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11 魔法の言葉

157 非凡

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 ◇

「――やれば出来るじゃない!」

 ケントニスは両手を高く上げて、そのまま拍手をする。ちょっと間抜けな格好だけど、それが僕をほめるためだと思うと少しだけうれしかった。
 そう、僕はようやく、離れた場所にある木を――少しだけ傷つけることが出来たのだ。

「魔力の放出……めちゃくちゃ体力を持っていかれるんですけど……」

 ほんの少し、ちょっと離れた位置にある木の幹に傷をつけただけだというのに、命の消耗がかなり激しく、そして今にも倒れてしまいそうなほどに気分が悪い。
 こんなんじゃあ、どうあがいても実戦では使えないだろう。

「それは、ケン君の魔力コントロールが甘いから! 魔力は繊細なんだから、もっと慎重に使わなくちゃいけないって教えたでしょう!?」
「確かにそう言われましたけど、知識があるのと、技術を持っているんじゃまるで別ですよ」

 神から与えられた恩恵による知識があるとしても、それが技量につながるというわけではない。普通の人より、ほんの少しだけ習得が早くなるという程度だ。チート能力なんて必要ないって、そんなことを口にした自分の愚かさが今だからこそよくわかるし、女神がこの恩恵をそれほど重要視していなかった理由もよくわかった。
 まあ、それでも今まで十分、この恩恵に助けられてきたわけだけど。

「それは違うよ。ケン君」

 さっきまで大はしゃぎだった人と同じ人とは思えないほど、ケントニスは神妙な面持ちで続けた。

「君がもらった力は、間違いなくチート級の力だよ。その力はあらゆる武器に対する天賦の才を与えられたと言っても過言ではないよ……すべての冒険者が喉から手が出るほどにほしいモノだ」

 そう言われて僕はハッとする。
 確かにそうだ。初めて持った武器をある程度使いこなせる人間を他人は天才と呼ぶ。僕だって、他の人が『出来る』と言うのを羨んだことがある。
 今の僕は、過去の僕が羨んだ『誰か』なんだ。

「そうだ。僕はそれが嫌で、何もほしくないって言ったんだった」

 誰かを羨んだり羨まれたり、そんなくだらないことが嫌で、自分の力だけですべてを乗り越えたいと思った。一人でなにか出来ると思い込んだのも傲慢だが、才を与えられて、それを平凡だと騙ることもまた傲慢なんだ。
 僕はそれだけの才能を持って生まれてきたんだから。

「まあ、それが懸命だね。神に力をねだると碌なことはない。それでも! まあいいじゃないか! 折角、神から力をもらったんだから、それを有効利用しなくちゃね!?」
「ケントニスさん……感情を操るっていうのは分かりますけど、その唐突すぎる感情変化は怖いですって」
「私はケン君ほどの魔力量すらないから、普段からこれぐらい感情を高ぶらせていなくちゃいけないんだよ! 魔力コントロールは誰にも負けないけどね!」

 ケントニスは恥ずかしげもなくそう言い放つ。
 自分の短所も長所もよく理解していて、それを補う技量もあるし、それを恥ずかしいと思う事もない。それがどれほど素晴らしいことなのか、僕はようやくわかってきた。
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