先生と僕

真白 悟

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保健室

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 ずぶぬれになるだけだったらよかったのだが、それだけすむはずもない。地面は石のブロックでできていた。スライディングなんてすれば足に傷を負うのも必至だろう。

「大丈夫ですか!?」

 頭上から女性の大きな声が聞こえてくる。
 そんな近くで叫ぶのはやめてもらいたい。
「大丈夫です。それより、お怪我はありません――っ!!」
 僕の胸板にやわらかい二つのぬくもりがある。それほど大きくはないが、初めての感覚だ。女生徒の胸が思いっきり当たっている。

「やっぱり、頭を打ったのでは!?」

 女性はかなり焦っているが、今一番焦っているのは僕の方だろう。とくに股間の部分が……童貞には耐えがたい辱めだ。
「いや……それより早く下りていただけないでしょうか?」
 初めの女性との触れ合いが終わるのはもったいないが、もはやそれどころではない。早くどいてもらわないと理性がどこかに行ってしまいそうだ。

「あ、ごめんなさい!」
「いえ、大丈夫です」
「ですが、服が……」

 確かに、これは問題だ。ずぶぬれの状態で、入学式に参列なんて聞いたこともない。
 だが、保健室にでも行けば体操着ぐらいは貸してくれるかも。

「とりあえず保健室に行ってみます。あなたは早く入学式に向かってください」
「そうはいきません。私の責任なんですから! 送らせてください」

 女性は必至の形相で僕に訴えかける。
 正直な話、目の前にある体育館にすら気がつかないような人についてこられても、迷惑なだけだが、責任の緩和というやつだ。女性の気持ちが和らぐならそれもいいだろう。
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