、巨大な生物に対して銃が通用するだろうか……なにより、相手はトカゲのような生き物に、原理はわからないが2つの翼が生えた得体のしれぬ生き物だ。だが、ドラゴン――龍と呼ぶにはいささか珍妙な見た目をしている。
まるで、ワニに巨大な羽が生えたかのような……それでも、そいつが凶悪な存在であるという事は瞬時に見抜くことが出来た。
その生物は、獰猛な牙、堅牢な鱗、ひと睨みで生物を射殺せそうなぐらいに鋭い眼光を持っており、大きさは人を丸呑みできそうなほどだ。なにより、口元からは通常の変温動物にはありえない白い煙がこぼれている。もちろん、それは口の中と外での気温差によるものだ。
「火を噴く生物……そこまであっているんですね……」
唐突に現れた絶望。こんな絶望は、初めて森に入ったあの時以来だ。違うことがあるとするなら、隣には頼もしい仲間がいるという事だが、同時に、勇者は入院中で、絶対に僕たちを助けにくることなどありえないという事だろう。
つまり、自分たちの力で、この絶望を乗り越えなければならない。
「新種の魔物……最近多いとは聞いていたけど、まさか、こんな場所にまで現れるなんて」
口ではそんなことを言っているが、アニーは比較的冷静を装っている。
本当に冒険者は、どんな些細な仕事であっても命がけだ。ある一定以上の依頼をこなしてきた彼女にとっては、死の危険、『絶望』なんて日常茶飯事だったのだろう。
新人の僕ですらもはや2度目なのだから、想像に難くない。
どのような状況であっても、冷静でいられることが生き残る方法だというのだろう。
「僕ほどの素人では、あいつがどれほど強いかはわかりませんが、今の僕達ではたぶん勝てないでしょう」
「今の私たちどころか、一流の冒険者でも勝てないかもしれない。あんな魔物は見たことがないし……」
どうやら、アレは僕が思っていた以上の絶望らしい。
ならなおのこと、取り逃がすことは出来ない。羽を生やしたあいつが、街の中に入り込んでしまえばたちまちパニックになるだろう。死人も多数出るかもしれない。
街から遠ければよかったが、僕たちが全力で走ったら10分ぐらいでつくぐらいにしか離れていない。となると、選択肢は1つ。
「僕が囮になります。アニーさんは、このことを門番に伝えて増援を」
それ以外に方法はない。僕の力不足故にそうするしかないのだ。
「それは……ケンには力不足。私が囮になるべきね」
もちろん、アニーが僕の提案を拒否するのもわかっていた。
だが、彼女の提案に載ることはもっとできない。それをするぐらいなら、2人で戦った方がまだましだ。
「それでは、ダメなんです。誰も犬種の話には耳を傾けてくれませんからね」
こんな時にまで差別が付きまとう。どれだけ困っていようと、どれだけ命を落としそうな状況であろうと、それは変わらない。
異世界に来ようと、そんなどうしようない事実が変わるはずがない。
「関係ない。あいつが街に向かうとも限らないし、仲間を死地に追いやるぐらいなら街の人間が死んだ方がマシだから……お姉ちゃんはあんな奴に負けないだろうし」
それじゃあダメだ。
「ただ、漫然と生きているだけじゃ、意味なんてないんですよ! 僕は……誰かの犠牲の上に成り立つような命だなら、なくていい。大切な存在を死の危険にさらして、自分だけは安全な所に逃げるなんて!」
柄にもないことを言っているのは知っている。
でも、メリーを守るためには、僕はできうる限りの最善を尽くさなければならない。
今もなお、死の危険が目の前にあろうとも、冷静に的確な判断を下さなければならない。
「だったら、尚のこと! あなたはメリーを護るべきだ! 大切な存在を護るべきだ!」
アニーが怒鳴る。
そんなことはわかっている。誰に言われるまでもなく、そのつもりだ。だが、そうするためには、アニーが街に戻って助けを呼んで来る必要がある。目の前の化け物がどうするつもりだったとしても、現在ここにいるという事は、いずれは街に危険を及ぼすことになる可能性は非常に高い。
「そうかもしれません。だから僕はここに残りたい。妹が少しでも危険な目に合わないように……僕は死にませんよ。妹を残して死ぬなんてこと、あり得るとおもいますか?」
頼むから僕の気持ちを汲んでくれ。
そんな思いが彼女に通じたのだろう。彼女は不機嫌そうな顔をしながらも、最後には納得してくれた。
「……わかった。でも、死んだら許さないから」
アニーの目からは、本気の願いが感じられた。
僕は小さくうなずく。
彼女はそれを確認してから、僕に背を向けて勢いよく走りだした。
さて、いよいよメインディッシュだ。
と言っても、目の前に浮かぶ魔物を見るに、僕の方がメインディッシュなのかもしれない。そうならないことを望むが、今のままの僕では必ずそうなるだろう。
「待っていてくれたのか? 魔物にしては律儀な奴だ」
僕は強がりで魔物を睨みつける。
しかし、魔物は僕の睨みなど意にも介さない。それどころか、余裕があると言いたいのだろう。僕との会話を始める始末だ。
「そうだな。我ながら律儀だと思うが、昔の名残だ。殺す相手の最後の時間ぐらいは、好きなことをさせてやるのが我が人生を楽しむための趣向だからな」
「そうかい……」
そりゃ、いい人生だ。いかなる時でも自分の信念を貫き通せるなんて、僕には難しいことだ。
そんな情けない僕を嘲るかのように、運命は終焉へと進み始める。
獰猛な牙が、わずかに開かれた魔物の口から見えている。
「ああ、そうだ。お前を殺して、この街にいるであろう仕留め損ねた勇者を殺して、それで終わりだ」
今回は短い人生だった。思えば、ロクな人生ではなかったが、家族の大切さがわかった人生でもあった。願わくば、妹がこれから先も生き延びて、何か夢でも見つけて、それをかなえてほしい。それだけが、心残りだ。
でも、たぶん大丈夫だろう。最後まで他人に頼ることにはなるが、イチゴも、アニーもいる。きっと何とかなるはずだ。――僕の最後の役割は、街からの増援が来るまでの時間稼ぎだ。
今となっては、何の意味があるのかもわかないが、折角だからと杖を構える。
構えたところで、ふと我に返った。何かおかしくないかと。
「……ちょっと待ってくれ……いや、待てください……」
「なんだ?」
……なんだ? ってなんだ? なぜ返事が返ってくる。恐怖で頭がおかしくなってしまったのだろうか……疲れすぎて幻聴が聞こえているのだろうか……いや、違う。確かに、目の前の魔物は声を発して、僕の言葉に返事をした。
ということは……
「――しゃ、しゃべった!?」
ただでさえ、猶予はひと月もないというのに、このままではそのわずかな時間すら無駄に浪費されてゆくばかりだろう。
「とりあえず、武器としてどう使うかではなく、道具としてどう使うかを考えてみます」
手に持っているというに、持っているのかいないのかすらわからないこれをどう扱うか。イチゴやアニーに解説してもらった通りなら、魔力を抜き出して別の物に注ぎ込むというのだが、所詮、僕がこれにすべての魔力を注ぎ込んだとしても、数日もしないうちに放出されてしまうだろう。
武具屋は何かを知っている様子ではあったが、何も教えてくれなかった。だがそれでも、これを『武器』だと言って売ったからには、それなりの考えがあったはずだ。武器と言っても武器ではなく、武器ではないと言っても武器にそうとする。そういう使い道なら、僕の能力が反応しない理由も少しは理解できる。
「道具として……」
僕の言葉に対して、アニーはそう呟くと顎に手を当て考え込む。
何やら思いついたのだろうか、期待せずに待ってみる。
「他の物に魔力を移す……そう、たとえば魔力を籠めやすい何かに、魔力を付与する。いや、確かにそれなら……でもそれじゃあ、ケンが杖を使う必要はまるでない。必要だとするなら……」
なにやらぼそぼそとひとり言をつぶやいているが、ここは魔物が出る森の中だ。こんなところで周囲の警戒を怠って考え事にふけるのは得策とは言えない。
「アニーさん?」
僕のために考えてくれているとはいえ、このままでは危険だ。魔物に襲われてからでは遅い。
声をかけてみたが、返事はない。それどころか、彼女は僕の方を振り向くことすらしなかった。むしろ微動だにしていない。
すごい集中力だ。驚異的なほどの。それこそスナイパー向きの能力だ。
もし僕たちの立っている場所が目につきにくいところであれば何ら心配する必要もないだろうが、この場所はあまりにも目につく。早く、彼女の集中を解かなければならない。
「アニー! アニーさん!?」
肩を叩きながら大声で名前を呼ぶ。もはや、集中がどうのこうの言っている場合ではない。
確か、熊と遭遇した時は、大声を出してはいけないと聞いたことがある。それが今の状況とどう関係しているのかという事だが、森の中で大声を出してもいいものなのだろうか……ふとそんなことが頭に浮かんだ。
僕の行動にようやく、アニーは正気に戻ったようで、『なんだ?』という表情でこちらを見ているが、時はすでに遅し。
「あ、あ、あれはっ!」
僕の目に映るのは、アニーともう一つ。宙に浮かぶ巨大な生物。物理法則が明らかに無視している。
それでも数トンはありそうな巨大な体は、確かに空中に浮いていて、その生物の鋭い眼光が僕たちを獲物として捕らえているのは現実だ。
「依頼書に書かれていたことは、本当だった……」
少し遅れてアニーがその生物に気がついて、そんな言葉をこぼした。
そんなことを言っている場合ではない。
「まずいですよ……」
僕は急ぎ自分の中にある魔力を身体能力向上のために使用する。間に合うかはわからないが、何もせずに殺されるよりかははるかにましだ。アニーもそう思って銃を構えたのだろう。
しかし、巨大な生物に対して銃が通用するだろうか……なにより、相手はトカゲのような生き物に、原理はわからないが2つの翼が生えた得体のしれぬ生き物だ。だが、ドラゴン――龍と呼ぶにはいささか珍妙な見た目をしている。
まるで、ワニに巨大な羽が生えたかのような……それでも、そいつが凶悪な存在であるという事は瞬時に見抜くことが出来た。
その生物は、獰猛な牙、堅牢な鱗、ひと睨みで生物を射殺せそうなぐらいに鋭い眼光を持っており、大きさは人を丸呑みできそうなほどだ。なにより、口元からは通常の変温動物にはありえない白い煙がこぼれている。もちろん、それは口の中と外での気温差によるものだ。
「火を噴く生物……そこまであっているんですね……」
唐突に現れた絶望。こんな絶望は、初めて森に入ったあの時以来だ。違うことがあるとするなら、隣には頼もしい仲間がいるという事だが、同時に、勇者は入院中で、絶対に僕たちを助けにくることなどありえないという事だろう。
つまり、自分たちの力で、この絶望を乗り越えなければならない。
「新種の魔物……最近多いとは聞いていたけど、まさか、こんな場所にまで現れるなんて」
口ではそんなことを言っているが、アニーは比較的冷静を装っている。
本当に冒険者は、どんな些細な仕事であっても命がけだ。ある一定以上の依頼をこなしてきた彼女にとっては、死の危険、『絶望』なんて日常茶飯事だったのだろう。
新人の僕ですらもはや2度目なのだから、想像に難くない。
どのような状況であっても、冷静でいられることが生き残る方法だというのだろう。
「僕ほどの素人では、あいつがどれほど強いかはわかりませんが、今の僕達ではたぶん勝てないでしょう」
「今の私たちどころか、一流の冒険者でも勝てないかもしれない。あんな魔物は見たことがないし……」
どうやら、アレは僕が思っていた以上の絶望らしい。
ならなおのこと、取り逃がすことは出来ない。羽を生やしたあいつが、街の中に入り込んでしまえばたちまちパニックになるだろう。死人も多数出るかもしれない。
街から遠ければよかったが、僕たちが全力で走ったら10分ぐらいでつくぐらいにしか離れていない。となると、選択肢は1つ。
「僕が囮になります。アニーさんは、このことを門番に伝えて増援を」
それ以外に方法はない。僕の力不足故にそうするしかないのだ。
「それは……ケンには力不足。私が囮になるべきね」
もちろん、アニーが僕の提案を拒否するのもわかっていた。
だが、彼女の提案に載ることはもっとできない。それをするぐらいなら、2人で戦った方がまだましだ。
「それでは、ダメなんです。誰も犬種の話には耳を傾けてくれませんからね」
こんな時にまで差別が付きまとう。どれだけ困っていようと、どれだけ命を落としそうな状況であろうと、それは変わらない。
異世界に来ようと、そんなどうしようない事実が変わるはずがない。
「関係ない。あいつが街に向かうとも限らないし、仲間を死地に追いやるぐらいなら街の人間が死んだ方がマシだから……お姉ちゃんはあんな奴に負けないだろうし」
それじゃあダメだ。
「ただ、漫然と生きているだけじゃ、意味なんてないんですよ! 僕は……誰かの犠牲の上に成り立つような命だなら、なくていい。大切な存在を死の危険にさらして、自分だけは安全な所に逃げるなんて!」
柄にもないことを言っているのは知っている。
でも、メリーを守るためには、僕はできうる限りの最善を尽くさなければならない。
今もなお、死の危険が目の前にあろうとも、冷静に的確な判断を下さなければならない。
「だったら、尚のこと! あなたはメリーを護るべきだ! 大切な存在を護るべきだ!」
アニーが怒鳴る。
そんなことはわかっている。誰に言われるまでもなく、そのつもりだ。だが、そうするためには、アニーが街に戻って助けを呼んで来る必要がある。目の前の化け物がどうするつもりだったとしても、現在ここにいるという事は、いずれは街に危険を及ぼすことになる可能性は非常に高い。
「そうかもしれません。だから僕はここに残りたい。妹が少しでも危険な目に合わないように……僕は死にませんよ。妹を残して死ぬなんてこと、あり得るとおもいますか?」
頼むから僕の気持ちを汲んでくれ。
そんな思いが彼女に通じたのだろう。彼女は不機嫌そうな顔をしながらも、最後には納得してくれた。
「……わかった。でも、死んだら許さないから」
アニーの目からは、本気の願いが感じられた。
僕は小さくうなずく。
彼女はそれを確認してから、僕に背を向けて勢いよく走りだした。
さて、いよいよメインディッシュだ。
と言っても、目の前に浮かぶ魔物を見るに、僕の方がメインディッシュなのかもしれない。そうならないことを望むが、今のままの僕では必ずそうなるだろう。
「待っていてくれたのか? 魔物にしては律儀な奴だ」
僕は強がりで魔物を睨みつける。
しかし、魔物は僕の睨みなど意にも介さない。それどころか、余裕があると言いたいのだろう。僕との会話を始める始末だ。
「そうだな。我ながら律儀だと思うが、昔の名残だ。殺す相手の最後の時間ぐらいは、好きなことをさせてやるのが我が人生を楽しむための趣向だからな」
「そうかい……」
そりゃ、いい人生だ。いかなる時でも自分の信念を貫き通せるなんて、僕には難しいことだ。
そんな情けない僕を嘲るかのように、運命は終焉へと進み始める。
獰猛な牙が、わずかに開かれた魔物の口から見えている。
「ああ、そうだ。お前を殺して、この街にいるであろう仕留め損ねた勇者を殺して、それで終わりだ」
今回は短い人生だった。思えば、ロクな人生ではなかったが、家族の大切さがわかった人生でもあった。願わくば、妹がこれから先も生き延びて、何か夢でも見つけて、それをかなえてほしい。それだけが、心残りだ。
でも、たぶん大丈夫だろう。最後まで他人に頼ることにはなるが、イチゴも、アニーもいる。きっと何とかなるはずだ。――僕の最後の役割は、街からの増援が来るまでの時間稼ぎだ。
今となっては、何の意味があるのかもわかないが、折角だからと杖を構える。
構えたところで、ふと我に返った。何かおかしくないかと。
「……ちょっと待ってくれ……いや、待てください……」
「なんだ?」
……なんだ? ってなんだ? なぜ返事が返ってくる。恐怖で頭がおかしくなってしまったのだろうか……疲れすぎて幻聴が聞こえているのだろうか……いや、違う。確かに、目の前の魔物は声を発して、僕の言葉に返事をした。
ということは……
「――しゃ、しゃべった!?」
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