転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
101 / 170
10 伝説の魔法

98 伝説の魔法使い 3

しおりを挟む
 ◇


 来たる朝、その時は突然やって来た。
 それは丁度僕が朝食を食べ終えた頃だった。

「イザベラさーん!」

 かわいらしい女性の声が店内に響き渡る。いいや、女性というよりは小さな女の子が発したような声変わりもしていないような幼げな声だ。
 時刻はいまだ6時30分。子供が食事をしに店を訪れることはないはずの時間であるし、そもそも店はまだ開いてない。モーニングであったとしても、開店は7時からだ。
 僕は戸惑いを隠せずにイチゴの方を見る。
 イチゴも戸惑いを隠せていないようで、口を小さく広げたまま固まっている。

「あれ? いないのかな? それとも店を間違えたとか……でも以前来た時と場所は変わっていないし、外装も何も変わってなかった……となると、まさか! 夜逃げとか!?」

 誰も反応しなかったことに驚いているようで、何やら一人で賑やかそうに騒いでいる。
 このまま放っておけばいずれ近所迷惑になるほどに騒ぎ出しそうだ。

「ったく……二ス!」
「イザベラさん! いたんじゃないですか!? どうして返事をしてくれなかったんですか? 驚きましたよ。私はてっきり蒸発したのかと思いました。まあいることは知っていたんですけどね」
「じょ、蒸発? 相変わらずよくわからないことを言うやつだ。だが驚いたぞ……まさか本当に来てくれるとは思ってもみなかった」

 2人の会話を聞く限り、どうやらその少女みたいな声の人物が伝説の魔法使いと呼ばれた『ケントニス』なる人物らしい。
 楽しそうな会話に割り込むのもどうかとは思ったが、僕のために来てくれたというのならずっと隠れているわけにはいかないだろう。僕はキッチンからゆっくりと顔を出す。そして、店の入り口を入ったところに立っている見慣れない人物を視認した。

「お、おはようございます」
 驚いた。いいや、びっくりした。驚愕した。
「あ、あなたがケン君? だよね。見た感じそうだもん……いかにもケン君って感じ。流石私と同じ『ケン』の名前を持つ犬種の獣人だ!」
 妹と同じぐらいの年齢であろう小さな女の子がふりふりのドレスをゆらゆらと揺らしながらテンション高めに近づいてくる。

「ちょ、ちょっと待ってください」

 しかし、本当にちょっと待ってもらいたい。
 ケントニスなる人物は、イチゴと同じチームに在籍し、冒険者を引退した身の伝説の人物だったはずだ。彼女を妹と同じ年齢だとするなら、計算的に3歳とか4歳とかの時……もしかすると生まれて間もない赤子で冒険者を担っていたという事にもなりかねない。

「うん。その疑問は私にとってはかなり不快なものになるから口にしないでね」
「えっ?」
「イザベラさんとかなら若く見られてうれしくなるかもしれないけど、私はそうじゃないから。ロリババアって言われるほど歳とっているわけでもないけど、属性的にはそうなると思う。だからそれを口にしないでってこと!」

 勝手に思考を読まれて、それも理解不能なことを言い始める。
 人の思考を呼んで、数手先の答えまで出すというのは頭のいい人にしかできないが、話している内容的に頭がいいのか悪いのか半出し兼ねるわけだ。

「ロ、ロリババアって……」

 僕は呆れて口が開きっぱなしだ。
 ともかく、その言葉はこの世界には存在しないはずの言葉だが、彼女はなぜその言葉を知っているのだろう。

「私は何も知らないよ。君の言いそうな言葉を口にしただけ! もちろん心を読んでいるわけじゃないから、的外れなことを言っちゃうこともあるけど……いや、うるさいとか言われても会話が好きなんだからしょうがないじゃない!」

 まだ何も言っていないのに、一人で会話をしている。話す必要がないのは楽ではあるが、かなり気持ちの悪い感覚だ。それに――

「そうだね。ケン君には魔力の使い方を指南するために会ってるんだったね! イザベラさん!」

 彼女の言葉にイチゴがうなずく。
 びっくりするぐらいに心を読まれているように感じる。心を読んでいるわけじゃないとは言っていたが、これで心を読んでいないと言うのだから驚きだ。

「ごめんごめん。言葉を先読みされるって気持ち悪いよね? ドン引きだよね?」
「いや、そうでもないですよ……」

 全然ドン引きだけど、それを直接告げるほど空気が読めない僕じゃない。

「建前でもうれしいよ! ほとんどの人は気持ち悪いって言うからね……それより、君の妹ちゃんは!? そっか厨房の掃除をしてるんだね。ロリで勇者なんて萌属性の持ち主、会っておきたかったけど仕事の邪魔は出来ないしね!」
「まあそうなんですけど……僕が考えるよりも早く状況を理解しているってことは、やっぱり周りの環境を観察して推理したってことですか?」
「探偵みたいでしょ? でも簡単な推理なのだよケン君。この音を聞けば大体のことは分かるでしょ? あ、掃除をしているのが別の人って言うかもしれないから言っておくけど、この店の経年劣化具合から従業員をいっぱい雇う必要がないってことは推理に入っているからね」

 ダメだ。言っていることを理解できないわけじゃないが、頭の整理が追いつかない。なるほど、これがイチゴの言っていた言葉の意味だったのか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...