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10 伝説の魔法

141 伝説の魔法16

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「今までのように甘くはないよ……」

 再びケントニスの空気が変わる。しかし先ほどのように優しさは感じられない。
 まるで歴戦の英雄を目の前にした時の様な緊張感が走る。スティルに敵意を向けられた時に感じたようなそれと同じだ。

「精神に来ますね」
「戦いとはそういうものよ」

 僕の軽口を軽くあしらい、彼女は拳を構えた。左半身をこちらに向け、左の拳はこちらに軽く突き出されている。
 今まで過ごした時間の中でわかったことだが、彼女は右利きだ。左の拳は右の拳に遥かに劣る。しかしそれでも僕ごときにはそれにあたっただけで致命傷だ。

「こんなことなら格闘訓練もしっかりとしておくんでしたよ」

 後悔先に立たず、しかしそもそも戦いには勝利以外は後悔しかない。
 出来るだけ後悔を減らす様に僕は全力で恐怖を抑え込み、そして魔力のコントロールで体から一定量の魔力を放出することに専念する。

「確かに誰かの指南を受けるべきね。私たちのような弱者にとっては五体と魔力だけでは十分な武器とは言えないから、武術と言う武器……いいえ、武器はいくらあっても足りないぐらいだわ」

 そう言って彼女は僕の懐に一気に飛び込んだ。
 油断していたとは言え、彼女からは僕は軽く5メートルは離れていた。それなのに、気が付いた時には僕の懐だ。それどころかその左拳を僕のわき腹めがけて打ち込んできた。

「っつう……!!」

 そのまま僕は左側に数メートル押し込まれ、地面に靴を滑らせた後を残しながら右わき腹を押さえる。

――ただのパンチがなんて威力だ! あんな小さな体から、それも魔力で体を守っていたのに!

 いいや、もし魔力で……魔力を吸収しやすい素材で出来た服を着ていなければ致命傷だった。彼女の攻撃がわからないほどに集中して魔力を放出し続けたからこそ耐えられたんだ。

「それが守るために必要な魔力量よ。でも一定量常に流し続けていれば……今のあなたのように攻撃を察知することも、攻撃にカウンターする余裕もなくなる。今からはどのタイミングで魔力を放出するか、反撃するか……それを見極める訓練をするわ」
「見極める……!?」

 ずいぶんと簡単に言ってくれるが、タダでさえ痛みという恐怖と戦いながら魔力を放出するのはかなり難しいんだ。それでも常にやればいいと思えるからこそ出来る芸当だ。それを頭で考えながらやれと言うのは鬼畜の所業だ。

「この世に絶対的な防御なんてものは存在しない。どれほどすぐれた肉体を持っていたとしても、どれほどすぐれた武装をしていたとしても神の前では無に等しい。でもそんな神の一撃すらも防ぐことが出来る可能性を秘めているのは魔力とそれを蓄積する魔物……だけど魔物と獣人は相容れない存在。そんな相容れない二つが会いまみえる時に生じる防壁。それが最強の一角、『最強の防御魔法』よ」
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