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11 魔法の言葉
156 命懸け
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「本当の魔法について誰も知らないって……禁じられているってことですか?」
図書館にもケントニスの言うような魔法について記載された文書は一編たりともなかったのは、もしかすると梵書でもされてしまったせいなのではないだろうか。
そんな風に考えていたが、どうやらそうでもないらしい。
「魔法のために国がそこまでするわけないよ! 放っておいてもたかだか数十年で、ほとんどすべての痕跡が消えてしまった物のためにはね」
ケントニスはそう言ったが、果たして数十年かそこらで、周知されていた物が忘れらるのほど痕跡が消え去ることなんてあるのだろうか……甚だ疑問だ。
だけどそこを疑っても仕方ないし、別に僕は魔法の歴史について学びたいというわけでもない。
それよりも、早く言葉の魔法とやらについて教えてもらいたいぐらいだ。
「早く魔法が覚えたいって顔だね!」
表情で心情を読まれたようだ。
僕ってそこまでわかりやすい人間だろうか。
「たぶん、ケン君は気が付いていないんだろうけど、私との訓練でかなり感情豊かになってきているよ! 魔法を使うには重要なことだね!」
「そうなんですか? 自分ではよくわかりません……」
前世でも、今世でも、生きることに必死だったからか、感情というものについて深く考えたことはなかった。
というか、普通の人は、自分の感情なんて気にするものなのだろうか……ケントニスは喜怒哀楽の激しい人物のように感じるけれど、それも魔法の善し悪しに関わってくるのだろうか。
なんて考えている僕にケントニスが少しだけ離れるように促した。
「この世界は辛いことばかりで、神は助けてはくれない。獣人のほとんどは希望を持たず、生きて行くことに必死だけれど、それでも笑って生きて行くことが重要なんだ。喜びは力になるからね!」
そう言い切ると、ケントニスは右の拳に魔力を集中させてそのまま拳を一直線に振りぬいた。
それで何かが起きることはなかったけれど、たぶん、僕があれにあたっていれば相当なダメージを負うことになっただろう。
「えっと?」
しかし、何の脈略もなく正拳突きかまされたから、その意図が読み取れずにいる。
「今のは魔力を拳に込めて武器として使っただけだよ! これから見せるのが『言葉』を使った魔法。一度は見せたけど、今度は見比べてほしい。神にさえ立ち向かえる『本当の魔法』がどういう物なのかをねっ!!」
再びケントニスは拳に魔力を込めて、そのまま、まっすぐに振りぬいた。
ただ、今回とさっきで違いがあったとするなら、拳を振る前に何かをつぶやいたことと、拳に込めた魔力を少しだけ体外に放出させたことだろう。
たったそれだけの違いしかなかった。
だがしかし、コンマ数秒遅れて僕の耳に轟音が届いた。
彼女の拳は、触れてもいない数十メートル先にあった木を押し倒したのだ。
一度は見ていたから、それほど驚きはしなかったが、それでもやはり不思議な光景だ。拳圧で木を倒すなんて格闘漫画でも最強クラスのキャラしかやらないことだ。現実的ではない。
だけど、不思議と今回は恐ろしくは感じなかった。
「凄いですね。まさか、拳で空気を飛ばして木を倒しているわけじゃないですよね?」
「この体でそんなことできるわけないよ!」
ケントニスは両手を広げて、それでもなお小さい自分の体を卑下するかのような表情でそう言った。
彼女は幼女と勘違いさせられるほどに小さい。というか、僕は今でも幼女だと思っているくらいだ。それに加えてあの体術だから、体を圧縮して強さを引き上げていると言われても納得できるほどだ。もちろん、そんなことは口が裂けても言えない。
「まあ、とにかく! 実践あるのみだよ!」
「は、はい!」
僕はケントニスの声につられて、大きな声で返事をした。
なんだか変な気分だ。
短い間にケントニスから植え付けられた恐怖心は、抑え込むのも一苦労な領域に達していたけど、今はそれほど彼女を怖いと思わなくなった。
これが恐怖心のコントロールというやつなのだろうか。
「まず最初に注意しておくけど、魔法を使うためにはかなり微細な魔力コントロールが必要なんだよ! だから、魔力を揺さぶるような強い恐怖心があると、魔法を発動するのかなり難しくなるんだよ……」
「なんで今そんな話を?」
確かに重要な話しだけど、使い方を教える前に言うようなことでもないだろう。
なんだかものすごく嫌な予感がする。
「魔力――いわゆる生命力を体外に媒介もなく放出するんだから、ちょっとのミスで命取りになるからね」
ケントニスの表情を見るに、残念ながら冗談で言っているというわけではないようだ。
魔法を使うことはどうやら命懸けらしい。それで、今日までひたすらに恐怖心を与えられ続けて、恐怖をある程度コントロール出来るように訓練してきたのか。
数十年で魔法の痕跡がなくなったらしいけど、そりゃ、そんなに危険なものなら魔法もすたれるよ。
図書館にもケントニスの言うような魔法について記載された文書は一編たりともなかったのは、もしかすると梵書でもされてしまったせいなのではないだろうか。
そんな風に考えていたが、どうやらそうでもないらしい。
「魔法のために国がそこまでするわけないよ! 放っておいてもたかだか数十年で、ほとんどすべての痕跡が消えてしまった物のためにはね」
ケントニスはそう言ったが、果たして数十年かそこらで、周知されていた物が忘れらるのほど痕跡が消え去ることなんてあるのだろうか……甚だ疑問だ。
だけどそこを疑っても仕方ないし、別に僕は魔法の歴史について学びたいというわけでもない。
それよりも、早く言葉の魔法とやらについて教えてもらいたいぐらいだ。
「早く魔法が覚えたいって顔だね!」
表情で心情を読まれたようだ。
僕ってそこまでわかりやすい人間だろうか。
「たぶん、ケン君は気が付いていないんだろうけど、私との訓練でかなり感情豊かになってきているよ! 魔法を使うには重要なことだね!」
「そうなんですか? 自分ではよくわかりません……」
前世でも、今世でも、生きることに必死だったからか、感情というものについて深く考えたことはなかった。
というか、普通の人は、自分の感情なんて気にするものなのだろうか……ケントニスは喜怒哀楽の激しい人物のように感じるけれど、それも魔法の善し悪しに関わってくるのだろうか。
なんて考えている僕にケントニスが少しだけ離れるように促した。
「この世界は辛いことばかりで、神は助けてはくれない。獣人のほとんどは希望を持たず、生きて行くことに必死だけれど、それでも笑って生きて行くことが重要なんだ。喜びは力になるからね!」
そう言い切ると、ケントニスは右の拳に魔力を集中させてそのまま拳を一直線に振りぬいた。
それで何かが起きることはなかったけれど、たぶん、僕があれにあたっていれば相当なダメージを負うことになっただろう。
「えっと?」
しかし、何の脈略もなく正拳突きかまされたから、その意図が読み取れずにいる。
「今のは魔力を拳に込めて武器として使っただけだよ! これから見せるのが『言葉』を使った魔法。一度は見せたけど、今度は見比べてほしい。神にさえ立ち向かえる『本当の魔法』がどういう物なのかをねっ!!」
再びケントニスは拳に魔力を込めて、そのまま、まっすぐに振りぬいた。
ただ、今回とさっきで違いがあったとするなら、拳を振る前に何かをつぶやいたことと、拳に込めた魔力を少しだけ体外に放出させたことだろう。
たったそれだけの違いしかなかった。
だがしかし、コンマ数秒遅れて僕の耳に轟音が届いた。
彼女の拳は、触れてもいない数十メートル先にあった木を押し倒したのだ。
一度は見ていたから、それほど驚きはしなかったが、それでもやはり不思議な光景だ。拳圧で木を倒すなんて格闘漫画でも最強クラスのキャラしかやらないことだ。現実的ではない。
だけど、不思議と今回は恐ろしくは感じなかった。
「凄いですね。まさか、拳で空気を飛ばして木を倒しているわけじゃないですよね?」
「この体でそんなことできるわけないよ!」
ケントニスは両手を広げて、それでもなお小さい自分の体を卑下するかのような表情でそう言った。
彼女は幼女と勘違いさせられるほどに小さい。というか、僕は今でも幼女だと思っているくらいだ。それに加えてあの体術だから、体を圧縮して強さを引き上げていると言われても納得できるほどだ。もちろん、そんなことは口が裂けても言えない。
「まあ、とにかく! 実践あるのみだよ!」
「は、はい!」
僕はケントニスの声につられて、大きな声で返事をした。
なんだか変な気分だ。
短い間にケントニスから植え付けられた恐怖心は、抑え込むのも一苦労な領域に達していたけど、今はそれほど彼女を怖いと思わなくなった。
これが恐怖心のコントロールというやつなのだろうか。
「まず最初に注意しておくけど、魔法を使うためにはかなり微細な魔力コントロールが必要なんだよ! だから、魔力を揺さぶるような強い恐怖心があると、魔法を発動するのかなり難しくなるんだよ……」
「なんで今そんな話を?」
確かに重要な話しだけど、使い方を教える前に言うようなことでもないだろう。
なんだかものすごく嫌な予感がする。
「魔力――いわゆる生命力を体外に媒介もなく放出するんだから、ちょっとのミスで命取りになるからね」
ケントニスの表情を見るに、残念ながら冗談で言っているというわけではないようだ。
魔法を使うことはどうやら命懸けらしい。それで、今日までひたすらに恐怖心を与えられ続けて、恐怖をある程度コントロール出来るように訓練してきたのか。
数十年で魔法の痕跡がなくなったらしいけど、そりゃ、そんなに危険なものなら魔法もすたれるよ。
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