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10 伝説の魔法
125 才能と使い方20
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「何をそんなに驚いているの?」
ケントニスの顔がさらに僕に近づく。
さっきまでもそうだったといえばそうだったが、今はより一層彼女が恐ろしい人物に見えてならない。
近くで見るとよくわかるが、彼女の顔にはシミやほくろ、傷の一つも存在していない。もちろん人形のように無機質というわけではないが、獣人……いいや人という種族から考えるに不自然だ。完璧なる生命体が存在しているというのなら、おそらく彼女がそうなのだろう。そしてそれと同時にもう一つ気が付いたことがある。
――彼女は……僕のうっすらとした記憶の彼方にかけらほどしか残っていないが、それでもそうだ。彼女の顔は女神とかなり似ている。似ているなんてものじゃない。まるで生き写しであるかのようにそっくりだ。他人のそら似なんて言葉では通用しないほどに。
「まさか……あなたも」
「違うよ。たぶんケン君は勘違いしていると思うけど、その質問はさせないし、もし仮に最後まで聞いていたとしても違うとしか答えようがない。私はそうじゃない! 勘違いしないでよね! なんてね」
謎のウインクと共に、言葉にする前の僕の思考は否定された。
人の思考を読んだり、教えてもないことを知っていたりしている彼女は、神そのものではなかったとしても神の関係者なのではないかと疑っている。
まあ答えのわからないことは考えても仕方がない。
「そ、そうなんですね」
あまりにも早すぎる否定に、何か裏を感じざるを得ない。
「まあ、いいじゃない! そんなことより感情のコントロールだよ。今君が感じているのは猜疑心かい? それとも不安かい? どっちにしても、魔力が体中から失われていくのを感じるだろう?」
ケントニスは話をそらす。
いいや、最初に話をそらしたのは僕なのだから、正確には話をもとに戻したというべきかもしれない。
とにかく、彼女の言葉を聞いて僕は猜疑心を浮かべていたのも、それによって体を巡る魔力が減少したことも確かだ。だが悲しみの感情をいだいたときのように魔力が体外に放出されたというわけではない。
「もしかして、負の感情によって魔力が作り出せなくなった……ということですか?」
「当たらずとも遠からずってやつだね! 魔力を作り出せなくなるのは、死を強く意識して恐怖が絶頂に達した時だけだよ。今の状況はそうではなく……魔力がうまく作り出せない状況だとでもいえばいいかな?」
一緒じゃないか……と思ったが、それを口にするのはやめておこう。
ともかく、魔力を作りだしたいときは負ではなく正の感情が必要になるという事だ。しかし問題は負の感情から正の感情に突然切り替えるなって無理だという事だろう。こればっかりは話を聞いたからと言ってどうなるものでもない。
「まあその通りなんだけど、負の感情……たとえば悲しみや怒り……恐怖を抑えることは不可能じゃない。それを実戦でやってみよう!」
そう言うや否や、ケントニスは椅子に座ったままの僕に近づいて拳を構える。
「いや、ちょっと待って――」
僕の中に溢れる恐怖という感情。それは、魔力を生成するうえで邪魔なものだ。
彼女の拳から命を守るためには、それなり以上の魔力で体を強化しておかなければならないが、魔力が生成できないのだから必然的に体を強化することは出来ない。
初めて経験するというわけではないが、脳裏に死がよぎり、体中から生命力が失われていくのを感じた。指先からは熱が失われ始めて、それがどんどん腕の方に迫り、そしていずれは心の臓が鼓動をうつのをやめるまで僕の体を冷やし続けるだろう。魔力とは生命力を表し、人間が生きて行くうえでは必ずしも必要なものだ。それが体から消失しはじめている。
「――大丈夫、君が本気で止めれば死にはしない! だから今、思い出すのよ。君が幸せに感じたこととか……怒りを思い出してみるのもいいわ! 魔力がコントロールできなくても死ぬことは避けられるからね!」
突然そんなことを言われても困る。
正直、今まさに頭の中で走馬灯が流れ始めているところだ。今回の人生は振り返るほど長くもなかったけど、やっぱり不幸な思い出ばかりだ。幸せな思い出なんて――
『兄ちゃん!』
一瞬だけメリーの顔が頭に浮かんだ。
僕の二度の人生において、唯一本当の家族と呼べる存在だ。彼女……妹と一緒に居たから、女神に送り込まれたこんな不条理な世界で今まで生きてこられた。そして僕の親友……犬のおかげで二度目の人生を選択することが出来た。
死が目の前に迫ったこの時でも、ほんのわずかでも幸せを感じることが出来たのだから――僕は幸せ者だ。
「妹をおいて死ぬなんて……そんなことを出来るわけがない! していいわけがない!」
果てしなくゼロに近づいた魔力が少しずつ戻り始める。
僕の体に到達するまでにコンマ一秒にも満たない程に迫ったケントニスの拳は、そんなわずかな魔力で防ぐことが出来るはずもない。だけどそのわずかな魔力でも出来ることはある。
「動け! 体!」
僕は叫ぶ。だけどそれは、すでに僕の体が動いた後のことだ。
ケントニスが放った拳は、僕から数メートル以上離れたところにあったが、それでも風圧だけで距離があるにも関わらず僕の体をさらに彼女の拳から遠ざけた。
「へえ、なるほど。脊髄反射よりも早く動くんだ……魔力で体を後ろに飛ばしたんだね……確かにそれなら脳から出た指示はおろか、脊髄から出た指示よりも早くにエネルギーの放出できるね! うん、これで第一段階は――」
ケントニスの感心するような声が途中まで聞こえて、そのあたりから記憶が曖昧になり、そして最後には途絶えてしまった。
ケントニスの顔がさらに僕に近づく。
さっきまでもそうだったといえばそうだったが、今はより一層彼女が恐ろしい人物に見えてならない。
近くで見るとよくわかるが、彼女の顔にはシミやほくろ、傷の一つも存在していない。もちろん人形のように無機質というわけではないが、獣人……いいや人という種族から考えるに不自然だ。完璧なる生命体が存在しているというのなら、おそらく彼女がそうなのだろう。そしてそれと同時にもう一つ気が付いたことがある。
――彼女は……僕のうっすらとした記憶の彼方にかけらほどしか残っていないが、それでもそうだ。彼女の顔は女神とかなり似ている。似ているなんてものじゃない。まるで生き写しであるかのようにそっくりだ。他人のそら似なんて言葉では通用しないほどに。
「まさか……あなたも」
「違うよ。たぶんケン君は勘違いしていると思うけど、その質問はさせないし、もし仮に最後まで聞いていたとしても違うとしか答えようがない。私はそうじゃない! 勘違いしないでよね! なんてね」
謎のウインクと共に、言葉にする前の僕の思考は否定された。
人の思考を読んだり、教えてもないことを知っていたりしている彼女は、神そのものではなかったとしても神の関係者なのではないかと疑っている。
まあ答えのわからないことは考えても仕方がない。
「そ、そうなんですね」
あまりにも早すぎる否定に、何か裏を感じざるを得ない。
「まあ、いいじゃない! そんなことより感情のコントロールだよ。今君が感じているのは猜疑心かい? それとも不安かい? どっちにしても、魔力が体中から失われていくのを感じるだろう?」
ケントニスは話をそらす。
いいや、最初に話をそらしたのは僕なのだから、正確には話をもとに戻したというべきかもしれない。
とにかく、彼女の言葉を聞いて僕は猜疑心を浮かべていたのも、それによって体を巡る魔力が減少したことも確かだ。だが悲しみの感情をいだいたときのように魔力が体外に放出されたというわけではない。
「もしかして、負の感情によって魔力が作り出せなくなった……ということですか?」
「当たらずとも遠からずってやつだね! 魔力を作り出せなくなるのは、死を強く意識して恐怖が絶頂に達した時だけだよ。今の状況はそうではなく……魔力がうまく作り出せない状況だとでもいえばいいかな?」
一緒じゃないか……と思ったが、それを口にするのはやめておこう。
ともかく、魔力を作りだしたいときは負ではなく正の感情が必要になるという事だ。しかし問題は負の感情から正の感情に突然切り替えるなって無理だという事だろう。こればっかりは話を聞いたからと言ってどうなるものでもない。
「まあその通りなんだけど、負の感情……たとえば悲しみや怒り……恐怖を抑えることは不可能じゃない。それを実戦でやってみよう!」
そう言うや否や、ケントニスは椅子に座ったままの僕に近づいて拳を構える。
「いや、ちょっと待って――」
僕の中に溢れる恐怖という感情。それは、魔力を生成するうえで邪魔なものだ。
彼女の拳から命を守るためには、それなり以上の魔力で体を強化しておかなければならないが、魔力が生成できないのだから必然的に体を強化することは出来ない。
初めて経験するというわけではないが、脳裏に死がよぎり、体中から生命力が失われていくのを感じた。指先からは熱が失われ始めて、それがどんどん腕の方に迫り、そしていずれは心の臓が鼓動をうつのをやめるまで僕の体を冷やし続けるだろう。魔力とは生命力を表し、人間が生きて行くうえでは必ずしも必要なものだ。それが体から消失しはじめている。
「――大丈夫、君が本気で止めれば死にはしない! だから今、思い出すのよ。君が幸せに感じたこととか……怒りを思い出してみるのもいいわ! 魔力がコントロールできなくても死ぬことは避けられるからね!」
突然そんなことを言われても困る。
正直、今まさに頭の中で走馬灯が流れ始めているところだ。今回の人生は振り返るほど長くもなかったけど、やっぱり不幸な思い出ばかりだ。幸せな思い出なんて――
『兄ちゃん!』
一瞬だけメリーの顔が頭に浮かんだ。
僕の二度の人生において、唯一本当の家族と呼べる存在だ。彼女……妹と一緒に居たから、女神に送り込まれたこんな不条理な世界で今まで生きてこられた。そして僕の親友……犬のおかげで二度目の人生を選択することが出来た。
死が目の前に迫ったこの時でも、ほんのわずかでも幸せを感じることが出来たのだから――僕は幸せ者だ。
「妹をおいて死ぬなんて……そんなことを出来るわけがない! していいわけがない!」
果てしなくゼロに近づいた魔力が少しずつ戻り始める。
僕の体に到達するまでにコンマ一秒にも満たない程に迫ったケントニスの拳は、そんなわずかな魔力で防ぐことが出来るはずもない。だけどそのわずかな魔力でも出来ることはある。
「動け! 体!」
僕は叫ぶ。だけどそれは、すでに僕の体が動いた後のことだ。
ケントニスが放った拳は、僕から数メートル以上離れたところにあったが、それでも風圧だけで距離があるにも関わらず僕の体をさらに彼女の拳から遠ざけた。
「へえ、なるほど。脊髄反射よりも早く動くんだ……魔力で体を後ろに飛ばしたんだね……確かにそれなら脳から出た指示はおろか、脊髄から出た指示よりも早くにエネルギーの放出できるね! うん、これで第一段階は――」
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