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8 新たなる武器
79 勇者
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「表皮が固い魔物とは幾度も戦ってきたわ!」
アルタが魔王の表皮を打ち砕かんと、半分溶けてしまった剣を強く押す。それに伴って、剣は固い表皮をほんの少しずつだが押しのけている。
「我は魔物とは違う!」
魔王がそれをさらに押し返す。僕の位置からでも、アルタの剣が魔王の表皮を切り裂いているのが見える。それでも魔王は一切ひるむことなくもう一方の腕でアルタに向けて剣を振り下ろす。それをアルタは軽く後ろに飛びのいて回避した。
「違わない。人類を脅かす魔物と同じ」
「魔物は人類を救う救世主だ。人類を脅かすのは、いつも人類だとなぜわからん」
「わからないわ。人が理解できるのは、自分が知っていることだけだもの」
「だったら教えてやろう、これから犬種によって人類にもたらされるであろう恐怖を!」
「私は獣人……人類の可能性を知っている」
熱の入った2人がそんな風に掛け合う。
どちらとも自分の意見を譲るつもりはないらしい。
幾たびも重なってははじかれる2つの刃が、そのまま2人の姿を現しているがごとく決してとどまることを知らない。故に、2人のどちらかが倒れることもなく、そして戦いが終わることもない。
「我と同等の力を振るうとは……やはり、考えていた通りだ。犬種は危険な種族だ。いつかその力で人類を滅ぼすことだろう」
「勝手なことを!」
「勝手なのはどちらだ!? その昔、犬種がどれほどの力を保有していたか、それを忘れたわけではあるまい? 我は気が遠くなるような昔からずっと見続けてきた。傍観者であった。それ故に――他の種族は犬種を差別する。ある1つの一族を除いてな」
魔王が口角をほんの少しだけ上げる。じっと見つめていなければ気がつかないほどの変化だが、彼は確実に笑みを浮かべた。
「……何がおかしい!?」
アルタの怒りはもっともだ。
命を懸けた戦いの最中に、笑みを浮かべるなどよほど相手を下に見ているか、もしくはかなりの戦闘狂いかだ。だが、ほんの数十分会話しただけで十分に分かるが、魔王は戦いがそれほど好きではないらしい。そうなると、拮抗している勝負にも思えるその戦いは、魔王が手を抜いていて初めて成り立つものということになる。
アルタはそれを何となく理解はしていたが、それを確信したのだろう。
「犬種が知る必要のないことだ。この場で滅びゆく存在にはな!」
魔王がほんの一瞬でアルタの目の前まで迫る。その動きは僕の目からはまるで見えなかった。おそらく、僕に対して使っていた魔法を使ったのだろう。魔王はそのまま両手で剣を天にかざし、勢いよく振り下ろす。
アルタはそれをなんなく受け止める。
しかし、魔王は剣に緑の炎をまとわせ、力の限り押し込んだ。
「な……に……?」
魔王の炎で覆われた剣は、かろうじて原形を残していたアルタの剣を容易に溶かす。
アルタは剣を伝って火が自分の体へと届く前に剣を捨てて数歩後ろに下がった。
「確かにすごい反応速度だ。さすがは勇者と言ったところだろう……経験不足だ。もしこのまま順当に成長すれば、我が戦って勝てる相手ではなくなるだろう。むろん、我がまるで成長しなければの話ではあるが……」
「自称魔王に褒めてもらっても、まるでうれしくないわね」
「褒めてなどいない。ただ、危惧しているだけだ。たかだか獣人がこれほどの力を持っているのかとな」
「あなただって獣人でしょ?」
「……それは違う。我は人類ではあるが、獣人ではない。いや、もはや人類とも呼べないかもしれないが、確かに人類ではあった。我だって信じていたよ。人類が愚かではないと……だがそれは間違っていた。人類はどうしようもなく愚かで、誰かが導かなければならないほどか弱い存在だ」
一歩、一歩と確実に魔王はアルタににじり寄る。
「か弱い存在だからこそ、我が導かなればならない。ずっとそう考えていた。だが、ようやく気がついた。力が存在しているから、便利が生まれ、便利が存在するから欲望が生まれる。便利というのは使う側の問題で、不便にもなるというのに……」
魔王は先ほどよりも剣を天高くかざし、勢いよく振り下ろした。
僕はなにも出来ずにただ見つめていた。命の恩人が今にも殺されそうになっているところを。
「何を心配している? 大丈夫だと言っただろう……勇者は絶対に負けない。それが勇者なった者の務めだ」
振り下ろされた剣が高い音を立てて空高く吹き飛ばされる。
アルタも、魔王も、そして僕も一瞬だけ何が起きたのか理解できなかった。たぶんその中でも一番最初にすべてを理解したのは魔王だった。
「見覚えがあるとは思っていたが……貴様もやはり勇者だったか」
魔王の声で僕はようやく、2人の戦いにイチゴが割り込んだことに気がついた。
「悪いなアルタ……久しぶりの訓練だったというのに。私も実戦を間近で見て、久しぶりにうずいてしまった」
「いえ、もしあなたが止めてくれなければ、私は多少なりとも怪我を負っていたことでしょう。ポーションもない今、私が怪我をしたら父が何を言い出すかわかりません」
「大丈夫だ。どうせ文句を言われるのは私だからな」
その言葉にアルタがくすりと笑う。
イチゴはアルタから目をきると、敵対する相手の方に目をやった。
「殺したと思った相手が生きていたとは……なるほど、勇者1人ならまだしも、2人となると我の方が多少不利だな」
魔王が2人の勇者を交互に見る。
「だったら、どうする? 魔王ともあろうものが逃げるか?」
そう吠えるイチゴに対して魔王はほんの少しも表情を変えず、ただ一言「逃げることは恥ではない」とだけつぶやいてこの場から一目散に飛び去った。
イチゴはそれを追いかけるそぶりもなく、ただ去って行った方向を訝しげに見つめているだけだった。
アルタが魔王の表皮を打ち砕かんと、半分溶けてしまった剣を強く押す。それに伴って、剣は固い表皮をほんの少しずつだが押しのけている。
「我は魔物とは違う!」
魔王がそれをさらに押し返す。僕の位置からでも、アルタの剣が魔王の表皮を切り裂いているのが見える。それでも魔王は一切ひるむことなくもう一方の腕でアルタに向けて剣を振り下ろす。それをアルタは軽く後ろに飛びのいて回避した。
「違わない。人類を脅かす魔物と同じ」
「魔物は人類を救う救世主だ。人類を脅かすのは、いつも人類だとなぜわからん」
「わからないわ。人が理解できるのは、自分が知っていることだけだもの」
「だったら教えてやろう、これから犬種によって人類にもたらされるであろう恐怖を!」
「私は獣人……人類の可能性を知っている」
熱の入った2人がそんな風に掛け合う。
どちらとも自分の意見を譲るつもりはないらしい。
幾たびも重なってははじかれる2つの刃が、そのまま2人の姿を現しているがごとく決してとどまることを知らない。故に、2人のどちらかが倒れることもなく、そして戦いが終わることもない。
「我と同等の力を振るうとは……やはり、考えていた通りだ。犬種は危険な種族だ。いつかその力で人類を滅ぼすことだろう」
「勝手なことを!」
「勝手なのはどちらだ!? その昔、犬種がどれほどの力を保有していたか、それを忘れたわけではあるまい? 我は気が遠くなるような昔からずっと見続けてきた。傍観者であった。それ故に――他の種族は犬種を差別する。ある1つの一族を除いてな」
魔王が口角をほんの少しだけ上げる。じっと見つめていなければ気がつかないほどの変化だが、彼は確実に笑みを浮かべた。
「……何がおかしい!?」
アルタの怒りはもっともだ。
命を懸けた戦いの最中に、笑みを浮かべるなどよほど相手を下に見ているか、もしくはかなりの戦闘狂いかだ。だが、ほんの数十分会話しただけで十分に分かるが、魔王は戦いがそれほど好きではないらしい。そうなると、拮抗している勝負にも思えるその戦いは、魔王が手を抜いていて初めて成り立つものということになる。
アルタはそれを何となく理解はしていたが、それを確信したのだろう。
「犬種が知る必要のないことだ。この場で滅びゆく存在にはな!」
魔王がほんの一瞬でアルタの目の前まで迫る。その動きは僕の目からはまるで見えなかった。おそらく、僕に対して使っていた魔法を使ったのだろう。魔王はそのまま両手で剣を天にかざし、勢いよく振り下ろす。
アルタはそれをなんなく受け止める。
しかし、魔王は剣に緑の炎をまとわせ、力の限り押し込んだ。
「な……に……?」
魔王の炎で覆われた剣は、かろうじて原形を残していたアルタの剣を容易に溶かす。
アルタは剣を伝って火が自分の体へと届く前に剣を捨てて数歩後ろに下がった。
「確かにすごい反応速度だ。さすがは勇者と言ったところだろう……経験不足だ。もしこのまま順当に成長すれば、我が戦って勝てる相手ではなくなるだろう。むろん、我がまるで成長しなければの話ではあるが……」
「自称魔王に褒めてもらっても、まるでうれしくないわね」
「褒めてなどいない。ただ、危惧しているだけだ。たかだか獣人がこれほどの力を持っているのかとな」
「あなただって獣人でしょ?」
「……それは違う。我は人類ではあるが、獣人ではない。いや、もはや人類とも呼べないかもしれないが、確かに人類ではあった。我だって信じていたよ。人類が愚かではないと……だがそれは間違っていた。人類はどうしようもなく愚かで、誰かが導かなければならないほどか弱い存在だ」
一歩、一歩と確実に魔王はアルタににじり寄る。
「か弱い存在だからこそ、我が導かなればならない。ずっとそう考えていた。だが、ようやく気がついた。力が存在しているから、便利が生まれ、便利が存在するから欲望が生まれる。便利というのは使う側の問題で、不便にもなるというのに……」
魔王は先ほどよりも剣を天高くかざし、勢いよく振り下ろした。
僕はなにも出来ずにただ見つめていた。命の恩人が今にも殺されそうになっているところを。
「何を心配している? 大丈夫だと言っただろう……勇者は絶対に負けない。それが勇者なった者の務めだ」
振り下ろされた剣が高い音を立てて空高く吹き飛ばされる。
アルタも、魔王も、そして僕も一瞬だけ何が起きたのか理解できなかった。たぶんその中でも一番最初にすべてを理解したのは魔王だった。
「見覚えがあるとは思っていたが……貴様もやはり勇者だったか」
魔王の声で僕はようやく、2人の戦いにイチゴが割り込んだことに気がついた。
「悪いなアルタ……久しぶりの訓練だったというのに。私も実戦を間近で見て、久しぶりにうずいてしまった」
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「大丈夫だ。どうせ文句を言われるのは私だからな」
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「殺したと思った相手が生きていたとは……なるほど、勇者1人ならまだしも、2人となると我の方が多少不利だな」
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