転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟

文字の大きさ
134 / 170
10 伝説の魔法

132 伝説の魔法7

しおりを挟む
「魔力は体の一部……まさにその通りだわ! それを理解することこそが、伝説の魔法を考えるうえで最も重要で初歩的なこと!」

 ケントニスは僕の答えを聞いて嬉しそうに、そしてまた懐かしむようにそう言った。
 正直なところ、僕には伝説の魔法とかどうでもいい。妹を……メリーを守れる力が持てるのならそれで十分だと、今でもそう考えている。それでもケントニスの嬉しそうな顔を見ると、どうしてだかその魔法を習得するのもいいと思えた。

「伝説の魔法……どんな魔法なんです?」
「前にも言ったけれど、私の口からそれを説明することは出来ないわ! 教えることが出来たとしても教えないけどね……ケン君が自分で理解できないと意味ないからね!」

 思わせぶりなことばかり口にするけど、やっぱり彼女は『伝説の魔法』とやらについて全く教えてくれない。一体どんな魔法だというのだろう。彼女が訓練の初日に見せてくれたような、一瞬で何もないところから椅子を取り出すような、本当の意味でのファンタジックな魔法のことを指すのだろうか……それなら若干使ってみたい。

「そんなことより、早く立って! さっきと同じように、回復する魔力と消費する魔力がほとんど同じになるように魔力を放出してね!」
「……嫌です」

 というか無理。もう立ち上がる気力すらない。体力のほうが消耗しているんだから、魔力が回復しようがそれは変わらない。

「無理だって思ってるんだよね? でも出来るんだよ! 勘違いしているかもしれないけど、根性が足りないとかそういう事じゃないよ! 魔法には限界を超えても獣人の体を動かせるだけの力があるって言っているの!」
「限界を超える……?」

 そう言われてみれば確かにそうだったような気がしないでもない。
 僕はさっきまで明らかに今よりも衰弱していた。それなのに立っていられたんだ。先ほどよりも幾分かマシな今なら、『魔力を体の一部』として全身に張り巡らせれば立ち上がれるかもしれない。
 妹にこんな情けない姿を見せるわけにはいかない。

「ふぅ……」

 大きく息を吐いてとぎれとぎれながらも、深呼吸を繰り返し少しずつ体中に意識を行き渡らせる。
 ゆっくりと魔力は全身に流れていくのがわかる。だがその魔力も徐々に体の外に放出され、そして身にまとった魔物の毛皮に吸われていく。それと同時に体が、精神が重たくなっていくのを感じた。それでも体はさっきよりかは幾分か動く。
 まず起き上がりそうになる地面を支えつつ、前傾姿勢になりながらも何とか足の裏を地面と平行に保つ。

「立ち上がれた?」
「当たり前だよ……魔力って言うのは気力だからね!」

 だからこそ出来て当たり前だとケントニスは笑う。
 しかし彼女の笑みは僕にとっては不幸の訪れも同じ、きっとこれから立ち上がってしまったことを公開するとになるだろう。女神の恩恵によって、魔力の扱い延いては武器の扱いについては常人以上の才能に恵まれている僕ではあるが、それ以外はてんでダメ。前世の経験すら全く生かすことが出来ない僕にとっては、単なる訓練、修業であったとしても地獄のようなのだ。

「それで?」

 正直聞きたくもないことだが、何も知らないでいるよりかはこれから起こるであろう……いいや彼女が起こすであろうことを聞いておかなければなかった。
 そんな僕の問いかけに彼女はまるで答えようとしない。ただただ笑顔をこちらに向けるだけで、何の指示すらもしてこないのだ。むろん、その意味を理解できないわけではない。というよりも、彼女の主張は最初からたった一つだった。

「わかりましたよ……」

 僕はまるで長いマラソンから帰って来たところで、もう一度来た道を帰るように言われたような気分で体の奥底から魔力を放出し始める。
 魔力の放出量を変えていないのに最初よりかはずいぶんとマシになった。だがそれでもやはり魔力が服に喰われる分辛いものがある。

「放出量が足りないよ!」
「いや、そんなはず……」
「魔力の回復量が増えたんだね! それじゃあ、もうちょっと放出量を上げてみようね?」
「え……いや……」
「上げてみようね!?」

 ケントニスには有無を言わさぬ威圧感があった。
 彼女は僕自身すらも理解できていなかったことを瞬時に理解して、そして僕が楽できないようにそんな指示を出したのだ。それはもうものすごい観察力と判断力だし、僕自身それには賛辞の言葉を送りたかったけれど、正直惨事になりそうなのでやめておこう。なにより今は彼女の力が恨めしい。

 再び魔力放出量が魔力回復量と同じになるまで上げた僕の体中に絶望が蔓延する。
 時間が経過するにつれて体の節々は痛み、疲労によって立っていることすら辛くなり、そしてやがては息が苦しくなって過呼吸気味になった。

「ずいぶんとなれたね?」と笑顔で問いかけてくるケントニスに憎しみすら覚えるようになった時、僕はふとあることに気が付いた。魔力が回復する感覚はまるでない……それどころか体中が悲鳴を上げているわけだが、やはり最初に比べるとずいぶんと楽になったような気がする。

「ケン君は集中していて気が付いてないだろうけど、今日訓練を始めてからもう5時間ぐらい経ったからね……そろそろ一定の魔力を放出し続けることに慣れてきたんだよ!」
「な、慣れて来た……?」

 精神的面から考えてまるでそうは思えないんだけど、一ミリたりとも心当たりがないかと言われたらそうでもない。
 そんなことよりもっと気になることが耳に入って来た。

「ていうか……5時間?」

 5時間もこんなことをさせられていたのか? そりゃ、少しぐらい慣れもするわな。っていうか、5時間でほんの少し前進しただけって……あと一体どれぐらいこの訓練をやらされるんだろう。疲労で死んでしまいそうだ。

「丁度、折り返し地点だし……気を張りなおして行こうか!」
「え?」
「大丈夫、大丈夫! 私は最後まで付き合うからね!」

 ちょっと待ってくれ、今彼女はなんて言った? 『折り返し地点』という言葉が聞こえた気がするが、聞き間違いだよな……いや、そうであってほしい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

​『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』

月神世一
ファンタジー
マンションの5階でカレーを作っていたら、なぜかトラックが突っ込んできた件。 ​外科医を目指す医学生・中村優太(24)は、特製の絶品バターチキンカレーを食べる寸前、マンションの「5階」に突撃してきた理不尽なトラックによって命を落としてしまう。 ​目を覚ますと、そこはコタツでカップ麺を啜るジャージ姿の駄女神・ルチアナの部屋だった。 「飲み会があるから定時で帰りたい」と適当な理由で異世界転移をさせられそうになる優太だったが、怒りのガラポン抽選でユニークスキル【地球ショッピング】と【女神ルチアナこき使い権】を引き当てる! ​かくして、ポンコツ女神を強制連行して剣と魔法の世界『アナステシア』に降り立った優太。 しかし、彼にはただのチートスキルだけではない、元SEALs直伝の「CQB(近接戦闘術)」、有段者の「薙刀術」、そして何より「現代医療の知識」があった――! ​降り立った辺境のポポロ村で彼を待っていたのは、クセが強すぎる住人たち。 ​キャルル: マッハの飛び蹴りを放つ、ファミレス大好きなウサ耳村長。 ​リーザ: タダ飯とポイ活に命を懸ける、図太すぎる地下アイドル人魚。 ​ルナ: 善意で市場や生態系を破壊する、歩く大災害の天然エルフ。 ​ルチアナ: 優太のポイントでソシャゲ課金と酒を目論む、労働拒否の駄女神。 ​優太は【地球ショッピング】で召喚した現代物資と、自身のサバイバル能力&薙刀術で野盗や魔物を無双! さらには特製のスパイスカレーで異世界人の胃袋を完全に掌握していく。 ​そして、村人に危機が迫った時。 優太の「絶対に命を救う」という善意の心が、奇跡の黄金ガチャを引き起こす……! ​「俺は医者だ。この村の命も、平和な日常も、俺の戦術(スキル)で全部守り抜く!」 ​現代の【医療・戦術・料理】×【理不尽ギャグ】×【異世界サバイバル】! 凶悪な「ワスプ薙刀」を振るい、ヤバすぎる仲間たちと送る、最強医学生のドタバタ辺境防衛ライフが今始まる!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...