転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
109 / 170
10 伝説の魔法

106 才能と使い方 7

しおりを挟む
「余計なことは考えない! 早く魔力を放出するのよ!」

 ケントニスが僕を急かす。
 確かに時間というものは有限だが、もう少しだけ落ち着いて修業できないものだろうかとも思ったが、確かに彼女の言うとおりで、戦闘というものはいつも予想外のことが起こり得る。
 いまのこの状況に慌てているようでは、魔力のコントロールはおろか、普通に冒険者として活動することすらままならないだろう。

 僕は静かに魔力を放出する。
 気持ちは他称昂ぶっているが、いつものように魔力が放出される。

「……やりました」

 そもそも、魔力を放出すること自体は、戦闘中でもいつもやっていたことだ。
 あまりにも突然のことに慌てて出来なかったが、僕にとってはたやすいことなのだ。

「話に聞いていた通りね。まあ、冒険者をやるような魔法使いが、今のような状況下において魔力をうまく放出できないというのは問題外だけどね」
 褒めてほしかったわけではないが、彼女は思いのほか辛辣だ。
 ともかく、今は彼女から詳しい話を聞く方が優先だろう。
「……これと魔力のコントロールに何の関係が?」

 質問が悪かったのか、彼女は大きなため息を吐く。
「戦闘に例えるなら、魔力の放出というのは剣を鞘から抜くという事……魔力のコントロールは剣を自在に操る力を指すわ。使い方を知っていても、実際に使わない人間には一生『慣れ』と言うものは来ないよね?」
 少しは自分で考えてみろと言いたげだが、それでも答えを教えてくれるのは彼女の優しさなのだろう。
 だがやはり、先ほどと違って少しだけ明らかに彼女はピリピリとしている気がする。

「た、確かにそうですね!」
「そう。だから私のやり方はいつも実戦形式なのよ!」

 唐突に僕の前に剣が突きだされた。
 室内……それもイチゴの店であるにも関わらず、ケントニスは鋭い切っ先をこちらに向けて今にも襲い掛かってきそうな気迫をこちらに向けている。

「ま、待ってください!」

 こんな場所で戦いを初めてしまったら、タダでは済まされないだろう。二重の意味でだ。
 僕は出来る限り刺激しないように、手の平を相手に見せて制止するようにジェスチャーする。
「冗談よ。緊張は解けたでしょ? イザベラさんの店で暴れると、どうなるかは天才でなくてもたやすく理解できるわね」
 そう言って彼女は笑って見せた。
 シリアスな雰囲気が一気に壊れたが、一体彼女は何がしたかったのだろう。僕にプレッシャーを与えたかったのか、それとも緊張をほぐしたかったのか……僕のような凡人には理解が及ばない。

「さっきも言ったけど、魔力のコントロールは感情のコントロールと似ているわ。感情を高ぶらせると魔力の放出が難しくなったり、冷静さを取り戻すと反対に御しやすくなったり……でも今の君はかなり感情のコントロールが下手ね……」
「すみません……」
「ほら、叱られるとすぐに気持ちが沈む。気持ちが沈めば、その分、気持ちが昂る時に強く昂ぶる……そんな調子じゃ――」

 今の今まで目の前で話していたはずのケントニスが消える。
 僕は驚きのあまり硬直した。
 その直後、僕の首筋に冷たい感触があった。背後から首元に剣を当てられていることがすぐに理解できた。理解できたからこそ両手を高く上げて降参した。

「――こんな風に、簡単に背後を取られる。魔法使いは弱い……だから魔法使いにしかなれなかった獣人は冒険者よりも稼ぎの悪いポーション職人になる。誰も魔力の本質を理解していないからね」
「魔力の本質……?」

 ハンズアップの体制をとったまま僕は聞き返した。
 彼女はどこからか取り出した剣を再びどこかへしまうと、僕の背後からゆっくりと回って目の前にやって来た。

「あなたは魔力の使い方を理解しているから冒険者に生れた……そうでしょう?」

 もちろんその言葉の意味はたやすく理解できる。

「魔力を膂力りょりょくに変換する……」

 一時的ではあるが、魔力を力に変えることによって、魔法使いは普通の獣人以上の力で戦うことが出来る。確かに僕にはそれが出来た。しかしそれは神より押し付けられた知識のおかげだ。
 なるほど、誰もが彼女を天才と呼ぶ理由がようやく理解できたような気がする。天才というのは、何も彼女の頭の良さを表す言葉ではなかったらしい。

「そうよ。体内の魔力をコントロールして、一時的に身体能力を向上させることが出来る。それが魔力……だけどそれも集中力が欠けばとっさのタイミングで使えない。今の君のようにね」

 彼女はどうも僕を過大評価しているらしい。
 万が一、僕が冷静さを保っていたとして……魔力による身体能力向上を使用できたとしても、おそらく彼女のスピードについていくことは出来なかっただろう。目にも追えないほどのスピードには。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

​『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』

月神世一
ファンタジー
マンションの5階でカレーを作っていたら、なぜかトラックが突っ込んできた件。 ​外科医を目指す医学生・中村優太(24)は、特製の絶品バターチキンカレーを食べる寸前、マンションの「5階」に突撃してきた理不尽なトラックによって命を落としてしまう。 ​目を覚ますと、そこはコタツでカップ麺を啜るジャージ姿の駄女神・ルチアナの部屋だった。 「飲み会があるから定時で帰りたい」と適当な理由で異世界転移をさせられそうになる優太だったが、怒りのガラポン抽選でユニークスキル【地球ショッピング】と【女神ルチアナこき使い権】を引き当てる! ​かくして、ポンコツ女神を強制連行して剣と魔法の世界『アナステシア』に降り立った優太。 しかし、彼にはただのチートスキルだけではない、元SEALs直伝の「CQB(近接戦闘術)」、有段者の「薙刀術」、そして何より「現代医療の知識」があった――! ​降り立った辺境のポポロ村で彼を待っていたのは、クセが強すぎる住人たち。 ​キャルル: マッハの飛び蹴りを放つ、ファミレス大好きなウサ耳村長。 ​リーザ: タダ飯とポイ活に命を懸ける、図太すぎる地下アイドル人魚。 ​ルナ: 善意で市場や生態系を破壊する、歩く大災害の天然エルフ。 ​ルチアナ: 優太のポイントでソシャゲ課金と酒を目論む、労働拒否の駄女神。 ​優太は【地球ショッピング】で召喚した現代物資と、自身のサバイバル能力&薙刀術で野盗や魔物を無双! さらには特製のスパイスカレーで異世界人の胃袋を完全に掌握していく。 ​そして、村人に危機が迫った時。 優太の「絶対に命を救う」という善意の心が、奇跡の黄金ガチャを引き起こす……! ​「俺は医者だ。この村の命も、平和な日常も、俺の戦術(スキル)で全部守り抜く!」 ​現代の【医療・戦術・料理】×【理不尽ギャグ】×【異世界サバイバル】! 凶悪な「ワスプ薙刀」を振るい、ヤバすぎる仲間たちと送る、最強医学生のドタバタ辺境防衛ライフが今始まる!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...