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10 伝説の魔法
108 才能と使い方 8
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◇
唐突に『場所を変えよう』と言われ、言われるままについていくと、見慣れた門を抜けて西の森へとたどり着いた。
僕はここに来るまでに嫌な予感がしていて、外れてくれることを願っていたが、残念なことに予想は的中してしまったようだ。
「やっぱり体に叩き込むには実践あるのみよ!!」
ケントニスは最初に会った時のように以上に高いテンションを見せている。
冒険者ともなると、早い時間から魔物の討伐をすることも日常茶飯事で、場合によっては朝から晩まで戦いっぱなしなんていうこともあり得るが……徹夜で頭がおかしくなっていない限りはそこまでテンションが上がることもないだろう。
僕はというと、実戦で実践するというダジャレみたいな状況に……いやな予想が的中してしまったという二重の意味で気落ちするような状況に頭を抱えていた。
だがその反面、伝説の魔法使いとまで言われた彼女の力を理解できるかは分からないが、それでも特訓してもらえるという事にかなりの期待を抱いていたのは言うまでもない。
「こんな場所で実践というからには……聞くまでもなく魔物との実戦を指しているんだとは思いますが……」
「魔物と? どうして魔物と戦うと思ったの?」
「……え?」
それはまさに予想外だ。
西の森に行くのだと気が付いた瞬間から、魔物と戦わされることを想定していた。それが外れたのはうれしいことだが、となると僕は一体何と戦わせられるのだろう。
「誰と戦うかだって? それはもちろん私とに決まってるじゃない」
「なるほど!」
「じゃあ、すぐに始めようか?」
その考えは頭になかった。
だが、言われてみれば確かにそれが一番確実な修行法だ。彼女の力をかけらほどでも見た今ならそれも納得できる。おそらく、その辺の魔物では彼女の相手は務まらないだろう。
それに、獣人が相手なら殺されるような心配もない。
彼女が構えるのを確認して、僕は杖を構える。
「あ、言い忘れてたけど……私加減とかわからないから、全力で来てくれないと間違って殺しちゃうかもしれないから!」
前言撤回だ。魔物よりも彼女の方がはるかに危険だ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
じりじりと詰め寄ってくる彼女にそんな言葉は通用しない。
「待ったはなしだよ! 実戦に待ったは存在しないからね!」
彼女の体が一瞬だけ光ったように感じた。
その次の瞬間には、目の前に立っていた彼女の姿は見えなくなる。
僕も急いで魔力を足に込めて対応する。
「へぇ……私の計算ではもう少しだけ時間がかかると思ってたけど」
背後から聞こえた声に僕はあわてて前に走り出し、数メートル離れたところで急ブレーキをかけて声の主を確認する。
「速すぎる!」
普通なら目の前から一瞬で背後に回られた場合、そこには何かしらの空気の動きを感じるはずだ。だがそれすらなかった。
それなのに、彼女は僕の目に留まらないほどの速度で背後をとったのだ。
それがどういう原理なのかを理解できるほど、僕は魔力の使い方に関して理解がないのだろう。
神の余計な恩恵によって、全ての武器を扱うことが出来るはずの僕にとってそれはおかしな話だ。魔力が武器として認識されているなら、彼女の動きを理解できないはずがない。
「不思議そうな顔だね……でもそれも仕方ないのかもね! 神の知識に頼って、その使い方を本当の意味で理解しようとしていないんだからねっ!!」
彼女はにやりと笑うと、再び僕の視界から姿を消した。
「また後ろか!?」
背後を取られないように全力で走りだす。
「後ろじゃないよ! 前だよ!」
全力で走っている僕の目の前に突如として彼女は現れた。
魔力で上昇させた脚力に、僕の体はついていくことは出来ない。踏みとどまる腰の力が足りない。
「飛ぶしかない!」
「ダメだよ! そんなことしたら体が壊れちゃうからね!」
足に力を入れて飛び上がろうとしたほんの一瞬のうちに僕は吹き飛ばされた。
何が起きたのかは全く理解できなかった。気が付けば背後遠くにあったはずの木がすぐそばまで迫っており、目の前にいたはずのケントニスが遠く離れていく様子が目に映っただけだ。僕の記憶はそこで途絶えていた。
唐突に『場所を変えよう』と言われ、言われるままについていくと、見慣れた門を抜けて西の森へとたどり着いた。
僕はここに来るまでに嫌な予感がしていて、外れてくれることを願っていたが、残念なことに予想は的中してしまったようだ。
「やっぱり体に叩き込むには実践あるのみよ!!」
ケントニスは最初に会った時のように以上に高いテンションを見せている。
冒険者ともなると、早い時間から魔物の討伐をすることも日常茶飯事で、場合によっては朝から晩まで戦いっぱなしなんていうこともあり得るが……徹夜で頭がおかしくなっていない限りはそこまでテンションが上がることもないだろう。
僕はというと、実戦で実践するというダジャレみたいな状況に……いやな予想が的中してしまったという二重の意味で気落ちするような状況に頭を抱えていた。
だがその反面、伝説の魔法使いとまで言われた彼女の力を理解できるかは分からないが、それでも特訓してもらえるという事にかなりの期待を抱いていたのは言うまでもない。
「こんな場所で実践というからには……聞くまでもなく魔物との実戦を指しているんだとは思いますが……」
「魔物と? どうして魔物と戦うと思ったの?」
「……え?」
それはまさに予想外だ。
西の森に行くのだと気が付いた瞬間から、魔物と戦わされることを想定していた。それが外れたのはうれしいことだが、となると僕は一体何と戦わせられるのだろう。
「誰と戦うかだって? それはもちろん私とに決まってるじゃない」
「なるほど!」
「じゃあ、すぐに始めようか?」
その考えは頭になかった。
だが、言われてみれば確かにそれが一番確実な修行法だ。彼女の力をかけらほどでも見た今ならそれも納得できる。おそらく、その辺の魔物では彼女の相手は務まらないだろう。
それに、獣人が相手なら殺されるような心配もない。
彼女が構えるのを確認して、僕は杖を構える。
「あ、言い忘れてたけど……私加減とかわからないから、全力で来てくれないと間違って殺しちゃうかもしれないから!」
前言撤回だ。魔物よりも彼女の方がはるかに危険だ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
じりじりと詰め寄ってくる彼女にそんな言葉は通用しない。
「待ったはなしだよ! 実戦に待ったは存在しないからね!」
彼女の体が一瞬だけ光ったように感じた。
その次の瞬間には、目の前に立っていた彼女の姿は見えなくなる。
僕も急いで魔力を足に込めて対応する。
「へぇ……私の計算ではもう少しだけ時間がかかると思ってたけど」
背後から聞こえた声に僕はあわてて前に走り出し、数メートル離れたところで急ブレーキをかけて声の主を確認する。
「速すぎる!」
普通なら目の前から一瞬で背後に回られた場合、そこには何かしらの空気の動きを感じるはずだ。だがそれすらなかった。
それなのに、彼女は僕の目に留まらないほどの速度で背後をとったのだ。
それがどういう原理なのかを理解できるほど、僕は魔力の使い方に関して理解がないのだろう。
神の余計な恩恵によって、全ての武器を扱うことが出来るはずの僕にとってそれはおかしな話だ。魔力が武器として認識されているなら、彼女の動きを理解できないはずがない。
「不思議そうな顔だね……でもそれも仕方ないのかもね! 神の知識に頼って、その使い方を本当の意味で理解しようとしていないんだからねっ!!」
彼女はにやりと笑うと、再び僕の視界から姿を消した。
「また後ろか!?」
背後を取られないように全力で走りだす。
「後ろじゃないよ! 前だよ!」
全力で走っている僕の目の前に突如として彼女は現れた。
魔力で上昇させた脚力に、僕の体はついていくことは出来ない。踏みとどまる腰の力が足りない。
「飛ぶしかない!」
「ダメだよ! そんなことしたら体が壊れちゃうからね!」
足に力を入れて飛び上がろうとしたほんの一瞬のうちに僕は吹き飛ばされた。
何が起きたのかは全く理解できなかった。気が付けば背後遠くにあったはずの木がすぐそばまで迫っており、目の前にいたはずのケントニスが遠く離れていく様子が目に映っただけだ。僕の記憶はそこで途絶えていた。
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