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11 魔法の言葉

155 本当の魔法

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  ◇


 結論から言うと、僕はまだ魔法の『魔』の字すら学んでいなかった。

「え? ケントニスさんみたいに、何もないところから椅子を取り出したり出来ないんですか?」
「最初にも言ったけどね、魔法ってそんな便利なものじゃないんだよ。無から有を生み出すなんて、神の力でも持っていないと出来ないよ!」
「じゃあ、魔法で何が出来るんですか?」
「ひとつ例を挙げるとするなら、言葉の魔法。魔力に願いを込めて、その威力を上げたり、体外に放出した魔力を操ったり出来るって話しはしたよね?」

 確かにその話は聞いた。
 まだ言葉の意味についてはまるで皆目検討すらつかないが、とにかくそうらしい。

「はい。でも言葉だけじゃ、いまいちぴんと来ないです」

 体内の魔力は体の一部を動かすような感覚で出来たけど、正直なところ体の外にある物を動かすというのは想像できない。
 実際にケントニスがやっているところを見てもわからないんだから、たぶん相当高等な技術なのだろう。

「それほど難しいことじゃないよ!」

 ケントニスは満面の笑顔でそう言った。
 どうやら、彼女にとっては高等な技術ではないらしい。

「そ、そうなんですか?」

 戸惑いながらも問い返すと、さらに追い打ちをかける言葉が返ってきた。

「魔法の初歩の初歩ってところかな。これが出来なきゃ、魔法使いじゃないよ!」

 なるほど、どうやら僕はまだ魔法使いですらなかったらしい。
 いや実際、本当は魔法使いじゃないんだけれど、どうやら『全ての武器が使える恩恵』はそれほど便利なものじゃないらしい。

「魔力を体のどこかに集中させたり、『杖』と呼ばれてるものに送り込んで硬化させたり、魔力を武器として扱うものをこの国では魔法と呼んでいるけど。魔法はそこまで不便なものじゃないんだよ!」
「えっと……つまり、僕は今まで魔力を武器として使っていただけで、本当の意味で魔法を使っていたわけじゃないってことですか?」
「うん!」

 なるほど、ようやく合点がいった。
 どうやら、魔法は武器ではないという判定で使い方がわからなかったらしい。そもそも、持った武器の使い方がわかったとしても、あくまで『使い方がわかる』というだけだったから、それほど期待もしていなかった。
 知識だけあっても使えなければ何の意味もない。百聞は一見にしかずという事だ。結局、魔力を武器として使うのだって、ある程度使いこなせるようになるには時間がかかった。

「あっさりと言いますけど、それってつまり、この国には『本当の魔法が使える獣人』がほとんどいないってことですよね?」
「うーん……それはちょっと違うかな。この国じゃ、私しか使えない……というよりも、私しか本当の魔法について知らないからね!」

 ケントニスの言葉に思わず絶句する僕。正直なところ、ものすごく不安だ。


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