境界線の知識者

篠崎流

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名無しの子

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二人が南に逃れて入った最初の街から更に南に移動した、王国の城下町に入りそこで一先ず落ち着いた

もう追っ手の類も無いだろうが元の土地から遠いに越したことはない。そこで宿を取っての生活が暫く続く

「フォレス」
「なんだ?」
「何故私は勉強なんだ?」
「当面やる事はない、それと今後、役に立つだろう」
「むう‥」
「後これも読んでおけ」

フォレスは手持ちの荷物から本を出してテーブルに置いた

「戦略、戦術は読んどけ、勉強すればした分戦術はどうにかなる、お前の武ならどこかに雇われる可能性も後々あるだろう」
「それでどうにかなるのか?」
「戦略は全体を見渡す目と客観性、今日より明日を見るような特殊な才能というか資質が要る、極めようと思えばだが、そうでなく、ある程度指揮統率で動けるようにするには事例を頭に叩き込んでおけば何とかなる場面が多い、例えば、戦う前に相手より先に到着せよ、とかの原則基本はな」
「わ、わかった」

そんな具合でエミリアは只管学習
一方でフォレスは自分の作業に集中した

この地「ブラトニア」は比較的安定した土地だった、山や森が多く街道も東西に伸びる一本、その道に一定間隔で街や集落がある、国も王政ではあるが長く続く安定的な国である

とは云え、何時までもここに居るという訳ではない、旅にはそれなり金は掛かるし、遊んでいる訳にもいかない、故にフォレスの最大の稼ぎ所でもある魔法道具の製作は必須だった

主に消耗品、薬を裏で売って換金する、消耗品なら使って終りでまた需要がある、もう一つは病人やケガ人の治療と言った所だろう

ただ、現状は金が無いという訳ではないので、先に起こった事件での反省から、自身の装備の充実を図った、そう「エンチャント武具」だ

この時代でもこの技術を使える者は極僅かで半永久付与魔法の武具はとんでもない値が付くが、特に彼の場合、僅かにしか居ないエンチャンターの中でも更に特殊な技術と知識を持つ

故に、その武具をむやみに作って売ったりはしないし、表に出さなかった、どこかに求められても、知られても面倒でしかない

彼は街の周囲にある山岳等に出かけては使えそうな物を探す、候補になりそうな石を拾っては持ち帰りそれを加工して特殊魔法石を作るの繰り返し

本来、エンチャンターの石は自然の中にある宝石の様な結晶化した物に魔法を詰める物だが、彼の場合、その段階に至っていない石にすらそれを詰められる、結晶化した物、どこからでも取れる低属性の例えば水晶にも同じ処理が出来た

そしてそれは石にすら限らない、先の液体瓶の例を見ても限定しない付与が可能だった、尤も、結晶石以外の物は使い捨ての物が殆どだが

「とりあえず、肩代りの石は一つ出来たな、後は‥エミリア用、かなぁ‥」と

椅子にもたれて腕を組んで考え込んだ

「うーむ‥‥。やはり使い捨ても問題だなぁ‥」

色々考えた挙句、魔法を込めるのが楽、魔力消費が少ない為枯れる危険性が少ない、援護と、一対多数になった場合での事を考えて、少々面倒で制限は付くがエンチャントブレスレットを、一つ3日掛けて作って与えた

「なんだこれは?‥」

と怪訝な顔をして受け取ったが

「エンチャントブレスレットだが?」
「ヘンな魔法が入ってないだろうな‥」
「低級召喚魔法が入ってるだけだ」
「‥」
「だが、街中で使うなよ?それとイザという時だけにしろ、こないだみたいに自分が捕まって、動き取れない時とかな」
「一応聞くが何を呼び出す‥?」
「ナイトオブボーンズ」
「やっぱり変なモンじゃないか!」
「そう云うな‥魔力消費が少ないし連続で使っても石が枯れない、しかも一回呼び出したら数十分は勝手に戦ってくれる、すげー楽だぞ?」
「なんか悪の手下ぽくなってきたな‥で、どうやって使うんだ?」

「前にかざして念じればいい、引っ込めるときも同じだ」
「ボーン「ズ」て事は一匹じゃないのか?‥」
「普通は2,3だな、何らかの骨とか死者の念とかあったら応じて増える、墓場とかで使ったらさぞ壮大だろうな」
「怖すぎる‥」
「まあ、実体がある訳じゃないけどな、それだけに人間相手には有効だ物理攻撃が効かん、反面魔術に弱い」
「実体が無い?」
「闇の召喚て奴は殆どの場合「念」の表層化だ、まぁ、精霊術も殆どそうだが」
「ウィンディーネとかサラマンダーとかか?」
「ああ、どこの世界にも属さない云わば精神世界のモンだ、だから殆どコッチの世界の物理攻撃は効果がない」
「よーわからんが、まあいいか、しかし、コレは辺り構わず戦うのか?」
「いや、闇系というか虚無系は意思、思考を略持たんので主従がハッキリしているので呼び出し主、この場合お前に服従する、なので命ずるかお前に敵対する者と戦う」
「成る程‥」

「ただ、一応補足すると一般的な本に出てくるスケルトンは実体があるのでそのまま殴って倒せる、使ってる媒体が「骨」だからな、それだけに一回自分に従持させるとその物質が壊れるまで従わせられる、逆に性霊体系の召喚術は別界から呼び出す為効果時間が極端に短い」
「一長一短あるという事か」
「ま、そうだな、とりあえず手放すなよ、常に着けとけ、風呂とか水浴びとかで襲われても反撃出来るしな」
「なんだその使いどころの限定は‥」
「オレは裸でも武器無くても、どうでもいいし戦えるが、お前は女だし、剣持ってなかった戦闘はきついだろ」
「ま、まあ、そうだけど‥」
「それと呼ぶと帰すの古代言語を教える、キーワードだな、やたらと呼び出せんようにしてある」
「う、うむ分った」

そこから数日、ある程度の準備を整えた所で情報を集める、二人で街を歩き見て回った

「うーん‥結構広いなぁ」
「安定した治世と規律が徹底されている、物の価格がある程度揃っているな。おそらく細かく注意なり法なりがあるのだろう」
「そのようだな。王都でもあるし」
「が、窮屈な感じは余り無い、安心、安定から来るゆとりだな」
「中々良い国、統治という事だな」

そこから酒場の類に入り周囲の状況や国の軍力等も聞く

「ベリオールと左程変わらんな、軍もそこそこあるし、豊かな部類だろう」
「ただ街道の繋がる東西の国とは争いは無いな」
「ああ、名士、名将が居ないなら争いそのものを起こさせなければいい、外交に寄る力だ」
「だが人は広く募集してるみたいだな」
「この大陸情勢から云えばいくら増強してもいいからな、人は居て困るモノではない、尤も、人を集めるのは上手くない」
「そうなのか?」
「ただ募集してるだけではな‥」
「んー、軍から上に上げれば軍は良いと思うが」
「そこは実際内部に入らんと分らんが、システムが確立されていればそれでもいい、と、云っても、それも人事選抜眼のある奴が居ればの話だし」
「そういうものかな」
「組織での出世てのが実力や能力主義ならそれでいいが」
「そうじゃない組織や集団なんてあるのか?、‥いや、私が言う事じゃないな‥」

「別にエミリアの例に限った話じゃないさ、世の中が実力主義なら人間世界は少しづつ良くなっていくはずだ、が、実際は逆だからな、未だにアホな戦争を繰り返し、更に拡大させようとすらしている」
「うむ‥」
「向き不向きてのもある、お前の例で言えば、全軍指揮官で無く、前線指揮なり遊撃隊に置いて全体指揮に別に司令官を充てればいい、適材適所という奴だ」
「確かに‥フォレス自身も野に居る訳だからなぁ‥これほどの力がありながら」
「オレのは自分から避けてるだけだがな」
「しかし考えて見れば、当人の希望する部署に入れる訳ではないな、私にしても状況と立場が前線に出るのを許さなかった、とも云えるし」

「そういう事だ、お前程の武があって、尚、軍司令というのは考えて見れば無駄だ、まあ、気持ちは判るが、娘を出すのはいい、心理的効果もあるだろう、だが死なせたく無いという色んな人間の思惑だな」
「むう‥やっかいな事だなぁ」
「それも人間という事だ、剣を剣として扱えない思惑、だな、逆に言えば、それら個人的思いや計算、贔屓目を省いて物事を見れる人間が尤も人を使える人間という事だ」
「例えば?」
「簡単さ、歌手は歌が上手けりゃいい、料理人は美味い料理が作れりゃいい、道具を道具として見る事が出来る、それだけの事だ」
「実際はそうではない?のか」

「個人的な感情や好み、だれだれの息子だから、とか家が金持ちだからとかそりゃあるさ、そういう私情を廃せる人間しか人事はやっちゃいけない」
「成る程な」
「例えば自分が人事担当官だとして、英傑レベルの資質を持った人間が面接に来たとする、お前はそいつを何の裏も考えず登用出来るか?自分の立場を危うくする程の人物を」
「むう、成る程だな、私は兎も角、普通の人では悩んでしまうな」
「それが、世を悪くする原因だ、アホを上に立てる程、下の者の不幸は無いし、不適切な事をやらせるくらい失敗する事はない、軍なら負け確定に近いし、商売なら衰退が眼に見えている、逆に言えば、そういう事をするのが最も組織を腐らせるのに効率がいい」
「耳の痛い話だが尤もではあるな」

「一時的に気分が良ければ、か利益に成ればそれでいい、大体そんなもんだろうなぁ‥」
「まあ、そういうこっちゃ、近視眼という輩だが、本来はどの組織でも苦言を呈する人間のが名士なんだがな」
「唯々諾々と従う奴よりダメな物はダメと云う奴のが参謀としては使えるだろうな、嫌われそうだが」
「だな、だから結局感情でやってるとソイツは登用されない、つまり集団とか物事とかの勝率を下げる」
「成程な」
「ただ、乱世なら、多少人材が出てくる頻度は変わるが」
「ああ、そうか、敵に対抗するにはそれだけの人物が必要だからか」
「正解だ、生き残りたきゃ、英傑に擦り寄るのがいい、寄らば大樹の陰だな」

二人が酒場から外に出た所で騒ぎに出くわす。大げさな物ではなく、住民が左右に分かれて、その開いた中央を中隊規模の小軍が行進していく、周りの人々のヒソヒソ話しで聞くまでもなく事情は理解した

「北東の集落に人魔が出たらしい」
「こえーな‥まだ生き残りが居るのか‥」
「何十年か前に出た時は村が一つ壊滅したからなぁ」

成る程の事態だった

「人魔とは珍しいな‥」
「100人程度の部隊でどうにかなるのかな?」
「さぁな、相手に寄るだろ、まあ、オレらには関係‥」

と、言いかけた所で先にエミリアが言った

「我々も行ってみよう!」と

まあ、見るだけならいいだろうと、エミリアが返答を聞く前に兵団のあとを追ったのでフォレスもついてった

北と南を横切る様にある森の南出口付近ある集落に程なくして辿り着く、兵団は集落に突入して散会しつつ、防御陣を組んで其々内部へ

だが、そこで集落の住人に止められて戦闘態勢は解かれた、「何だ何だ?」と離れた所で見ていた二人も意味不明だったが

村の中央に小さい子が縄をうたれ、引きずられて地面に転がされた流石にこの光景に二人も驚いた

驚きなのはそこからだ、住民らは転がった子供を棒で打ちつける、泣き叫ぶ子供にお構いなしだった、まるで親の敵でも見つけたような扱い、別に子供は抵抗するでも無く、体を丸めて打撃を耐えるだけだ

兵団も事情を理解してズタボロの子供を更に木の枷で拘束して移動式のカゴ牢のような物に投げ込んだ

「ここからじゃよく見えんな‥」
「構わん近くに行こう!」

エミリアも人の輪の中に走った、近づいてみるとそれは更に驚愕の事態だった

見た目は普通の女の子にしか見えない、ボロボロになるまで殴りつけられ血と涙でぐしゃぐしゃだった

兵団が移送してまた王都方向に戻るが去り際に二人の横を通って、悠然と撤退していった

エミリアは呆然としていた、あまりの事態に

「な‥あれが人魔なのか?!人間の子供にしか見えんぞ?!」
「目を見ろ‥間違いなく混ざり物だ」

フォレスに云われて少女の目を見た

「あ‥黄金の‥目?‥」

昼間の猫の様な縦の瞳孔に金の光、確かに何らかのハイブリットなのだろうが

「しかし無抵抗だぞ‥?あそこまでやるか‥」
「帰るぞ‥もういいだろ」

とフォレスはボーと立ち尽くすエミリアの腕を掴んでその場を離れた。再び街の宿に戻ってからようやく話した

「オイ!いいのか?!アレ!」
「良いも何もしょうがないだろ、人魔なんだからか」
「しかし‥害があるように見えないぞ‥?」
「実際無いだろうな、何しろ魔眼持ちだ」
「は?!!?」
「魔眼てのはどっちの何の混ざり物だとしても、高級種との混ざり物の可能性が高い」
「どういう意味だ?」
「あれは魔族系とのハイブリットなら下位の魔族にはつかん、そして神格の側なら混ざっていようが神や天使の側だ、暴虐な訳がない」
「?」
「一般的に認知されるよく暴れる人魔は下種の混ざり物、だから荒れた性格の場合も多い、だが、魔眼持ちというのはそれなりの高種族との間の子に付く確率が高い、そして、魔族側だとしても高種なら、高い知能がある場合が多い」
「では、あの子は暴虐ではないのか」
「状況を見てもそうだろうな、確認は出来ないが」
「なんという事だ‥」
「それに、もし「神」の側なら種族の云々に関わらず「聖」なる者だ」
「な!?」

「人魔だからと一緒くたにしてるからなぁ‥無知とは恐ろしい」
「い、いや、でも私もそんなの初めて聞いたし‥実際人魔によって大量虐殺も多くあったのだろう?」
「ああ、そのトラウマ、だから何かする前に大抵処分される」
「でも、あの子は違う‥」
「あくまで「可能性」だ、実際確認するには道具なり魔法なり必要だろう、そしてそれを持っている人間等いくらも居ない」
「だからと言って全部処分してしまえとは‥」

フォレストにも気持ちは判る、が、それをどうこうするのは間違いだ

「お前の気持ちは判るが「そう決められている」ものだ、第一オレらにはどうしょうもない」
「ぐ‥」

と唸ってエミリアも拳を握った
エミリアは宿を飛び出し「あの子」を追った、人伝いに話を聞き城まで行ったのだ

「え?!公開されてるのか!?」
「ああ、当分は城前の広場でさらし者にされるそうだが?‥」

実際城前まで行くと檻に入れられたあの子の周りは人だかりだ、いわば地下牢をそのまま持ってきた様な形で4メートル四方

粗末な布団?の様な布と桶の類があるだけ、手枷を嵌められたままだ

周りに柵があって接触は出来ず、野次馬も5,6メートルの距離から見ているだけだ、人ごみに紛れてエミリアも見たが、とても耐えられないような空気だった

「あれが人魔か‥」
「気持ち悪いわねぇ‥早く殺しちゃえばいいのに‥」
「ああ、けど、まだ大した力は無いんだろう?被害が出る前に捕まってよかったなぁ」

そう皆口々に云っている

(やっぱり何もしてないんだ‥)
(何もしてないのにあんな目に合わせるなんて‥)

唇を噛締めエミリアもその場を離れた、この中に居る事自体、堪らない苦痛だった、その集団から飛び出した所でぶつかった「彼」と

「来てたのか‥」
「オレも見に来ただけだ」

が、彼も明らかに不愉快そうにしていた、気持ちはエミリアと同じだったのだろう

「とりあえずお前は戻れ、暴発されてもかなわん」
「あ、ああ‥」

そして一旦別れた二人が宿で合流したのは夜だった

「ついでに、色々探ってきた」

先のウワサ通り、あの子は何かした訳ではない、森を放浪していたところを見つかって近隣住人に追いかけられる、何しろあれだけ目立つ眼を持っている、人目に触れると高い確率でそうなる

半日逃走後捕縛、この間、死人も怪我人も出てない、つまりそういう力も無いか、敢えてあの子は使わなかったのかのどちらかだ、この時点で既に危険は無い

城前の公開、晒しは2,3日、その後は公開処刑と決められる、事情を聞いてエミリアも腹立たしくて仕方無い

思わずまた飛び出しそうになるが察したフォレスに無言で腕を掴まれ止められる

「まあ、落ち着け」
「そう言われても‥」

彼は椅子にもたれて相変わらず腕を組んで眼を閉じたままだ

「とりあえず‥オレも気持ちは同じだ‥あの子は害は無いだろう‥それに見ていて胸糞悪くなる。」
「なら!」
「だから落ち着け直情馬鹿」
「し、失礼な‥」
「だがなぁ、オレも考えたんだが、今逃がした所でどうせまた何時か捕まる、しかも一度捕まって逃げたと成ると追撃隊が出されるだろう‥」
「逃がすつもり、なのか?」
「あくまでやるとしたら、という程度の妄想だ、このままさっさと処刑したほうが当人には苦痛は少ないだろう、あれだけ目立つ眼の持ち主だ、どうせまた捕まって酷い目に会う」
「うー‥じゃあ八方塞じゃないか」

「んでだな、助けて連れて行った、としても状況は変わらん」
「うむ」
「もうここの住人も兵士も顔を知っているし、この土地では生きられんだろう、だから、つまり条件は、あの眼、外見をどうにかする、他所の土地に逃がす、という事になる」
「両目だからなぁ‥つむって過ごす訳にもいかないだろう‥眼帯も無理か」
「まあ、神界か魔界ならあの眼を奪う事は出来るだろうが、流石に無理だしなぁ‥」
「そういう魔法は無いのか?」
「無い事も無いが使える人間等おらんよ、でだ、あの子を調べてからの話なるが、後オレに出来そうなのは抑制魔法だな」
「出来るのか?」
「まあ、呪いの一環だな、特殊能力とか特定の魔法を封じる、それであの眼の光も抑制出来れば、という事になる」
「おお‥」

「ただ、上手く行くは分らん、あの子の魔眼の力を上回る力が要るのと、仮に成功しても外見上の変化は無い可能性も五分五分だ」
「厳しいな‥だが、」
「ああ、やらないよりはやった方がいい、でだ、オレらがすべき事は多い。一つに接触して同意を得る、二つにあの子の能力を調べねばならない、三つにあの子を逃がさねばならない、最後に封じの呪いを成功させねばならん、という事だ」
「いや、兎に角やろう、私は何をすればいい?」
「よし、プランを説明するぞ」

そして二人は計画を練った

「この際、この前提条件の順番はどうでもいい、状況の変化によって入れ替える」
「わかった」
「それとだ、逃亡まで上手く行ったとしても、封術に失敗する可能性もある、その時は見捨てるしかないぞ?」
「‥だが、このままだと明後日には殺されるんだ、それに、ダメならダメでどこか人の居ない所へ放ってもいいだろう」
「そうだな、ただ、そうなった際、それでも連れて行くとかワガママ云うなよ?」
「う‥分った」

早速その日の深夜を待ってフォレストは道具を持って公開されている広場に行く

無論見張り兵が居るので姿を消す術を使って「あの子」に接近する、見張りは交代で一人、しかも離れた所からの監視だ、簡単に処理出来る、万が一の事態に備えてエミリアが補佐についた

0時を回った所で見張りが交代、その一人に催眠魔法を掛ける、交代は二時間置きだ、それで十分だ。そして素早く檻に接近して消えたまま話しかける

「人の言葉は分るか?少女」と

相手も驚いていたがウンウンと頷いた

「お前の事を知りたい、今から道具を使って調べるが静かにしていてくれるか?」

今度は「うん」とだけ返してまた二回頷いた

「よし」と姿を現し、袋から道具を出す、片眼鏡とデカイエンチャントの石を交互にかざして見る

術を掛けながら、素早く資質を探る。およそ10分でそれは判明してフォレスト自身も頷いた

「ありがとうな、じっとしててくれて」

礼を言って袋から水筒を出して彼女に飲ませる、その後入れ物を回収して干し肉とみずみずしい果物、皮ごと食えて証拠が残らない、芯だけ抜いたりんごなどを牢越しに渡した

「見張りが起きるまで20分はある、その間に食っとけ」
「あ、あり、がとう‥」
「ああ、じゃあな」と再び姿を消して去った

幸いにしてトラブルも無く第一条件クリアだ
が、宿に戻って合流したフォレスはまた椅子にもたれて腕を組んで唸った

「良くないニュースみたいだな‥」
「ああ、ありゃ間違いなく「神格」だ、しかも眼は関係ない」
「何なんだ?」
「うむ、聖の万能効果だな、一つじゃない」
「え?!」
「ホーリーライトとかバインドとか色々だ、あまりにもごちゃ混ぜに力がある、んで、魔眼はその象徴として眼がああなってる、眼その物に特別な力はない」
「はぁ!?」
「つまりだな、力を持ってるのはあの子自身であって特別な力のある魔眼ではないのだ」
「じゃあ‥」
「ああ、封じる対象ですらないし、あの子の力を全部、仮に封じたとしても眼は治らん、外見上の特徴に過ぎない、青い目とか黒い目とかとそんな変わらん」
「そんな‥」

とガックリしてエミリアも肩を落とした

「まあ、ちょっと待ってろ‥」とフォレスも返し、再び椅子にもたれて眼を閉じた、それが10分も続いただろうか、再び眼を開き、あごに手をやって口を開いた

「おかしいな‥この手の能力で外面上の事なら自分で制御出来るハズだが‥」
「え?!」
「神仏は下界に降りる際、自分で人間の姿に変えられる、魔族もだ、それは幻術の類じゃない、変化に近い、だからあの子が自身で眼を普通の人間のモノに出来るハズなんだが」
「もしかして、やり方を知らない?」
「かもな、言葉もあやふやだし、まるっきり子供だ、知識が無ければ分らないし出来ないのだろう」
「なんとも間抜けな話だなぁ‥」
「だが、逆に魔眼の問題はクリアしたな。」
「どういう事?」

「オレがやり方なり術なり指導すればいい」
「そんなもの分るのか?!」
「まあな、調べりゃ分る、多分大した術手法じゃないだろう」
「というか、お前ホント何者だよ‥」
「人間だよ、ふつーの、ただ知識はいくらでも持ってこれる」
「意味が分らん‥」
「まあ、それより、優先すべき事がある、それの準備が先だ」
「そうだな、どうせ私には聞いても分らん」

「とは云え、もうやる事は単純だ、あの子を逃がし、一緒にどこかに連れて行く、そこであの眼を普通にする方法を伝授する、シンプルな事だ」
「どうせ中央に向かう最中だしな」
「ああ、それが早まったとしても大した問題じゃない、どうせついでだ」

そしてたっぷり寝て準備を整える

無いに越した事はないが、戦闘になる可能性もあるし、救出したら暫くは移動の連続になるうる、故だ

が、一方彼は相変わらず椅子に座ったままだった、寝ているのか考え事をしてるのか謎なのでエミリアも気にせず自分の事だけ整えた

昼にはフォレスも行動開始する、と言っても机に向かって本と格闘していただけだが

その日の夕方には全ての作業を終える、勿論旅支度もだ、出る直前に昼間の作業の結果であろう紙を差し出される

「なんだこりゃ?」
「一応防御用魔法の札、胸前にでも貼っとけ」

決行はやはり深夜、見張りが薄いのと人目の関係だ逃げるなら夜しかない、が、二人は広場手前まで行って渋い顔を見せた

「む‥警戒が増やされているな‥」
「街にも通常の見回りが普段より多いみたいだぞ」
「ま、明日早朝だからなぁ‥処刑、公開処刑の場を作る作業員も兼ねてるか」
「どうする?」
「少し様子見だな、用意が終れば頭数は減るかもしれん」

そうして離れた所で暫く待った、一時間後の23時頃には広場の断頭台の備え付けが終り、10人ほど居た兵も見張り3人だけ残して戻った

「よし」とお互い合図して動いた、そもそも計画は決まっているし逃げのルートも確保してある、変更自体無い

フォレスは消えて檻に近づき近くに居る見張り兵の一人を催眠で眠らせる、ドシャと崩れ落ちた兵を見て他の1人もそいつに寄る、そこでもう一人も同じ様に昏倒させる

ただ事ではない、と感じたもう一人の見張りが笛を咥えた瞬間、そいつの延髄に刀の柄が当って3人目も昏倒した

背後から姿を現したエミリアが親指を立ててOKを出し直ぐ自分も檻に素早く静かに寄った

フォレスは一回目と同じ様にあの子に話しかけて同意を取った、檻の扉の鍵を簡単に開けて少女を抱えて立ち上がる、略、予定通りに進んだ

そのまま二人で旅支度のまま、即座に城下の南から抜けて山林へ、事態に気づいて笛が鳴らされ騒ぎに成ったのは丁度フォレスらが街から出た瞬間だった

直ぐに騒ぎになったがもう遅い、が、アンラッキーが一つ、兵達が総出で探し回っている所に民家の二階から住民が叫んだ

「南門だよ!悪魔の子供はソッチに逃げた!」と

起きている住人に逃げるところを見られていた

「チッ‥空気読めよなぁ‥」思わずフォレスも悪態ついたが、流石にエミリアも同意するしかない

「そんなにこんなちっちゃい子を殺したいのかねぇ‥」
「まあいい、さっさと逃げるぞ」
「応!」

と走り出した

ルートは確保されている、と言っても、逃げる方向がバレたのは痛い、相当な数の兵が南中心に出撃する

このままだと南山林の川向こうに置いた荷物と馬まで辿り着くのは難しい

「クッソ‥どうするかな‥」と少女を抱えて走りながら思わず口に出た

「と、兎に角、雑木林を抜けて、川まで行けば‥橋を越えれば迎撃出来るハズだ!」
「そうだな‥かなり川幅が長いし橋は一本しかねぇ最悪途中でぶっ壊してもいい!」

お互い、叫びながら只管走った

「問題は検問か、監視兵が寝ててくれればいいが」

が、後ろから迫る兵も早い、そもそも軍隊であるし、騎馬も弓も居る、如何にまばらに木の障害物があると云っても精精敵の集団の一部の足を多少削るくらでしかない

橋に辿り着く前に追いつかれて最初の一撃を食らう、馬から剣の一撃、咄嗟に転がってフォレスは避けたが、その瞬間敵が追いつき殺到してくる

敵は馬を走らせながら弓を使うがそれはフォレスの魔法で全部止まった

「な!?魔術士か!?」

そう空気の盾、基本的な防御魔法だ、敵がうろたえ、盾に阻まれる其の隙に再び立ち上がり再び走った

「畜生‥息が‥」

既に10キロ近く走った、その場にぶっ倒れても責められない程の疲労だ

が、そこで橋が正面に見える、そして橋の監視兵は二人きっちり槍を構えて立ちはだかっていた。もうどうしょうもないと思ったが走りながらフォレスは叫んだ

「エミリアはオレに掴まれ!!」
「え?!」と思ったが咄嗟に走りながら彼の空いている右手を取った

「跳んだ」のである

目の前に居る兵を飛び越して橋の中ほどまで飛行術で跳躍した、咄嗟に出した術でどうにかやってのけた、が、着地まで綺麗に制御する余裕無く、橋の道真ん中でズザーと滑って転げた

「グハ!」とフォレスは息を吐いた

少女二人を庇って落下直前に反転させ、自分が下に成ってクッションになり二人の負傷を避けた、それが分ったエミリアも咄嗟に起き上がって彼の体を診た

それ程高く跳んでない、が、400メートル横に跳んで石畳に落ちた、普通なら全身打撲でも可笑しくない

が、彼はケガはしていなかった、驚いて彼を見つめていたエミリアの目の前に白い紙の花吹雪がヒラヒラと落ちる

「身代わり布が役に立ったな‥」

宿を出る直前に渡された術の書かれた紙、それが致命的被弾から彼を守った

一回だけ致命傷を避ける、魔法ではない、既に失伝して久しい「方術」だ

「けど‥もう走るのはキツイ、休ませてくれ‥」

仰向けのまま激しく呼吸していたが、この状況に持ち込んだのなら支えられる、エミリアが

橋は縦に長いが幅は狭い、人5人横に並べる程度だ、そしてこの川は長く、深い、川を泳いでくるのも無理だろう

つまり、この細道の様な舞台は彼女の武力の活かしどころでもあった

向こうは馬を下りて徒歩で迫ってくる、馬だとヘタに走らせるとぶつかって馬ごと川に落ちかねないし横に二頭くらいか並べない、そして相手はもう逃げれないのだ

エミリアも相手が来るまでその場で待った剣を抜いて悠然と、自身も息を整える、時間いっぱい使って、そして最初の一人から切り倒した

彼女は強かった、多少疲労してようが大した問題じゃない、数の差が出にくい状況ならいくらでも防ぎ止められる、エミリアは笑っていた

「城の戦いを思い出すなぁ!」と剣を振るって叩きつけては蹴り飛ばし次々敵を川に叩き落した

相手は軽く500は居るだろう、が、一度に掛かってこれるは二、三人、正に彼女の独壇場、武力の活かしどころ、だった

13分稼いで、敵も動けなくなった、3人斬って25人川に叩き落しただけだ

数が減ったという感じはまるでない、向こうの優位は変わらない、が、この女剣士には勝てない、そう思わせて進むのを躊躇わせた。本来なら弓を使う場面だが狭すぎて使えない

軍団の後方で隊長が叫んだ、何をしてるか!と

それに駆られて兵もバラバラと前に飛び出すが、其のつど、叩き返され投げ飛ばされて、ゴミでも捨てるかの様に川に投げ込まれる

「あっきれた奴だなぁ‥」と座ったまま見ていたフォレスも呟いた

そこで自身の右手を数回、開いて閉じて確認した。一先ず移動する程度の力と呼吸を取り戻して立ち

ゴソゴソとポケットから子袋を出し、中身を右手の中に入れてエミリアに云った

「もういいぞ、オレも動ける、さっさと撤退だ!」

そう叫んでエミリアの前に敵兵に何かを投げつけた、砂の様な砂利の様な白い破片だ

「エミリア!アレを使え!召喚だ!」

エミリアも咄嗟に応じて左手のブレスを掲げ念じて言った

「Προσκάλεσε με」と

瞬間、前に撒かれた破片が形を作りガイコツ兵に変化、そして自分の目の前には地中、橋の石畳の中から出て来る様に、青白く輝く透明ガラスの骨格標本の様な者も3体、スケルトンウォーリアーとボーンズナイトの競演だった

それが「敵」と認識した相手に鈍足前進しながら斬りかかって行く、何しろ13体の死者の兵団である、相手も大混乱して逃げ惑う

手前に居るものから次々骨兵に倒される、もう自ら川に飛び込んで逃げる奴も大勢出る程だった、エミリアもボーゼンとして思わず口に出た

「自分で出しといてなんだが気持ち悪いな‥」
「ボーとしてないで行くぞ、あれで当分時間は稼いでくれる」
「あ、ああ」とその場を早足で去った

「あの撒いたのは何だ?」
「墓から拾ってきた骨、触媒があれば周囲を巻き込んで召喚効果が出る」
「初めて見たが凄いな、なんかコッチが悪者ぽいけど‥」
「気にするな‥どっちが悪とかねーから」
「う、うむ、そうだな」

と無理矢理自分を納得させた

「しかし、あれで低級なら他はどんなのなんだ‥」
「つーかオレ自身は大したもん呼べねーよ、ナイトシェイドとかブラックドッグとか」
「何で闇とかアンデットばっかなんだよ‥」
「いや、学べば出来るんだろうけど、基本魔力消費少ない割り強いしさ‥あれ、増やして呼ぶのも触媒が殆どダタ同然だし」
「ま、まあいいか‥」

そうして一行は悠然と敵をまいて、荷物と馬を留めた野原の広い地点に辿り着き馬に乗って移動した。また別の土地に向かったのである

そこから2日

川に沿って南東に向かいそのまま領土を跨ぐ、大分先の土地から離れた所で手近な山に入った

そこで野営しながら「あの子」に変化を指導した。それ自体簡単だ、元々出来るハズの能力だから

直ぐに自分の姿、「眼」を普通に変えられた。川の水を鏡にして自分の姿を確認して「おー」と言った

「その姿のまま生活しろ、慣れとけ」といわれまた二回「ウンウン」と頷いた

これでもう「人魔」として直ぐバレて、狩られる事は無いだろう

川で釣ってきた焼き魚を美味そうにガツガツ食って満面の笑みだった、捕われている間もそれまでも碌なモノを食ってないらしい

「お嬢ちゃん名前は?」
「しらない」
「無いのか?」
「しらない」
「どうしよう?‥」とエミリアは云ったが、どうでもいいだろうとも思った

「お嬢ちゃんじゃダメなのか?」
「当たり前でしょう!」
「じゃあ、お前が付けてやれ」
「え?ええ!?」
「どう見ても孤児だろコイツ‥あと、この後の処遇だが‥」
「まさか捨てて行くとか云わないでしょうね?」

と、エミリアは魔人の様な顔で笑みを見せて聞き返したので結局旅に加える事にした

ただ、名前は結局フォレスが付けた、エミリアが半日唸って考え込んだが決まらなかった為だ

「お前は今日から「エターニャ」だ、いいな?そう名乗れ」

フォレスに云われて「エターニャ」という名前を貰った少女はまた二回頷いて同意した

「永劫か、安直だが悪くない、女らしい名前だし」云って同じくエミリアも二回頷いて同意した

「短縮名でターニャでもいいしな」
「そうだな、良いと思う」
「しかし幾つなんだろうなこの子」
「さぁね、見た目は10歳以下だろうが見た目等アテにならんし、そもそも、人魔、てのは成長速度がバラバラだ、オレらより年上かもしれんし下かもしれん」
「むう‥」
「別にいいんじゃないか、どうでも」
「そうだな可愛い事に変わりはない」
「‥」

そうしてまた馬に乗って川沿いを行ったのであった

3人で

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