境界線の知識者

篠崎流

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思惑

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連合各国での戦力増強も安定して行われ、補いが必要であったウィステリアで総兵力一万を揃え、ロドニも二国合わせて四万まで回復という状況にあった。それに合わせて一旦ロドニ派遣されていたインファルもグランセルナに戻る事になる

そのついで、バルクストでの会議が開かれた、無論参加するのは両国とペンタグラムを合わせた合同会議である

「今後だが何かある?」

本国会議でフォレスの一声から始まる

「各国最低限の防備は出来てるし、この状況で攻めてくる事も無いでしょ、中央次第じゃない?」
「同感です、こちらはそれに合わせての逐次対応に成るかと」
「戦力増強も劇的に何かある訳でもないし中立街道側の施設も出来てるし」
「強いて云えば‥裏とか、動き出したら派兵援護かしら?」
「それは?」
「今まではペンタグラムに力が無かったからありえなかったけど、今度はウチらがバックに居るし、なんとも云えないけどペンタグラムを介して援護要請とか来るかも?」
「あー‥」
「成る程‥」
「ガーディアン、ですからね、陛下はどうお考えですか?」

「世界の統制管理組織の擁護者だから、あるかもな、オレらシラネーヨ、て訳にも行かんよなぁ」
「そもそも元の教理は武力行使は避ける、ですし、基本不干渉でしょう?」
「左様です」
「クローゼの言も尤もなんだが、兵力は兎も角、なんらかの後方支援とか人材派遣はやってもいいかなぁ‥」
「と言うと?」
「連合の拡大になるかも知れんし、基本的に乱の抑えが強化すりゃいい」
「だねぇ、どうせここまで来たんだから積極的に押さえにかかってもいいかも、やりすぎるのも問題だけど、後はまぁ、テスネア次第よね」
「そこについては何かある?」
「アタシなら先に中央に干渉してちょっかい掛けるかしら」
「どういう風に?」
「中央で残ってる国に援助して間接的に封鎖策を仕掛けるとか、実際通貨の流れのコントロールでテスネアを圧迫するとか?」
「敵の敵は味方作戦か。通貨策はどうだろうなぁ‥コントロールが難しいし、ダイレクトにペンタグラムの非難に繋がるなぁ」
「んー‥今なら全国的に見てテスネアは「悪い」の位置づけだからそうでもないけど、まあ、向こうの経済的犠牲には成るわね」
「うむ、それともう一つが更に向こうを追い込みかねない点」
「ああ‥自称ね」
「?」

「つまりペンタグラム本国を押えた、中央を制した、自らを地域王として国号をぶち上げる、その場合どういう決まりでも通す事になる、元々のペンタグラム本国自体「通貨」の材料はあるし、独自の例えば流通通貨も立てられる」
「成る程‥しかし賛同する者が居ますかね?」
「この際、そこは問題に成らないわね、勝ち進み、領土が多くなれば支配地の民は従うし、他国も便乗する事もあるわ、そうなると、世界の分割統治という流れに成るわね」
「ふむ‥」
「歴史的にそういう例も珍しくない、特に広ければ広いほど、な」
「別に全国統一した形である必要もないしね」
「うむ」

「では王様、やはりインファルさんの策を用いて何らかの干渉は行いますか?我々、というか陛下の方針は拡大の押さえですし」
「そうだなぁ‥其の辺り教皇様はどう思われます?」
「うむ、フォレス殿の基本方針「乱の拡大の鈍化」は正しいと余も思うが、我々ペンタグラムは軍力の増強のし様が無いのと、強引な介入は出来かねる。その意味先のインファル殿の「ペンタグラムの擁護者」の連合にその話が来るというもありえると思う」
「ええ」

「この際、余はフォレス殿にその気があるのならばその立場を与えても良い、とも思う」
「つまりペンタグラムからではなく、連合が裁定干渉ですか?」
「うむ、一方でそれは負担になる事も分っているがその意味強要は出来んが」
「そこはさして問題ないかも、実兵力を必ず出すという訳でもないし」
「ですね」
「ただ、そうなると我々が他国から睨まれる事になりませんか?」
「いや、そこは問題無いなぁ、教皇様から告知して貰えばいいし」
「例えば?」
「んー‥「ペンタグラムのガーディアンと成ったグランセルナ連合これらは公正であり、また、実の力を有している、これまでペンタグラムが出来なかった交渉、援護を一部任せたい」とかな」
「成る程」

「更に云えば、元々の方針「連合の拡大に寄って乱の拡大を抑える意図がある」そう宣言すれば、悪印象は無いだろう」
「余もそれに賛同する、この際問題は、グランセルナが余、ペンタグラムを力によっていい様に操っているという印象を持たれなければ良いし、実際グランセルナ連合はそれを成して来た」
「ですねぇ、この際どうとでもその形は「見せられる」訳ですから」
「うむ、やっても構わないと思う余も宣伝に加わっても良い」
「分りましたが」
「ペンタグラム側としては直接的な事は出来ませんなぁ‥」

「宜しいですか?」
「構わん、云ってみろカイル」
「はっ、フォレス王にここから何か立場を与えるのも不興を招きかねません、なので、こちら、ペンタグラムに何らかの具申が有った場合連合に実効的な事を少しづつ任せては如何でしょう」
「ふむ、つまり、委託せよ、という事か?」
「はっ、既にガーディアンの立場にありますしペンタグラムは本国にあらず、という事でフォレス殿に任せる、こう告知すれば宜しいかと」
「成る程、連合の評価と信用、乱の拡大への干渉が同時に出来るな」
「それと、これが上手くいった場合ですが、ペンタグラムは用なしの評価も覆ります」
「なるほど」
「ただ、問題は連合の負担ですが」
「単にどこかに人を送って、助言する程度なら出来るなぁ、大して負担には成らないから出来るとは思う」
「では、とりあえず其の形でやってみよう」
「結構です」

「それとエミリア司令とティアさんですが」
「んー‥、ロドニには滞在施設作ったし、そこに一定の兵置くでいいか、全方位の援軍の面でエミリアらもバルクストに、で」
「そうですね、ロドニもこっちの大規模軍が何時までも居ても気分的に宜しくないでしょうし」
「うむ、これも決定で」
「はっ」

そう一応の決定がされる

話は単純で、ペンタグラムへのこれまでやっていた、外交による抑え、要請、これが有った場合より強制力や圧力のある実務面でグランセルナからもなんらかの援助策を出すという物だ

既に立場がある為、ペンタグラムの使徒の形で、それを行ってもそれ程諸侯の不興は招かない、更に、これまで力が無かった故になんら抑えに成らなかったペンタグラムの実務、これに一定の発言力と強制力がつき、同時にグランセルナの使徒としての名声と評価が付く事になる

実際軍を出す必要もそれ程無く負担も左程無い、しかもより公的に「乱」への干渉が出来るし、更に援助をした国が新たに「連合」に加わる可能性はある、これらの事情から事の起こりが待たれる事に成った

一つが、自分達から宣誓して乗り出す物ではない事
二つ、積極的に出れば出る程、裏を勘ぐられる点
三つ、どの道実軍を動かして派兵には世界は広すぎる事、道がどこでもある訳ではない事、連合の軍である事、である

故に喧伝の類はせずに「相手待ち」の指針となった、同時にここから一時封鎖だったペンタグラムの転移施設の再開、つまり元々の伺い、会合、相談、調停も全国再開と成る、ここでペンタグラムへの献上や面会も多くなりほぼ3年前の状況に戻りつつあった

理由は単純でやはり「グランセルナ連合」の後ろ盾がある事だろう、実質的に「軍力」「政治力」「経済力」、過去フォレスが指摘した点がペンタグラム其の物には無くてもその力をガーディアンとして振るえる期待できる点である

これまで打った策、戦略、治世、これが誰の目から見ても飛び抜けて優れていた事、それから世界の荒れた情勢である、この状況にあって「頼るな」というのは無理な話だったろうか

が、ペンタグラム「教皇」は他所からの要請に対して軽々しくフォレスに話を持っていく事はしなかった、それは彼自身、自分の立場を理解していた事にある、あくまでペンタグラムの力でなく、連合の力という点

そして、自分らは庇護されている立場であるという事だ、故に、暫くの間、元の形から動かなかった、通常のコレまでやっていた、外交、査察官の訪問、声明、話し合いの薦めである

ただ、お伺いの類から連合へ話を通す事例は出る事もある、この状況に成ってペンタグラムへの伺いが戻りつつあった、其の事情の一つが、初めから後ろ盾をアテにして来る者も居たからだ

其の一つが中央地域、ペンタグラム山岳都市の南にある「ブライドレス」の外交であった

ブライドレスは中央地域で残った二国の内の一つで、位置的にはペンタグラム南二日、壁の山岳に挟まれた国で単に防衛なら固いし、軍力も七万はある

が、既に中央地はテスネアが制し、隣国ペンタグラムも奪取される、当然心配の種はテスネアの侵攻であり、これに不安多く、相談と伺いを両面持っての来訪、バルクストでの会談も其の点に配慮を頂きたいとの要請であった

「配慮と言っても、ペンタグラムから出来る事もそれ程ありませんな」
「は、しかしながら当国は地勢上動き難くあります、また、今後の心配も多い、故、ペンタグラムにはやはり抑えについてご配慮頂きたい」
「具体的には?」
「やはり外交官の派遣です」
「テスネアに対して、という事だろうか」
「はっ」

そういう事、ではあるが、ペンタグラム自体方針の変更があった訳では無く、あくまで「話し合いの薦め」しかない

まさかここで急に「乱に対して実力を持って干渉する」という訳にはいかない、そこでペンタグラム側も「粘り強い交渉を行っていきます」で返してこの要請も終る事になる

遅れて、もう一つの吉事、が四月、彼に直接通達がシンシアから伝心で届いた

「ロッゼ様が御懐妊されました」

既にお腹も大きく目立つ程だと言う、早速ロベルタに跳び城に上がる、私室に案内されてロッゼと面会、そのままフォレス自身が診断した

「確かに大きいなぁ、既に五ヶ月くらいだ」
「五ヶ月?」
「妊娠から出産まで大体十月十日、と言う、二百八十日とも云う」
「つ、つまり、既に後期なんですね?」
「うむ、しかもこりゃ一人子じゃないわな」
「!」
「しかし、何で今まで報告が無いんだか‥」
「わ、わたくしが止めておりました。陛下はお忙しいですし、先の作戦の最中でしたし‥」
「んな事気にせんでいいと思うが‥どうせ直ぐ飛んで来れるし」
「すみません‥」
「ま、いい、兎に角めでたい事だ」
「は、はい」

フォレスはそのまま母体への対処、配慮の方法を伝えてロベルタに滞在する事になった

「兎に角、周囲は気を使え、食い物もだ、ロッゼの出産までオレがこっちに居る、政治的な事、判断もオレが代行する彼女の負担は一切出させるな」
「はっ」

直後に本国にも伝心を入れ、インファルらに本国は任せた

「という訳で夏までこっちに居る、代理頼むわ」

という事である、ただ、その時期まで平和という訳には行かなかった

もちろんロドニの事だけではない、ロベルタに帰るとの合わせて本国、グランセルナもインファルらに全委任にした

「オレが何でもかんでも決めるのも良くないな」という事

個々の判断や独自性を高めてより有効な進言、行動が出る様にした事である、当然と言えば当然だが「やはりまだまだフォレスの国」あっての連合の側面が強い


7月にはテスネアは中央で残った国二つの内一つ、丁度自国の南に位置する国を落とし。しかも一切の軍事行動を取らずに、つまり「圧迫外交」からの併合である

既にテスネアも4国持ちであり、国力が他と比べて比較にならない、脅迫外交での圧迫だけで臣従する状況を作ったと言える

もう一つが、先の作戦ペンタグラム開戦から自身の道が決まった事、これで周りを気にせず動ける状況でもあった、これまでは世間の評判を気にして動く事もあったがもうその必要も無いのだ

どこから見ても「覇者」である、覇者に見える者が覇者の行動を取ったからと言って。不興を買う訳ではない

この中央の流れに無論ペンタグラムも動いたが相手が相手だけに外交交渉の類もそもそも門前払いであった、その為、ペンタグラムから何かを出来る状況に無い

「どうしよっかこれ?」

本国会議でもインファルやメリル中心で会合は開かれ方針決定が話し合われる

「王様がロベルタから動けませんからねぇ」
「うーん‥まあ、こっちである程度決めてもいいんじゃない、それ伝えて了承してもらいましょう」
「そうですね」

と同時にクローゼが意見を述べた

「先のペンタグラムへの訪問や相談もあった、例の中央で残った国ブライドレスにもこちらから援護を掛けて良いかと」
「そうですね」
「同感ね、ただ、どこまでやるか、なんだけど」
「あまり口出し、というか実力は出せないでしょうね、早期に交渉を持って、人材か財政の援護でしょうか?」
「いいと思う、そもそも向こうの情報少ないし、テスネアが速攻で動くのも牽制出来るし」
「ですね、では、これは良いとして」
「アタシはやっぱりメリルらに行って貰いたいかな」
「後々、の事ですか?」
「それもあるし、先の開戦で向こうも痛い目に合ってるし、心理効果が高い」
「そうですねぇ、そこは良いと思います、相手に先んじてなら早い方が良いでしょう」
「そういう訳でこれも決定で、ペンタグラムからの援護、告知と合わせて、行ってもらいましょう」
「了解です」

「他には?」
「ええ、と、こちらは向こうに同時情報収集もしたいのでエルザさんを」
「分った、通達するわ」
「他には?」
「内政面、でしょうか、本国は我々だけで左程問題ないのと、兵力的には、連合、どこに派兵するにしても2万は送れる環境はありますね」
「志願兵と武装は?」
「はっ、数の増加は依然順調です、それへの配備も同じペースで行われており問題らしい問題は出ておりません」
「んじゃ、ペンタグラムにも話通して、せんせーの良があればいいだけね」
「はっ」
「では解散」

そのまま伝心で、会議の結果がフォレス伝えられるが裁定は「うんいいよ」だった

「積極策をやるならやるでいいと思う」
「この際、動いても動かなくても左程問題無いし実兵力どうこうの問題は無いからね」
「うむ、人選も妥当だ、メリルもターニャも積極的に前で働いて欲しいしな、それに、上手く行けば今後やり易くなる」
「どういう意味で?」
「先の話に成るけど、こっちから何処かに手を差し伸べて援護が上手く行った場合ウチもウチも、となる可能性だな」
「成るほど、となれば、別な立場に成れるかもね」
「そういう事だ、ターニャやメリルが物事の中心に成れるし、そのままペンタグラムに出向でもいいし周囲の目が良ければペンタグラム自体の役割、つまり、裁定、干渉の力や権限をもっと持たせても良いのではないか?となる」

「となれば、より実行部隊として動き、干渉出来る、か」
「上手く行けば、だがな、まあ兎に角今回はそれでいい財政と兵糧の援助の用意も」
「あいよー」

この伝心会談の翌日にはメリルとターニャは準備を整えペンタグラムから派遣する外交官と共にブライドレスに向かう事と成った

実際に手を貸すかどうかというよりも相手国の情報があまり無い、そこで先行偵察に近い訪問である、比較的距離がある為ペンタグラムの者と護衛兵10人程で転移施設から跳ぶ

当日昼には辿りついて迎えられて城に上がった、無論賓客としてもてなされての事だ

表向きな事はペンタグラム側の関係者とターニャに任せ、メリルは中央に展開している斥候隊と連絡を取り、情報の収集を指示と同時、アノミアも呼び寄せた

翌日朝にはアノミアもターニャらに充てられた部屋に訪問、元からある統計の情報を渡す

「やはりペンタグラム中心の軍配分ですね」
「街道が最も近く、守りには固い、元々の建築の豪華さもあるが、南北も山岳だからな」
「その意味では此処、ブライドレスも変わりませんね」
「うむ、ただ、状況的には自分から動くにはやり難い、南北に山、中央は東西に開いているし、守り一本の方が話は早い」
「ですねぇ、ブライドレスの心配も尤もですが逆に過剰とも思えます」

「どういう事?メリル」
「立場を逆にしてみれば分りますよ、テスネアが此処を攻める、優先度はそこまで高くない、こちら側からすれば固く向こうからは攻め難いです」
「確かに」
「あくまで「実兵力」では、ですが」
「ふむー」
「後は、先にやった圧迫からの併合です、実軍事なんて基本的に負担が大きいですから、使わずに落とせるか、潰せるならそれが一番ですね」
「そうだねぇ‥」
「戦わず勝つ、が理想ですから、これは何でもそうですが」
「だとすると、ここへの援助の意味合いは何だろう?」
「ブライドレスは元々守って固いですし、今までの例と違い、兵力も多いです、ですが、中央でテスネアと争うのは厳しい、その為やはり、どこかと組むのが妥当ですね我々としては効果の有る無しに関わらず「私たちが居ますよ」と見せる事でしょうか」

「つまり、一国孤立にしない事、先にやった圧迫で折れない事?」
「ええ、そういう事です、それから実兵力以外の部分でも配慮でしょう」
「なるほど」
「という訳でその辺りはアノミアさん、お願いします」
「分った」
「具体的には?」
「引き続き中央での情報収集ですね、それと工作員の類を送って内部分裂の可能性です、これがやる方からすれば。一番楽ですから」
「なるほど」

「私達の方はまず、ブライドレスの内部の探りですね人、物、軍です」
「味方を知れば、だね」
「ええ、ただターニャさんは表での事を」
「表?」
「多分面会や表舞台、でのお誘いが多いでしょう」
「わかった」

メリルの言の通り、当日からターニャへの面会訪問が多かった、無論、媚の面もある。連合の盟主の娘でもあるし、ペンタグラムと最も近い人物

先の開戦での指揮官でもあり、戦果もある、特に中央地域の人間からすれば知らぬ者が居ない知名度である

それだけにメリルの方は動きやすい、城内の見学と軍部を見回って状況確認と同時、エルザに街の側を任せた

大方自分らの目でみた情報を合わせて当日深夜に身内で再びの会談、情報の刷りあわせである

「元々、中央地ではありますが西とも隣接しています、人口は多くありますが、中央としては軍力が低めですね、錬度、装備的には普通ですが。将は元々優秀みたいですね」
「うん、二人、ペンタグラムに居る時にも聞いた事があるよ」
「何れにしろ、直接会談が明日ありますので、そこは会って確かめましょう」
「そうだね」
「一般の方の話では宜しくない部分もあるようで」
「それは?」

そこで半日遊び回っ‥街での情報収集を行ったエルザが述べた

「ハイ!ここは二大軍将の形で両者とも優秀なんですが、あまり仲が良いとは云えないみたいです!」
「ありゃ‥」
「軍内で其々、派閥の様に成っている様です、これも付け込まれる要素ではありますね」
「うーん‥」
「それから西と中央を繋ぐある意味関所の役割も兼ねた地勢ですので、外交面でのミスがあると状況が転がりやすい決して油断する状況に無いです」
「そこは、いいんじゃないかなぁ‥まだ、相手の要請次第だし」
「ええ、ただ、こちらもある程度援護の形を見せないと、ここを譲るにしても、簡単に取られても困りますし」
「だね、けど、何かをする、というは難しいかな」
「そうですねぇ、あくまでペンタグラムの下ですから我々は、まあ、基本的に軍力を持ってくるというのは難しいですしとりあえずの相手待ちでしょう、外交会談自体はペンタグラム中心ですし」
「うーん、遠いしねぇ‥」
「ただ、連合なら直接干渉できますが」
「会議の結果次第、だね」
「ええ、とりあえず明日です」

翌日、午前中から、ペンタグラム、連合、ブライドレスの正式な外交会談が開かれる、ただ、最初からブライドレス側は方針が明確で「こちら側」を尊重する流れがあった。一方で「大して期待はしていない」という面も半々でもある

「ペンタグラム側は遠くありますし、連合の後ろ盾があったとしても積極的援軍が出せる訳ではありますまい」
「緊急事態時には、街道、領土の通過権利がありますが、こちらとしても、あくまで緊急事態時、という事に成ります」
「だろうな」
「具体的な、実兵力を動かすにしてもそれは連合の力であって話し合いの薦め、外交による相手国への牽制が中心です」
「では、これまでと左程変わらないという事で宜しいか?」
「残念ながら、状況が変わっても、教理が変わる訳ではありませんので」
「しかし、外交に寄る抑えと云ってもテスネアには門前払いなのだろう?」
「はい」

そう軍部からも言われ、嘗ての「全国会談」と変わらない流れであった、こうなると連合側も何とも言いようが無い

ここで議論を主導する側がメリルと軍将の一人フェリオスが中心となる

「で、グランセルナ側としてはどう考えているのか?」
「基本的にペンタグラムのガーディアンであってペンタグラムの裁量を超えての手出し、口出しは出来かねます」
「だろうな」
「が‥」
「?」
「それを分けて考えて頂けるならば、幾つか手段はあります」
「と言うと?」
「我々は元々連合という形を作っております、ブライドレス側がこちらとの外交を為さりたいという事であれば財政面や、人材、後方支援の援護は出来ます」
「つまり連合への加盟であれば直接連合としての共闘に成る、故に、援護は出来るという事か」
「左様です、ですが、同盟の類でも援護はします、別に連合に拘っている訳ではありませんし」

メリルのこの言で向こう側も腕を組んで唸った

「では、目的は何なんだ?、連合への得というか」
「戦乱の抑えです。連合の輪を広げれば、輪への参加をした国、そこへ単身で何処かが攻めて来るというのはやり難くあります」
「成るほど、つまり膠着状態を意図して作る事か」
「はい、フォレス王は、当初から寄り合いでの複数の国が組み大きな力への対抗と、相手への牽制を考えてこの形を作っています、故に、基本、連合の云々に関わらず「戦い」を望まない国への援護、擁護はやっていく方針です」
「ふむ」
「得、という面ですが、精神的面でしょうか、実際、ガーディアンに任じられ、連合に加わった国とも極めて良好な関係を築いておられます、その関係、心や信頼、これは大きな益でありますしグランセルナ側から「だけ」見ても援軍や臣民の安心感になります」

「確かに‥フォレス王の名声と威光も高まっているし各国との協力関係というのは緊急事態時の安心感がある」
「そして、それは私達、下に居る者にとっても有益でしょう、名君の下で働けるのは光栄です、愚君の下で働くのはそれだけで評価が逆になります」
「成る程、一理ある」
「問題は今後ですが」

「単に我々ブライドレス側の事情だけなら左程問題は無い西とも隣接しているが、守っている分には早々負けぬ」
「同感です」
「が、確かにメリル殿、グランセルナの意向も有益である」
「はい、ですので、グランセルナ側としては、ブライドレスとも連合や共闘への関わりを持ちたいと思います」
「ペンタグラム側としても、協力、援護の類も考えられます」

こう、云われると流れは直ぐに変わる。そもそもブライドレス側にデメリットが無い、実軍事での援護は難しかろうが、先に述べた状況の通り中央で残った国、そして西とも繋がるルートがある

左右から挟まれる可能性もありどこかから援護が期待出来るなら保険として悪くない、まず、まともな戦略眼がある人物ならこれを断りはしないだろう

翌日には再び3国会談連合へ加わるとの方針になりブライドレス側の政、軍共に同意され書が交される事になる、本国のインファルも問題なし、としてメリルに任せた、これがスムーズな理由も一つある

これまでの会談と違い「連合が掌を返して反転、併合を行うのではないか?」という懸念が少ない事にある、距離が遠く、実軍を持ってブライドレスに攻められる事が無い事、仮にそうなってもブライドレス単身でも弱くない事、要は打算的要素もあり、組んで損が無い点である、同盟では無く、連合と言う形で簡単に纏まる事になった

「で、メリルから見たらどう?」

客室に戻った後ターニャはまずそこを聞いた

「政治側、は普通ですね、先の会談でもそうでしたが変な拘りがありません、発言の中心になった軍側の見識、判断も「戦略面」に置ける損得中心で考えて居るようです」
「うん」
「私と直接やりとりしたあの人物が中心でしょう」
「フェリオス少将、だったかな」
「ええ、軍将ですが、戦略的判断もまともですし、彼中心の国です、それだけに議論でも主導していました、おそらく政治的判断も発言力があるのでしょう」
「もう一人が」
「ドワイト大将ですね、正統な軍人タイプです、ただ、能力の云々はなんとも、年齢もありますし」
「60近いからね‥」
「年功序列で納まっているのかもしれませんし実際殆ど発言してませんから何とも‥エルザさんはどう思います?」
「30年軍の一線に居る人らしいですから、軍側の信任は厚いのでは?これは人々の噂ですけど、王一族との関わりが深いとか戦自体殆ど無いので実践的な事はなんとも」
「でしょうねぇ‥」

「それで今後だけど」
「暫く滞在して見て行きましょう、今後の方針決定は本国からの裁定も必要ですし」
「わかった。ただ、連合有りだとあんまり難しくはないよね」
「そうですね、出立前からの方針と変わりませんね、後方支援中心でしょう」
「うん」
「それにやはり、全体戦略の事と成ると、王様の復帰待ちでしょう」

「メリルはどう考えてる?」
「んー、私個人の話なら、やはりブライドレスに一定の軍力は送りますね」
「それは?」
「本国、連合との距離もありますが中央、ペンタグラム本国の奪還を考えるとブライドレスは橋頭堡に成ります、軍事基地とも云えますが」
「成る程」
「後のルートと言う意味、それと現時点で大規模に中央に兵を送ると成ると中央街道しかないですから、相手、テスネアもそれは百も承知です、となると、こちらが実軍力を派兵するとなるとおそらく出入り口での戦いに成ります、これは少々やり難いですね」
「待ち構えて封鎖戦をすればいいだけだしね」
「ええ、その意味、ブライドレスがあっさり連合に加わったのは良い結果ですね、街道からこちらに派兵出来ますから、もう一つは、ペンタグラムから宣言しての行動です、ガーディアンですから、正統な理由あれば何処にでも兵力は送れます」

「うん、ただ、緊急事態がないと」
「そうですねぇ、ここも王様待ちでしょうね、まあ、積極的にこちらから庇護を働きかけるというのもどこまでも負担出来る訳ではないので、時勢次第でしょう」
「だね」

その後ペンタグラム側の使者は本国に戻ったが、ターニャらはブライドレスに留まった、全体戦略の面で言えば、やはりフォレスの決定待ちといういう事、本国のインファルらとの協議の結果とブライドレス側の内情である

メリルは、まず彼に興味を持つ、先の議論の中心と成ったフェリオスである、彼は少将の地位に有りながら、まだ25歳軍としてはかなり早い出世だろう

見識も優れているし、二大軍将の一角、間違いなく最も話が早いという判断である

「援護、は宜しいとしてブライドレス側に必要なモノというのは何かに成りますが」
「我々の方は強いて言えば兵糧だろう、人口と兵力のわりに、後方支援の規模が小さい、こちらから攻める選択は無いが、専守防衛にしても長期間支えるには厳しい」
「地勢、産業面でしょうか」
「左様、周囲に山岳もあり、左右に地域を繋ぐ街道がある、商業地としては優秀ではあるが、逆に平地や森少なく、食糧生産面でどうしても弱い、先の飢餓から収穫までは凌いだがそのダメージが抜けていない、要は金はあるが米が無いに近い」
「分りました、こちらから食料面の援助を致します」
「助かる、が、出来ればグランセルナ独自の生産品を願いたい、理由はお分かりとは思うが」
「はい、根本解決の為ですね、基本食料は自国生産出来ないと、足元を見られますし、先の飢餓でもそうでしたが戦乱とあらば他所が出しません」
「左様」

「他には何か」
「色々あるが、これは両国の裁定が必要なので今は無いでしょう」
「分りました、暫く滞在しますので、本国との連絡中心になるでしょう」
「うむ、よろしく頼む」

ここから一週間後にはブライドレスへ早速の援助第一弾が届く、とは云え、現状すべき事は食料の援助、自国生産の安定ではある

ここはヘッジホッグから「商売」の形、グランセルナの食料品の苗、種が届く

丁度この時点で他国、つまりテスネアもグランセルナの関わりを知る、が、このブライドレスとの関わりに関しては左程問題には成らない、アデルもその見解を示した

「連合にブライドレスも加わった様です」
「‥だろうな、中央への干渉をする、同時こちらの妨害をする、なら、そうなるだろう。何らかの協力関係はあると思ったが連合とは意外だ」
「どうされます?」
「別にどうもせんよ、元々ブライドレス単身でも戦うのは面倒な相手だ」
「同感です」
「なるべく、先にやった併合策か何かをやるつもりだったが」
「こうなると難しいですね」
「そうでもない、戦うのが面倒なら戦わなければいい、誰かに押付けてもいいし」
「??」
「ま、後の話さ」

そう締めて静観の構えを見せた

一方グランセルナ側はこれまでと事情が違い直接の援護派兵案は出されなかった、領土が面して居ない事、相手国が元々、実軍力の援護が必要で無い事、元々将が優秀である事からだ

基本ターニャらへの転移陣からの少数近衛だけ送られる事となる、これには騎士団から50名程、少しずつの派遣である、また、代理統治のインファルも

「この状況から急に事が起こるのは無いわねぇ~」と考えて居た為である

ある意味その見識は正しく、情勢の動きは無かった

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勉強熱心な遊び人と、怠け者の薬剤師

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