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11 魔法の言葉

164 疲労

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 魔力を暴発させずに魔法を使えたあの日から、数日が流れていた。
 ケントニスとの訓練の末、魔力を絞って威力を落とさないようにするのは少しずつ慣れてきたような気がする。魔法を使った後、倒れなくなったのがいい証拠だ。

「だけど、一回使うたびにこれだけ疲労するんじゃ、あんまり使い道なさそうですよ……」
「まだまだ感情のコントロールが下手だからだね!」

 愚痴を吐く僕にケントニスが追い打ちをかける。
 せめて、慰めの言葉でもかけてくれれば、僕ももう少し怠けることが出来るだろうに、そこは優しいケントニスだ。僕のダメなところをわかりやすく教えてくれる。

「魔法を使った後は疲労困憊で、感情を昂ぶらせることも出来てませんしね」

 そして、実のところ僕もそのことは気にしていた。
 ケントニスはいつもニコニコと笑顔でいるから、それが簡単なように思えるけど、実のところこれがとても難しい。魔法を使った後は楽しいことを考えるなんてことすら出来ない。

「それは言葉の魔法、魔法の言葉を理解してないからだよ! 言葉は魔法なんだよ。『疲れた』とか、『やりたくない』とか思ってたり口にしたりしたら、うまくいくものもうまくいかなくなる。それが言葉の魔法なんだよ!」
「言霊ってやつですよね? 『出来る』って口にしたら、出来るようになる……みたいな」

 それも頭では理解しているけど、まだまだ僕はうまくできない。
 疲れているとつい、頭に『疲れた』という文字が浮かんでしまう。人間の怠惰な部分が出てしまう。

「努力はしているんですけどね」

 僕が弱音ばかり吐くものだから、ついにケントニスも大きなため息を吐いた。

「ケン君。勘違いしているようだから言っておくけど、私だって最初は君と一緒だった。でもね、宗教じみて思えるかもしれないけど、言葉による魔法はもっと単純なものなのよ。一種の自己暗示とも言えるのかしら、『頑張る』って口にすれば頑張れるし、覚悟を口にすればいつもより気が引き締まる。頭で考えることが必ずしも重要じゃない。語尾を明るくしたり、一言、元気になるようなトリガーを付け加えるだけでもずいぶんと感情は変化するわ……」

 別に彼女が難しい話をしているというわけじゃない。むしろ、その言葉は分かりやすく、自分に足りないものが何なのかが浮き彫りになるような感じだ。
 自分を教育べただと口にする割には、彼女は教育熱心だし、説明もそこまでわかりにくいわけじゃない。イチゴが言っていたように、説明が下手なんてことは全くない。だからこそ不思議だ。どうして僕の認識と、イチゴの認識が違っているのだろう。

「それは考える間でもないわね。イザベラさんは魔法についてそれほど詳しくない、私とは特異な分野が違うからね。でも一番の問題は、イザベラさんが魔法を難しいものだと認識しているから。今のあなたと同じように、理解しようとしていないからよ。まあといっても、イザベラさんはそもそも知識が少ないから難しいと感じているだけで、あなたは知識があるのにわかろうとしていないんだけどね」

 久しぶりのケントニスの厳しい批判だ。
 理解しているのに、わかろうとしないか……そう言われると耳が痛い。自分でもわかっている。魔力が暴走しないように覚悟なんてものを口にしたけど、やっぱりどこかで暴走を恐れている。だから、疲労状態で魔法を使わないようにしてるんだって。
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