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11 魔法の言葉
148 言霊
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「ケン君は言霊って信じる?」
ケントニスの唐突な問いかけに僕は少しだけ動揺しながらも、少しだけ考え込んで今の自分の状況を思い出す。
「考えても見れば、この状況じゃ考える間もなく信じるしかないじゃないですか!」
今まさに、言霊――『言葉の魔法』とやらで、体がケントニスの言葉通りに動いたばかりだ。
生まれてこのかた、言霊って言葉を知らなかった人間だとしても信じてしまうに決まっている。どれだけ否定しようとも現実に起きてしまったのだから。
「それもそうね。魔法をかける前に聞いておくべきことだったわ……」
ケントニスの口調はついうっかりといった風ではあるが、その表情と今まで表情を鑑みるに全くそうは思っていないらしい。
何がなんだかわけがわからない。
「それで、その言霊がどうしたんですか?」
「言葉の魔法って言うのは、簡単に言えば、術者の願いなのよ」
「願い……ですか?」
強く念じれば願いが叶うとでも言うのだろうか。それだけで願いが叶うなら、この世界はもっと優しい世界になっていることだろう。差別なんて生まれるはずもない。
たぶんもっと別の意味なのだろう。
「もちろん、口にした言葉がすべて実現するなんて都合のいいものじゃないわよ。そんな神のごとき力は獣人には使えないからね」
僕の心を読むように、ケントニスは否定した。
まあわかってはいたし、そんな力が実在したとしてもそれは生きる上では足かせにしかならない。強すぎる力というのは、いつの時代も妬みの対象になり、最終的には災いとして自身の身に降りかかることになる。それが前世で得た教訓の一つだ。
「じゃあ、どんな魔法なんですか?」
自分で言うのもなんだが、質問ばっかりだな。少しは自分で考えるべきなんだろうけど、正直なところケントニスの授業は今まで全く知らなかったことばかりで、僕の思考が入る余地はまるでない。
しかし、ケントニスは僕に「まずは自分で考えてみて」と言う。
僕は矮小な脳みそをフル稼働させる。
だけど全く分からない。そもそも、魔力は体外に出るとコントロールを失ってしまうはずだ。頑張って魔力を集めることぐらいは出来たとしても、相手の体を自由自在に操れるほどにまでコントロールできるはずがない。だとすると、魔力は関係なく『言葉』に何かしらの力が宿っているのだろうか……言霊みたいに、言葉自体に何かしらの力gあるのかもしれない。でも、もしそうだとしてもその正体はわからないし、そもそもそれを証明することも出来そうにない。
完全に僕の知識不足だ。
「わかりません」
降参だ。
もしも、言葉が武器になるというのであれば、僕のもつ恩恵でその使い方がわかるはずだが、そうでないという事は言葉そのものは武器になり得ないという事だ。
知識さえあれば理解できたかもしれないが、案外すべての武器が使える恩恵というのも役に立たたない。
そんな僕を馬鹿にするでもなく、ケントニスは「まあ、仕方ないわね……」とつぶやいて、そして続けて話した。
「説明書があっても実力や知識がないと使えないの。知識も武器なのよ。武器は使いこなせないと意味ないわよね……」
「ごもっともです」
自分が情けない。
なんてしょぼくれている僕を慰めるようにケントニスは僕の肩を二回軽く叩いた。
「だから仕方ないことなんだって、知らないことを理解することなんて誰にも出来ないんだから。だから知っていることをよく思い出して考えてみて」
そう言われて僕は再び思案する。
ケントニスは『言霊』という言葉を口にした。だけど、それと同時に『口にした言葉のすべてが実現するなんて都合のいいものじゃない』とも口にした。それなのに、僕の体は彼女の言葉通りに動いた……いや、言葉通りに動いたっけか? いいや、違う。彼女は確か僕に対して『座れ』と言った。それなのに、僕の体は地面にめり込んだ。つまり、言葉通りに作動しなかったという事だ。
つまり……どういうことだ。意味が分からな過ぎて頭が混乱してきた。だけど、いや待てよ。
「言葉の魔法が、口にした言葉が実現するなんて一度も口にしていませんでしたね……」
「そうね。私は『術者の願い』としか言ってないわ」
ケントニスはやっと気が付いたかとにっこりと笑った。
確かに彼女は、言葉の魔法が対象者の動きを言葉によって操るものだなんて一言も口にしていない。僕が勝手にそう言うものだと勘違いしただけだ。
「魔力に対する言葉……魔力に命令を出していたってことですか?」
まるで大学で講義を受けているかのような気分だ。
完全な答えなど存在しない質問に答えるかのような緊張感がある。
しっかりとこちらを見据えるケントニスの瞳に、僕の体中から汗が噴き出すかのような錯覚を引き起こす。
「それじゃあ、『言霊』をうまく活用できてないわね。その答えじゃ合格点は上げられないわね」と、ケントニスは厳しい言葉を口にするが、その表情はいつになくやわらかだった。
ケントニスの唐突な問いかけに僕は少しだけ動揺しながらも、少しだけ考え込んで今の自分の状況を思い出す。
「考えても見れば、この状況じゃ考える間もなく信じるしかないじゃないですか!」
今まさに、言霊――『言葉の魔法』とやらで、体がケントニスの言葉通りに動いたばかりだ。
生まれてこのかた、言霊って言葉を知らなかった人間だとしても信じてしまうに決まっている。どれだけ否定しようとも現実に起きてしまったのだから。
「それもそうね。魔法をかける前に聞いておくべきことだったわ……」
ケントニスの口調はついうっかりといった風ではあるが、その表情と今まで表情を鑑みるに全くそうは思っていないらしい。
何がなんだかわけがわからない。
「それで、その言霊がどうしたんですか?」
「言葉の魔法って言うのは、簡単に言えば、術者の願いなのよ」
「願い……ですか?」
強く念じれば願いが叶うとでも言うのだろうか。それだけで願いが叶うなら、この世界はもっと優しい世界になっていることだろう。差別なんて生まれるはずもない。
たぶんもっと別の意味なのだろう。
「もちろん、口にした言葉がすべて実現するなんて都合のいいものじゃないわよ。そんな神のごとき力は獣人には使えないからね」
僕の心を読むように、ケントニスは否定した。
まあわかってはいたし、そんな力が実在したとしてもそれは生きる上では足かせにしかならない。強すぎる力というのは、いつの時代も妬みの対象になり、最終的には災いとして自身の身に降りかかることになる。それが前世で得た教訓の一つだ。
「じゃあ、どんな魔法なんですか?」
自分で言うのもなんだが、質問ばっかりだな。少しは自分で考えるべきなんだろうけど、正直なところケントニスの授業は今まで全く知らなかったことばかりで、僕の思考が入る余地はまるでない。
しかし、ケントニスは僕に「まずは自分で考えてみて」と言う。
僕は矮小な脳みそをフル稼働させる。
だけど全く分からない。そもそも、魔力は体外に出るとコントロールを失ってしまうはずだ。頑張って魔力を集めることぐらいは出来たとしても、相手の体を自由自在に操れるほどにまでコントロールできるはずがない。だとすると、魔力は関係なく『言葉』に何かしらの力が宿っているのだろうか……言霊みたいに、言葉自体に何かしらの力gあるのかもしれない。でも、もしそうだとしてもその正体はわからないし、そもそもそれを証明することも出来そうにない。
完全に僕の知識不足だ。
「わかりません」
降参だ。
もしも、言葉が武器になるというのであれば、僕のもつ恩恵でその使い方がわかるはずだが、そうでないという事は言葉そのものは武器になり得ないという事だ。
知識さえあれば理解できたかもしれないが、案外すべての武器が使える恩恵というのも役に立たたない。
そんな僕を馬鹿にするでもなく、ケントニスは「まあ、仕方ないわね……」とつぶやいて、そして続けて話した。
「説明書があっても実力や知識がないと使えないの。知識も武器なのよ。武器は使いこなせないと意味ないわよね……」
「ごもっともです」
自分が情けない。
なんてしょぼくれている僕を慰めるようにケントニスは僕の肩を二回軽く叩いた。
「だから仕方ないことなんだって、知らないことを理解することなんて誰にも出来ないんだから。だから知っていることをよく思い出して考えてみて」
そう言われて僕は再び思案する。
ケントニスは『言霊』という言葉を口にした。だけど、それと同時に『口にした言葉のすべてが実現するなんて都合のいいものじゃない』とも口にした。それなのに、僕の体は彼女の言葉通りに動いた……いや、言葉通りに動いたっけか? いいや、違う。彼女は確か僕に対して『座れ』と言った。それなのに、僕の体は地面にめり込んだ。つまり、言葉通りに作動しなかったという事だ。
つまり……どういうことだ。意味が分からな過ぎて頭が混乱してきた。だけど、いや待てよ。
「言葉の魔法が、口にした言葉が実現するなんて一度も口にしていませんでしたね……」
「そうね。私は『術者の願い』としか言ってないわ」
ケントニスはやっと気が付いたかとにっこりと笑った。
確かに彼女は、言葉の魔法が対象者の動きを言葉によって操るものだなんて一言も口にしていない。僕が勝手にそう言うものだと勘違いしただけだ。
「魔力に対する言葉……魔力に命令を出していたってことですか?」
まるで大学で講義を受けているかのような気分だ。
完全な答えなど存在しない質問に答えるかのような緊張感がある。
しっかりとこちらを見据えるケントニスの瞳に、僕の体中から汗が噴き出すかのような錯覚を引き起こす。
「それじゃあ、『言霊』をうまく活用できてないわね。その答えじゃ合格点は上げられないわね」と、ケントニスは厳しい言葉を口にするが、その表情はいつになくやわらかだった。
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